近ごろ鐵道運行情報で氣になるのが、「走行中に線路の“異音”を感知云々」により、列車が遅延する事例が頻發してゐることだ。原因などは一切公表されないので實際の状況は分からないが、線路の異音と聞いてまず思い浮かぶのは、“置石”である。忘年忘月、まだまだ線路の異音が珍しかった頃、JR忘線に乗ってゐたらいきなりガリともゴリもつかぬ異常な大きい音がしたので、運転手が列車を緊急停車させてすぐに線路へ降りて様子を . . . 本文を読む
世田谷ボロ市に出かける。昨日の日曜日では大混雑だらうと、平日の今日に出かけたその目論見は大成功にて、やはり昨日は「身動きがとれないほど」云々。 いくらか歩きやすい市をのんびり巡ってゐうち、今までより見世の數が減ってゐるやうに感じる。ある見世で、ラジオ局の取材を受けてゐた高齢の主人が、参加は今回限りで引退だと話してゐた。「まだまだ續けたい氣持ちはあるけれど、八十を超えて体がしんどくてね……」かういふ . . . 本文を読む
大正十三年(1924年)に川崎町、大師町、御幸村が合併して川崎市となって今年で百年云々、その記念展「爆誕!! かわさき100年物語」を、前期と後期通して觀る。前期は川崎區の東海道かわさき宿交流館が會場で、沿岸を埋め立て、重工業を誘致することで人口増加を図るなか、京濱急行大師線の驛名にもある“鈴木町”の語源となった鈴木商店が、大正時代に現在の場所に味の素工場を建てたのは、多摩川の舟運を最大限に活用す . . . 本文を読む
その流派の大事な戰力であった能樂師が、まだ五十代になったばかりの若さで今秋に急逝してゐたことを知り、息が詰まりさうになるほど驚く。年齢よりずっと若く見える男前な方で、演能會では後見や地謠方で、その名前と優れた容姿を認識してゐた。その方がいよいよ「道成寺」を披くにあたっては、一觀客として電話で切符を申し込んだところ、本人が電話口へ出て、とても丁寧な應對をして下さった。その後、私が舞薹に立って仕舞をつ . . . 本文を読む
行く予定のなかった神田神保町へ、なにやら氣になったので昼頃に出掛けて、比較する物が遠くに仕舞はれてゐるためとりあへず自分の記憶に恃んで對比するほかに無い古い古い資料が、手に入る。たとへそれが、自分の記憶違ひであったとしても、それでよい。私は今日、この古い古い資料に御縁があって、呼ばれて、出掛けたのだ。私はさういふものを、信じる。 . . . 本文を読む
橫濱の日本新聞博物館ニュースパークで、「ニュースを伝える情報デザイン~インフォグラフィクスと新聞整理の世界~」展を觀る。2023年に英國のロイタージャーナリズム研究所が、「ニュースを情報源として利用してゐるか」との調査を行なった結果、日本がもっとも多く「全く利用しなかった」と回答云々。日本の報道屋が、人々の目を引く紙面づくりにどれだけ日夜工夫を重ねてゐるか、讀みやすい“ . . . 本文を読む
東京都文京區の東洋文庫ミュージアムで、創立百周年記念展「知の大冒険─東洋文庫 名品の煌めき─」を觀る。所藏文書類から“東方”各國の歴史を船旅する趣向にて、ひとくちに東洋と云っても國が違へば言語も違ひ、文字も異なる。東西南北、方角で國の位置を區別するのは結構だが、方角で一括りは當たらない氣がする。江戸中期、「ターヘル・アナトミア」を和訳した「解体新書」の登場によって、やうやく日本の東洋文明は西洋との . . . 本文を読む
皇居三の丸尚藏館にて、「公家の書─古筆・絵巻・古文書」展を觀る。公家たち必須の技藝であり、誇りであり、またみずからの存在証明でもあった“書”を數點厳選の企画展、しかし現在では存在しない貴族たちが筆を通して心血を注いだ一字一字は、私のやうな凡庸の眼すら惹きつけてやまない“力”をいまなほ湛え、ああこれが貴種の矜恃かと感じ入る。(※案内チラシより)隣室の「皇室の美術振興─日本人近代の絵画・彫刻・工芸」展 . . . 本文を読む
久しぶりに池上本門寺を参詣す。本堂で、七五三のお参りで頒布した千歳飴の余りを分けてゐた。製造は老舗の榮太樓本舗、材料は全て國産、着色は野菜由来と云ふのが氣に入り、いくらかの“お氣持ち”を置いて、一本いただいて行く。この國では當たり前であるところの、なんでもかんでも異國産を使った飴であったなら、私は情けなくてそっと元に戻していただらう。 . . . 本文を読む
東京都品川區の「高輪築堤」跡の一部が、今月の八日、九日の日中に一般公開云々、これぞ千載一遇の機會と見學に出かける──幕末の薹場築造によって培はれ土木技術が、新しい時代の礎づくりに見事活かされたこの鐵道遺産が、國史跡として整備された後では、それはもう明治五年當時の姿ではないのである。今回公開された箇所は十日以降に令和現在の地表から80cmの地中で再び長い眠りにつくことになっており、明治との出逢ひと別 . . . 本文を読む
“後期高齢者”の女性が、老齢の愛犬を連れて散歩中に道で知り合ひに會ふたび、「この犬(コ)を殘して先に死ねないわ……」とばかり話してゐたところ、それまでとても元氣さうに見えた老犬が、急に亡くなった云々。周辺曰く、「犬が氣を遣ったのではないか……?」犬はヒトのコトバを理解する頭の良い動物であり、また体調に異變を感じても、極限まで我慢する習性があると聞く。その老犬も元氣に振る舞ってゐたが、 . . . 本文を読む
ラジオ放送で、関西方の喜多流による「龍田」を聴く。川面に散り敷かれた紅葉のごとく古歌を散りばめた清廉な女神の舞曲にて、かうした物語性より風情に重きをおいた曲は、謠ひ手の人選にも重きをおかないと、せっかくの紅葉も全て川流れになってしまふ。洋樂は門外漢ゆゑ知らぬが、“純邦樂”について云へば、ラジオ放送だからと云って演者も卓越した技藝者たちを揃へたかと云ふと、明らかにさうでもない場合がある . . . 本文を読む
國立公文書館の企画展「龍─日常にとけこむ神秘─」を觀る。(※世界最古の“龍”の文字)【龍】想像上の神獣にして、皇帝の象徴──ミカドの尊顔を古くは“龍顔”と稱し、我々のやうな下々がうかつに見れば目がつぶれると本氣で信じられてゐた。しかし日本では古くより、その似た外見から現實に存在する【蛇】と混同されることも多く、歌舞伎十八番の「鳴神」で、雲の絶間姫が龍神を封 . . . 本文を読む
東京都杉並區の南郊に佇む國指定史跡「荻外荘(てきがいそう)」の復原整備完成を記念した特別展を、杉並區立郷土博物館の本館と分館で、それぞれ觀る。荻外荘は戰前に首相を三度つとめた近衞文麿の邸宅で、もともとは大正天皇の侍醫頭をつとめた入澤達吉が自身の静養のため昭和二年(1927年)に建てた別邸だったものを、昭和十二年(1937年)に首相初就任の近衞文麿が購入して自身の本宅としたもの。(※近衞文麿)「荻外 . . . 本文を読む
先月三十日より皇居乾通りの一般公開が始まったとラジオで聴いたので、二年ぶりに出かけてみる氣になる。人出は多かったが渋滞もなく、さほど見頃でもない秋の植物を見上げながら、まずは季節を聴いて進む。出口の乾門を額縁に、代官町通りのイチョウが黄々と燃えてゐて、幾人かが道の真ん中で立ち止まってカメラを構へてゐる。警備係が道端に寄って撮影するやう促すなか、二人連れの女性が乾門を背景に冩真を撮ってほしいとスマホ . . . 本文を読む