橋下大阪府知事が、大阪府と大阪市を統合した「大阪都」構想を打ち出し、賛否両論を呼んでいる。早速、石原都知事は「首都だけが”都”を呼称できるのであって、おかしい」と論評した。
橋下大阪府知事によると、「大阪都」構想は、①大阪府と大阪市の二重行政を解消できる、②住民自治、地方主権をさらに進めることができるとしている。
だが、橋下がモデルとする東京都の特別区制度には、次のような致命的欠陥がある。①わずか4km四方というような狭い地域が、ひとつの特別区の単位となっていて、そこに区議会が置かれている。②「都区財政調整制度」により、本来区市町村税である固定資産税、法人住民税は東京都が徴税しているので、特別区は徴税努力を怠っても、税収不足にならない。③「区長公選」など特別区の権限拡充が行われたのは、高度成長期であり、行政コストにあまり注意を払わなくても済む時代だった。
③の行政コストについて、議員及び議会事務局を簡単に比較してみると、次のようになる。
東京特別区の区議会議員数だが、人口の多い世田谷区で50名、少ない荒川区で32名だ。この中間を選んで41名とすると、23区全体で943名となる。区議会事務局の職員数については、一区平均15名とすると、23区全体で345名になる。これらを合計すると、約1,300人が議会関係の公務員となる。
現在の大阪府の議員定数は、112名、大阪市は89名。議会事務局の職員数は、推測だが府と市合わせて100名程度だろうから、現在の大阪府及び大阪市の議会関係公務員は、300人程度と考えられる。
橋下知事の「大阪都」構想は、現在24区ある大阪市の行政区(議会を持たない)を東京都の特別区と同等に変えようとする案であるから、議会関係の議員、事務局職員だけで、ざっと1000人の公務員を増員する計算となる。橋下知事は「地方主権」という耳あたりのいい言葉を使い、「行政区」は役人のトップがいて民意が反映されないと主張している。だが、「区長」が「公選」になった東京特別区で何が起きているかというと、現実には「先祖帰り」のような「ムラ社会」政治が復活しているということだ。東京都中野区では、現区長が、個人的に親しい部長職の友人が癌で入院しているのを周囲に隠し、当該職員の出勤簿を部下に不正押印させ、その給与を満額支給させていたというスキャンダル※が明らかになった。地方の小都市の話ではない。まさに東京のど真ん中での出来事なのだ。
※ http://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/721000/d007305_d/fil/d14300009_1704.pdf#search='中野区 給与不正'
横幅が1kmにも満たない「区」を「基礎的自治体」と位置づけ、「区長公選」「住民参加」などと誉めそやす時代はもうとっくに終わっているのだ。東京では、特別区はあまりに数が多すぎて非効率、統合した方がいいのではないかという有力な意見も出されている。
東京都の実態を府民に公開することなく、自分に都合のよい部分だけを主張する橋下知事のやり方は、それこそ「住民自治」の理念に反するものだろう。大阪府民よ、騙されてはいけない…と言っておこう。