現在、東京国立博物館 平成館で催されている『マルセル・デュシャンと日本美術』において「エナメルを塗られたアポリネール(Apolinère Enameled)」という作品が展示されているのだが、見れば見るほど謎が深まる作品だと思う。
「アポリネール(Apolinère)」とはフランスの詩人でデュシャンの友人のギヨーム・アポリネールを指していると思われるが、アポリネールの正しい綴りは「Apollinaire」であって「Apolinère」ではないのである。
その「アポリネール」なのだが、元々は「サポリン(Sapolin)」という商標名の「S」を塗りつぶし、さらに語尾に「ère」を書き加えたものであるが、実際に存在する商標名は「リポラン(Ripolin)」というフランス系のエナメル系塗料のものなのである。
さらに右下の文章を書きだしてみると「Any act red by her ten or epergne. New York. U.S.A.」となっており、敢えて訳してみると「彼女の10ドル札か食卓中央の飾り皿によるある行動。ニューヨーク、アメリカ」となるが、少なくとも「red」は「led」の綴り間違いであろう。
何が言いたいのかというと、左下に書かれている「【from】MARCEL DUCHAMP 1916'1917」の「from」の意味である。つまりこの作品はデュシャンによって手掛けられたものではなく、たまたま作品を手に入れたデュシャンが「泉(Fontaine)」(1917年)同様にサインをしただけのように思うのである。