これから秋の夜長の楽しみとして、マグダレーナ・コジェナーのバッハのアリア集(ARCHIV PRODUKTION 4570367-2)をきいてみようと思います。夜長といっても秋分の日がすぎたばかりですし、涼しい感じはしませんが、熱帯夜のころからすると、ずいぶんすごしやすくなっています。ヘッドホンできいていても、暑苦しさは感じなくなってきました。
くだんのコジェナーは1973年生まれのチェコの歌手。第6回国際モーツァルト・コンクール(1995年)の優勝者ということもあり、その翌年のこの録音はずいぶん注目されたようです。先日紹介したオッターのアリア集(記事は「アンネ・ソフィー・フォン・オッター『バック・トゥ・バッハ~バッハ・アリア集』」)で言及したので、何曲かきいてみることにしました。
オッターが経歴をかさねて録音したアリア集を、コジェナーは経歴のはじめに録音したということでは対照的。23歳のオッターには華々しい受賞歴もありませんでしたし、バッハのアリア集を若いうちに録音するなどということは考えてもみなかったと思います。また、若い歌手にバッハのアリア集を、と考えるプロデューサーもいなかったでしょう。
それにくらべると、受賞歴があるとはいえ、経歴のはじめにバッハのアリア集を録音できたコジェナー。モーツァルトじゃなくて、バッハだったのは、コジェナーの要望だったのか。あるいは、小編成のアンサンブルのサポートで録音ができる(経費節約)ためなのか。手近なところに、若い(安い)ピリオド楽器のアンサンブルがいたのも理由かも。
さて、コジェナーの歌唱ですが、ドイツ語はうまくありません。だからというのではないのですが、歌詞がうわすべりしているようにきこえます。歌詞のあるヴォカリーズという感じで、どれもムーディーな歌唱です。ガーディナーもコープマンも許容外だったアルヒーフが(もちろんユーザーも)、時代がかわればこうなるというのがおもしろいところです。
とにかく、これは渋面できくバッハではなく、ボーっとしながら楽しむバッハといえるでしょう。あくまでアリア集なわけで、作品本位でははなく、歌手本位にきくものと思えば、これはこれですぐれた録音だといえると思います。ただし、同じようなアリア集ながら、オッターの録音のほうは深みを感じることができ、個人的には好みです。