(知られざる三島の名湯@竹倉温泉・みなくち荘)
コロナ禍の中で、なかなかしづらくなってしまったもの。世間一般的には外食や飲み会なんでしょうが、私の中では「温泉めぐり」もその一つ。飲み会などと違って他人とそうべちゃくちゃ喋る訳ではないので、そこまでのリスクがあるのかなと言う気がしないでもないですが・・・まあ風呂にマスクして入る人はいないので、相応のリスクはあるのでしょうね。どちらかと言うと、都市型のスーパー銭湯や日帰り温泉みたいな、脱衣所が満杯みたいな状態でガヤガヤと着替えるような場面の方が怖いかなと言う気はしますけど。
最近はそんな感じなんで、撮影がてらの温泉巡りもすっかりご無沙汰。昔はクルマに布団積んで、車中泊しながら東北を一週間回ったこともあったなあ・・・なんてそんなことをつらつらと考えながら、ふと思い出した温泉場なんかの話をしてみたいと思います。静岡県は三島市に「竹倉温泉」ってのがあるのをご存じでしょうか。三島って言えば中伊豆の入口に当たる街で、それこそ伊豆箱根の駿豆線に乗ってけば伊豆長岡や修善寺の温泉にすぐ行ける場所でもあり、地元の人しか知らないんじゃねえの?という箱根南麓の温泉場。
場所は三島の市街の東の外れ、どちらかってえと函南町に近い場所。鉄道ファンには「函南」「竹倉」と言われると、東海道ブルトレを富士山バックで撮影出来る名撮影地であった「竹倉踏切」を思い出す御仁も多いかと思われるのですが、この温泉があるのはその「竹倉」なんですよね。以前は旅館が三軒あって、どこでも宿泊や日帰り入浴を受け入れていたんだけど、一番大きな旅館だった「錦昌館」が廃業して、この「みなくち荘」が最後の砦を守っています。ここも宿泊は辞めちゃったみたいで今は日帰りだけしか受け入れてません。いつ行っても極めて静かで、年配のご夫婦が番をしています。少し色褪せた観光ポスターとか、手書きの東海バスの時刻表とか、そういうアイテムに昭和の雰囲気を感じるロビー。
伊豆の温泉って言うと、熱海に代表されるような「湯けむりモクモク・間欠泉ピューピュー」の火山性の高温泉のイメージがありますけども、この竹倉温泉は地下10mくらいからちょろちょろと湧いている鉱泉水を温めた「沸かし」の鉱泉。伊豆半島で、沸かして供されている温泉(鉱泉)って相当珍しいと思うんだけど、なんだか昔駄菓子屋で売ってた粉のオレンジジュースを溶かしたようなその色が非常に特徴的。鉄分を多く含む鉱泉の成分で、渋く色付いた浴槽のタイルといい、静岡なのに東北の湯治宿を思わせるような鄙びた雰囲気が自分的には気に入っていて、何度も通っている。お湯に浸かると鉄分でタオルとか赤くなっちゃうんだけど、ちょっと熱めの鉱泉水に10分も入っていると、体の芯までしっかりと熱が入って来る。
内湯が一つ、窓の外はのどかな田園風景が見えるだけ。オーシャンビューで露天風呂で、湯上りはキンメを始めとする海の幸が満載で・・・みたいな、伊豆半島の温泉にありがちなそういう歓楽的要素が全くないってのがまたいい。行くといつも一時間くらい一人で湯に浸かったり出たりしながらぼーっとしてるんだけど、たまに地元の爺さんが一人でガラリと湯に浸かりに来るくらいののんびりした空気感。竹倉温泉自体は昭和初期の開湯と歴史はそう長くはないものの、痛みやコリに効くとの由で、地元に根強いファンを持っているそうです。熱海や修善寺など全国クラスの知名度を誇る温泉場に周りを囲まれてはいますが、湯の良さ一本勝負の実直さで、何とか末永くこのお湯を守って欲しいもの。
竹倉温泉の裏山、錦が丘の高台に上がれば、伊豆縦貫道を跨ぐ道路からこんな風景を見る事が出来ます。ちなみに、この線路が見えてる部分の上の端っこあたりが竹倉踏切のようです。東海道本線が富士山をバックに南を向いて走るのは、この三島から函南に向かっての僅かな区間だけ。線路際の木々の成長によってアングルは日々狭まって行く感じもしますが、短編成の修善寺踊り子くらいならまだ抜けるんじゃねえかな。
なかなか遠征は難しい時節柄ではありますが、世情が落ち着いたらまた行ってみたいですね・・・って月並みな話で終わりにしようと思ったのですが、この長引くコロナ禍の中で、私が好きなこういう「鄙び系」はそこまで持ちこたえてくれるか?廃業しちゃうんじゃないのか?という気持ちがザワザワしてきてそれも切ない。うがー。と言う訳で、今んところは地元の人が行ってあげて!と言う他力本願寺にはなってしまうのがもどかしいですねえ。ホント。コロナを潜り抜けたその先に何も残っていないなら、いっそのことこの自粛なんぞクソ喰らえ、なのかもしれません。