これから楽しむのは、水永牧子による「ゴルトベルク変奏曲」(BWV988)です。録音(2018年)でのアリア、変奏曲の反復については、第7変奏、第11変奏、第19変奏、第20変奏のみ完全励行(AABB)です。アリアはダ・カーポ後もふくめ反復なし(AB)で、ほかは同じく反復なしか、前半のみの反復(AAB)です。CDの収録時間は52分45秒なので、反復をするしないは、収録時間の問題ではないことはたしかです。32曲中20曲が反復なしなので、おそらく、基本は反復なしで、あとは水永の判断(好み)での反復なのかもしれません。
それより、やはり特筆すべきは演奏のおもしろさでしょう。かなり即興的な装飾を入れていますし、第8変奏と第9変奏のあいだ、そして第21変奏と第22変奏のあいだにはカデンツァが入っています。曲中の装飾もカデンツァもどちらも趣味がよく、これほど入った演奏はあれこれ思うなかでは記憶にありません。アリアもダ・カーポ後はたくさんの装飾が入っていますが、個人的な好みだと、はじめに装飾のおおいこれをおいて、おわりはおとなしくでもよかったかと思います(CDだから好みで曲順をかえればよいわけですが)。
なお、解説書にはクープランのクラヴサン(チェンバロ)曲のような、水永による表題が付いています。たとえば、アリアが「我が家」だったり、第1変奏が「少年のスケートボード・ジャンプ」であったり、ダ・カーポ後のアリアが「帰宅~安堵とともに~」だったり。「現代的な言葉のもあるけれど、この音楽をより親しく感じていただけたら、幸いである」(水永「CD録音にあたって」)とのことです。録音は2018年、チャボヒバホール(立川市)でおこなわれています。
CD : PCD-1801(Pooh's Hoop)