青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

山染まる秋

2019年11月29日 23時00分00秒 | 大井川鐵道

(峻険なる谷渡り@アプトいちしろ~奥泉間)

真っ赤に燃えた山肌を横目に、奥泉の上部トラス橋を行くDD。奥大井の川筋は、大井川とその支流の寸又川を含めて数多くのダムがひしめくダム銀座。深遠と続く南アルプスの雄大な山懐に向かって、その位置エネルギーを余すところなく利用せしめんとコンクリートの堰堤が続いています。最下流の塩郷ダムから最奥部の赤石ダムまで、流れをせき止めては山の中に敷設した送水管で水を送り、稜線の高い位置から流し落としては発電に供しています。大井川ダムのほとりにある大井川発電所。この発電所のタービンを回す水は、上流の奥泉ダムから送水されてきたものです。昭和初期、千頭から大井川ダムの建設のためにここ奥泉堰堤まで建設されたのが中部電力専用線で、これが現在の井川線の前身となっています。

遠景だとちっぽけになってしまって列車の存在感がビミョーに薄い写真になってしまうのですけど、奥大井の谷の深いこと、山の嶮しいこと。真ん中あたりの山肌のガレっぷりがいかにも井川線の風景らしい。近年の紅葉は、夏の酷暑と秋の台風で葉が傷み、あまり良い色付きになっている年が少ないように思う。それでもさすがに奥大井の紅葉はそれなりに見事な色付き。この日の井川線は、午前中に千頭から乗って閑蔵まで乗る団体さんが入っていたようだ。帰りは井川線に乗らないでそのまま迎えに来た観光バスで寸又峡の方に向かって行ったようだが。

寸又峡温泉は紅葉の名所として有名ではありますが、硫黄の香るなめらかな温泉で、温泉自体の質としてもとても良いものがあります。特に町営の「美人づくりの湯」はちょっと狭い露天風呂しかないけど、流しっぱなしのお湯でそこらのホテルで立ち寄りするよりよっぽど湯質がいい。昔っからある割にはなかなか垢抜けなくて、メジャーになり切れない温泉地ではあるんですけどね。

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アプト区間、上から見るか?下から見るか?

2019年11月27日 23時00分00秒 | 大井川鐵道

(中段の構え@アプトいちしろ~長島ダム間)

90パーミルの勾配を長島ダムの堤体の高さまで登って行く、アプトいちしろ~長島ダム間のアプト区間を県道の市代橋から。平成2年に完成した長島ダムの建設によって、川根市代駅(現:アプトいちしろ駅)~川根長島駅(現:接岨峡温泉駅)の間の大部分は水没することになりましたが、井川地区などからの強い存続の求めなどもあって、この区間は新線を作って付け替えることになりました。その結果登場したのが、アプト区間と奥大井レインボーブリッジという井川線の新たな見どころです。・・・ん?「新線」だの「新たな」だのと言ってますけど、よくよく考えたら長島ダムの竣工が平成2年という事は、来年でアプト化から数えて既に30年になる。歳月の流れは速い。

坂下側にED90のロコ2機を連結し、シーソー型のPCコンクリート橋で大井川の本流を超え、紅葉染まる奥大井の山肌を登って行く201レ。奥泉より先はほぼ沿線人口のない井川線ではありますが、この光景はすっかりお馴染みとなった井川線の白眉ともいえるシーン。アプト方式なんて珍しいものをよく作ったなあという印象もあるのですが、トンネルを新たに掘削して迂回路を切り開くよりもよっぽど建設費が安く、工期も短いのだとか。もちろん観光需要が主なので、機関車の付け替えなどに時間を要する事がさして障害にならない路線の性質というのもあったと思うけど。

 長島ダム駅から、今度は山を下りて来る402レを市代林道から。トンネル出口の紅葉が鮮やかだ。【ED+ED】+【DD+スハフ+スロフ2】+【DD+スハフ3+スロフ1+クハ】という多客期らしい堂々たる編成。ちなみにDDが2機連結されているのは、途中の接岨峡温泉駅で編成を増結しているためです。後方の【DD+スハフ3+スロフ1+クハ】は接岨峡温泉で夜間滞泊していた編成で、朝一番で井川までを往復し、接岨峡温泉で千頭から来た201レが切り落とした【DD+スハフ+スロフ2】とくっついて、402レで千頭へ返して行きます。

まさに見頃となった紅葉を眺めながら、アプト式区間の桟道を一望の下に出来る市代林道からの俯瞰。以前は道路沿いの崖は刈り払われて見通しが良かったのだが、いつの間にか崖から伸びた灌木と雑草に覆われてだいぶ視界が狭まってしまっている。このアングルも脚立持ってきて精一杯に下の雑木を交わしてやっとこさ作ったアングルなのですが、まあバランス崩して足踏み外したら脚立ごと30mくらい滑落して大井川にドボンである。あまり端っこに近づき過ぎぬよう、ファインダーの外側にも注意を払われたい。

ダム下にある「アプトいちしろキャンプ場」が開いておりましたので、キャンプサイトからの構図で。ここからは、大井川の水面に近いところから見上げるようにアプト区間を撮る事が出来ます。列車の窓から大勢の乗客たちが手を振っているのが見えて、さすがに最盛期の井川線は千客万来の盛況であります。この日は長島ダム周辺の紅葉が一番冴えていた感じがしたので、上段の市代林道、中段の市代橋、そして下段のアプトいちしろキャンプ場と三つのアングルからアプト区間を楽しんでみました。アプト区間、上から見るか?中から見るか?下から見るか?って感じですね。

山懐に、EDの重々しい電制の音とホイッスルが木霊すると、キャンプ場に来ていたキャンパーたちが一斉に手を振る。アプト区間を撮るには、ここの他にも寸又峡へ行く県道から分かれてダム上の尾根を辿った「うさぎ辻」からの大俯瞰ってのもありまして、実はそこから紅葉の景色を狙いたかったんだけど・・・どうも何年か前から途中の道の落石がひどくてダメっぽかった。関の沢の展望台に行く道も落石で通行止めになってたんだよな・・・この辺りの地質は脆くて、生半可な土木工事ではどうにもならない大崩落が頻繁に起こるからね。誰かが住んでいるわけでもない展望台に行くだけの道を直すのに莫大な金をかけられないという事情も分かるのでしょうがないんだけど、残念だったなあ。まーさか「〇さ行かねが」みたいに落石の山を越えて潰れた道を行くようなマネも出来ませんのでね(笑)。

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三叉峡賛歌

2019年11月26日 17時00分00秒 | 大井川鐵道

(三叉峡を行く@沢間~土本間)

長島ダムを望むアプト区間や、接阻湖を渡る奥大井レインボーブリッジ、高さ100mを超える関の沢のアーチ橋。井川線の沿線の見どころは色々ありますが、個人的には千頭から奥泉の辺りが好きです。特に沢間や土本、川根小山のあたりの、蛇行する大井川に寄り添いながら小さな山肌に茶畑を作って暮らす小集落のロケーションが好き。ダムや発電所のような巨大構造物が作り出す景観も奥大井の魅力ですが、この辺りには巨大な槌音が響く前の、本来の奥大井らしい風景が残されているように思います。沢間~土本間の大井川・寸又川・横沢川の三叉峡を行く201レ。

そう言えば、自分が井川線に来始めた頃には、朝7時台と夕方5時台に千頭〜奥泉の区間列車が走っていました。いつの間にか区間列車はなくなり、朝9時台の201レがこの区間を走る一番列車になってしまいましたね。何年か前に、大井川鐵道は思いっきり普通列車を減便するダイヤ改正を実施したんですけど、千頭~奥泉の区間列車ってそこでなくなっちゃったんじゃなかったっけかな・・・おそらく、千頭にある小中学校への通学などに便宜を図っていたのではないかと推測されますが、もうそういう需要も潰えたという事なのだろうか。

品よく色付いた三叉峡を対岸側から。ここ、前はもうちょっとスッキリ撮影できた気がするんだけど、雑木が増えてアングルが狭まってしまいましたね。桑野山トンネル開通前、沢間の集落を回る旧道からのアングルですが、人より大きい落石がそこら中でゴロゴロしているし、落ち葉が溜まってスリッピーだし、カモシカが出て来るしで結構スリリングな場所でした(笑)。まあクマじゃなかっただけ良しとするしかない。南アルプスにクマが出るかは知らんけど。

DDのホイッスルが一発、土本の駅を出た合図。
大きなフランジ音を出しながらゆっくり近づいてくるので、井川線の列車は接近が分かりやすいですね。

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紅燃ゆる奥大井

2019年11月25日 17時00分00秒 | 大井川鐵道

(山霧覆う奥大井@大井川鐡道井川線・奥大井湖上駅)

今年の紅葉は遅くて遅くて、紅葉前線も11月の末になってようやっと各地が見ごろになって参りました。今年は、予定では最後の旧型と絡めて箱根登山鉄道を集中的に撮ってみようかな、と思っていたのですが、まあ台風であんな事になってしまったのでねえ・・・という事で朝4時に家を出て、そんな台風被害の爪痕残す箱根を抜けて奥大井まで行って来ました。オダアツ→箱根新道→R1→R361というルートだと普通に走っても家から4時間程度だから高速代が掛からなくていいな。家から小田厚の箱根口まで1時間、箱根新道通って三島まで1時間、R1BPで静岡まで1時間、R361の山越えで千頭まで1時間という見立て。

この土日はあまり天気が良くなかったので、行こうかどうか逡巡してしまったのですが、まあしっとり濡れた紅葉も悪くなかろうと言う事で。寸又峡・接阻峡を中心としたエリアはこの週末が一番の見頃だったと思うのだけど、昔に比べるとなんか奥大井も観光客減ったイメージがありますね。一昔前は、紅葉の時期なんか奥泉の辺りから寸又峡に行くハイカーで大渋滞になってた記憶があるんだけど・・・ちょっとアクセスが悪いのかなとも思ったけど、昔っから山奥の便の悪い場所ですし、そもそも新東名が開通してアクセス良くなったくらいなんですけどね。寸又峡の温泉街が昔のまんまで、なんか陳腐化しちゃってるのもあるかもしれないが。

いつもならきれいなチンダル現象のブルーを見せる接阻湖も、この秋の雨続きのせいか、トロリと青みを帯びた乳白色。
マッコリみたいな湖面の上を、千頭行きの一番列車が渡って行きます。

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春日部の 風に吹かれて 啜る味

2019年11月23日 09時00分00秒 | 東武鉄道

(昼時の人気店@東武野田線春日部駅ホーム)

今更ながら私は出掛けるのが好きですが、出掛けた先でお腹が空いた時、ちょっと小腹が空いた時、撮影に熱中して夜までなんも食ってない時、とにかくあらゆるシチュエーションで立ち食いそばというものにお世話になっています。鉄道趣味者的には早くて安くて温かくて(夏は冷たくて)腹が膨れてそこそこの満足感もあるとてもコンビニエンスな食事処ですが、先日東武8111Fの撮影に野田線界隈を訪問した際、春日部駅のホームにある「東武らーめん」にお邪魔して来ました。立ち食い「そば」ではなく「ラーメン」ってあんまり聞いたことありませんが、この春日部の街のラーメン店として、野田線のホームの上で長いこと愛されているそうです。ちなみに立ち食いそばの店が出すラーメンって結構美味しいのがあったりします。藤沢駅の大船軒とか、高崎駅のたかべんとか。

時間がちょうどお昼時だったので、カウンターが満員。結構な人気店のようである。食券制なのでカウンター横の券売機でメニューを選ぶ。えーと、ラーメン、ネギラーメン、玉子ラーメン、チャーシューメンはいいとして、コロッケラーメン、天玉ラーメン、コロッケ玉子ラーメン、天ぷらラーメンと右に行くにしたがって立ち食いソバの業態が侵食してくる(笑)。そう、東武ラーメンの特徴はこの「ラーメン屋なんだけどタネモノが立ち食いソバっぽい」メニューにあります。ラーメンと立ち食いソバのハイブリッド(笑)。そう言えば東武って駅そば(小田急の「箱根そば」とか京急の「えきめんや」的な)の業態ってないですよねえ。聞いたら、結構東武の駅のホームにはこの立ち食いラーメンってのがあったのだそうだ。今はここ春日部といくつかしか残ってないらしいですけど。

という訳で今回は「天ぷらラーメン」を頼んでみました。中で忙しく働くおばちゃんに食券を渡し、先に食べていた中学生の二人連れの脇に入れてもらう。天ぷらラーメンの食券を渡したら「えっ、天ぷらなんだ!すげえ!」って中学生に驚かれたんだけど、お小遣いの少ない中学生だと600円台はブルジョワジーなのか、それとも「天ぷらとかチャレンジしちゃうんだ!」という好奇の目なのか・・・(笑)。かなり混みあっていたので5分ほどの待ち時間。ほどなく着丼した天ぷらラーメンは、シンプルな醤油ラーメンの上にかき揚げ天ぷらが乗っかった想像通りのビジュアル。麺は普通の中華麺にメンマとわかめ、醤油スープが脂っ気の少ないさっぱり系で、かつ巻きバラのチャーシューも薄めなので、かき揚げ天ぷらの油がスープに溶け込んで来ると適当にコクが出てくる感じ。そんなにとびっきり美味い訳でもないのだけど、どこか懐かしいような和中折衷の味がします。

「ごっそさん!」の声と同時に到着した電車に乗り込んでいくオッサン、その隙間に入って来る次のサラリーマン。次々に訪れるお客さんの顔と顔に、この店が愛されている感じは十分に伝わって来ます。隣の中学生がわざと聞こえるように「いつ食べてもここのラーメン美味いなあ」だって。この店のラーメンは、春日部の街の風と、ホームの雑踏と、東武電車の音を最後のスパイスにして完成するものなんだろうと思う。クレヨンしんちゃんの発車ベル鳴り響くホームで、昼時に老若男女がカウンターに肩すり合わせ、譲り合いながら啜る春日部の街の普段着の味。ごちそうさまでした。

コメント (2)
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