新型コロナ、人権守る法整備を 当事者の立場から
高鳥修一・衆院議員
新型コロナウイルスに感染し、9月18日に入院、10月2日に退院しました。
感染を知ったときは、ショックでした。これまでに、国会議員でかかった人はいません。第1号になります。当然公表しなければいけないのですが、一瞬迷いました。できれば隠したいとも思いました。国会議員でありながら、感染症対策が十分ではなかったのではないか、飲み会をやっていたのではないかなど、あることないこと言われてバッシングを受けるのではないかと思いました。次の選挙に出られなくなるかもしれないとも思いました。けれど隠蔽(いんぺい)することによって、もしも感染が拡大してしまったら、大変申し訳ないことになる。覚悟しましたが、正直に公表しました。
今もしていますが、マスクは常にしていました。手洗い、うがい、それに、自分で消毒用のアルコールを持ち歩いて手を消毒するなど、非常に気をつけていました。大人数での会食などもしていません。にもかかわらず感染しました。
私はこれまで、新型コロナウイルスにかかるのは自己責任だと思っていました。集団で飲み会をしたり、夜の街に出かけたり、感染症対策が不十分であったりと、そういう人がかかるのだろうと思っていました。しかし、飲み会をしなくても、夜の街に行かなくても感染する、対策をとっていても感染するのです。自分が感染してわかりました。
無からは感染しないので、潜伏期間を考えると、発症前の2週間にどこかで接点があったはずですが、まったくわかりません。ウイルスは目には見えません。いつ誰が感染するかわからない状況だと思います。だから、感染した人を差別したり、バッシングしたりすることは、何のいいこともありません。社会の分断を招き、感染者やその家族、周囲の人たちの社会復帰を遅らせるだけで、やめるべきです。
発症したのは9月18日です。毎朝、拳立てと言って、手をグーの状態でする腕立て伏せを50回するのですが、その日は20回やって力が入らなくなり、変だなと思いました。検温をしたら37度でした。1時間後にもう一度測ると37.5度。冷房が強くて風邪をひいたのかなと思いました。人にうつしてはいけないと、病院に行きました。病院で体温を測ったら38.4度に上がっていました。医師から、すぐに検査した方がいいと言われ、抗原検査とPCR(遺伝子)検査を受けました。抗原検査の結果が10分程度で出て、そのまま入院です。
最初に考えたのが、公表するかしないかです。しないわけにはいかないのですが、正直悩みました。それと、周囲の人たち、秘書や運転手さん、同僚議員が大丈夫かなと心配しました。確認できた範囲では、家族、事務所のスタッフ、私の近くの席にいた議員は全員PCR検査で陰性でした。
こういう感染症は生まれて初めてです。一歩も部屋から出られません。じっとしているしかありません。私の場合は、入院をした時にまず肺のCT(コンピューター断層撮影)を撮り、血液検査をして、酸素濃度を測りました。いずれも異常ありませんでした。医師によると、血液検査で重症化する人はある程度わかるそうです。私の場合は、「重症化しない」と言われました。でも本人としては、コロナは急変するとテレビで言われていたので、「今は大丈夫でも、ひょっとしたらここで死ぬのかな」と一瞬思いました。
私の場合は、高熱は最初の日だけでした。初日に38.4度の発熱があり、カロナールという一般的な解熱剤を使いました。普通、風邪やインフルエンザは熱が上がっても、ピークになれば下がり快方に向かいます。ところがコロナは違いました。熱が下がって平熱になったものの、また3日ぐらいたつと37度台になりました。平熱と発熱を繰り返しました。当初は10日間で退院の予定でしたが、9日目に37.7度の発熱があって、もう一度解熱剤を飲み、退院が遅れました。
発熱以外には、頭痛がありました。こめかみの上のあたりがずきずきしました。また、熱のある間は、風邪の時と同じように筋肉や節々の痛みがありました。後半に軽いせきがでました。コロナの症状といっても、全員が同じではありません。よく、倦怠(けんたい)感はないかと聞かれましたが、私の場合はありませんでした。のどの痛み、味覚障害や嗅覚障害もありませんでした。
結果的には自己免疫で完治をしたと医師から言われました。後遺症もありません。2週間病院にいたので、多少足腰が弱くなり、徐々に体を慣らしている状況です。
病院の医療スタッフのみなさんには、本当に感謝しています。赤坂の議員宿舎でも、議員のご家族が感染されたことがあり、重装備の防護服を着た人たちがあちこち消毒しているのを見て、非常にショックを受けました。それもあって、コロナは危険だ、汚いという印象がありました。医療スタッフのみなさんはそんな感情をまったく抱かせない、非常に親切で、丁寧な対応をしていただきました。
実は、入院中に誕生日を迎えました。還暦の節目でしたが、まさか病院で迎えることになるとは思っていませんでした。最悪の誕生日でしたが、看護師さんが「おめでとうございます」とお祝いのメモを書いてくれて、本当にうれしかったです。
厚生労働省の基準では、発症日から10日間経過し、かつ軽快、つまり解熱剤を使わずに熱がない状態が72時間続くと退院できます。私の場合は、9日目に発熱して解熱剤を使ったので、14日間入院しました。退院できるのは、他人にうつす可能性がないからです。抗体もできている。抗体ができると、3~4カ月は再度感染することも、人に感染させることもないと聞いています。ある意味、今が一番安全です。
感染を公表後、支持者からは、「正直に公表してくれてよかった」「謝らなくてもいい」というような声をいただきました。けれど、自分としてはやはり、申し訳ないと思っています。自分も誰かから感染させられた「被害者」ではありますが、私と席が近い議員さんはPCR検査を受けなければならなくなりましたし、東京の事務所のスタッフも2週間は経過観察で家から出られませんでした。迷惑をかけてしまいました。
ただ、わずかですが「しばらくは地元に帰ってこないで」という声もあります。東京と地方では温度差があります。地方に行けば行くほど、コロナに対して恐怖心を持っています。完治していて、他人にうつす可能性もないのですが、しばらく来ないでという気持ちもわかります。重要なのは医学的に正しい知識を持ってもらうことです。
これまで蓄積されたデータから、他人に感染させる可能性があるのは、発症の2日前からとされています。しかし、そのはるか前に地元で会った自分の支持者が、「あんた高鳥さんと会っただろう、濃厚接触者だろう?」と言われたと聞きました。
誰が濃厚接触者かというのは、保健所が詳細な聞き取りをして、判断をします。私も、どこで誰に会ったか、食事をしたかということを詳しく聞き取りされました。保健所はその中で、感染の可能性がある人全員に当たっていきます。だから、逆に言えば、保健所から連絡がないその人は、濃厚接触者ではないのです。
注意することは必要ですが、過度に恐れてパニックになってはならないと思います。正しい知識を持って用心すべきです。
自分が当事者になり、感染者とその家族、医療従事者やそのご家族、こうした人たちの人権を守る、法律が脆弱(ぜいじゃく)ではないかと思いました。「新型コロナウイルス感染症関連差別解消法(仮称)」を、早急に整備したいと考えています。柱は三つあります。
一つはインターネット関係です。感染者の個人情報をネットにさらす人がいます。「自粛警察」のように、いち早く調べ、ネットに公開してたたきます。正義のためにやっていると思っているかもしれないけれど、そんなことをしても、何もいいことはないです。名前や会社、自宅など、全部ネットにさらされて、お子さんがいじめられ、引っ越さざるを得なくなったという話を聞きました。店員が感染したなどデマを流されて、被害を受ける例もあるとのことです。個人情報保護法もありますが、しっかり保護する法整備をすべきだと思います
二つ目は、特に医療従事者のご家族に対するいわれなき差別を防止しなければなりません。例えば、父親が働いている病院で新型コロナの患者を受け入れているという話を会社でしたところ、その途端に会社から「出社しないでください」と言われたという例を聞きました。
それから、小さいお子さんのいる看護師さんが、勤め先の病院でコロナ患者を受け入れていることが明らかになったら、保育園から登園自粛を求められたという話も聞きます。
家族が医療関係者としてコロナと向き合っているから、その子供たちが登園してはいけないというのは、あまり乱暴です。そういった差別をなくしたい。正当な理由なしに、そういったことをしてはならないと明確にしたいです。
三つ目は損害賠償についてです。コロナというのは、私もそうですが、発症する前に前触れがありません。感染していることに気づかずに、日常生活をしています。例えばタクシーに乗る、交通機関利用する、買い物に行く、お店で食事をする、あるいは宿泊施設に泊まるかもしれません。それが、発症したとわかると、あとから損害賠償請求されることがあると聞いています。
民法では本人が知らずに行ったことは不法行為にはあたらない、賠償責任を負わないということになっていますが、感染を知らずに普通の生活をしていた限り、損害賠償の責任を負わないと言うことを明確にすべきだと思っています。
ただ、お店の側からすると、やはり損害を受けることがあるかもしれません。例えば保健所の指導で、休業せざるを得なくなった場合は、休業補償も都道府県がしっかりすると明確化すべきです。休業措置と補償をセットでやるべきだと思います。
こういった、あやふやな点を法律で明確化したいと思っています。
放置しておけば、社会の「分断」を招くだけです。いつ誰が感染するかわからない状況の中で、なった人を袋だたきにしても、いいことはありません。同僚議員、先輩議員にはいま相談をしています。議員立法でやることになれば、野党の皆さんのご理解、ご協力も仰がなければと思います。
コロナに感染すると、やはり心身に相当なダメージを負います。インフルエンザもある程度ダメージですが、心のダメージはそんなにありません。コロナはやはり、まだわからない、ワクチンがない、怖い。だから心のダメージは大きいです。それに追い打ちをかけるような差別は、なくすべきだと思います。