銭湯「橘湯」の前に立って松本市大手にある「塩井乃湯」を思い浮かべるのは私だけだろうか。元花街(川西町)の代表的建築で昭和初期(あるいは大正末)の香りがする。
下駄箱の傷みにすら味がある。番台に座ってテレビを見ていた婆さん(失礼!)に「どれくらい前からやっているのですか」と尋ねた。彼女は眠そうに「うーん、80年以上にはなるかなー」と話してくれた。歪んだ脱衣箱に鍵を閉めるのは至難の業だった。
小さな湯船に別世界で暮らす人達が入ってくつろいでおられた。背中と腕の絵柄は非常に立派だった。流石に向こうも大人である。すぐに湯船から出て脱衣場に移動した。私が驚いたのはそれだけではなかった。
なんと黄色いケロリン洗面器(もともとは内外薬品が頭痛薬の宣伝用に作った物)があったのである。まさに懐かしいの一言。股をゴシゴシ洗ってから湯に浸かる。私には丁度よい温度だ。珍しく10分ほど中でボーとしていた。
脱衣箱に鍵を差し込んで悪戦苦闘してようやく開けることができた。歴史ある銭湯はずっと残して欲しいが、現実は厳しそうだ。行ってみたいと思っている方は急いだ方がよいだろう。私と同じ経験ができるかどうかは運次第である(笑)
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「橘湯」はかつて旅館もやっていたようだが、周辺には旅館がいくつかある。その多くは妓楼経営からの転業と考えられる。銭湯の南側には風俗ビルが見える。
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