MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『午前4時にパリの夜は明ける』

2023-05-16 19:23:54 | goo映画レビュー

原題:『Les passagers de la nuit』
監督:ミカエル・アース
脚本:ミカエル・アース/モード・アメリーヌ/マリエット・デゼール
撮影:セバスティアン・ビュシュマン
出演:シャルロット・ゲンズブール/キト・レイヨン=リシュテル/ノエ・アビタ/メーガン・ノーサム/エマニュエル・ベアール
2022年/フランス

「乗客」たちの嗜みについて

 作品冒頭は1981年のフランス大統領選挙において保守政権のジスカール・デスタンを破って社会党のフランソワ・ミッテランが大統領に就任したことを祝って人々が喜んでいる場面である。そしてラストも主人公のエリザベートが娘のジュディットと息子のマチアスと共に1988年のフランス大統領選挙の投票をしに行く場面があるのだが、この時もジャック・シラクを破ってミッテランが大統領に再選されている。
 それならばミッテランの7年間の執政が評価されたのかと言えば、必ずしも良かったとは言い難い。なによりエリザベートは夫に捨てられ、仕事を探さなければならなくなるのだが、たまたま熱心な視聴者だった深夜のラジオ番組「夜の乗客(Les passagers de la nuit)」宛てに手紙を書き、いわゆる「電話番」からスタッフとして仕事を始め、昼間は図書館で働けるようになり、恋人も見つかる。番組で知り合った家出少女のタルラに住む家がないということで自分の家に泊めて、しばらくして出て行った後に再び戻って来た際には、タルラは映画館の切符売りの仕事を世話されたりしており、ジュディットはその間ずっと学生なのでともかくとして、マチアスもタルラに誘われて『破滅の日』という映画にエキストラとして参加した際に、タルラを通して映画のスタッフから仕事のオファーを受ける。
 ミッテラン政権下でインフレが進行し、失業率も上がる中でも人々はこのように辛うじて仕事を手に入れていたということが描かれているのであるが、タルラがマチアスと観に行った映画『満月の夜(Les nuits de la pleine lune)』(エリック・ロメール監督 1984年)の主演のパスカル・オジェが3年前に薬物の過剰摂取で25歳で急死したことをタルラは知り、人生の儚さを知ることで、人は繋がることでギリギリの「綱渡り」をしていることが分かるし、何よりもエリザベートも乳がんを患って回復した経験を持つのである。
 作中で使用されている楽曲に監督のセンスの良さを感じるが、ここではジョン・ケールが1985年にリリースしたアルバム『アーティフィシャル・インテリジェンス(Artificial Intelligence)』に収録されている「ダイイング・オン・ザ・ヴァイン」を和訳しておきたい。

「Dying on the vine」 John Cale 日本語訳

僕は幽霊を探していて嫌になっている
どこで一線を画するべきか誰かに教えて欲しいくらいだ
もしも君が受けとるのならば
僕は自分の剣を置いて
全員に家に帰れと言えれば僕の気分は良くなる

僕が君とアカプルコにいた時は
衣類を手放しワインと交換した
古い日干し煉瓦を扱う女性のような
あるいは賭け事で無駄に時間を費やしたウィリアム・バロウズのような香りがした

僕は自分の母親のことを考えていた
僕は自分の所持品のことを考えていた
僕はハリウッドで生活を謳歌していたけれど
僕の計画はどれも実を結ばずに終わったんだ

あの騒々しい音の中で誰が眠れるというんだ?
警官隊と昼間の祝典
当局が僕の発行する新聞はどれも適切だと言う
もしも僕がそんな臆病者でなかったならば
僕が立候補していただろう

全ての射撃が止んだ時
僕は君に会うだろう
街の反対側で僕に会って欲しい
もちろん君は保護者として君の友人たち全員を連れてくることもできる
彼らが一緒にいればいつだって楽しい

僕は自分の母親のことを考えていた
僕は自分の所持品のことを考えていた
僕はハリウッドで生活を謳歌していたけれど
僕の計画はどれも実を結ばずに終わったんだ

John Cale "Dying on the vine" (live officiel) | Archive INA

gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/bunshun/entertainment/bunshun-62300


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