「やれやれ、すごい人だ。小雨が降ってきたし、止めて帰るか(笑)」
「馬鹿野郎!止めてどうすんだよ。あれを見たいって言ってたじゃないか。行くぞ」
栄さんに喝を入れられて門司港行きを承諾した。次の便に回されるのを覚悟していたが、乗船できた。関門連絡船内はギュウギュウ詰めで息苦しいほどである。対岸へは5分で着いた。


先ずはJR門司港駅(九州最古の駅)に向かう。駅前で2台の人力車が客を待っていた。筋肉質の車夫が「お客さん、これに乗って観光しましょう」としきりに勧めてくる。これをあっさり無視してレトロな駅の便所に入り汚水タンクを空にした。
「バナナの叩き売りの発祥地は門司なんだ。知ってたか」
「ほー、そいつは初耳だ。道理で彼方此方にバナナが置いてある訳だ(笑)」
貯水タンクを空にした私達は旧門司三井倶楽部などの古い建物を見て目的の場所を目指した。今にも土砂降りになりそうな濁った空が私は気になっていた。
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