原題:『福田村事件』
監督:森達也
脚本:佐伯俊道/井上淳一/荒井晴彦
撮影:桑原正
出演:井浦新/田中麗奈/永山瑛太/柄本明/ピエール瀧/水道橋博士/東出昌大/コムアイ/松浦祐也/木竜麻生/豊原功補
2023年/日本
日本の「アナーキー時代」について
この事件のそもそもの発端は9月2日に発せられた非常徴発令によって各地で結成された自警団にあるように思う。非常事態下、国のお墨付きで怪しい者は自警団によって取り締まれるようになったのだが、9月5日に内閣総理大臣名で出された「内閣告諭第二号」で軍隊や警察が取り締まるようにしたために村長の田向龍一は安堵したのである。
ところが「内閣告諭第二号」は事実上効力がなかった。震災による混乱が収束していないからで、本作によるならば香川県の薬売りの行商団の団長である沼部新助が最初に頭に斧を振り下ろされ殺されたのだが、殺したのは夫が都内から戻ってこず、不安で精神を病んでいた村の女性である。タガが外れればもう子どもであろうとも容赦なく殺していったのであろう。
しかし日本政府に一縷の同情を感じるのは、当時の内閣総理大臣だった加藤友三郎が8月24日に病死し、内閣が総辞職し、山本権兵衛に組閣命令が出され、震災当日は首相臨時代理として内田康哉が就任しており、9月2日になってようやく山本内閣が発足したのである。つまりまだラジオ放送さえなかった日本において関東大震災時はアナーキー同然だったと推測できるのである。本作では触れていなかったのでここに書き留めておきたい。
(2023年9月6日付毎日新聞朝刊)
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