(名物ワンタンメン@銚子・大塚支店)
銚子に来て観光客らしく海鮮モノに手を出しても良かったのだけど、久し振りに食いたくなったのが双葉町にある大塚支店のワンタンメン。ラーメンと言うには細すぎるソーメンのようなパツパツの麺に、2つか3つ食ったら少食の人ならそれだけで腹が一杯になってしまうほどミチミチに肉の詰まったワンタンがすっきりとした醤油スープの上に浮かんでいる。これも10年ぶりくらいに食ったのだけど、あーこれこれ感があった。舌が覚えていた。
大塚支店と言っても本店がどこにあるのかは知らない。少なくとも支店は銚子信金の本店の路地裏にある。銚子の中心街、駅前のメインストリートはまあまあそれなりに栄えているように見えますけど、路地裏は人っ子一人歩いていないし、モルタルのビルの入り口はほぼすべてがシャッターを閉じていてお寒い状況。まあ日本の地方都市のほぼ大半がこうなっているのが現状なのだろうけど、銚子の場合は街として古いだけに余計にそれが目立つ。大塚支店は盛況でしたんで、そこだけ人の動きがありましたけどね。
昔日の栄華を偲ぶ街を走る銚子電鉄。醤油タンクをバックに仲ノ町で並んだ営業用の全車両。3編成6両体制ではまた重要検査が入った時などは予備車がなくなってやりくりに苦労しそうですが、雑多な旧型車が多かった時代に比べれば多少は体質改善が図られたと言えるのでしょうか。日中を減便して1編成で賄えるようにしたのも、乗車する客数の実情に合わせたダイヤってのもあるかもしれないけど、運用数を減らして車両や軌道の消耗を抑えるということも目的になっていると思われます。
その中で、趣味的にも湘南窓のデハ2000型は魅力が大きく、今の時代には得難いデザインだなあと思いますよね。令和のこの時代に、まるでスカ線の国鉄70系を思い起こさせるようなカラーリングとフォルム。今の電車は運転台の操作機器もタッチパネルに集約されてますけど、どれがどれだか分からなくなるほどの夥しい計器類はいかにも操縦者の教育と熟練を要する機械という感じがします。マスコン周りの金属の光沢も美しい。スカ線のクハ70なんて実物はさすがに見た事はありませんが、そういうものに郷愁を感じてしまう世代ではあります。
デハ2000の側面方向幕。字体がしっかり京王っぽくなってるのが細かいですな。「金太郎ホーム」というのはこの編成の車両スポンサーで、千葉の花見川区にある建設業者らしい。それにしてもとことんまでスポンサードを募る鉄道会社ですよね。そんな社風を逆手に取り、「もう売るものがないので”音”を売ります」なんて触れ込みで今度は音楽配信サービスにまで手を出している。電車を走らせるためなら何でもやるという逞しさ、日本広しと言えどここまで出来る鉄道会社が果たしてどこまであるだろうか(笑)。
外川の街を出て、犬吠へ向かうデハ2000。湘南窓になっている銚子側の顔は順光になる場所が少なく、撮影場所を選ぶのに苦労します。どうしても湘南顔がオヒサマの当たらない北側になってしまう事が多いですね。午後の仲ノ町か銚子駅、あとは西海鹿島の周辺くらいでしょうか。
冬の低い日差しに輝く湘南フェイス。仲ノ町駅にて。スポンサーの「金太郎ホーム」にあやかったわけでもなさそうですが、塗装は金太郎の腹巻模様。その真ん中にキリリと表情を引き締める黄色いサボがよく似合っています。
江戸の時代から豊かな漁場に恵まれ、水産物の水揚げや水運に恵まれた地の利を生かした醤油製造などの産業で、周辺地域のヒト・モノ・カネを集約したのが銚子の街。今や旧市街は没落し、郊外にイオンが立って商圏が変わってしまいました。再開発の進まない中心街を嫌って、川を渡った反対側の波崎や鹿島のほうに住民が移り、広く整備された道路のロードサイドに量販店が栄えているというのも、非常に典型的な地方都市の構図。そんな銚子の街の背骨の位置を、弧を描くように走る銚子電鉄。通勤通学客の需要が漸減していく中で、観光需要を呼び込んで行かなきゃいけないんだろうけど、犬吠埼の観光というものも目新しいものがなく陳腐化しているようにも思う。そう思うと、銚子で一番の観光ってなんだかんだ言って銚子電鉄なんじゃないのと。弧回り手形を買って、乗って降りてブラブラするのが一番面白いんじゃないかなあって思うよねえ。
夜の外川にて折り返し待ちのデハ2001。窓からこぼれる車内の明かりでホームのアスファルトが浮かび上がります。そう言えば、10年前にはホームに黄色い点字ブロックなんてありませんでしたよね。波打った舗装のホームに、アロエが生い茂っていたはずです。10年は一昔、なんて言いますけど、自分が銚子を訪れなかった10年の間に、車両以外にもコツコツと設備の改修が行われていたんですね。それもこれも、鉄道を動かすためには何でもやって来た会社の一つの結果なのでしょう。そんな会社の未来はいかばかりか。東の空が一番早く明け行くとっぱずれの街の鉄道に、光あらんことを祈ります。