今年の聖金曜日にきくのは、ダニーデン・コンソート(音楽監督はジョン・バット)による「ヨハネ受難曲」。バットの録音においては、よくきかれる作品に、あまりきかれない異稿をもちいるなど、ひとひねりすることも多々。現在、同じような志向の指揮者といえば、ヨス・ファン・フェルトホーフェンあたりでしょうが、この二人、ライバル的な意識はあるのでしょうか。
それはともかく、バットたちの「ヨハネ受難曲」には、これまでの「ヨハネ」の録音にはなかった特記すべき意義があります。それは、受難曲が上演された礼拝式を再構成した録音であるということです。つまり、「ヨハネ」が礼拝音楽として、式次第の中におかれており、式文や、会衆による教会歌(コラール)、オルガン・コラールといった、礼拝式を構成するすべてがアルバムにおさめられているということです。
おおまかな式次第は、解説書によると、(1)礼拝式のはじまり、(2)「ヨハネ受難曲」第1部、(3)会衆による応唱、(4)説教(40分あまりの説教などはウェブサイトからダウンロード)、(5)「同受難曲」第2部、(6)礼拝式のおわり、の6部分です。なお、教会歌、モテット、応唱は、ゴットフリート・ヴォペリウス編さんの『ライプツィヒ讃美歌集』(1682年)によっているとのことです。
こううした録音のための布陣は、ダニーデン・コンソート(声楽8人/器楽18人)、グラスゴー大学礼拝堂合唱団(27人)、アマチュア歌手(46人)です。「ヨハネ」の独唱曲はコンチェルティスト(ソリスト)の4人(ほかにペテロとピラト役、そして下役役のみを担当する2人)、合唱曲は、コンチェルティスト4人とリピエニスト(テュティスト)4人の計8人。グラスゴー大学礼拝堂合唱団は、和声付の教会歌と、モテットを担当。斉唱の教会歌は、アマチュア歌手による会衆ほか全員参加。
「ヨハネ」の合唱曲には、バットは、パート一人のOVPPではなく、倍の人員をさき、さらに別の合唱団も起用しています。これは、日曜日の聖餐式をふくむ午前礼拝とはちがい、受難曲が上演される午後礼拝では、バッハが1730年の上申書にいうところの、トマス学校寄宿生の「使いものになる者(カンタータ歌手)」、「モテット歌手」のすべてを動員できる、ということを考慮したものと思われます。
CD : CKD 419(Linn Records)