wikipedia『生きる LIVING』(いきる リビング、原題:Living)は、2022年のイギリスのドラマ映画。1952年の黒澤明の日本映画『生きる』のリメイク作品で、オリヴァー・ハーマナス(英語版)が監督、カズオ・イシグロが脚本を務めた。1953年のロンドンを舞台に、ビル・ナイが演じる官僚のウィリアムズが余命半年を宣告され、自分自身の人生を見つめ直す姿を描いている。
リメイクという単語の意味は(すべての芸術は模倣からとも言われ)、けっこう複雑だが
よくできたリメイクだと思う。
目立たないところで原作との違いを吟味してみて
両作互いの素晴らしさ(独自性)が浮き立つ。これは少し驚きだった。
たとえば「ゴンドラの唄」が「ナナカマドの木The Rowan tree」スコットランド民謡」
に代わっているのは目立つ違いのひとつなのだが、その歌詞の違いは目立つわけではない。(作中2度歌われたと思う)
歌詞の違いは本作の他の、目立たない違いにも通底している。あげれはきりがないほどだ。
そこに脚本のカズオ・イシグロのこだわり(強い主張ではない)がうかがえる。
イシグロは小津安二郎の影響も受けたと言われ、そう思うと黒澤版との違いは感動的でさえある。
志村喬の朴訥とした演技とビル・ナイの落ち着いた抑制的な演技も実は大きな違いだ。
本作も原作も主人公が余命宣告されているのだが、ドラマでは突然死んでしまう印象で、すぐに葬儀の場面に移ってしまうところは同じだった。
そして後半では役所の上司や部下たち、関係者による主人公の最期が回想シーンによって生き生きとして甦る。
黒澤版のそのシーンのめくるめくシークエンスはテンポもあって圧倒される。中村伸郎(なかむら のぶお)助役の飄々としていやらしいインテリしゃべりが圧巻。
しかし本作では、そのシーンも抑制的で、代わりに観るものに静かにせまる宗教的とも言える雰囲気も。イシグロはここでも若者にライトを当てている。(物語の始めと終わりにも新人の公務員ピーターが登場し、若者の視点もおおきなファクターになっていることも特筆されてよい)
葬儀の翌日も役場のひとたちは、カラッとして、お役所仕事に戻ってしまうのだった。
それは両作とも、淡々と静かに描かれているのだが、
このモチーフがなかったなら「生きる」は、これほどの命脈を保ち得ただろうか。
いつか現在の東京、ロンドンに舞台を移したリメイク作品もできるかもしれない。
2022年製作 103分 イギリス
配給 東宝
劇場公開日:2023年3月31日