原題:『The Big Short』
監督:アダム・マッケイ
脚本:チャールズ・ランドルフ/アダム・マッケイ
撮影:バリー・アクロイド
出演:クリスチャン・ベール/ライアン・ゴズリング/スティーブ・カレル/ブラット・ピット
2015年/アメリカ
内容もギャグも難しいことに対する「最後の言い訳」
作品の冒頭でライアン・ゴズリングが演じるジャレド・ベネットがいきなり観客に向かって語りかけてくるところなどは、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(マーティン・スコセッシ監督 2013年)でレオナルド・ディカプリオが演じた主人公のジョーダン・ベルフォートと同じ身振りで、要するに複雑な金融市場のからくりに観客が置いてけぼりにならないための常套手段なのであろう。実際、CDОと呼ばれる二級品の債務担保証券(サブプライム・ローン)を中心とした金融商品のシステムはなかなか理解しにくく、まさかセレーナ・ゴメスに教えられることになるとは思わなかったのだが、聞き逃さないようにするためにこの難しさが却って観客に緊張感をもたらして飽きさせない役割を果たしているように思う。
ところで「ただ一つの疑問が、ブラット・ピット。ウォールストリートに幻滅して引退した投資家の役ですが、立派すぎるんです。このブラット・ピット、以前にも『それでも夜は明ける』でただ一人の善玉を演じ、この映画唯一の傷になっていました。/なぜブラット・ピットは善玉なのか? それは、ピットがプロデューサーの一人だからです。製作チームだから監督も文句が言えない。世界経済はウォールストリートから、そして映画製作はブラット・ピットから自立するべきだという思いを強くいたしました。」(毎日新聞 2016.3.6 日曜くらぶ 「映画愛」 藤原帰一)という意見は正しいだろうか? 本作に関して言うならば、ブラッド・ピットが演じているベン・リカートが組んでいるチャーリー・ゲラーを演じたジョン・マガロも、ジェイミー・シプリーを演じたフィン・ウィットロックも個性が弱すぎて、「伝説のトレーダー」であるブラット・ピットがいなければクセの強い鬼才トレーダー、怒れるトレーダー、反逆のトレーダーの3人に張り合えなかったであろう。
音楽の使い方も悪くない。ニール・ヤングの「Rockin' in the Free World」が使用されている。この曲は『華氏911(Fahrenheit 9/11)』(マイケル・ムーア監督 2004年)のエンディングテーマとしても使われていたのであるが、本作では途中で切られている。つまりアメリカは相変わらず不自由なのだと暗示させるのである。
あるいは「ノブ(NОBU)」と呼ばれるジャパニーズ・フード・レストランでマーク・バウムが抹茶アイスクリームを食べている男に説明を求めていた背後で流れているBGMが徳永英明の「最後の言い訳」で、それはまるでバウムが聞かされている説明そのものを暗示させるのであるが、これは日本人にしか理解できないであろう。
「最後の言い訳」は1988年にリリースされており、舞台となっている2007年にヒットしていた訳ではないし、エンドクレジットにこの曲名が載っていなかったところから勘案するならば、奇跡的な偶然が介在していないならば本作には日本に精通している優秀なブレーンが関わっていたのだと思う。