青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

17480形に地方私鉄の画一化と没個性化を憂う

2019年09月29日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(払暁の富山平野@常願寺川橋梁)

前日は上滝線の一往復を終えて宿に戻り、いなり鉱泉の仕舞い湯を浴びて、エアコンをガンガンに効かせたまま氷結を飲んでいたらそのまま寝落ちして短い富山の一夜が終わる。エアコンを効かせて部屋を冷え冷えにしたまま厚めの布団にくるまって寝るのって結構好きだなあ・・・。という訳で翌朝、睡眠時間は短めなれどしっかり眠れた富山の朝。昨日にもましてスッキリ晴れ上がった空は、思い切りオレンジ色のモルゲンロート。いそいそと支度をして常願寺川の河原に出てみれば、雲一つない朝焼けの立山連峰がくっきりはっきりとその姿を結んでいました。富山の人はこんな風景を毎日見ながら暮らしているのだとしたら、羨ましい事です。

昨日夜は上滝線の往復運用深夜までお疲れさんでした。14720形、朝の始発電車(5:16電鉄富山発103レ宇奈月温泉行)に抜粋です。あと3ヶ月で引退というのに、朝もはよから宇奈月温泉までとは過酷な仕業であります(笑)。さすがにまだ乗る人もまばらな一番電車を、払暁の空と劒立山がお見送り。行ってらっしゃい。

富山方面からの二番電車は、快速急行の立山行き。アルペンルートへ向かう観光客&登山客向けの、地鉄伝統の列車です。この列車って基本的に14760形が入る事が多いような気がしますが、運用は車種指定なのだろうか。山のイラストを下地にした「電鉄富山⇔立山」の方向板がカッコイイ。そう言えば、アルプスの反対側にある松本電気鉄道にも、松本→新島々のノンストップ快速が早朝に設定されていましたねえ。松電の方は、「ムーンライト信州」の運行がなくなったのに合わせて運転しなくなっちゃったみたいですが。

立山連峰の稜線が、日の出の時刻を前にして段々と明るくなっていきます。上市方面からの始発電車は10030形カボチャの電鉄富山行き。そして富山発三番列車の17480形立山線経由岩峅寺行き。今回の10020と14720の引退に伴う減車分は、この東急8590系こと17480形の2編成増備によって補充されるそうです。逆に言えば、東急から8590の出物が調達出来るメドが立ったから、経年数の高い2編成が引退の運びとなったのでしょうな。正直4扉車オールロングが富山地鉄の設備とニーズに合ってるとはとても思わないのだけど(今でも中間2扉は締め切りで使ってますのでね)、全国的にメンテナンスフリーなステンレスカーがバンバン中古で出て来る会社ってのも東急くらいしかないんだよね。せめて側面の未使用ドアは埋めて、伊豆急の8000系みたいに片側でもクロスシートを付けて欲しいけどなあ。あと、冬季降雪の多い北陸の電車なんでスカート外してスノープロウ付けてるけど、出来れば春~秋はスカート姿に戻して欲しい!(文句と要望が多い害悪ヲタクの典型例)。

日が昇ったので順光側で17480形。正直、私は全国的な地方私鉄における東急車の大量導入による画一化と没個性化を憂う気持ちがないわけではない。地方鉄道の中でも体力があると思われていた狭軌の三強(秩父鉄道・長野電鉄・富山地方鉄道)の中でも、自社発注車の割合の比較的多い富山地鉄だけは東急車の進出を拒み続けていたように思うのですが、2013年の8590系の導入を皮切りに、ここに来ての増備は「地鉄、やっぱりお前もか!」みたいな気持ちはありますよね(笑)。しかしながら、人口増の望みも乏しく高齢化と過疎の傾向に拍車がかかる中では、改めて自社発注で新造車を入れるほどの予算は投入出来ないというのもよく分かる話。鉄道事業が圧倒的に設備産業である限り、メンテナンスの行き届いた大手私鉄の中古、軽量でレールに優しく錆びないステンレスカー、部品の共通化による保守費用の抑制と言う観点から、東急系の車両の増備が続くんでしょうね。この記事を書いている際にも、10020の置き換えのため導入する3編成目の17480形が恩田を出発したそうで。車両には罪はない。富山のニューフェイスとして、コイツもカッコよく撮影してあげられるよう、努力しないといけませんな。

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岩峅寺秋夜

2019年09月28日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(夜な夜な上滝線@モハ14722車内)

常願寺川で日没を迎え、今日のお宿である稲荷町の宿へ。チェックインを済ませ、軽くひとっ風呂浴びさせてもらい汗を流す。一日中外出てたからまた日焼けしてしまった。今日は素泊まりなので、メシを食いがてら富山の駅前に出ようと思って稲荷町の駅から電車に乗ろうとしたその時、改札口の手前で目の前を14722の岩峅寺行き(上滝線経由)が通り過ぎて行くのが見えたような気がして、何だか脊髄反射的にモハ14722の車内の人になってしまったのであった。あれ、メシは?(笑)。

夜の上滝線を下る14722。南富山にて交換待ちの姿。昼間は目立ちませんが、14720形も14760形と同じように、前面には若干の角度が付けられています。駅の照明でそのかすかな鼻筋が浮き上がって、表情をより立体的に見せてくれます。10020形と比べると裾の丸みがなくて、床下に向けてストンと落ちたような形になっていますけど、以前は10020と同じように下膨れ気味の丸みのあるディテールだったようです。富山地鉄の車両は昔からその時の都合や需要によって細かな改造から台車の交換、クーラー搭載のような大掛かりな改造までを自社の工場(稲荷町工場)で行っていて、デビューからの原型を留める車両というものは少数派と言えます。

稲荷町を出るころはそれなりの混雑だった上滝線の帰宅ラッシュ、南富山を出るとぼちぼちと乗客は少なくなっていきます。ちなみに富山駅前から南富山まで、地鉄電車(310円)を使うより市内電車(一律200円)のほうが圧倒的に安かったりする。南富山を出ると、朝菜町、上堀、布市、開発、月岡と富山市の郊外を走りながら、乗客は次々に家路についていきます。車窓の景色は暗いから良く分からなかったが、まあ朝の10020形でも乗っているからいいのだ。レトロな揺れに身を任せながら、暫し14722とのお名残り乗車を愉しむ事にする。

大川寺を過ぎて、常願寺川の長いトラスを渡ると終点の岩峅寺。ここまで乗っている客は車両全体を見渡しても2、3人でありました。私以外の乗客はそそくさと出口に消え、ホームには折り返し作業の運転士氏と私だけが残っている。作業のお邪魔にならないように、ひっそりとしめやかに14722+172のコンビを愛でる。夜の岩峅寺の駅は、改めてこの時間から富山方面に向かう客もおらず、秋の虫の音だけがカナカナと聞こえる心地の良い静寂であった。昼でも何となく薄暗い上滝線のホームは頼りない蛍光灯で照らされて、ホームに停車している14722から零れる灯りがぼうっと浮かびあがる風景はなんとも暖かみがありました。

時は中秋。雲の隙間から名月が照らす富山平野の片隅で、退職を年末に控えた老兵が静かに出発の時を待つ。昼の暑さに比べて夜風はずいぶんと爽やか。僅か5分の折り返し時間を使っての束の間のバルブ撮影。誰もいない車内に戻ると、特に案内もなくドアがプシューと音を立てて閉まり、再び電鉄富山行きの電車の中の人となったのでありました。

ちなみに今宵のお宿は稲荷町駅徒歩5分の「いなり鉱泉」。ホントは地鉄ホテルに泊まりたかったけど、緊縮予算なのでやむを得ず・・・みたいなノリでチョイスした宿だったんだがこれが大正解。銭湯が経営するビジホで、シングルにしては広くて綺麗なお部屋に併設の銭湯使い放題で一泊2,980円。夏に大阪に行った時に貰ったじゃらんのポイント使ったら1,880円で泊まれてしまった。電車好きじゃなくても普通にお勧めしたい宿だ。唯一難なのはコンビニが近くにないことくらいか。あくまで本業が銭湯のようなので部屋数はあまりなさそうでしたが、強くお勧めしたいですねえ。線路脇なので、地鉄電車の音を子守唄に眠れます(笑)。

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劒夕照常願寺

2019年09月27日 22時00分00秒 | 富山地方鉄道

(常願寺七変化@越中三郷~越中荏原間)

朝からあれこれと撮り歩き、動き回る事にも少々疲れた。常願寺川の河原にクルマを寄せて、腕と足元にたっぷりと虫よけスプレーをかけて構図を作ってみる。日が傾くにつれて、うっすらだった背後の立山連峰の山並みがだんだんとその姿を現してきました。湧き立つ雲の向こうの剱岳、そのダイナミックかつ威厳に満ちた姿を眺めながら、ダブルデッカーがTY6で戻って来ました。ゴロゴロとした石の上を飛沫を上げて流れる常願寺の流れ、富山平野を潤すこの川も、有史に名を残す典型的な暴れ川。立山カルデラの大規模な崩落により流れ込んだ土砂が、土石流として街々を襲ったことも数限りのない越中の国の歴史です。

富山平野に陽が傾き、剱岳の山頂が赤く染まって行く。常願寺の鉄橋を渡って行く富山地鉄の列車たち。古くから立山修験と言われた山岳信仰のご神体として、越中富山の人々は立山連峰を見ながら暮らしてきました。豊年万作への願いを込めた祈りであったり、死者が還って行く黄泉の国の物語としての畏怖であったり。今でも多くの登山者がその頂を目指して登山に訪れますが、岩場に囲まれた急峻な登山道は、初心者が行くにはかなりの危険を伴うと聞きます。私の父親は、50の後半から急に登山に目覚め始めたといういわゆる「中高年あるある」のハイカーだったのだけど、まだ自分はヤマは麓からその雄大さを眺める事でコトが足りている。自分もいつか、山に登りたくなるのだろうか。

 

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北陸富山の伊達男

2019年09月25日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(北陸富山の伊達男@稚子塚~田添間)

事あるごとに「14760形イケメン説」を提唱している弊ブログですが(ホントかよ)、富山地鉄のクルマは数あれど、私はこの形式がとても好きです。昭和54年日本車輛製造の地鉄初の新製冷房車は、昭和55年には鉄道友の会のローレル賞を受賞した栄えある自社発注車。登場して40年を経た今でも、富山地鉄のフラッグシップトレインと言っても差し支えないでしょう。子供心に憧れを抱いた地方私鉄の新車と言えば、長電の10系新OSカー、富士急行の5000系、そしてこの富山地鉄の14760形だったように思うんですけど・・・まあね、子供の頃は自分のカネで富山だの長野だのに会いに行くことなんて出来なかった訳で、そう思えば今の趣味活動というものは、子供の頃に憧れたあの頃の記憶をなぞるようなものなのかもしれません。MM編成らしく、強力な甲高いモーターがブンブンと唸りを上げて富山平野をかっ飛ばしていく姿も堪えられません。

越中舟橋に進入する電鉄富山行き。14771は合計7編成製造された14760形の第6編成。越中舟橋は「日本一小さい村」として地理マニアには有名な村ですが、3.5平方キロ程度の狭い村域に約3,000人の住民が住んでいます。富山中心街までは電車で15分程度、戦後間もなくの車両や、名鉄から導入した雑多な旧型車の多かった地鉄が導入した初の冷房車ですから、地鉄の通勤環境を大きく変えた新製車両だったのでしょう。

地鉄の撮影時、ダイヤ、運用、運転間隔を総合すると、何となく常願寺川に来てしまうのは悪い癖。それだけ、どこから構えてもそれなりの一枚が撮れてしまう撮影地だと思う。まだまだ夏の空気が残っていたように思うこの日の富山でしたが、やや太陽の傾き始めた常願寺川の河原からは、うっすらと立山連峰が見えました。独特のゴツゴツした剱岳の山容を仰ぎながら、カタタン、カタンと14760形が長い長いガーター橋を渡って行きます。

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20形兄弟物語

2019年09月24日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(古豪の常願寺渡り@越中三郷~越中荏原間)

10020形と同様、先日に引退が発表された14720形。今回引退する2系式は下2ケタに「20」を持つ兄弟車両です。何度か説明をしたことがあると思うのですけど、富山地鉄の鉄道線車両はモーター車は5ケタの車番を持っていて、上3つの数字が馬力、下2つの数字が形式を表しています。ですので、14720形は「147馬力の20形」で、10020形は「100馬力の20形」という事になります。「20形」というくくりの中では、10020形のモーター出力を上げてパワーアップさせた車両が14720形。ただ、MM編成の10020とMT編成の14720では、編成単位で考えれば10020の方がハイパワーになるのですけどね。

そんな14720形の最後の生き残りが、モハ14722とクハ172の2連。モーター車の14722に対してクハ172は車体が少し短いのがポイントでしょうか。このクハ車、元はと言えば10020形の中間車だったサハに運転台を付けて改造したもので、そんな由来からも双方の形式が兄弟車とされる由縁かもしれません。10020形が基本的には朝の上滝線運用だけと緩い(?)運用で使われているのに対し、14720については特段運用も限定される事もなく、全線全区間を毎日のように駆け抜けています。確かに昭和37年日本車輛製造と地鉄の電車の中では一番の古株ですが、古豪・・・と言ったらひょっとしたら失礼になってしまうのかも。

ちなみにこの形式、近年まで2編成が残っていたのですが、かぼちゃカラーの14721+171の2連は、冬の立山駅で火災を起こしてしまい廃車となってしまいました。立山に向かっての連続勾配で、雪を押しながらの運転で負荷がかかったモーターが高温となり、周囲の電気系統の配管から出火してしまったのが原因とされています。この事故の顛末については国土交通省の事故調査報告書に詳細が記載されていますが、うーん。何と言うか、言い方は失礼かもしれませんが死者もケガ人も出なかった事故でここまでの詳細な事故調査報告書を作成するんだなあと感心してしまった。役所の作った文書なんでゆっくり読んでいると30分くらいかかるけど、好きな人には結構興味深い内容です。再発防止策として「多雪線区における降雪時の車両運用について、冬期間の立山線(岩峅寺駅~立山駅間)の車両運用は、MM若しくはMMT編成に限定する。」なんて書かれてたりしてね。

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