(開湯のいわれ@温泉津温泉・泉薬湯)
旅の朝は無駄に早く起きるもの。昨夜は薬師湯に浸かったので、朝は温泉津温泉の元湯でもある泉薬湯へ。朝5時半からやってるってんで、一番風呂を狙いに行ったのだが、既に先客の漁師さんと思しき二人連れ。泉薬湯の前でこの日の開湯(?)を待ちながら、温泉津温泉の開湯の謂れを読む。古くからの歴史ある温泉が発見された由来というものは、だいたいが1.行基とか弘法大師みたいな高僧の教えとか、2.誰かの夢枕にお告げがあったとか、3.鶴や白鷺みたいな動物が傷付いた羽を癒していたとか、だいたいその三つなんですけど、ここは「3」の動物パターンであった。「一夜の枕を求めた旅の僧が、傷付いた古狸を追いかけて発見した」とあるので、1と3の複合パターンかもしれないけど。
温泉津温泉元湯・泉薬湯。昨日入浴した薬師湯とは目と鼻の先にある。目と鼻の先にあるがれっきとした別源泉で、「元湯」を標榜するように、温泉津温泉の開湯起源はここ。男女で分かれた入口の間に番台があって、10畳程度の小さめの脱衣場があった。浴場は、脱衣場の先から階段を下がった半地下のような位置にあり、熱い湯とぬるい湯、そして浴場の片隅に「初心者向け」と書かれた本当にぬるいため湯の、合計三つの湯舟があります。朝一の訪問だったので、湯面にはカルシウムの幕みたいなのが張ってて、薄い飴細工のようにシャリシャリと割れた。お湯は薬師湯と同様、炭酸味と鉄サビくささのある茶褐色の温泉ですが、薬師湯より投入量が絞られているのか源泉の温度が低いのか、お湯はこなれていてトロリとしたまろやかさがあった。
泉薬湯の前にあった「湯治の宿・長命館」。1922年開業。温泉津温泉と言えばここ!という伝統の湯治宿で、ぜひ泊まってみたかった雰囲気抜群の木造三階建ての宿だったのだが、既に商売をやめて久しいと見え、板壁が剥がれて土がむき出しになった姿は哀愁を誘う。この長命館、館内に内湯を持たず、それこそ泉薬湯をそのまま宿の外湯に利用するというプリミティブな湯治スタイルを堅持する宿であった。というか、泉薬湯のオーナーが経営するのが長命館だったので、泉薬湯の湯治部、というポジションだったんですね。宿を畳んでも、温泉だけは続けているあたり、そこは温泉津温泉の湯元たる矜持かもしれない。
漁師のおじさん二人とのんびりと同浴。おじさんの話題は、暑すぎて魚が獲れねえということと、自分の健康の話。今日は月曜日で漁はお休みなのだそうで、痛めている腰の治療で市民病院に行くということだった。泉薬湯に浸かっていても、必要なのは現代医学。この辺りで市民病院ってーと大田市の市民病院か。日本の地方都市、新しくて立派なのはだいたい市民病院かイオンってとこあるよな。
泉薬湯の先にあった雑貨店。温泉津の開湯の由来からか、「たぬきや」という屋号が付いており、店口に大きな狸の置物があった。朝早い温泉津の街角、大伽藍のあるお寺の鐘がゴーンと鳴って、今日も夏の日が始まります。