(月光清かに@月岡駅)
宿に荷物を置き、身軽になって出て来たのは上滝線の月岡駅。夜になって空は晴れ渡り、ひんやりと澄み切った空気が富山平野に降りて来ました。月明かりに煌々と照らされる月岡の駅。以前は相当に黄昏た木造の旧駅舎で、それはそれで大変に詫びた感じがしたものだけど、いつの間にか小ぎれいに改築されておりました。月明かりが駅名板を照らすアングルで、静かにシャッターを切ります。
燦々と降り注ぐ月光の煌めき。この日は目を凝らさずとも遠くの山並みが見えるほどの明るい夜でした。19時台の電鉄富山行きが、扇状地の坂道を緩やかに降りて来ます。さすがに感度を上げても写し止めるほどのシャッタースピードは稼げないのですが、分岐器をゆるりと渡って駅に滑り込むところを一枚。ポイントを照らす水銀灯が、一瞬車体の雷鳥カラーを浮かび上がらせてくれました。
この時間の上り電車はほぼ空気輸送のようなもので、気怠く車体を揺らしながら月岡のホームに停車した電車は、ほんのアリバイ程度のドア開扉を行っただけですぐに発車して行きます。停車中のバルブ撮影をしようと思ったのだけど、その隙すら与えてくれなかった(笑)。
駅舎は改築されていましたが、ホームの上の待合室は以前のまま残っていました。建物に取り付けられた看板の「不二越・電鉄富山方面」という行き先。市内線と接続する南富山でなく、あえて「不二越」を記したのは、この辺りから不二越の工場に通う通勤者が多かったからなのか、あるいは南富山〜稲荷町間が厳密に言えば不二越線だからなのか。右側には「上滝・有峰口・立山方面」とあり、終点の岩峅寺の表記がありません。これは、以前は電鉄富山から立山へのメインルートが上滝線経由だった名残りかなと。ちなみに、立山方面が寺田経由に変わったのはいつくらいなんだろうか?そんな地鉄の歴史に想いを馳せながら、夜はしみじみ更けていきます。
さて、ひと月に亘ってお送りして来た地鉄訪問記。春まだ浅き立山から宵闇の月岡まで、今回は黒部線方面には向かわずにじっくりと回ってみましたがいかがだったでしょうか。三年連続秋に行ってたもんだから、あえて今回は季節を変えて地鉄の風景を眺めてみました。コロナ禍の中で鉄道会社の収益が軒並み悪化する中、特に財政基盤の弱い地方私鉄の苦しさたるや我々が思うに至らない部分もたくさんあるのだと思います。地鉄の4月からの新ダイヤは、全線に亘ってほぼ特急の運転は取り止めという厳しいダイヤになりますが、ここでエールを送らずにいつ送るのかと言う気持ちで、また越中の国の風景を切り取りに行きたいと思います。電鉄富山の駅で出番のない特急カン、いつか復活することを願って。