秋といえば「スポーツの秋」、あるいは「食欲の秋」なのでしょうが、「読書の秋」ともいうので、今夜は本の紹介です。紹介するのは『教養としてのバッハ 生涯・時代・音楽を学ぶ14講』(アルテスパブリッシング)。最近紹介した『アンナ・マグダレーナ・バッハ 資料が語る生涯』や『チェンバロ・フォルテピアノ』ほど専門的ではなく、「国立音楽大学での講義『バッハとその時代』の内容を集約したもの」(同書「おわりに」)です。200頁ほどの本に14講をつめ込んでいるため、ひとつの講義の紙幅は少なくなっています。講義もあくまで教養科目としてだったようなので、概説的なのはいたしかたないかもしれません。
個人的におもしろく読めたのは、「第13講 19世紀におけるバッハ」(吉成順)です。19世紀におけるバッハ受容が簡潔にまとめられ、「表1 ゲヴァントハウス(1781-1881)におけるバッロック作曲家の作品演奏回数」は、ゲヴァントハウス(ライプツィヒ)での公開演奏会におけるバッハの断絶を、データとして明快に示しています。なお、同書は、バッハ伝などに精通されているかたには、その内容に不満を感じることもあるでしょう。しかし、あまり扱われない領域の、政治、言語など、バッハをとりまくさまざまな状況をコンパクトに学ぶことができ、概説本として内容が薄すぎるということはないと思います。