青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

テール灯 つぶらな瞳は 何を見る。

2022年06月27日 17時00分00秒 | 小湊鐡道

(車掌の仕事@上総中野駅)

上総中野の駅にて、ステップに足を掛けながら尾灯の反射板をパタリとひっくり返す車掌氏の仕事風景。小湊鐡道のキハ、尾灯の代わりに、こうして片目だけ反射板をひっくり返して尾灯代わりにしているのが凄く好き。この白く縁取りの付いた丸い目玉がテールにあるだけで、何と言うかすごく「田舎の気動車」という雰囲気が出るような気がする。子供の頃に読んだ鉄道の図鑑の中で、今はなき江若鉄道とか筑波鉄道とか同和鉱業の片上とか、地方のローカル非電化私鉄のキハはみーんなこの「反射板型」の尾灯を付けていたような気がする。今どきこんなレトロなアイテムを使っているところってココくらいのものでしょう。

折り返しの準備を終えて発車待ちのキハ200。反射板は両方の尾灯に装備されているのだけど、小湊の場合、反射板を反転させるのは必ず進行方向に向かって左側だけ。そのため、なんだかキハがウインクをしているようにも見えて愛らしい。私らより少し上の世代の方は「ダッコちゃん」なんかを思い出してしまうかもしれない。なぜ両方反転させないのかは知らないのだが、キハ200のグループで反射板の付いていないキハ214なんかも尾灯を点灯させるのは左側だけだし、新しく入って来たキハ40も小湊だと尾灯は左側だけしか点灯させていないので、これが社内ルールなのでしょう。

上総大久保。つぶらな瞳と紫煙を棚引かせてホームを出て行くキハ200。トトロの見守るこの駅も、隣接する白鳥小学校が消えてから来年で10年になる。かつては、黄色い通学帽子を被った子供達で登下校の時間は賑わった事を思い出しますね。駅前の農協は既に閉じられ、ATMコーナーも荒廃している上総大久保の駅前。駅近くの路地の家々にも空き家が目立ち、いよいよ駅としての存在意義が希薄になり始めているような気がするなあ・・・

Green Shower。季節には素晴らしい色付きを見せる大久保の大紅葉も、この時期は見事な青さで魅了してくれます。

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皐月風 上総爽やか 吹き抜けて。

2022年06月25日 17時00分00秒 | 小湊鐡道

(初めて見た新顔@上総牛久駅)

GWに和歌山~大阪南部方面へ出掛けてから、その後に何をやっていたかと言うと、まあ近所をブラブラしておったのですけど、正直体調があまり良くなかったんですよ。遠出する元気のない中で、一番遠出したのが房総半島と言う・・・でも、房総の方に出掛けたのって久し振りだったなあ。あっち方面って、撮影してからの帰りのアクアライン渋滞がとにかく嫌であまり足が向かないとこがありましてね。コロナ禍に突入してから一回も来てなかったんじゃないかなあ。そんなこんなの小湊鐡道、いつの間にか小湊の永遠のスタンダードでもあったキハ200に、元国鉄のキハ40が混じり始めていました。

いや、知ってたんだけど見るのは初めてだったなあ。只見色のキハ40、郡山からの移籍組。他には秋田から移籍して来た男鹿線組もいたりするようですが。後ろに高校の建物、只見色で構内踏切に交換駅でバックに高校なんてーと、ここは会津坂下なのかと勘違いをしてしまいそう。小湊がJRからキハ40の導入を始めたのは昨年春の事、郡山と秋田から5両の導入を実施しました。さすがに14両もいるキハ200を全部置き換える事は難しく、あくまで調子の悪いキハ200を代替えする事によって部品関連に余裕を出し、既存のキハ200をパーツ面から延命させる目的もあるようです。

新顔の登場に驚きつつも、牛久から大多喜街道を下って辿り着いた上総川間にはいつもの空気が流れていました。五月の終わりだったんですが、もうすっかり稲も伸びて青々とした姿を見せていましたね。街へ出る手提げ姿のおじさん一人、迎えに来るキハ200のツートンカラー。改めてホッとしますわな。小湊も、長い間キハ200が君臨して来ましたので、もう房総の景色とこの色は一体のものとして考えているフシがあって。キハ40の導入が何年振りの新車か分からないほど、ずーっとこの色でしたのでね。

小湊もコロナ禍に見舞われて以降、平日を中心に減便や終電の繰り上げ、区間短縮などで運用数が減少しています。そういう意味では車両の運用に余裕が出来ますから、キハ200を休ませながら延命させるという観点からは楽になっている可能性はあります。日中の五井~牛久のシャトル便は基本的にキハ40の単行運用になっていますしね。ただ、ここに来ての燃料高騰もありますし、収入面では決して楽じゃない状況が続いている事は想像に難くありません。暫く来ていませんでしたけど、そもそも房総半島、内陸部は過疎が進んでいて、コロナがなくても牛久以南の乗客数って元々厳しかったんですよねえ。人の出入りがあるのって観光要素のある養老渓谷周辺くらいでしたから・・・

まだ青苗の伸びの薄い田んぼで、柔らかな感じの水鏡を一枚。
緑のヴェールに包まれたキハ200を見ていると、結構満身創痍だなあと思う。

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名阪に 轟く我が名は フェニックス。

2022年06月20日 17時00分00秒 | 近鉄

(次世代名阪特急「ひのとり」@近鉄・大阪難波駅)

阪堺電車でモ161と戯れていると、時間はあっという間に過ぎて帰りの時間が近付いてきました。住吉公園から南海なんばに出て、そのまま御堂筋線で新大阪へ向かっても良かったのですけど、もう一個くらいイベントが欲しくなって近鉄の大阪難波駅へ。ここからは近鉄の新型特急「ひのとり」で名古屋へ出る事にしました。今までのアーバンライナー(UL)からグレードアップした名阪特急の最新型特急車両。4年前に鳥羽に行った際に「しまかぜ」は乗ったので、この車両にも乗ってみたいと思っておったのよね。ってか、近鉄はホント特急車への投資は惜しまないよなあ、と感心してしまう。その分一般車両は年季が入ってるボロばかり(失礼)なのだけど。そうそう、さすがに近鉄も先日一般車両の新型を発表していましたね。何だかJR西日本の323系チックなデザインでしたが・・・

「ひのとり」の一般席。シートを最大までリクライニングさせた範囲まで覆う「バックシェル」を全席に採用しているのが特徴。先頭と最後尾はプレミアム車両って事でハイデッカー構造になっているらしく、その分値段もプレミアムなのだが、近鉄名古屋までで700円しか変わらないと言うならばプレミアムでも良かったか。新幹線の新大阪~名古屋が「のぞみ」の指定席で6,680円、大阪難波~近鉄名古屋が「ひのとり」で4,540円。時間は新幹線が約50分、近鉄が約2時間10分。時間が倍以上かかる事を考えると値段を考えても若干新幹線に軍配が上がりそうですが、ことミナミに用事があるのであれば、なんば~新大阪の20分程度の移動時間を加味するとこの上質感は十分以上の勝負になるのではないかと。

大阪難波を出た「ひのとり」は、大阪上本町、鶴橋と停車するとその先は津と近鉄名古屋しか止まらない。ひたすらに夕暮れ迫る大和路宇陀路を駆け抜け、青山トンネルを突っ切って伊勢路へ入り、津に冷やかし程度に止まってからさらに北勢の平野を突っ走り、後は木曽三川を渡って近鉄名古屋に一直線。これだけ停車駅が少なく懸命に走っても2時間以上かかるのだから、大阪と名古屋って改めて案外遠いんだねって感じ。大阪難波~近鉄名古屋間189.7kmを最速の「ひのとり」は2時間5分で駆け抜けていて、表定速度で言えば91.0km/hだから相当なもんなんだけど、新大阪~名古屋の186.6kmを50分で走ってしまう新幹線が速過ぎるだけって事でしょうね。

なんばの駅で仕入れた551のエビシュウマイとレモンサワーで打ち上げ。実は、JR東海ツアーズが発売している「ぷらっとこだま」という予約商品を使うと、名古屋~新大阪はこだま利用で4,600円。米原・岐阜羽島停車でも1時間10分程度で、料金的にも遜色なく時間で近鉄を圧倒する事が可能だったりもする。そもそも名古屋で結局新幹線に乗り換えて東上するのであれば、新大阪~新横浜も大阪難波~近鉄名古屋/名古屋~新横浜の金額にほぼ差はない。それでも敢えて近鉄で名古屋に出るのは、JRと私鉄で言えば圧倒的に私鉄が好きだからに他ならないのだ(笑)。

近鉄名古屋の駅からJR名古屋駅のコンコースに上がると、コロナ前のような雑踏が広がっていた。東京へ向かう新幹線。現実に引き戻される列車に乗る際は、次の愉しみに向けての考えを巡らせた方が何かと健康に宜しい。さあ、今度はどこへ行こうか?と考える、GW紀州の旅の終わりなのであります。

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思い出は 遥か松虫 風の中。

2022年06月18日 15時00分00秒 | 阪堺電軌

(一瞬の静寂@住吉鳥居前電停)

賑やかな住吉界隈、休日の午後。クルマや人波が一瞬途切れた静寂、我孫子道から返して来たモ161が住吉鳥居前の電停にやって来た。住吉さんの森の緑も鮮やかな季節、深い緑のボディが黄色味を帯びた若葉と良いコントラスト。遠目からでも分かる車内の混雑に、この古典車両の人気の高さが伺い知れるのであります。

大きな一灯ライトを輝かせてやって来た天王寺駅前行き、住吉電停からモ161に乗り込む。味のしみた板張りの床。勿論、デビューしてから何回も何回も張り替えられてはいるのでしょうけど、脂が染み込んだしっとりとした風合いに、人の流れや移ろいが入り混じったような小傷がたくさん。90余年の車歴の中で、どれほどの人を運んだか分かりませんが、皐月の風吹き抜ける車内で、私もその悠久の歴史の中の一人になりました。

ニス塗りの車内、多少のテカテカ感も昭和レトロ。コロナ禍以降に付けられたビニールの仕切りが無粋なことこの上ありませんが、運転室の背板と屋根を繋ぐ部分に施された金属の意匠は、この時期の電車に特有の装飾で、ことでんのレトロ車両なんかにも同様の装飾があったのを思い出します。

電停ごと、天王寺方面へ向かう乗客が乗り込んで来る阪堺電車。木製のドアの向こうに、帝塚山の街並みと暮らしがあります。帝塚山は、大阪の中でも割と高級住宅街と言われている地区なのだとか。阪堺電車の沿線と言われると、それこそ上町線の今池やら北天下茶屋やらの「大阪のコッテコテな濃いトコ」ばかりが注目されますけど、阿倍野の南に広がるこの辺りは静かな区割りの大きな街並みと、ちょっと小洒落たカフェや雑貨屋さんが並んでいます。

天王寺の手前、松虫の電停で下車。ここで折り返して来るモ161を待つ算段。この辺りは帝塚山の高級感ではなく、いわゆる「ミナミの路地裏」っぽさが色濃い。阿倍野のはずれにあるこの電停の名前は、どうしても童謡「むしのこえ」を思い出してしまう。あれ松虫が鳴いている、チンチロチンチロチンチロリンってヤツね。この松虫の地名の由来は、謡曲「松虫」の中に出てくるワンシーン、阿倍野と呼ばれた寂しい草原で、酒を酌み交わす中で亡くなった旧友を偲び詠まれた「秋の野に人まつ虫の声すなり」という和歌から来ているそうですが。

天王寺のシンボル、超高層ビルとなった「あべのハルカス」をバックに折り返して来るモ161。今の阿倍野の姿を見ると、「秋風吹き松虫の鳴く寂しい草原」を思い起こすことはなかなか難しいかもしれない。夜などに撮影すれば、後ろのハルカスに窓の灯りが付いてまた違ったイメージの写真になるであろうか。

煌びやかな超高層ビルの下で、いつも通り地に足を付けたミナミの暮らしがある。長屋風にせせこましく続いた路地、2階のベランダに無理やり付けたような室外機の連なりにも何とも下町っぽさがあるような。これで「てっちり」の赤ちょうちんに灯が入れば完璧なんだけど、その時間まではなかなか居れそうもないのがちょっと残念ですね。

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阪堺の 大長老の お出ましじゃ。

2022年06月13日 22時00分00秒 | 阪堺電軌

(何とも味の染みた暖簾@住吉大社前)

南海住吉公園駅前、そして阪堺電車の住吉鳥居前電停に面した不動産屋の暖簾。「南海商事」という名前は別に南海の系列・・・って訳でもないのでしょうが、なんとなくこの街が南海電車とともにある事を示しているような気がしますね。水間鉄道の訪問を終えて、あとは新幹線に乗って神奈川に帰るだけなんだけれども、夕方まで住吉界隈で阪堺電車を撮る事にしました。

住吉大社の石灯篭と、三井住友トラスト不動産ラッピングの500形。阪堺に来るのは久し振りだったけど、何気に色使いがレモンイエローとスカイブルーで、これが最近流行りのウクライナカラーってやつですかい?と勝手に邪推してしまう。そんなメッセージ性があるのかどうか。まあ広告主もそこまで考えちゃいないと思うけど・・・

ウクライナカラーって言えば、700形の岡崎屋質店のほうがよっぽどウクライナなのだが、これはずーっと昔からこの色なのでまさにそんなメッセージ性は全くない事は明白。いつもの岡崎屋質店である。住吉電停から恵美須町方面へ。路地に香ばしく流れる香りは住吉名物「まむしのいづもや」の鰻の香り。いつも大勢の人が並んでいて、いつか食べてみたいと思いながら叶わないでいる。並んで食うくらいならデンシャ撮影してた方がいいと思ってしまう貧しい性分のせいなのだが、もう少し旅先での余裕が欲しいものである。

水間の後に阪堺に来たのは、GWの特別運行で、普段は運用に入る事の少ない古豪モ161号が運用に入っているというのを聞きおよびましてね。まあ、物見遊山と言うかミーハー的な感じですが、日本の鉄道車両でも間違いなく五本の指に入る古豪。昭和3年川崎車輌製造の路面電車は、御年94歳の古強者。本来であればとっくに廃車されていておかしくない経年の車両ではありますが、阪堺の大長老的なその存在感にファンも多く、最近になってクラウドファンディングによって見違えるように美しく再整備されました。

緑と言うにはちょっと深めのフォレストグリーンに身を包み、重厚なツリカケ音と共に住吉の併用軌道へ出て来たモ161。この運用は公開されているので、住吉の沿道はさながら阪堺ファンでお祭り状態。先日「アド街」で住吉大社が紹介されていた際にも、堂々2位にノミネートされた阪堺電車の代表として紹介されていたのがこのモ161。ファンの方に聞けば、やはりツリカケのモーターが奏でる「音がたまんねえ」のだとか・・・ゲストのタレントは「?」みたいな顔をしておったのですが、同輩の私にはすごくよく分かる話。私も暫し、大長老の奏でる音楽に身を委ねて、大阪のダウンタウンへ繰り出してみようかと思うのである。

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