(八月の夜風に吹かれて@与謝野駅)
京都丹後鉄道を中心に廻った丹後半島の旅、実質は一泊二日だったけれども、比較的天候に恵まれて濃厚な旅路となりました。久美浜から徐々に帰路へと車のハンドルを回しながら、列車のダイヤを見ながら撮れるところでは撮って行こうという展開。加悦鉄道が分岐していた与謝野駅(旧:丹後山田駅)で、夕方の2連をバルブ。加悦鉄道は、地方特産の丹後ちりめんやニッケルなどの鉱石を運ぶために敷設された鉄道ですが、コッペル型のSLや旧型気動車などレトロ車両の宝庫として有名で、この木造の待合室の向こうから、国鉄から譲受したキハ20系列の気動車や、客車改造のキハ08なんていう珍車が発着していました。現在の与謝野駅の駅舎には、在りし日の丹後山田駅のジオラマや資料が保存された小さな鉄道資料館があるそうで見てみたかったのですが、当然この時間は閉まっておりましたね。
与謝野町から天橋立を抜け、宮津から奈具海岸を通って三度目の由良川橋梁。そろそろ丹後半島からお別れの時間が近付いてはおりますが、この橋の前をそのまま何もせずに素通りする訳にも行きますまい。コンビニにクルマをチョイ置きさせて貰って、田んぼの脇の細道をスマホの明かりを頼りに辿って由良川の岸辺に出ると、真っ暗な川面からポチャリポチャリと水の揺蕩う音だけしか聞こえて来ない。暗闇に目を慣らすのに相当な時間を要する撮影環境で、光源を頼りにピントを合わせる事もままならなかったのだが、設定は当てずっぽうでも思い切りシャッターを開けて高感度撮影をするしかない状況。長時間露光でさんざめく川面がまるで雲海のように映った由良川橋梁、遠く見える舞鶴湾の漁火をバックに、夜空に漆黒の影を結ぶ。
とてもじゃないが真っ暗で、モノを落としたりでもしたら絶対に分からないような撮影環境。結構岸辺の草が煩いため、そこそこ川岸に寄って三脚を立てていたのだけど、ここで三脚を真っ暗な川へ落下させたら絶対に回収は不可能であろう。そして、こんな夜の由良川で活動しているのは自分だけだと思っていたら、岸辺をヘッドランプ付けて夜釣りしてるオッサンに遭遇しお互いにビビる(笑)。釣り趣味も鉄道趣味も、時間もへったくれもなくアングル(釣り場)を際限なく探し回る趣味という意味では同じなのかもしれない。
雲間から覘く星空と、沖の漁火を眺めながら待つ事暫し。列車が丹後神崎の駅に差し掛かる手前くらいからジョイント音が聞こえて来て、由良川の対岸の漆黒の闇の中を、懸命に走る気動車の灯りが見えた。神崎の駅を発車した列車は、夜の由良川橋梁を糸を引くような光跡を残して粛々と渡り、そして消えて行きました。