なぜ今「渡来人」が問題になるのか
近年発表された古代人のDNA解析の成果により、古墳時代の人びとの25%は朝鮮半島からの移住者であることが明らかになり、
歴史教科書で学んだ「渡来人」をとりまくイメージは一変しています。これは、日本の文化の成り立ちにも関わってくるトピックです。
日本史研究で多数の実績がある武光誠氏の著書『渡来人とは何者か』では、金沢大学や理化学研究所が発表した最新論文を示し、
古代からの日本と大陸の関係を丁寧にひもときながら、『日本書紀』などに記された伝説的要素と史実を可能なかぎり整理し、
従来「渡来人」と呼ばれた人びとや「渡来系」を自称する豪族の素性、渡来時期、ヤマト政権での足跡を明らかにしています。
古代人のDNA解析から解明された「渡来人」の正体とは何か? 本当に技術者や知識人の集団だったのか?
実像と虚像がないまぜになった「渡来人」をめぐる古代史の輪郭はどのように形成されてきたのか?
書籍『渡来人とは何者か』より、鮮烈な序文から1万5000字を一挙掲載します。
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今、日本人の起源に関する説が大きく書き換えられている。これまで日本古代史の研究者たちは、こう考えていた。
「もとから日本列島にいた縄文人と、弥生時代に渡って来た北東アジア系の弥生人が混じり合って日本人になった」
ところが科学的研究によって、このような「日本人二系統説」が、「日本人三系統説」に代わったのだ。「三系統説」とは、日本人は、
縄文人と北東アジア系の弥生人と、東アジア系の古墳人との三系統から成るとする説だ。
この新しい説によれば、古墳時代に新たに日本に移住してきた人びとも日本人の先祖を構成する三集団のなかの一つであったことになる。
そのため、そのような人びとを、よそから渡って来た「渡来人」という特殊な集団として扱ってきた旧説は、見直さざるを得なくなる。
ーーーーーーーーーーー 中略ーーーーーーーーーーーーーーーー
理化学研究所の共同グループが「東北系祖先」としたのは東アジア北東部から来た弥生人の流れを引くものにあたる。
かれらは、現代の日本人の半数以上の人数となる。
そして、「東北系祖先」の日本人は、東北地方に最も多い。東北地方の現代人の60数パーセントが、「東北系日本人」の子孫である。
そして、中部以東では、「東北系祖先」の者が50パーセント以上を占めている。
これまで紹介してきた理化学研究所の共同研究グループの詳細な研究によって、
全人口の四分の一ほどの現代人が古墳時代の移住者の子孫であることを認めざるを得なくなった。
金沢大学の覚張氏らの研究は、わずか12体の古代人の人骨だけを根拠としていた。
しかし理化学研究所では、3256人という大人数の遺伝情報を分析するという大掛かりな作業がなされた。
そして3000人余りの現代人の遺伝情報のなかの25パーセント近くが、古代の黄河流域の中国人の遺伝情報と共通のものである点が明らかになった。
かつて覚張氏は古墳人の60パーセント余りが「東アジア祖先」としたが、理化学研究所の詳細な研究に従えば、
古墳人の25パーセント程度が「東アジア祖先」であったことになる。
「渡来人」は古代日本人となった
これまで記したような最新のDNAの研究から、現代の日本人の約25パーセントが古墳時代の日本に来た東アジア系の人間の子孫であった可能性が高くなった。
その想定に従えば、古墳時代末の日本列島の住民の約25パーセント前後が、高句麗や百済、新羅から古墳時代に移住した新参者であったことになる。
奈良時代の日本の人口を約600万人とする推計があり、古墳時代末の日本には550万~560万人の人間がいたといわれている(小山修三氏による)。
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