マクリーシュによる「マタイ受難曲」、流麗で、しかも力感もある演奏で、解釈などには異論があるかもしれませんが、高水準の演奏でした。
その特徴は、
- 合唱の編成はOVPP
- 第1曲などテンポのかなり速い楽曲がある
- ほとんどが英語圏の歌手
です(曲の通し番号は新全集)。
解説書に掲載されたインタビューで、the Rifkin/Parrott theoriesに言及しているように、声楽の編成はリフキン説に従いOVPPです。第1群、第2群ともに成人4人の歌手による編成(ソプラノとアルトはすべて女性)で、ソプラノ・イン・リピエーノとして、別に歌手(女性)を1人をたてています。
OVPPゆえにたいへんなのは第1群のテノール歌手とバス歌手。テノール歌手は、福音史家役から群集の合唱、レチタティーヴォとアリア、コラールを歌い、バス歌手は、イエスをはじめ、ユダ、ペトロ、カイアファ、ピラト、祭司、群集の合唱、レチタティーヴォとアリア、コラールを歌います。
器楽の編成のほうは、第1群、第2群ともに弦は2-2-1というもの。通奏低音にはチェンバロを用いず、チェロ、ヴィオローネ、オルガンという編成(各群各1)です。また、特定の曲だけで指定されているリコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバは、別奏者をたて、オーボエ奏者は、ダ・モーレとダ・カッチャを持ち替え。
上記のような編成のマクリーシュの「マタイ」。ききはじめてすぐに、そのテンポに驚かされます。演奏の質という点でも、男性のみの編成という点でも、いわゆる古楽系の指標的演奏といえるレオンハルトの第1曲が8分25秒なのに、マクリーシュのは6分6秒。手近なところにあるCDのなかでは最速です。
このテンポについて、マクリーシュは解説書のインタビューで、バッハの(非舞曲)音楽と舞曲との関連、そしてアンサンブルの規模とテンポについて言及。舞曲にもとづくリズムと、大合唱ではないOVPPによる編成こそが、テンポの増速につながったことを説明しています。
OVPPやテンポの速さだけが強調されがちですが、マクリーシュたちの演奏の美質は、コラールにおいてきわだっていると思います。響きが純正で、これはいままであまりなかった響きだと感じました。もちろん、ポリフォニックの綾もききとりやすく、歌詞が明瞭にきこえてきます。
ただ、歌詞が明瞭だといっても、ドイツ語のディクションは甘くて、これは不満がのこるところがあります。第2群のバス歌手シュテファン・ローゲスがドイツ、第1群のマグダレーナ・コジュナーがチェコなのをのぞき、すべてイギリスの歌手で、いたしかたないことかもしれません。