青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

由良の戸や 夜に糸引く 光の矢。

2022年10月02日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(八月の夜風に吹かれて@与謝野駅)

京都丹後鉄道を中心に廻った丹後半島の旅、実質は一泊二日だったけれども、比較的天候に恵まれて濃厚な旅路となりました。久美浜から徐々に帰路へと車のハンドルを回しながら、列車のダイヤを見ながら撮れるところでは撮って行こうという展開。加悦鉄道が分岐していた与謝野駅(旧:丹後山田駅)で、夕方の2連をバルブ。加悦鉄道は、地方特産の丹後ちりめんやニッケルなどの鉱石を運ぶために敷設された鉄道ですが、コッペル型のSLや旧型気動車などレトロ車両の宝庫として有名で、この木造の待合室の向こうから、国鉄から譲受したキハ20系列の気動車や、客車改造のキハ08なんていう珍車が発着していました。現在の与謝野駅の駅舎には、在りし日の丹後山田駅のジオラマや資料が保存された小さな鉄道資料館があるそうで見てみたかったのですが、当然この時間は閉まっておりましたね。

与謝野町から天橋立を抜け、宮津から奈具海岸を通って三度目の由良川橋梁。そろそろ丹後半島からお別れの時間が近付いてはおりますが、この橋の前をそのまま何もせずに素通りする訳にも行きますまい。コンビニにクルマをチョイ置きさせて貰って、田んぼの脇の細道をスマホの明かりを頼りに辿って由良川の岸辺に出ると、真っ暗な川面からポチャリポチャリと水の揺蕩う音だけしか聞こえて来ない。暗闇に目を慣らすのに相当な時間を要する撮影環境で、光源を頼りにピントを合わせる事もままならなかったのだが、設定は当てずっぽうでも思い切りシャッターを開けて高感度撮影をするしかない状況。長時間露光でさんざめく川面がまるで雲海のように映った由良川橋梁、遠く見える舞鶴湾の漁火をバックに、夜空に漆黒の影を結ぶ。

とてもじゃないが真っ暗で、モノを落としたりでもしたら絶対に分からないような撮影環境。結構岸辺の草が煩いため、そこそこ川岸に寄って三脚を立てていたのだけど、ここで三脚を真っ暗な川へ落下させたら絶対に回収は不可能であろう。そして、こんな夜の由良川で活動しているのは自分だけだと思っていたら、岸辺をヘッドランプ付けて夜釣りしてるオッサンに遭遇しお互いにビビる(笑)。釣り趣味も鉄道趣味も、時間もへったくれもなくアングル(釣り場)を際限なく探し回る趣味という意味では同じなのかもしれない。

雲間から覘く星空と、沖の漁火を眺めながら待つ事暫し。列車が丹後神崎の駅に差し掛かる手前くらいからジョイント音が聞こえて来て、由良川の対岸の漆黒の闇の中を、懸命に走る気動車の灯りが見えた。神崎の駅を発車した列車は、夜の由良川橋梁を糸を引くような光跡を残して粛々と渡り、そして消えて行きました。

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草を刈れ カニもハサミを 振り上げて。

2022年09月30日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(穏やかな入り江にて@久美浜湾)

少し涼やかな風が吹き始めた夕方、久美浜湾を一周する県道を走る。久美浜湾は、湾と言えども細い細い水路で日本海と繋がっているだけの潟湖(せきこ)。汽水域の波穏やかな湖面を水面すれすれまで降りて行けば、養殖のカキの筏が並ぶ風景を見る事が出来ます。このカキ筏が久美浜湾の名物で、道路沿いには「久美浜のカキ」だの「津居山のカニ」だの景気良い文字を並べた民宿が並んでいますが、何となく時間が悪いのかシーズンが外れているのか寂しい雰囲気でしたね。

夕方が近付いて、空は雲に覆われ露出が乏しくなってきました。久美浜にある温泉でひと汗流した後は、木津温泉の駅近くではしだて8号をゲット。撮影地を探しているうちに時間切れになってしまったような感じで何の変哲もない構図になってしまった。って言うか、丹鉄沿線は予算も人員も厳しいのか除草がほとんどなされておらず、目星をつけていた撮影地が悉くツル系の植物のマント群落で覆われておるんですよねえ。よって、あまり撮影する場所がないというのはあったんだよな。

特に峰山より先は線路際のブッシュがまあ深いこと深いこと。撮影する場所がないので、勢い撮影場所は草が生えていない鉄橋みたいな場所ばかりになってしまう。久美浜湾に流れ込む川上谷川の土手沿いをぽつぽつと歩いて行くと、草むらの上でカニに遭遇。ハサミを振り回されて威嚇されながらほぼ海抜2~3m程度の低湿地帯に三脚を立てると、澱んだ水にその姿を映して、西舞鶴行きが走り去って行きました。

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店に見る 郷土の味と 生活と。

2022年09月28日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(輝く丹後の海の幸@京丹後市某所)

この日は、観光を取り入れたり乗り鉄したりとまったりモード。街道筋の魚屋さん、そこそこ駐車場の客付きが良いので寄って見る。お土産代わりの鯖のへしことデベラ(ヤナギガレイ)の干物を購入。キラキラとショーケースに並ぶは丹後の海の幸。美味しそうな刺身の盛り合わせ、マグロ、カンパチ、サザエ、アカイカ、タイ、アジなどの魚が入っている。クルマにクーラーボックスを積んでいるのが幸いだ。コンビニで大きな板氷を買って保冷は万全。どうせ帰りは長旅だし、夕飯のおかずにでもなれば、とひと盛り購入。

丹後地方では「スーパーにしがき」というチェーン店が幅を利かせていて、どの街にも店舗がある。観光客御用達の土産物店もいっぱいあるけど、旅先ではこういう地元民が普段使いしているスーパーなんかに忍び込んで、全国流通はしていない地元メーカーの製品が並んでいたりするのを見るのも楽しいものだ。さすがに丹後地方、特に宮津周辺は練り製品の製造が盛んと見えて、ちくわやカマボコの類の扱いが多い。「お土産に舞鶴・宮津のちくわ・かまぼこを!」と書いてあるので、選りすぐって三種類ほどを購入。家に帰って食べたら、ヨメさんも「魚の味が濃くて美味しい!」と非常に評価が高かった。あと「ヒラヤコーヒー」っていう久美浜の乳業メーカーが出してるコーヒー牛乳ね。これも美味しかったのでお勧めします。

ヒラヤコーヒー500mlを小脇に抱え乗り込む峰山からの丹鉄。特に目的のない乗り潰し。久美浜で上下交換なので一つ前のかぶと山駅まで。以前は甲山(こうやま)駅だったと思ったが、いつの間にかひらがな表記になって読みが変わっていた。蝉しぐれが降りしきる森の中の駅で、チュルチュルと紙パックのカフェオレ(濃くてうんまい)を飲んでいると、高校生の二人組がやって来た。こんな駅のこんな時間から学校に行く用事があるのかな。部活かな。なんて思っていると、カフェオレ色のDCがやって来ました。

のんびりと観光モードで眺めつつ乗ったり撮ったりを繰り返したこの日の丹鉄沿線。強かった日差しはやや傾き、木津温泉近くの田園地帯へ。シラサギが田園地帯を流れる川に沿ってエサを探している姿をぼんやりと見ていると、やおら傍らの踏切の鐘が鳴り始めて、午後4時の下り列車が去って行きます。翠濃き木津川の流れ、好き放題に繁茂する夏草にその姿を隠しながら、里山風景の縁を走る丹鉄のDC。重々しい瓦屋根の丹後の家並みを掠めて、一路豊岡へ向かいます。

 

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豊穣の 大地育む 米と酒。

2022年09月26日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(見上げて、夏。@与謝野~京丹後大宮間)

阿蘇海沿岸から加悦谷へ続く平野部を後に峰山盆地に抜けて行く宮豊線は、与謝野と京丹後大宮の間で小さなサミットを越えて行きます。その途中にある、国道と野田川水系の小さな沢を一気に跨ぎ越して行く高い高い鉄橋。一本の石積みの橋脚が、なんとなく芸備線とか山口線辺りの中国地方山間部にありそうな雰囲気を醸し出しています。水戸谷川橋梁と言うらしい。丹鉄の橋梁は、基本的に橋梁のガーター部分に橋の名前を大きく書いているので識別が楽だ。踏切や橋などの構造物に名称を記録しておくのは、事故とか障害が発生した時、第一発見者や現場に急行する保線の係員が現在位置を確認しやすいようにするため、という説があるのだがどうなんでしたっけね。

国道脇の駐車帯にクルマを止め、木漏れ日の夏空を見上げる。木々の葉は青々と茂り、夏空にはムクムクと育つ白雲。空から夏が滴って来るようだ。沢水の流れる音を聞きながら耳を澄ませると、定刻から少し遅れてベージュの気動車が姿を現しました。遅れを取り戻そうと懸命にスロットルを回しながら、ボヤッとしているとシャッターチャンスを逃しそうなスピードで、天空の谷を渡って行きます。

夏の峰山盆地を行くKTR802。昨日今日とよく出会う車両。今回訪問の際、丹鉄ご自慢の観光列車である「あかまつ」「くろまつ」はコロナで乗務員が確保出来ないとして運休しているし、そして「あおまつ」は入検中という事でそっち方面の車両は全く動いていなかったのだけど、一般車両のスカイブルーがなんだかんだいって一番カッコいいように思うんですよね。ちょっと日本の車両では見ないようなカラーリングですし、とりあえずこのスカイブルーの車両は夏景色との取り合わせがバッチリなんだよなあ。

雲湧き立ち、夏の終わりを謳歌するような峰山盆地の晩夏の風景。この辺りは竹野川流域の平野に沿って大規模な穀倉地帯になっていて、遥か遠くまで続く田園風景が広がっています。作付されているのは主に「丹後コシヒカリ」や「京式部」の名前の付いたブランド米。そして、米どころである峰山盆地周辺には酒蔵も多く、酒造用の酒米の生産も盛んなのだそうです。豊穣なる丹後の大地を行くKTR、夏を過ぎて、稔りの秋を迎える頃にはさぞかし素晴らしい景色になっているんでしょうねえ。

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海と風 伊根の舟屋に 暮らす日々。

2022年09月24日 17時00分00秒 | 京都丹後鉄道(丹鉄)

(一路、伊根へ@国道178号旧道)

今回の丹後半島行、流石にめったに行かない場所だって事でもあり、一応観光なんぞも組み込んだりしてみました。目指したのは、「伊根の舟屋」で有名な伊根町。宿泊した岩滝口の駅前を宮津駅始発の丹後海陸交通バスが経由していて、自分が購入した「海の京都きっぷ」でも利用が可能。丹海バスでも使ってみようかな・・・という考えもあったのだけど、意外にバスだと時間がかかるので結局クルマで行ってしまった。伊根の集落に向かってR178の旧道に入ると、いかにも漁師町らしい焦げ茶板塀の家並みが続いて。

伊根湾から舟屋建築を眺める遊覧船に乗船。この遊覧船も丹後海陸交通が運行していて、「海の京都きっぷ」で割引乗船が可能。お盆明けの平日という事で観光客は疎ら。混んでるのがとにかく嫌いな自分としては、極めて適正な客数である。そして若い人の姿は見えない。若い人が来るには少し観光地として渋すぎるか。自称・日本のヴェネツィアなのにね(笑)。

伊根の舟屋建築。国の「重要伝統的建造物群保存地区」にも選定されている建物群。波静かな伊根湾に沿って、1階を舟のガレージ、2階部分を居住空間にした特徴的な建屋が並んでいます。伊根湾自体が深い入り江になっていて、風が入らず波が穏やかな事から、江戸の初期からこのような作りの舟屋が建ち始めたそうです。個人的には静かに海からの舟屋風景を眺めていたいのだけど、どうにも他の観光客は舟屋建築より船に付いてくるカモメのエサやりに一生懸命で落ち着かない。乗船する時にかっぱえびせんとか貰えるんでしょうがないのかもしれないけど(笑)。

1階が船溜まり、2階以上を居住空間とする暮らし。伊根の舟屋、と言われれば文化的にも景観的にも価値あるものに思えるけど、舟を車に変えてしまえば、首都圏近郊には建坪が取れないから1階をクルマの駐車場にして居住空間を2階・3階に上げるような戸建てはいっくらだってあるんだよな(笑)。都会の狭い路地にひしめくように立つあれは現代の舟屋なのか。そう思うと急に興醒めしてしまうので、そこらへんのリアルな日本の不動産事情は棚に上げておく。つーか、こう言う家だと2階の窓から仕掛け投げたらそこそこ魚が釣れそうでそこは楽しそうだ(笑)。

水辺から眺める伊根の街並み。半分くらいが漁師業、半分くらいが民宿とか何がしかを兼業しているような雰囲気。漁師をやってるだけじゃ稼ぎ切れない世の中か。そこに住む人々の暮らし自体が観光地になっているというのは、日本だと白川郷とか五箇山のような居住空間そのものだったり、野沢温泉の麻釜とか郡上八幡の宗祇水のような生活に関するものだったり、そして四国徳島の祖谷渓や九州の椎葉村などそもそもの秘境的な部分だったりと様々ありますけど、生活圏が常に観光客の興味の対象になっているというのは住民としてはどうなんだろうね。まあ、観光と言う行為自体が非常にそういう「物見遊山」的な感覚に近いものなのでしょうが。

伊根の街並みを眺めながら、舟屋の家々をそぞろ歩いてみる。ちょうど空き家になっている舟屋があって、そこから舟屋の1階部分を覗き見る事が出来た。この屋根の高さでは、現代のエンジンの付いた舟は入るのかどうか。沿岸でちょっとした網を仕掛けるような小さな船外機を付けたサッパ舟くらいしか入らないだろう。裸電球一つに木組みの格子、この格子に漁具やら仕掛けやらその他の道具を吊る下げておくのだろうな。海とともに暮らす街を歩けば、路地の長屋の二階で青いシャツがはためく。いつの間にやら青い空。比較的天気には恵まれたこの旅、自動販売機で買ったコーラを飲みながら、流れ出る汗を拭うのでありました。

あ、一応伊根の帰りに一応傘松公園まで登って天橋立とかも見て来たよ。昔々、大学時代にも来た事があるから二回目か。傘松公園のケーブルカーも丹後海陸交通が動かしてますから、「海の京都パス」で割引で乗車できたりする。一応鋼索線の写真でも入れておかないと、鉄道のブログじゃなくなっちゃうからね!

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