(復活の交換駅@法華口駅)
国鉄北条線から北条鉄道に至るまで、起点の粟生から北条町までの13.8kmに交換設備が一つもなく、全線1閉塞で運行を続けてきた北条鉄道。片道30分程度の道程とは言え、全く交換場所もないので列車の増発も出来ないし、北条町発/粟生発もそれぞれ列車間隔は詰められて約一時間くらいが限界。日中はそんくらいの間隔でもいいけど、朝のラッシュ時間も一時間間隔では、さすがに乗客の利便性が図られているとは言えない状態にありました。そのため、2020年に同線のほぼ中間に当たる法華口駅に交換設備を整備。列車の増発が可能になっています。
元々、国鉄時代は交換駅だったらしい法華口の駅。今でも相対式のホームの跡が残されているのですが、交換設備は現駅舎のホームの途中からレールを分岐させて、北条町寄りに改めて新設されました。交換設備と閉塞に連動した信号システムは簡易的に作られていて、列車を運行する場合はICカードを2つ(北条町~法華口・法華口~粟生)用意し、この法華口の駅でお互いの運転士が受け渡し用に作られた専用通路を使ってカードを交換。それぞれが交換したカードをICカードリーダーにかざします。ICカードによる通信を北条町駅の指令所が確認して、それぞれの方向の信号を青にする事で、進路が開いて進行が出来るようになっています。
通常時は日中にここで行き違いはありませんが、この日は「カブトムシ列車」の運行があったため、法華口での交換シーンを何度も見る事が出来ました。カブトムシ列車の運転士氏が手に持っているのがおそらくICカード。ここまで走って来た北条町行きの運転士氏から「粟生~法華口間」のICカードを譲り受け、鉄柱に取り付けられた読み取り機に読み取らせるのですが、この閉塞方式は「票券を持っている列車しかその区間に入れない」といういわゆる「票券閉塞式」(この場合はICカードが票券)の一種。本来であれば、現場の駅係員がお互いの運転士の通票を受領して、駅係員を介して受け渡しを行うのですが(小湊鐡道の里見駅でやってるタブレットによる票券閉塞式がそのパターンですね)、北条鉄道では無人駅の法華口駅に運転要員を置くことはせず、票券の確認作業を「それぞれの運転士が受け渡したICカードを読み込ませ、北条町駅の指令所で確認する」ことで処理する形にしているそうです。この方法を「票券【指令】閉塞式」というそうで、日本ではここでしかやっていない閉塞方法なのだとか。
めでたく交換設備の復活した法華口駅。ホームは移設されましたが、それまでの駅舎はそのまま使われていて、ここも古いながらも美しい、いかにも日本のローカル線だなあ!と思うような端正な佇まいの駅舎が現存しています。駅員さんこそおりませんが、駅舎の中には「Mon Favori(モン・ファボリ)」という名前のパン屋さんが入店していて、地域の活性化に一役買っています。勿論鉄道を使わない人でも、駅前の駐車場に車を停めてパンを買う事も可能。
キレイにリフォームされた駅舎と、パンの香り漂う待合室。駅務室はパン工房と陳列棚、出札口はレジになりました。次の列車までの待ち時間、折角なので買って食べてみましたが、米粉を使用しているのか、今流行りのモチモチ感が強くて風味がよいパンであった。播磨下里でゆで卵、法華口で焼きたてパン。ローカル鉄道を巡る旅は、目で見て愛でるだけでなく、風土を味わう口福の旅。地域の交流の拠点として、鉄道利用の促進のために、まずは駅を訪れる理由を作り出すこと。最近はJR東日本と日本郵政が駅の活用を目的に連携協定を結んだなんて話もありますが、荒廃した無人駅を無くすための草の根の活動は、意義ある取り組みでしょうか。
真夏の空に雲浮かぶ中、真一文字に草の道を走りゆく播州の小鉄道、北条鉄道。短い路線ながらも、その沿線風景とホスピタリティは、豊穣たるもの。加古川線沿線の盲腸線って、高砂線と鍛冶屋線が廃止、三木鉄道が三セク転換されたけど廃止で、結局残ってるのって北条鉄道だけになってしまいましたからねえ。これからも末永く存続に向けた取り組みと活動が実を結ぶよう、その動向に注目したい路線になりました。何より、思いっ切り夏を吸い込めたのが良かったなあ!って思いましたね。
日本の正しい夏があった北条鉄道。四季が薄れゆく昨今だからこそ、夏が過ぎれば正しく秋があり、正しく冬が来て、そして正しく春が来ること。四季の巡りの尊さに、思いを馳せます。