goo blog サービス終了のお知らせ 

MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『GODZILLA ゴジラ』

2014-09-12 00:15:14 | goo映画レビュー

原題:『Godzilla』
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:マックス・ボレンスタイン/デヴィッド・キャラハム
撮影:シェイマス・マクガーヴェイ
出演:アーロン・テイラー=ジョンソン/渡辺謙/エリザベス・オルセン/ジュリエット・ビノシュ
2014年/アメリカ

原爆のイメージが払拭されてしまったゴジラの価値について

 そして問題の最新作『Godzilla ゴジラ』である。脚本は極めて精巧に出来ているのであるが、残念なことにそれはアメリカに都合よく書かれているという意味である。例えば、アメリカ人のジョー・ブロディは妻のサンドラと共に何故か日本の原子力発電所で働いており、結果的にアメリカ人が被爆者として描かれる。一方、渡辺謙が演じる芹沢猪四郎博士はアメリカは水爆実験という名目でゴジラを倒そうと試みていたと語り、日本人も核実験を認めていたという印象を観客に与えることになるのである。核爆弾でゴジラを殲滅しようとするウィリアム・ステンツ提督に、芹沢博士はヒロシマの原爆投下で被爆した実父の形見である懐中時計を示して反対するのであるが、核爆弾の使用が中止されることはなく、それは1945年にアメリカが広島に原爆を投下した理由の正当化につながるであろう。
 肝心のゴジラなのであるが、ゴジラは「MUTO(ムートー)」と呼ばれる巨大怪獣を追って、オスとメスの出会いを邪魔するように現れ、それはまるで主人公のフォード・ブロディ大尉が列車に乗っていたアジア系の少年を両親の元に届けたり、医師として勤務していた妻のエルとの無事の再会が描かれているのとは対照的な、家族を引き裂く「ストーカー」のように描かれ、ゴジラ映画には欠かせない原爆に関するテーマは、その痕跡さえ完全に失くしてしまっているのである。
 「ギャレスは、ゴジラという怪獣が生まれた経緯や歴史、広島・長崎への原爆投下、そして『3・11』と東京電力福島第1原子力発電所事故についても、きちんと理解していた。その上で、『ゴジラの持つ、ある種のメタファー(暗喩)をもう一回、ちゃんと掘り起こしたい』と話してくれた」、「震災と原発事故、どちらも風化しつつある気配がする。被爆国として生き永らえた日本が、水爆の加速的開発に警鐘を鳴らしたのが、オリジナルのゴジラ。その頃あった放射能や原爆などへの不安は、3年前に僕らが抱いたものと何ら変わりない。我々はもっとリアルに体感したはずなのに、あたかもなかったかのように忘れられようとしていることに、僕は危機感を持った。日本の俳優として演じるべき作品だと、ギューンと針が振れたんです」と渡辺謙はインタビューに答えている(毎日新聞夕刊 7月17日付)。「ゴジラの持つ、ある種のメタファー」は原爆以外にないはずなのであるが、本作を観る限り、ゴジラは家族を離散させようとする「悪魔」でしかなく、渡辺はハリウッドで仕事が欲しいばかりに肝心な部分に目をつぶったようにしか見えない。別に渡辺ばかりではなく、全米で公開されたばかりの本作をラジオで絶賛していた映画評論家の町山智浩ももはや信用に足りない。
 確かにゴジラの造形はオリジナルに近くなったが、160憶円をかけて製作するだけの力は日本にはもはやなく、表面だけを取り繕っただけでゴジラの魂をアメリカに売り払ってしまった東宝の罪も重いであろう。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする