大病から救われ2年半になる。3ヶ月に1度大学病院で診察を受けるために上京している。
いつも乗り継ぐバスや電車の車窓を眺めながらの明日に不安を覚える病院通いだった。思うと涙があふれてくる。
でも、この病院通いは各地の美術館、記念館などの芸術鑑賞などを楽しむ年中行事でもあったと思っている。
丁度1年前のこの時期、日野市の百草園にウメ、ロウバイを鑑賞したことが浮かんできた。他に箱根、鎌倉、伊豆半島、横浜などの各地の観光を楽しみ、四季折々の思い出の小旅行となった。
これからも通院を良い機会と捉えて、明るく前向きに病気に立ち向かっていきたと思っている。
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エッセイ
「退院後の診察に上京」
三ヶ月に一度の診察を受けに、朝一番の高速バスで上京した。平日でもあり、バスは数人の貸し切り状態だった。色あせた紅葉の磐梯山麓は、この冬初めてうっすらと雪化粧、上空を、今年も訪れた冬の使者が十数羽、並んで力強く飛んでいた。静かな冬の朝の始まりだった。
死の淵をさまよった大手術から、もうすでに二年が経つ。上京の折にはいつも、ぼんやりと車窓に目をやりながら、過ぎし闘病の日々をしみじみと振り返るのが常だった。
身体を気遣いながら、大都会の雑踏に身をゆだね病院に向かった。診察を終えて、久々に、かつて長い間お世話になった病棟を訪ねた。スタッフは誰もが私の元気になった姿に驚き、喜んでくれた。病状に一喜一憂して過ごした入院中の生活を思い出し、感謝の念を新たにした。
予後不良の病に一度は諦めたいのちだったが、今、選ばれて当たり前の生活に戻ることができた幸せを感じている。だからこそ、新しい目標に向け前向きに生きていかなければと思っている。 (2005.12)
「 生を喜び、愛おしみ過ごしたい」
三ヶ月に一度、診察のために上京している。
新しい夏の一日の始まり、高速バスの車窓から麗しの磐梯を望んだ。目に飛び込む美しい緑の山野を心に焼き付けた。いつも私に呼びかける故郷の山河を、来年も見ることができるのだろうか。そう思うと目頭が熱くなった。
退院後は常に不安を抱きながらの療養の一年だった。診察を受けるたびに、病床にあった辛い不自由な日々を振り返り、あらためて大手術であり、よく生還できたと思っている。ならば、生きているうちにこの生を喜び、愛おしみ過ごしたいと思う。
昨年は病床にあって梅雨も夏の暑さも知らなかった。今、庭に蝉時雨を聞き、吹き出す汗を拭いながら暑い夏を実感している。この暑さがありがたくさえ思え、幸せをかみしめている。いつも健康でありますように祈り、一日一日を大切に生きて行こうと誓っている。残りの人生を静かに心豊かに送りたい。(2004.8)
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いつも乗り継ぐバスや電車の車窓を眺めながらの明日に不安を覚える病院通いだった。思うと涙があふれてくる。
でも、この病院通いは各地の美術館、記念館などの芸術鑑賞などを楽しむ年中行事でもあったと思っている。
丁度1年前のこの時期、日野市の百草園にウメ、ロウバイを鑑賞したことが浮かんできた。他に箱根、鎌倉、伊豆半島、横浜などの各地の観光を楽しみ、四季折々の思い出の小旅行となった。
これからも通院を良い機会と捉えて、明るく前向きに病気に立ち向かっていきたと思っている。
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エッセイ
「退院後の診察に上京」
三ヶ月に一度の診察を受けに、朝一番の高速バスで上京した。平日でもあり、バスは数人の貸し切り状態だった。色あせた紅葉の磐梯山麓は、この冬初めてうっすらと雪化粧、上空を、今年も訪れた冬の使者が十数羽、並んで力強く飛んでいた。静かな冬の朝の始まりだった。
死の淵をさまよった大手術から、もうすでに二年が経つ。上京の折にはいつも、ぼんやりと車窓に目をやりながら、過ぎし闘病の日々をしみじみと振り返るのが常だった。
身体を気遣いながら、大都会の雑踏に身をゆだね病院に向かった。診察を終えて、久々に、かつて長い間お世話になった病棟を訪ねた。スタッフは誰もが私の元気になった姿に驚き、喜んでくれた。病状に一喜一憂して過ごした入院中の生活を思い出し、感謝の念を新たにした。
予後不良の病に一度は諦めたいのちだったが、今、選ばれて当たり前の生活に戻ることができた幸せを感じている。だからこそ、新しい目標に向け前向きに生きていかなければと思っている。 (2005.12)
「 生を喜び、愛おしみ過ごしたい」
三ヶ月に一度、診察のために上京している。
新しい夏の一日の始まり、高速バスの車窓から麗しの磐梯を望んだ。目に飛び込む美しい緑の山野を心に焼き付けた。いつも私に呼びかける故郷の山河を、来年も見ることができるのだろうか。そう思うと目頭が熱くなった。
退院後は常に不安を抱きながらの療養の一年だった。診察を受けるたびに、病床にあった辛い不自由な日々を振り返り、あらためて大手術であり、よく生還できたと思っている。ならば、生きているうちにこの生を喜び、愛おしみ過ごしたいと思う。
昨年は病床にあって梅雨も夏の暑さも知らなかった。今、庭に蝉時雨を聞き、吹き出す汗を拭いながら暑い夏を実感している。この暑さがありがたくさえ思え、幸せをかみしめている。いつも健康でありますように祈り、一日一日を大切に生きて行こうと誓っている。残りの人生を静かに心豊かに送りたい。(2004.8)
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