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万葉集を読み解く3冊/奈良新聞「明風清音」第54回

2021年03月26日 | 明風清音(奈良新聞)
毎月2回程度、奈良新聞「明風清音」欄に寄稿している。昨日(2021.3.25)掲載されたのは「万葉集を読み解く3冊」、万葉集に関する良書3冊のレビューである。3冊とも興味深く読んだが、中でも『大阪弁訳だけ万葉集』(JDC出版)に登場する万葉歌の大阪弁訳は、万葉集をテーマにした講演などでも引用させていただき、紹介している。聞きに来られる方はほぼ全員が関西人なので、とても受けがいい(「金や銀 宝の玉もそんなもん なんぼのもんじゃ 子が一番や」など)。
※トップ写真は『奈良万葉の旅百首』の編集委員。全員、奈良まほろばソムリエの会会員だ

私が万葉集を意識しだしたのは、大学の入学式のときだ。入学式の年(昭和47年)は、故犬養孝先生の定年退官の年だった。犬養先生は30分ほどの記念講演をされた。それは、「石走(いはばし)る垂水の上のさ蕨(わらび)の萌え出づる春になりにけるかも」(志貴皇子)という歌の紹介だった。春の喜びをうたう歌を紹介して、私たちの入学をお祝いしてくださったのだ。朗々と歌われた「犬養節」と、「歌は心の音楽です」というフレーズは、いまでも脳裏に焼きついている。では、記事全文を紹介する。



ことし2月末、奈良まほろばソムリエの会は設立十周年を記念して、京阪奈情報教育出版から「奈良万葉の旅百首」(税込み1100円)を発刊した。私は本書の編集責任者を務めることになったので、泥縄式で万葉集を勉強した。その過程で、多くの良書や役に立つ本に出会った。ここで、そのうちベスト3冊を紹介しておく。

1冊目は山本健吉著「大和山河抄」(角川選書)。万葉集に詳しい知人に教えてもらったが版元では品切れだったので、古書店で購入した。大和の社寺や仏像ではなく、自然や風景を紹介した紀行文である。

序文には「古代の大和びとが歩いた道を私もたどり、古代の大和びとが目にしたものを私も見て、彼等の喜びや悲しみや怖れや憤りに、直接触れてみたいのである。彼等と私どもとの心の交通に、風景がどの程度に役立つか、試してみたいのである」。

最終章には「四度ばかり大和を訪れた。いずれも短い日程だったが、万葉集に詠まれた土地の名を、できるだけ実地に即して考え、あわせて、万葉びとの感情や思想に迫る一助にしたいという考えがあった。(中略)万葉集の歌を味わうには、やはり文献だけを頼りにしていては、心もとないところがある」。

2冊目は中村博著「大阪弁訳だけ万葉集」(JDC出版)。中村氏は堺市出身、在野の万葉集研究家だ。万葉集を大阪弁で訳すと、われわれ関西人の頭にスーッと入ってくるから不思議である。「奈良万葉の旅百首」で取り上げた歌の大阪弁訳を紹介する。

▼あかんがな うちの気持ちが分かるなら雲さん三輪山(おやま)を 隠さんとって
(三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや 額田王①一八)

▼香久山に白い衣が干したぁる あぁ春去って夏来たんやな
(春過ぎて夏来るらし白栲[しろたへ]の衣干したり天の香具山 持統天皇①二八)

▼海石榴市(つばいち)の歌垣場所で出逢ぅた児(こ)あんた名前は何ちゅうのんや
(紫は灰さすものそ海石榴市の八十の衢[ちまた]に逢へる子や誰 作者未詳⑫三一〇一)

3冊目は「奈良万葉の旅百首」の監修者でもある上野誠著「万葉集講義」(中公新書)。上野氏は4月から国学院大学教授・奈良大学名誉教授に就任される。さすが万葉集研究の第一人者、目からウロコの卓見が目白押しだった。要点を紹介すると、

▼やまと歌の世界とは①短歌体による恋と四季の文学②それらを古今和歌集は万葉集から引き継いだ③古今集以降、日本の歌の規範は古今集となった。漢字だけで記された万葉集は難しいものとなり、平安時代の文人たちも読めなくなっていた。

▼やまと歌的人格①平安時代の日本回帰の基調のなかで、やまと歌は日本文化の象徴となる②やまと歌とその発想法は人格を作る③やまと歌的人格は、確実に人と人との関係性、人と自然との関係性に影響を与える④やまと歌的美意識はほぼすべての芸道の底に流れており、これほど浸透しているものはない。

▼文選なくして万葉集なし①万葉集は二つのルーツをもつ。一つは五世紀以前から口承されてきた日本語の歌々。もう一つは中国の文学で、代表は文選②文選は、当時の中国で群を抜いて権威のある文学書だった。万葉集は文選の学習から生まれた。③万葉集は最も日本的であるとともに、最も中国的な文学であり、ルーツを遡れば、中国文化にたどり着く④日本は翻訳文化と改良文化の大国であり、そこに日本文化の創造性がある。

いかがだろう。ぜひ「奈良万葉の旅百首」ともども、ご愛読いただきたい。(てつだ・のりお=奈良まほろばソムリエの会専務理事)


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