「棺を蓋いて事定まる」という故事がある。 人間の評価は死後に定まるもので、生きているうちは、利害や感情などが絡んで、人に対して公正な判断が出来ないことを言う。「人事は棺を蓋いて定まる」ともいう。「棺」ひつぎ。「蓋」ふたをする意味。
さきほど、小さな通夜があった。僧侶の話では、親族だけが列席して、普通の家庭でおこなう葬儀はなかなか麗しいと言われた。だが、そこは世俗の常、「親族」といえども、まともに話ができる相手ばかりではない。
「棺を蓋いて事定まる」と言っても、凡人の死にはさしたる社会的な意味はない。むしろ、棺桶の周りに集まった親族を眺めると、その一族の品性のようなものが見えてくる。周りはどう見ても、強欲そうなオバサン、オジサンばかりだ…・。
死者の「棺を蓋い」たとき、真っ先に感じたのは、愚者の死だったということ。ありもしない出来事で配偶者を45年間責め続け、世間とのもめ事は自分で解決できず、一切合切をこどもたちにブチ投げ、最後に恍惚の十年を病院で過ごした。「人を指導する人になれ」が人生訓だった人の哀れな最期。
こんな死に方はしたくないと思った。