(アルピコ交通・田川橋梁@西松本~渚間)
諏訪盆地と安曇平を分ける塩尻峠を源流として、松本市街から奈良井川・梓川に流れ込む田川。どこの街にでもありそうな何の変哲もない小規模河川ですが、昨年の8月、豪雨による増水で橋梁の真ん中の橋脚が洗堀により沈下。橋のガーター部分が折れ、上高地線は長期に亘って運休を余儀なくされました。経営の盤石ではない地方のローカル私鉄において、橋梁の損壊というものは土木設備の大きな損失。同じ長野県では、令和元年の台風19号で千曲川橋梁を失った上田交通が大きく報道されましたが、このアルピコ交通も田川橋梁も被災から復旧まで10ヶ月を要し、その間は松本駅~渚駅間を代行バスが結ぶという不便を強いられることとなりました。
復旧なった田川橋梁。橋の復旧とともに護岸工事も再度行われたと見えて、川の周辺は新しいコンクリートの擁壁で丁寧に整備されています。長さとしたら100mもないだろうこの橋、果たして復旧するのに10ヶ月もかかるのかな・・・突貫工事で直せばもうちょっと時間短くならないか?と思ったりするのだけど、松本市市街地の河川との事で、治水計画を見直した上で護岸工事と並行して進めないといけないだろうし、橋を直す費用だって地方自治体や国の支援を仰いだのだろうしね。このクラスの橋梁を修繕するのにどのくらいの費用が掛かったのか知る由もありませんが、収益性の高くない地方のローカル私鉄が、自力で橋梁設備を復旧する費用はさすがに負い切れないと思いますんでねえ。
復旧なった田川橋梁を渡るアルピコ交通の電車。今年も7月後半から、東北地方を中心とした日本海側に線状降水帯を伴う集中豪雨が続いていて、報道されるだけでも磐越西線の濁川橋梁(喜多方市)、米坂線の小白川橋梁(飯豊町)が落橋、そして奥羽本線の北部や五能線でも橋梁の軌道ズレや洗堀による橋脚の変異があって、北東北の交通網はズタズタになってしまいました。これも復旧には相当な時間を要すものと思われますが・・・磐越西線や米坂線のような古く明治~大正時代から走り続けていた路線の橋梁が「落ちる」という事、要は線路が敷設されて1世紀以上なかったレベルの雨と洪水が設備を破壊したという事になる。気候変動が叫ばれて久しい昨今、「数十年に一度」が毎年毎月起こるような状況に麻痺しがちになるのだけど。
特に地方私鉄・地方ローカル線については、老朽化した橋を架け替えたり線路を付け替えたりというような抜本的な災害対策は収益面からはほぼ行われず、長らく補修・修繕によって維持されて来たのが実情と思います。それこそ橋梁などは例えば下路トラスにして思い切り径間を広げ、ある程度の長さでもワンスパンで渡り切るみたいな、「洪水で流されないよう、そもそもの橋脚を減らす」ような抜本的な改良をしないと、このままではいずれみんなやられてしまうのではないだろうか。
最近叫ばれる国土強靭化ってのは、ただ橋や線路が壊れたり流されたりするのを待つだけじゃない「攻めの防災」の取り組みを、地道に進める事なのではと。ただ、公共投資を将来性も収益性も見込めない地方鉄道に注入するのかという議論が絶対に起こるので、そこを覆して行く「地方鉄道を守らねばならない理由」をみんなで考えないとならんのかなあと思います。うーん、交通インフラなんて赤字でもしょうがないと思うのですが、そうは問屋が卸さないのが昨今の地方の疲弊でもあります。