MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

原型を留めない「風に吹かれて」について

2023-01-28 12:23:13 | Weblog

Bob Dylan - Blowin' in the Wind (Official Audio)

 『ハーバード大学のボブ・ディラン講義』(リチャード・F・トーマス著 森本美樹翻訳 萩原健太監修 ヤマハ 2021.3.10)の中で「風に吹かれて」に関して興味深いエピソードが紹介されている。まずは引用してみる。

「他に2人の大学生がいたが、この2人は前の2組よりはディランに精通している様子で、1人が文句を言っていた。『最近は昔のいい曲といえば「風に吹かれて」しか演奏しないのに、今日はそれさえなかったな』。このときばかりは、私は口を挟まないではいられず、ここ最近のコンサート同様、アンコールの2曲の1曲目に「風に吹かれて」を歌ったことを指摘した。彼は私が言ったことを信じなかったが、私もあまりしつこくしたくなかったので、そのまま立ち去った。」(p.290-p291)

 おそらく大学生は1963年にリリースされた「風に吹かれて」のオリジナルヴァージョンしか知らなかったのだと思う。1985年のライブで既に変化させているのだから、今世紀に入ってからのライブヴァージョンは原型を留めていなかったのかもしれない。

Bob Dylan / Keith Richards / Ron Wood - Blowin' In The Wind (Live Aid 1985)


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「Boots of Spanish Leather」 Bob Dylan 和訳

2023-01-28 00:59:57 | 洋楽歌詞和訳

Bob Dylan - Boots of Spanish Leather (Official Audio)

 『ハーバード大学のボブ・ディラン講義』(リチャード・F・トーマス著 森本美樹翻訳 萩原健太監修 ヤマハ 2021.3.10)にはディランが1964年にリリースしたアルバム『時代は変る(The Times They Are a-Changin)』に収録されている「スペイン革のブーツ(Boots of Spanish Leather)」に関する解説がある。以下、引用してみる。

「この歌の最初の6ヴァースは、残された歌い手と去っていく女性のセリフの掛け合いになっている。彼女は『朝に出航し、海の向こうから』何を送ろうかと彼に聞く ー この詞では海の向こうはスペインであって、スージー(当時のディランのガールフレンド)が1962年の夏を過ごしたイタリアではない。それに対する答えは、どんなプレゼントも彼女の不在の穴埋めにはならないと言っている。『ただ君に無事に戻って来てほしいだけ/寂しい海を越えて』。『寂しい』のは彼自身なのだが、この形容詞を2人の間に横たわる海にかける。この語は彼のセリフになって、もう一度この歌に登場する。『ある寂しい日に手紙を受け取った』。最後には彼女が『スペイン革のスペイン・ブーツ』を送ることになり、ここで話は終わる。彼女の最後のセリフは詞の中ほどにあり ー 最後の4ヴァースは彼のセリフだ ー 最後にもう一度彼に聞く。

   That I might be gone a long time
   And it's only that I'm askin'
   Is there something I can send you to remember me by
   To make your time more easy passin'

   長い間いなくなると
   何か欲しいものはない?
   私のことを思い出せるように何か送るわ
   毎日寂しくないように

 これに対する彼の返事はまっすぐで、恋人に求める気持ちを補うものは何もないと答える。

   Oh, how can, how can you ask me again
   It only brings me sorrow
   The same thing I want from you today
   I would want again tomorrow

   どうして同じことを聞くんだい?
   悲しくなるだけだよ
   今僕が欲しいのは
   明日欲しいのも君なんだ」(p.250-p.251)

  ここは原書の問題ではなく翻訳が間違っているように思う。以下、「スペイン革のブーツ」を拙訳してみる。太字部分が上で和訳されている部分で、明らかに間違っていると思う。

「Boots of Spanish Leather」 Bob Dylan 日本語訳

私の唯一の恋人よ
私は航行するつもりなの
朝に私は航行する
海の向こうから私があなたに送れるものが何かあるかしら?
私が上陸するであろう場所から

いや、君が僕に送れるものは何もない
僕の唯一の恋人よ
僕が手に入れたいと思っているものは何もないよ
物悲しい大海原を渡って
ただ君自身怪我のないように僕の元に帰ってきて欲しい

でもあなたが何か素晴らしいものが欲しいのではないかと私は思っただけなの
マドリッドの鉱山かバルセロナの沿岸から採られた
金か銀で作られているようなものを

でももしも私が真っ暗闇の夜から星を手に入れたのならば
あるいは海の底からダイヤモンドを手に入れたのならば
私はそれらの代わりにあなたの甘いキスを手に入れる
私が手に入れたいと思っているものはそれだけだから

私は長い間留守にすることになるかもしれないから
それだけを訊いてみたの
あなたが私を思い出すために私が送れるものが何かあるかしら?
あなたがもっと楽に過ごせるための何かを

どういう思いで君はまた僕に訊ねられるの?
ただ僕を悲しませるだけなのに
今日僕が君から欲しいものは
明日僕がまた欲しいものと同じものだよ!

僕は物悲しい日に手紙を受け取った
それは航行中の船に乗っている彼女からだった
「いつまた戻れるのか私には分からない
私の気分次第みたい」と書かれていた

恋人よ、もしも君がそういう風に思っているはずならば
君の心は方向性を失っていると僕は確信している
君の心が僕とではなく
君が目指している国と一緒にいるからだと僕は確信している

だから西風には気を付けて欲しい
暴風雨の空模様には気を付けて欲しい
それから、君が僕に何か送ってくれるのならば
スペイン革のスペインブーツがいい


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