原題:『L'insult』
監督:ジアド・ドゥエイリ
脚本:ジアド・ドゥエイリ/ジョエル・トゥーマ
撮影:トマソ・フィオリッリ
出演:カメル・エル=バシャ/アデル・カラム/リタ・ハーエク/クリスティーン・シュウェイリー
2017年/レバノン・フランス
歴史を知らないと理解しにくい作品について
レバノンの首都であるベイルートを舞台としたストーリーの発端はレバノン人の46歳のトニー・ハンナが住んでいるアパートのバルコニーからの水漏れを、パレスチナ難民で建設会社のチームリーダーを勤める62歳のヤセル・アブドラ・サラメが修理したにも関わらず、トニーが取り付けたばかりの配管を叩き壊したことでヤセルがトニーを侮辱(insult)したことから始まる。
ヤセルの上司がトニーに謝罪する機会を設けたのであるが、ヤセルに「シャロンに殺されればよかったのに」と侮辱されたヤセルは謝罪どころか、トニーの腹部を殴ってあばら骨を2本折ってしまい、裁判沙汰へと発展する。因みに「シャロンに殺されればよかったのに」という言葉の元はアリエル・シャノンが国防相だった1982年の「レバノン軍団」によるパレスチナ難民の大量虐殺事件「サブラー・シャティーラ事件」であろう。
2人の「民族対立」は2人の意思に反して周囲の人間の憎悪を増幅させてしまい、ベテラン弁護士のワジディ・ワハビがトニーの側に就くのであるが、彼の娘のナディ―ヌがヤセルを弁護することになり、さらにトニーがシオニズムを持ち出すことでまさに「内戦」と化すのである。
裁判が進む中で、ワジディはトニーの秘密を知ることになる。それは1976年、トニーがまだ幼い頃に地元のダムールで遭遇した「ダムールの大虐殺(The Damour massacre)」で、パレスチナ解放機構(PLO)が関与したとされる内戦によりトニーは故郷を追われた過去があったのである。
結局、裁判中にトニーはヤセルの車を修理したり、ヤセルがトニーの修理工場へ赴き、故意にトニーを罵倒することで自分の腹部を殴らせることで「喧嘩両成敗」として諍いを終わらせるのであるが、これは個人的なレベルだからなせることで、このようなことが日々あちらこちらで起こっている国家間では相変わらず無理な話である。