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 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『怪獣大戦争』

2014-09-09 00:09:23 | goo映画レビュー

原題:『怪獣大戦争』
監督:本多猪四郎(本編)/円谷英二(特撮)
脚本:関沢新一
撮影:小泉一(本編)/有川貞昌(特撮)/富岡素敬(特撮)
出演:宝田明/ニック・アダムス/久保明/水野久美/沢井桂子/土屋嘉男/田崎潤
1965年/日本・アメリカ

 ゴジラが「シェー」をする理由について

 作品の冒頭には次のような奇妙な字幕が映し出される。「一九六X年 銀河系宇宙に新しい謎が生まれた X星の出現である」。本作は1965年公開であり、SF作品であるにも関わらず、時代設定を「ニ0XX年」ではなく敢えて「一九六X年」にしていることが寧ろ謎なのである。
 木星近辺に出現したこの「X星」に向かうのは日本人の富士一夫とアメリカ人のF・グレンである。鳥井哲男が発明したものは新案小型護身器「レディ・ガード」である。ゴジラとラドンを手に入れ、それまでの慣習を否定するように物に名前を付けない習慣を持つX星人の地球人に対する「地球は今後、X星の支配下に移り植民地星となる。この決定に従わぬ時は、我々は地球人類を宇宙から抹殺するであろう」との宣言後、世界中の暴動の様子を写した写真が次々と映し出される。
 「万博時のシェーというのはかなり遅いが、皇室人が実演された流行アクション、というのは他にそうないであろう。ビートルズや浩宮親王のシェーはともかく、ゴジラのシェーは衝撃的だった。
 『怪獣大戦争』はの副題を付けて、40年12月の年の瀬から翌41年年頭にかけて公開された、東宝の正月映画である。東宝の怪獣映画は前年暮れの『三大怪獣 地球最大の決戦』あたりからバラエティー色の強い作風になって、幼い子供をも含めた観客を獲得し、41年正月からTVでスタートする『ウルトラQ』、続く『ウルトラマン』とともに、一大怪獣ブームの引き金となる。
 『怪獣大戦争』は、人間よりも高度の知能をもつというX星人たちが、キングギドラ、ゴジラ、ラドンを電磁波で操って、地球の侵略を企てる - というストーリー。主演する宝田明&ニック・アダムスのキザな芝居には、当時ハヤリの英米諜報員モノ(007やナポレオン・ソロ)の影響も見てとれる。
 映画の前半、X星人の策略によってラドンとともにX星に運ばれたゴジラは、キングギドラと格闘するシーンで、まずおどけて4回飛び跳ねるようにシェー(声はゴジラ特有の鳴き声)をキメる。さらに後半、富士山麓での格闘シーンにおいても、シェーのポーズをみせて倒れる演出がある。
 この”ゴジラのシェー”は、確か予告編の段階から流されて話題になっていたはずである。当時小三の僕は、それを見て喜んだ印象はなく、むしろおどけた役に成り下がったゴジラに痛々しいものを感じた。シェーは40年年末の時点では、『おそ松くん』読者の子供たちにとっては、ちょっと盛りの過ぎたギャグだったのである。」(『シェーの時代』 泉麻人著 文春新書 2008.6.20 p.132-133)
 当時ゴジラのシェーを見てしまった子供たちのほとんどが同様の感想を抱いたと思うが、結局、「レディ・ガード」が発する「不協和音」によりX星人たちの敗北に終わる本作は以上のことから勘案するならば、間違いなく1960年の安保闘争と同年6月15日のデモによる樺美智子の死が反映されているはずで、この悪名高いゴジラの「シェー」はゴジラの「若さ」、あるいは「若気の至り」の暗喩なのではないだろうか。


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