孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  コロナ禍のもとでの総選挙 選挙から排除されるイスラム教徒 中国マネーの影

2020-10-21 23:22:52 | ミャンマー

(ネピドーで9月27日、NLDの32周年式典にフェースシールドをつけて出席したアウンサンスーチー氏 【10月20日 朝日】)

 

【総選挙 コロナ禍の選挙運動制限を利用するスー・チー与党】

世界が注目するアメリカ大統領選挙は11月3日に迫っていますが、ほぼ同時期の11月8日にはミャンマーの総選挙も行われます。

 

8月22日ブログ“ミャンマー総選挙  陰りが見えるスー・チー人気 ロヒンギャ対応では軍政と同じとの批判も”でも書いたように、ノーベル平和賞受賞者のアウン・サン・スー・チー国家顧問は、ロヒンギャ難民問題をめぐり国際的な評価はがた落ちになったものの、国内では今も根強い人気を誇っています。

 

ただ、前回総選挙時の圧倒的人気とは様相も異なります。

 

新型コロナで選挙活動が制約されるなかで、スー・チー氏は政権党および圧倒的知名度の強みを最大限に活用して勝利を目指す戦略のようです。

 

****「与党有利で不公正」批判 ミャンマー、コロナ下に来月総選挙*****

ミャンマーの総選挙が11月8日に実施される。前回は軍の政治支配に終止符を打つ歴史的な転換点となったが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大で、街頭活動がままならない中での選挙戦になった。

 

圧倒的な知名度を誇るアウンサンスーチー国家顧問が率いる与党が優勢を保っているが、野党勢力からは「公正な選挙戦ができない」と批判の声が上がっている。

 

「選挙はコロナとの闘い以上に、ミャンマーの将来にとって重要だ」。スーチー氏は9月下旬、与党・国民民主連盟NLD)のオンライン会議で訴えた。野党側は再三、延期を要求したが、政権側は予定通り選挙を実施する構えだ。

 

8月中旬までミャンマーの累計感染者は数百人で推移したが、移動制限などを緩めた途端に感染者が急増した。最大都市ヤンゴンなどで外出を禁止する措置を取ったが、感染拡大のペースは落ちていない。都市部などで街頭での選挙活動が規制され、NLDが数万人の支持者を集めた5年前とは対照的な光景が広がる。

 

前回の総選挙では、民主化運動の指導者だったスーチー氏が率いるNLDが大勝し、軍の政治支配が半世紀以上続いていたミャンマーの歴史を変えた。

 

今回は5年間のNLDの実績が問われ、最大野党で国軍系の連邦団結発展党(USDP)や、少数民族政党がNLDにどこまで迫れるかが焦点だが、選挙運動が十分にできないことへの野党側の不満は強い。

 

選挙運動がままならなければ、圧倒的な知名度のスーチー氏が率い、国営メディアなどを通じて政策も訴えられる与党に有利に働くためだ。

 

NLDからたもとを分かった民主派の人民先駆者党(PPP)や、軍人出身のシュエマン元下院議長の連邦改善党(UBP)などの新党も苦しい選挙戦を強いられている。都市部はNLDの大票田のため地方での得票が勝負どころだが、移動制限で現地入りすら難しいのが実情だ。

 

 NLD、進まぬ2大公約

歴史的な政権交代を果たしたNLDだが、2大公約だった「少数民族和平」と「憲法改正」はこの5年でほとんど進んでいない。

 

多民族国家ミャンマーでは長年、少数民族と国軍の内戦が続く。前回選挙で少数民族勢力は、和平の進展を期待して多くがNLDを支持したが、和平交渉は停滞。今回は一定数がNLDに見切りをつけ、地元の少数民族政党に投票するとの見方が出ている。

 

憲法改正でも苦戦している。NLDは今年1月、国会の議席の4分の1を軍人に割り当てている現憲法の「軍人枠」などの改正案を提出したが、軍人議員らの反対で否決。総選挙を前に改憲の意思をアピールするのが精いっぱいだった。

 

スーチー氏はこの間、現在も政治に強い影響力を持つ国軍を刺激しない政権運営に終始した。少数民族和平や憲法改正で協力を得るためだったとみられるが、言論の自由を後退させたと指摘されている。

 

一方で、長年にわたり民主化運動を率いてきたスーチー氏の人気は根強い。民主活動家で、1988年の民主化運動にも参加したジーミー氏は「民主主義のために今後もNLDを支援し続ける」と期待を寄せる。

 

国際社会から厳しい批判を浴びている少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害問題は、選挙の争点にはなっておらず、与党側にとってマイナス要因にはなっていない。

 

ミャンマー現代史に詳しい根本敬上智大教授は上下院664議席で、NLDは前回より議席を減らしつつも、過半数を維持するとみる。「投票率は下がると思うが、『スーチーしかいない』という、半ば消極的な支持でNLDが勝つだろう」と分析する。【10月20日 朝日】

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【選挙から排除されるイスラム教徒、ロヒンギャ】

東京でも“在外投票が3日、東京都内のミャンマー大使館で始まり、早朝から数百人が列を作った。名古屋の名誉領事館と合わせ約8千人が14日までに投票する見込み。投票した人からは「改革を続けてほしい」と、民主化の前進を願う声が聞かれた。”【10月3日 共同】

 

しかし、国内少数派のイスラム教徒、特に問題となっているロヒンギャなどは、選挙に参加できない者が多いという実態も。

 

****投票したい…選挙から除外されるイスラム教徒ら ミャンマー****

ミャンマーのメイ・タンダー・マウンさんは、11月の総選挙で初めて投票するのを心待ちにしていた。

 

しかし、マウンさんは「イスラム教徒だからという理由で、身分証明書を取得できていない」と話す。身分が証明できなければ、投票はできない。

 

マウンさんの身分証明書を取得しようという試みは、地元当局によって1年以上にわたり妨げられてきたという。一方、仏教徒はこのような問題とは無縁だ。

 

マウンさんの故郷ミャンマー中部のメティラは、2013年に仏教徒とイスラム教徒の衝突の傷痕が今も残っている。

 

仏教徒が多数を占めるミャンマーでは、2011年の民政移管後から2度目となる総選挙が11月8日に行われる予定だ。アウン・サン・スー・チー国家顧問が率いる与党・国民民主連盟が再び政権を握るとみられている。

 

今回の総選挙では、バングラデシュの難民収容所や、ミャンマー国内の避難民キャンプや村に閉じ込められているイスラム系少数民族ロヒンギャの選挙権はほぼ全員剥奪される見込みだ。

 

ミャンマーには、ロヒンギャ以外にもイスラム系民族がおり、人口の約4%を占めている。このようなイスラム系民族は、理論上は市民として認められているものの、実際の扱いは異なっている。

 

「学校、職場で差別されている他、公職への就業機会にも違いがあり、反イスラム感情は絶えず存在する」と話すのは、ヤンゴンを拠点に活動するアナリストのデービット・マシソン氏だ。

 

また、身分証明書を取得できたとしても、民族を記載する欄があるため苦難は続く。イスラム教徒の身分証明書には、主に南アジア出身であるという偽の民族が記載されることが増えている。

 

約25万人いるヒンズー教徒も「混血」と記載されるという、同様の問題に直面している。

 

■「最も好ましくない」民族

だが、最も好ましくないとされる民族は、主に迫害を受けているロヒンギャを指す蔑称として使われる「ベンガル人」だ。

 

2017年8月のミャンマー軍の弾圧によって75万人のロヒンギャが、ミャンマーのラカイン州からバングラデシュに逃れた。この弾圧は、国際司法裁判所がロヒンギャへのジェノサイド(大量虐殺)をめぐる裁判を開くきっかけにもなった。

 

ミャンマー国内では今も約60万人のロヒンギャが暮らしているが、市民とは認められず、権利も剥奪され、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが「アパルトヘイト」と呼ぶ状況で暮らしている。

 

マシソン氏によれば、最近ではイスラム教徒が「ベンガル人」として登録させられる事例が全国で相次いで報告されているという。

 

同氏は、NLDは「支持者の多くが問題視していない人種差別的な制度を修正するよりも、重要なことがある」と考えていると非難した。

 

イスラム教徒のマウン・チョーさんは、軍事政権の時代よりもイスラム教徒に対する差別はひどくなっていると指摘する。イスラム教徒は「失望し、意気消沈して」おり、自身の多くの知り合いは、現政権に幻滅し、総選挙では投票しないと決めていると述べた。 【9月15日 AFP】

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「ベンガル人」として登録すると、生粋のミャンマー国民とは異なる海外から移民扱いにもなります。

仏教徒以外をミャンマー国民から排除しようという試みでもあり、ロヒンギャ弾圧と根を同じくする問題です。

 

【ロヒンギャ迫害の国際司法裁判】

そのロヒンギャ問題については、上記記事にもあるように国際司法裁判所においてロヒンギャへのジェノサイド(大量虐殺)をめぐる裁判が行われており(訴えたのは西アフリカ・ガンビア)、昨年12月、スー・チー氏本人が出廷し、ほぼミャンマー国軍を擁護する主張に終始したことも話題になりました。

 

その後の話は聞いていませんが、進行中であるのは間違いないようです。

 

****ロヒンギャ迫害の国際裁判参加=カナダとオランダ、原告支援****

カナダ、オランダ両政府は2日、共同声明を出し、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害をめぐる国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)での裁判に参加すると発表した。ジェノサイド(集団虐殺)があったとしてミャンマー政府を提訴している原告のガンビア政府を支援する。

 

声明では、残虐行為の責任を追及しジェノサイド条約を守ろうとするガンビアを称賛し、「全人類に関わるこうした努力を支えるのは、われわれの義務だ」と強調。特に性的暴力に関連する犯罪行為を重視して協力する方針を示した。また、ほかの条約締約国にも支援を呼び掛けた。【9月3日 時事】 

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どういう経緯でガンビアが表に立っているのかは知りませんが、やはり批判の主体である欧米が前面に出るべきでしょう。

 

この問題でのミャンマー、そしてスー・チー氏への批判は未だ収まっていません。

“ミャンマー軍兵士、動画でロヒンギャの大量殺害告白 人権団体が主張”【9月10日 CNN】

“スーチー氏、人権賞グループの活動資格失う 迫害黙認で”【9月10日 朝日】

 

【中国マネーで進む開発 環境問題などで政権が住民と中国の板挟みになることも】

今日目にした記事は、中国の影響に関するもの。

軍事政権時代、欧米からの制裁を受けていたミャンマーは中国に接近しました。

 

民主化によってその影響は薄れるように思えたのですが、昨今のロヒンギャをめぐる欧米との対立、ミャンマーを「一帯一路」の要として重視する中国の対応もあって、やはり中国の影響は色濃いようです。

 

****急増バナナ園、中国マネーの影 ミャンマー北部、健康被害の懸念****

ミャンマー北部のカチン州で、急拡大するバナナ農園に地元の人々から反対の声が高まっている。実質的に農園を運営するのは中国企業。土壌や水の汚染、住民の健康被害が報告されているなかで、ミャンマー政府の対応は――。

 

 ■農薬散布「焼けるような痛み」

3~4メートルほどの高さのバナナの木が生い茂る。濃緑の大きな葉に遮られ、昼なのに暗い。カチン州ワインモーでは至るところにバナナ農園が広がっている。

 

ただ、働き手を取り巻く環境は過酷なようだ。2年間、農園で殺虫や除草などの仕事をしているタンラーさん(38)は、農薬や殺虫剤をまく時期に毎日のように、体全体に焼けるような痛みを覚える。

 

毎日12時間働き、賃金は夫と合わせて月16万チャット(約1万3千円)。昨年出産した男児の腹からは腫瘍(しゅよう)が見つかった。「農薬との関係はわからないが、家族全員の体がむしばまれている気がする」

 

カチン州の環境保護団体のブランアウンさんは「バナナ農園では大量の農薬や化学肥料が使われ、住民は日常的に汚染された水を飲み、農作業で体を壊す人もいる」と訴える。住民と環境保護団体が協力して州政府に訴えているが、ブランアウンさんは「役人は面会すら拒み、我々の意見を聴こうとしない」とため息をつく。

 

収穫されたバナナはほぼ全てが中国に輸出される。8年前から農園で働くアウンサントゥンさん(36)は「収穫期にはトラックに乗った数百人の労働者がやってくる。収穫されたバナナは中国国境に消えていく」と話す。

 

カチン州政府などによると、2006年ごろ、中国との国境付近で盛んだったアヘン用のケシ栽培を減らすため、政府の支援でキャッサバやバナナなどの栽培を増やそうとしたのが始まりだった。次第に、ミャンマーと中国の合弁企業が運営する農園が増え、14年ごろからは急増した。ワインモーではいま、東京都世田谷区と同程度の60平方キロにまで広がった。

 

 ■「合弁」名乗り、登録すり抜け

カチン州政府によると、同州でバナナ農園を経営する企業が40社以上ある。いずれも社名はミャンマー語だが、「中国企業の隠れみのだ」と地元の僧侶、アシンビジャヤ氏は指摘する。

 

住民から健康被害などの相談を受けてきたアシンビジャヤ氏は「中国企業は名目だけの代表者にミャンマー人を据えて『合弁企業』と名乗り、外国企業に必要な登録をすり抜けている」と言う。18年5月には政府が州議会で、当時バナナ農園を営んでいた45社のうち44社は「適切な登録をしていない」と認めた。

 

農園で中国人の通訳をしているザウンイワルさん(44)は「各農園では1~2人の中国人が農薬散布や収穫時期を指示し、ミャンマー人は従うだけ。中国人は農園近くに住み、本国と連絡をとって収穫量などを調整する。ただ、農薬散布時は健康被害を気にしてか、中国に帰ってしまう」と話した。

 

農園運営企業の一つ、「グランド・エートゥット」の営業責任者エートゥット氏が取材に応じた。「バナナ農園の農薬が環境に負担をかけるのは他国でも起きていること」と主張し、政府への登録については「手続きに時間がかかっているだけ。我々は合弁会社で、外国企業ではない」と釈明した。

 

一方、州政府農業大臣のチョーチョーウィン氏は取材に、「無登録の運営企業があるのは確かだが、適正な登録を促すなど対応している。環境被害を示す明確なデータはない」と話した。

 

 ■国境の州、混乱の歴史と事情

「バナナ問題の背景にはカチン州の複雑な現状がある」と、キリスト教徒の多い同州で大きな影響力を持つカチンバプテスト教会のカラム・サムソン氏(59)は話す。

 

カチン州では、少数民族武装勢力のカチン独立機構(KIO)が多くの地域を実効支配し、政府側も手出しができない。「混乱に乗じてKIOとつながりを持つ中国企業が入り込んできた」とサムソン氏。難民キャンプなどに逃げた住民の土地が次々とバナナ農園にかわったという。

 

ミャンマーと中国との関係も影響する。ワインモーには、ミャンマー軍事政権(当時)と中国企業が36億ドル(約3700億円)で合意したが、環境問題などを理由に建設が凍結された大規模水力発電所、ミッソンダムがある。

 

「建設再開を求める中国に『負い目』を感じ、強い態度に出られないミャンマー政府の姿勢がバナナ問題にも影響している」とサムソン氏は語る。

 

地域の貧困問題も背景にある。カチン州のジャーナリスト、ランカウン氏(27)は「バナナ農園をなくしたら職にあぶれる人が続出し、さらに貧困が進む。まず地域の和平を成し遂げ、中国やKIOに左右されないカチン州独自の産業を生み出さなければ、問題はずっと続く」と話した。【10月21日 朝日】

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中国の問題だけでなく、少数民族問題、さらには貧困問題も絡んだ状況のようです。

 

チャイナマネーによるミッソンダム建設については“ミャンマー北部カチン州でのミッソンダム開発計画を再開するのか、それとも最終的に中止とするのか。ミャンマー政府としてはインフラ開発が遅れているだけに、中国からの資金的な援助は喉から手が出るほど欲しいが、環境破壊を懸念する地元住民の反対を押し切るほどの勇気もない。しかしいつまでも放置しておくわけにはいかず、決断の時期が近づいている。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)”【2019年6月18日 SankeiBIz】という、中国と地元住民の板挟み状態が続いているようです。

 

ミャンマー中部で開発中のレパダウン銅山(ミャンマー国軍と中国企業の合弁事業)で、公害を懸念して閉鎖を求め居座る地元. 住民や僧侶たちのキャンプを警察当局が強制排除したように、この種の開発事業に関しては開発を優先させる傾向にあるスー・チー政権です。それは、スー・チー氏としては国民生活向上を最重視していることの表れでもあるでしょうが。

 

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ミャンマー  23日にも国際司法裁判所(ICJ)の仮保全措置に関する判断

2020-01-15 20:56:07 | ミャンマー

(ミャンマー各地でアウン・サン・スー・チー国家顧問を支持する集会が開かれた(10日、ヤンゴン)【12月22日 日経】)

【「ジェノサイドの認定」までは遠い道のり】
スー・チー国家顧問自ら法廷に立ち注目を集めたロヒンギャに対するジェノサイドに関する国際司法裁判所の判断が今月23日にも示されるようです。

****ロヒンギャ迫害で23日判断か=仮保全措置めぐり国際司法裁****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対し、ジェノサイド(集団虐殺)があったとしてミャンマー政府がオランダ・ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に提訴された問題で、仮保全措置を求めるガンビア政府は15日、ICJが23日に措置を認めるかどうか判断を示すとの見通しをツイッターで明らかにした。
 
イスラム協力機構(OIC)を代表して提訴したガンビアは昨年12月の口頭弁論で、ジェノサイド再発の危機があるとして、迫害の停止や国連調査団の受け入れを柱とする仮保全措置を求めた。
 
口頭弁論にはミャンマーからアウン・サン・スー・チー国家顧問が自ら出廷。人権侵害があった可能性は認めながらもジェノサイドはなかったと否定し、審理の取りやめを訴えた。【1月15日 時事】 
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国際司法裁判所法廷におけるスー・チー氏の弁論等については、昨年12月14日ブログ“ミャンマー ロヒンギャへの「ジェノサイド」で訴えられた国軍を国際法廷で弁護するスー・チー氏”でも取り上げたところですが、その内容、および今後の展開については以下のようにも。

内容についていえば、「過剰な武力行使があった可能性はある」と一部ミャンマー国軍の責任を認める部分もありましたが、スー・チー氏は基本的には「住民殺害は意図したものではない」とジェノサイドを否定し、ミャンマー国軍の正当性を支持する従来からの考えに終始しました。また、ICJの介入は不必要・有害としてミャンマー政府に任せるように主張しました。

****「組織的なレイプや殺人」全否定 スーチー氏の法廷戦略****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャに「ジェノサイド(集団殺害)」をしたと、同国政府が国際司法裁判所(ICJ)に提訴された問題で、アウンサンスーチー国家顧問が法廷で全面否定したことに国際社会から批判が出ている。ただ、スーチー氏の強気の発言は、訴えを退けるための入念な準備がうかがえるものでもあった。

オランダ・ハーグのICJ。ミャンマー政府がジェノサイド条約に違反してロヒンギャの人々にジェノサイドをしたと、西アフリカ・ガンビア政府が訴えた裁判で、ミャンマー政府代理人として11日の口頭弁論に出廷したスーチー氏は「不完全で誤解を招くものだ」と全面否定してみせた。
 
ミャンマーの従来の主張と同様とはいえ、かつて軍事政権にあらがって民主化を進めたノーベル平和賞受賞者のスーチー氏の発言が注目されていただけに、国際社会には失望感も。

国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」は「国連が集めた全ての証拠や我々が耳にした(ロヒンギャ)生存者の証言を全て無視した」と声明を出して批判した。
 
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」も、70万人以上のロヒンギャ難民が生まれたことは「間違いなく組織化された殺人やレイプの結果だ」とミャンマー政府の責任を問いただした。
 
米国も口頭弁論の初日だった10日、ロヒンギャ問題に関して、ミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官らへの経済制裁を発表。同国財務省は「最高司令官の命令で大量殺人やレイプが行われたという信頼できる主張がある」と、声明で理由を説明した。
 
これまでもスーチー氏を批判する論調を続けてきた中東の衛星テレビ局アルジャジーラ(電子版)は12日、「盗っ人は自分が盗っ人だと認めない。正義が証拠でそれを証明する。国際社会は我々からその証拠を得ている」とするバングラデシュ・コックスバザールのロヒンギャ難民組織の代表の発言を掲載した。
 
一方、仏教徒が大多数を占めるミャンマーでは、ロヒンギャは隣国からの招かれざる移民とみられており、スーチー氏の弁明への支持が盛り上がっている。

11日には最大都市ヤンゴンの市公会堂でICJの口頭弁論が中継され、ミャンマーの旗やスーチー氏の写真を手にした数百人が見守った。会社員タエスーモンさん(25)は「(スーチー氏を)心から信頼している。私たちの国を間違った主張から守ってくれるはずだ」と話した。
 
ミャンマー国内のメディアは多くがトップニュースとしてスーチー氏の発言を報じ、「ICJの介入で事態が悪化しないよう求めた」とするスーチー氏の発言を中心に報じた。(中略)
 
スーチー氏のメッセージ
(中略)強気だったともとれるが、京都大の中西嘉宏准教授(ミャンマー政治)は、「譲るところは譲っており、裁判の準備をじっくりしてきた」とみている。
 
譲った点とは何か。
それは、「国際人道法を無視した過剰な武力行使があったことは排除できない」との発言だ。これまでスーチー氏は、掃討作戦はロヒンギャの武装勢力に対する正当な対応だったと主張していた。

中西氏は「すでに(殺害行為などについて)ロヒンギャの証言があり、全て否定するのは難しい。一定の行為を認める姿勢を示した」と説明した。
 
一方で、スーチー氏は、国軍の軍法会議や政府が設立した独立調査委員会が、違法行為の責任追及を担うと説明した。そう訴えることで、「国際司法は自国の司法が機能しない場合に介入する」という国際的な原則に基づき、ICJの介入が不必要だと訴えた。
 
中西氏は「ミャンマーは軍政時代も含めてこれまで、外からの介入で態度を硬化させ、事態を悪化させてきた。スーチー氏は『解決には国内の自浄しかない。任せてほしい』とのメッセージを送った」とみる。
 
スーチー氏はまた、ロヒンギャを殺害したとして軍法会議で有罪になった兵士らの刑期が軍によって短縮されたことを「国民の多くが不満に思っている」とも明言。国軍の問題点を指摘する姿勢を見せた。
 
そうしたことから、中西氏は「国連やガンビアへの批判は抑え、ジェノサイドではないという主張に絞った。国家のリーダーが出廷するという非常にリスクの高い決断だったが、その中ではできうる限りの対応をしたのではないか」と分析した。

裁判どう進む?
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャに対する「ジェノサイド」はあったのか、なかったのか。国際司法裁判所(ICJ)はまずは、その判定の前に、ジェノサイドにつながる行為を直ちにやめさせるためにガンビアが求めた「仮保全措置」について、1カ月ほどで判断するとみられる。
 
東洋大の石塚智佐准教授(国際法)は「緊急にジェノサイド行為を防止するようミャンマー側に(仮保全措置として)求める可能性はある」と説明する。
 
だが、そうだとしても、ICJは「ジェノサイドかどうかの確定的判断ではない」と強調する可能性が高いという。石塚氏は「最も重要なジェノサイドの認定については、最終的な判決時まで見解を示さないはずだ」と説明する。
 
また、仮保全措置後、ミャンマー側は、ガンビアが提訴する資格のある「当事国」であるかどうかを改めて争うことも考えられるという。
 
ICJは、国同士の争いしか扱わない。西アフリカのガンビアはロヒンギャ難民問題に国家として直接関わりがなく、イスラム協力機構(OIC)の代表として原告になったとされている。

そのため、ミャンマー・ガンビア間に紛争が存在しないとされれば、裁判自体が成り立たなくなる。ミャンマーがそう主張すれば、まずはその判断のために通常はさらに2年ほどはかかり、ジェノサイドか否かの審理は、その後で始まる。
 
また、裁判での焦点はジェノサイド条約で定義されるように、ジェノサイドの意図をもった殺害などの行為があったかどうかだ。
 
石塚氏は「多数の殺害行為があったとしても、それがロヒンギャという集団を破壊する意図の下での行為と認められなければ、ジェノサイドとはならない」と説明。

「ジェノサイドは国際法でも最も重い罪の一つとされ、慎重に審理される。ミャンマー政府の責任がどこまで及ぶのかなど判決の予見は難しい」と話した。【2019年12月22日 朝日】
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上記記事を読む限り、23日に示される「仮保全措置」の内容如何にかかわらず、「ジェノサイドの認定」について明確な判断がでるのはまだまだ遠い先の話のようです。

70万人を超す難民を出すに至った事態にもかかわらず、国軍の責任を基本的な部分で認めないノーベル平和賞受賞者、かつ、かつての民主化運動の象徴だったスー・チー氏に対する国際世論は厳しいものがあるのは上記のとおり。

“ただ、国軍幹部への制裁を強化している欧米も、一般市民の生活に影響が及ぶ経済制裁には慎重だ。京都大学の中西嘉宏准教授は「かつてのような経済制裁を科せば中国のミャンマーへの影響力が増す。欧米もバランスをもった判断をするはずだ」とみる。”【12月22日 日経】ということで、国際社会のスタンスが大きく変わることもないようです。

【「総選挙対策」としては成功?】
一方、「2020年の総選挙を控え、国際社会の非難に立ち向かう姿勢を示す狙いだった」(スー・チー氏側近)【12月22日 日経】というスー・チー氏側の狙いは、充分に達成されたようです。

****内向くミャンマー、国軍擁護のスー・チー氏に支持 ****
イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題を巡り、ミャンマーの内向きが鮮明になっている。

同国内では、欧米などが批判するミャンマーの国軍を国際司法の場で擁護したアウン・サン・スー・チー国家顧問への支持が広がる。同氏が国軍を擁護したことに欧米からは批判の声が上がっており、ミャンマーの世論との温度差が浮き彫りになっている。

スー・チー氏が首都ネピドーに戻った14日、空港からの沿道には国会議員や市民が並び「我らが母よ」という垂れ幕を掲げて出迎えた。スー・チー氏は車の窓を開けて手を振り、声援に応えた。

国際司法裁判所(ICJ)の審理初日の10日には、最大都市ヤンゴンの市庁舎前にはスー・チー氏を応援する数千人が集まった。同様の集会は国内各地で開かれた。

同氏側近は「2020年の総選挙を控え、国際社会の非難に立ち向かう姿勢を示す狙いだった」と明かす。(後略)【12月22日 日経】
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こうした流れに、日本に暮らすロヒンギャからは激しい怒りも。

****「スー・チー氏のうそ信じないで」=在日ロヒンギャ、日本政府にも苦言****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ難民らでつくる「在日ビルマ・ロヒンギャ協会」のゾー・ミン・トゥット副代表が15日、東京都内の日本外国特派員協会で記者会見した。

「ミャンマー国軍やアウン・サン・スー・チー国家顧問のうそを信じないでほしい」と訴え、ロヒンギャ迫害を否定するスー・チー政権を非難した。(中略)
 
ゾー・ミン・トゥット副代表はミャンマーで今年実施される総選挙を念頭に、「スー・チー氏は訴訟に向き合うためにハーグに行ったのではない。国民の支持を得るための選挙キャンペーンだ」と批判。「ロヒンギャの骨の上に民主主義や平和を築くことはできない」と強調した。【1月15日 時事】 
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ただ、下記のようにミャンマーを巡って中国と影響力を競う日本政府は、仮に欧米がミャンマー政府に厳しい対応をとったとしても、独自の宥和的な対応にとどまると推察されます。

****日本と中国がせめぎ合う 英国が残したミャンマー鉄道****
植民地支配していたイギリスが残したミャンマーの鉄道をめぐって、日本と中国のさやあてが続く。

日本は円借款をつぎ込んでJRなどの中古車両が走る在来線の改善に取り組み、中国は車両工場を立ち上げて現地生産し、雲南省からインド洋へ抜ける新線を敷く野心を抱く。

ミャンマーは、日米が主導する「自由で開かれたインド太平洋」構想と中国の巨大経済圏構想「一帯一路」とがぶつかるアジア戦略の「一丁目一番地」でもあるからだ。

中国は関係をてこ入れしようと、習近平国家主席が年明け早々の1月17日から、ミャンマーを10年ぶりに訪問する予定だ。(後略)【1月11日 GLOBE+】
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スー・チー氏側は、農村部での人気低下も指摘されるなかで、上記のロヒンギャ問題への国内世論受けする対応を含め、秋の総選挙勝利に向けて着々と手をうっているようです。

****ミャンマー紙幣にスー・チー氏父 国民的人気、選挙利用の指摘も****
ミャンマー中央銀行はこのほど、「建国の父」と称されるアウン・サン将軍(1915〜47年)の肖像画を使った新紙幣の発行を始めた。

アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相の父で、今も国民に敬愛されている。秋に総選挙を控える中、スー・チー氏が父の人気にあやかり、支持固めに利用しているとも指摘される。
 
アウン・サン将軍は第2次大戦中、ビルマ(現ミャンマー)で抗日運動を率いた。終戦後は英国からの独立交渉を主導したが、独立前の47年に暗殺された。アウン・サン将軍の肖像画が描かれた紙幣の発行は約30年ぶりだ。【1月14日 共同】 
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建国の英雄、国父アウン・サン将軍に対しては、軍部も反対できない・・・というあたりがミソでしょうか。

 

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ミャンマー  ロヒンギャへの「ジェノサイド」で訴えられた国軍を国際法廷で弁護するスー・チー氏

2019-12-14 22:57:12 | ミャンマー

(国際司法裁判所に立つアウンサン・スーチー氏【12月14日 COURRIER JAPON】)

 

【自分を長年にわたり自宅軟禁していた軍を擁護するため、国際司法裁判所に出廷したスー・チー氏】

ここ数日、国際面ではイギリス総選挙や米中交渉などがメディアでは大きく取り上げられていますが、個人的に一番関心があったのは、イスラム系少数民族ロヒンギャに対するミャンマー国軍による「ジェノサイド」(集団虐殺)の訴えを裁く国際司法裁判所(ICJ)に出廷することとしたミャンマーの指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が一体何を語るのか・・・ということでした。

 

言うまでもなく、かつての軍政に対する民主化運動の象徴であり、長年の自宅軟禁を戦い抜き、ノーベル平和賞を受賞したスー・チー氏ですが、ロヒンギャ問題に関しては多くを語らず、事態改善に向けた消極的姿勢が目立ち、国際的には厳しい批判にさらされています。

 

それだけに、スー・チー氏の弁論内容に関心が持たれましたが、ミャンマー政府はその責任を認めていませんので、スー・チー氏の発言も恐らくその線に沿った内容になることは想像されました。

 

国内的にも、今回のスー・チー氏の出廷は、ミャンマーの正当性を主張し、国際批判に反論するものとして理解されており、敢えて法廷への出廷と言う行為を選択したスー・チー氏を支援する動きが報じられています。

 

****スー・チー氏へ大規模連帯集会 ミャンマー、国際司法裁出廷で****

ミャンマーの最大都市ヤンゴンで10日、国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)の審理に出廷するため、ハーグ入りしているアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相への連帯を示そうと、市民ら約3千人が大規模な集会を開いた。

 

市民らは、スー・チー氏の顔が描かれたポスターなどを掲げ「国の威厳を守れ」と繰り返した。会場には「スー・チー氏を支持する」と書かれた巨大な看板も設置された。ICJで審理が始まると、市民らは大型スクリーンを通じて見守った。

 

ヤンゴン在住の女性シュエ・ジンさん(34)は「国を守るために現地に行ってくれた。感謝している」と話した。【12月10日 共同】

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そうしたなかでスー・チー氏が語った内容は、一言で言えば、これまでのミャンマー政府の主張をなぞるものであり、かつての民主化運動の象徴の片鱗をうかがわせるものはありませんでした。

 

****スーチー氏、虐殺の訴えは「不完全」 ロヒンギャ裁判で反論****

ミャンマーの指導者アウンサンスーチー国家顧問兼外相は11日、国連の国際司法裁判所(ICJ)に出廷し、同国軍が少数民族ロヒンギャにジェノサイド(集団虐殺)を行ったとの訴えに「不完全で不正確だ」と反論した。

 

仏教徒が多数派のミャンマー(旧ビルマ)では2017年、イスラム系のロヒンギャに対し、軍が掃討作戦を実行。数千人が死亡、70万人以上が隣国バングラデシュへ逃亡した。

 

国際社会からは残虐行為との批判が上がり、矛先はノーベル平和賞受賞者のスーチー氏にも向けられている。

 

従来の主張をなぞる

スーチー氏は法廷で、多くのロヒンギャが暮らしていた西部ラカイン州の問題は、何世紀も前にさかのぼると指摘。

ミャンマー政府は、同州における過激派の脅威と戦っており、暴力行為は「内政上の武力衝突」だと主張した。

これは、同国のかねてからの立場を維持するもの。

 

スーチー氏はまた、武力衝突の発生は、ロヒンギャの武装勢力による政府治安部隊への攻撃がきっかけだと述べた。

 

虐殺、レイプの証言には一切触れず

一方、軍が過度の武力行使をした場合もあったかもしれないと認める場面もあった。

スーチー氏は、もし戦争犯罪に当たる行為があれば「兵士は訴追される」と述べた。

 

さらに、ラカイン州を離れた人々について、安全な帰還を実現すると宣言。裁判所に対し、紛争を悪化しかねない、いかなる行為も避けるよう強く求めた。

 

BBCのニック・ビーク・ミャンマー特派員によると、スーチー氏は、軍が民間人を銃撃の対象にしていたことを認めた。

 

しかし、ミャンマーは戦争犯罪人を法で裁くと主張。国が積極的に悪事を捜査しているのに、なぜそれを集団虐殺と呼べるのかと裁判所に問いかけた。

 

この日、スーチー氏はほんの一瞬、ビーク特派員がこれまで聞いたことのなかった自責の念を示した。ロヒンギャの名前は出さずに、バングラデシュに逃げた人々の「苦難」について語ったのだった。

 

それでも、前日に3時間にわたってスーチー氏が耳にした、集団殺害やレイプ、放火の証言については、ひとことの言及もなかった。

 

自由を奪った軍を擁護

かつて民主主義の象徴として国際的に称賛されたスーチー氏は、ロヒンギャに対する軍事作戦が始まる前の2016年4月から、ミャンマーの実質的な指導者をつとめている。

 

軍に対する直接の権限はもたない。しかし国連の調査団は、スーチー氏が掃討作戦に「共謀していた」とみている。

 

スーチー氏は今回、自分を長年にわたり自宅軟禁していた軍を擁護するため、法廷に立っている。

 

難民たちの受け止めは?

バングラデシュ・コックスバザール県のクトゥパロン難民キャンプでは、テレビで法廷の中継を見ていた難民たちから、「うそつき、うそつき、恥を知れ!」と大きな声が上がった。

 

「彼女はうそつきだ。とてつもないうそつきだ」。アブデュル・ラヒーム氏(52)は、コミュニティセンターでそう話した。

 

一方、ハーグの裁判所の近くでは、ロヒンギャ支援のデモ隊が、「アウンサンスーチー、恥を知れ!」と声を張り上げた。

 

スーチー氏とミャンマー政府を支持する約250人も裁判所前に参集。スーチー氏の顔と「あなたの味方だ」の文字が書かれたプラカードを掲げた。

 

呼びかけ人の1人で、現在はヨーロッパで暮らすビルマ国籍のフォフュタント氏は、「世界はアウンサンスーチー氏に対し、もっと辛抱強くあるべきだ」とBBCに語った。

 

「私たちは彼女を支持し、今も信じている。私たちの国に平和と繁栄をもたらし、このとても複雑な状況を解決できるのは彼女しかいない」

 

原告はアフリカの小国

この裁判では、イスラム教徒が多数を占める西アフリカの小国ガンビアが、多くのイスラム教国を代表して原告となっている。

 

同国のアブバカル・マリー・タンバドゥ司法長官兼法相は10日の法廷で、「ガンビアが求めているのは、ミャンマーに無意味な殺人を、我々の良心にショックを与え続けている残虐行為を、国民に対する集団虐殺を止めさせることだ」と話した。

 

タンバドゥ氏は10月、BBCの取材に対し、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを訪れ、殺人や強姦、拷問について話を聞き、原告になることを決めたと話している。

 

ミャンマーへの疑惑

2017年初め、ミャンマーには100万人のロヒンギャがいた。その大半は、西部ラカイン州に住んでいた。

しかしミャンマーはロヒンギャを不法移民と見なし、市民権を与えていない。

 

ロヒンギャは長い間迫害されていたが、2017年にはミャンマー軍がラカイン州で大規模な軍事作戦を開始した。

ガンビアがICJに提出した訴状によると、ミャンマー軍は2016年10月から2017年8月にかけ、ロヒンギャに対する「広範囲かつ組織的な一掃作戦」を実施したとされる。

 

この一掃作戦で、ミャンマー軍は大量殺人や強姦、「住民を閉じ込めた状態での」建物への放火などによって「ロヒンギャを集団として、全体あるいはその一部を破壊しようとした」とガンビアは主張している。

 

国連も証拠を入手

国連の事実調査団も数々の明白な証拠を見つけ、ラカイン州でのロヒンギャに対するジェノサイドについて、ミャンマー軍を調査すべきだとの結論に至った。

 

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月、ミャンマーの兵士が「女性や少年少女、男性、トランスジェンダーの人々に対し、強姦や集団強姦といった暴力的かつ強制的な性行為を繰り返し、組織的に行った」とする報告書を発表している。

 

5月には、ラカイン州イン・ディン村でロヒンギャの男性10人を殺害した件で有罪となった兵士7人が、すでに釈放されていたことが明らかになった。

 

ミャンマー当局は、軍事作戦はロヒンギャの武装勢力を標的にしたものだと主張。ミャンマー軍も内部調査で問題がなかったことを発表している。

 

虐殺認定には数年かかる見通し

ガンビアはICJに対し、ミャンマー国内外のロヒンギャを脅威や暴力から守る「一時的な措置」を講じるよう求めている。これは、承認されれば法的拘束力を持つ措置となる。

 

ミャンマーがジェノサイドを行ったという判決を出すには、ICJは同国がロヒンギャの「全体あるいは一部分を破壊しようと意図していた」ことを明らかにする必要がある。

 

ただ、この判決には強制力がなく、スーチー氏や軍高官らが自動的に逮捕され、起訴されるというわけではない。

しかし有罪が確定すれば国際的な制裁につながる可能性があり、ミャンマーの評判や経済に多大なダメージを与えることになる。

 

今回の審理は3日間にわたり、ロヒンギャ保護の一時的措置をICJが承認するかが焦点だ。ただ、ジェノサイドの認定には数年がかかるとみられている。

 

ロヒンギャの現在の状況は?

軍事作戦が始まって以降、数十万人のロヒンギャがミャンマーから逃亡している。

9月30日時点で、バングラデシュには91万5000人のロヒンギャ難民がいる。うち8割は2017年8〜12月に到着した人たちだという。

 

バングラデシュは今年3月、これ以上の難民は受け入れられないと発表。8月には自主帰国スキームを立ち上げたものの、これに応じた人はいないという。

 

また、ロヒンギャ難民10万人をベンガル湾の小さな島に移住させる計画も立ち上がったが、39の人道支援団体や人権団体などがこれに反対した。

 

9月には、BBCのジョナサン・ヘッド東南アジア特派員が、ロヒンギャ住んでいた村々が破壊され、警察の官舎や政府の建物、難民キャンプがつくられていることを突き止めている。【12月12日 BBC】

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【審理は和解を台無しにする・・・・ともスー・チー氏は主張 しかし、責任を明確にしないままの和解などあり得ない】

スー・チー氏は12日にも法廷に立ち、和解を台無しにする恐れがある」として、審理取りやめを求めています。

 

****スー・チー氏、ロヒンギャ裁判は「危機を再燃」 審理取りやめ求める****

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は12日、同国のイスラム系少数民族ロヒンギャへのジェノサイド(集団殺害)をめぐる国際司法裁判所の裁判で、審理を取りやめるよう求めた。スー・チー氏は、裁判によってロヒンギャ約75万人が避難を余儀なくされた危機が再燃すると警告した。

 

ノーベル平和賞受賞者でミャンマーの事実上の文民指導者であるスー・チー氏は、オランダ・ハーグのICJで開かれた3日間にわたる審理後の最終弁論で、西アフリカのガンビアがミャンマーを提訴したこの裁判を進めることは「和解を台無しにする」恐れがあると主張した。

 

スー・チー氏は平和が戻りつつある証拠として、2017年のロヒンギャに対する軍事行動で影響受けた地域で最近行われたサッカーの試合の写真まで提示した。しかし、同氏がかつて対立していた軍幹部らを擁護したことで、人権運動の象徴としての国際社会での名声は低下している。

 

スー・チー氏は6分間の短い弁論で、「壊れやすい信頼の土台を築き始めたばかりの社会に、疑念を生み、疑いを植え付け、あるいは怒りを生み出すことは、和解を台無しにする恐れがある」と主張。

 

「継続中の内部紛争を終結させることは(中略)わが国にとって最も重要だ。しかし2016〜2017年にラカイン州北部で起こった武力紛争の再燃を回避することも同様に重要だ」と述べた。【12月13日 AFP】

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しかし、70万人を超すロヒンギャ難民の今も帰還がかなわない事態を改善するためには、一体何が起きたのか、誰の責任かを明らかにしないままの「和解」はあり得ないでしょう。

 

【「正しいことをしたければ、偉くなれ」という戦略的対応?】

スー・チー氏に“好意的”な見方としては、“不本意ながらも”現在の政治情勢から軍を弁護している・・・という評価もあります。

 

****スーチーを世界中が猛批判! なぜ「人権派の象徴」は「軍部を守る政治家」に変わり果てたのか****

(中略)そもそもスーチーは、軍の支持なくしては、集団虐殺を認め、対策を講じようにもできない現実がある。現憲法によれば、連邦議会の議員数の25%(4分の1)が国軍にあてがわれているため、75%の議員による賛成が必要な憲法改正はほぼ実現できない。

憲法改正を実現し、現在の憲法が保障している軍部の支配を解かないことには、スーチーも彼女の率いる与党国民民主連盟(NLD)も、思うように政策を実現できない状態にある。まして、ロヒンギャを攻撃している軍部を非難して敵に回すようなことになれば、また軍政時代のような独裁国家になってしまう可能性も否定できないのだ。

筆者は2010年の民政移管後すぐにミャンマーに入り、最大都市ヤンゴンや首都ネピドーで取材をした。その印象から、スーチーの現在の姿は、もしかしたら長いスパンをかけた「芝居」なのではないかとの錯覚すら覚えることがある。

 

日本のテレビの警察ドラマで「正しいことをしたければ、偉くなれ」というセリフがあったが、まさにスーチーはそれを実現しようとしているのではないか、と。

国を支配するミャンマー軍から信頼を手に入れ、憲法改正を実現するべく議会75%の壁を破るまで軍部寄りの発言をし、じっと我慢する。それから満を辞して人権派たる自分の真の姿を解放し、正しいと思う変革を進める──。そんなことを妄想してしまう。

それくらい、スーチーの変節は驚くべきものだ。今回の裁判ではミャンマーの状況は何も変わらないだろうが、2020年の選挙ではスーチーが「本当の姿」を見せられるような結果になることを期待したい。【12月14日 COURRIER JAPON】

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【結局、ロヒンギャ嫌悪・軍部擁護がスー・チー氏の本心では?】

しかし、スー・チー氏の本音としても、国際批判とはかなり認識のズレがあるのではないか・・・・というのが個人的な印象です。

 

そうした印象を持つようになったきっかけは、軍の残虐行為を報道したため収監された2人の記者に対する彼女の“裏切り者”という言葉でした。

 

****スー・チー氏の選択:記者恩赦か沈黙維持か *****

スー・チー氏は収監された記者には「非同情的」

 

(中略)米国の前ニューメキシコ州知事で、今年1月までロヒンギャ危機でミャンマー政府を支援する国際諮問機関のメンバーだったビル・リチャードソン氏は、スー・チー氏が2人の記者の釈放を実現させるかは疑問だとの見方を示した。スー・チー氏は記者らが置かれた状況に非同情的だったという。

 

リチャードソン氏は、「わたしが直接彼女にこの問題を提起すると、彼女は怒り出し、興奮してわたしに黙るように言った」と述べ、「彼女はこれが国家機密法違反だと本当に信じているのだとわたしは理解した」と付け加えた。同氏によると、スー・チー氏は2人の記者のことを「裏切り者」と呼んでいたという。(後略)【2018年9月5日 WSJ】

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ミャンマー国内の政治状況の点からすれば、スー・チー氏の今回の国際法廷への出廷は、スー・チー氏及び与党にとってはプラスになるのでしょう。

 

少数民族武装勢力との和解でも憲法改正でも「成果」を出せない、経済背長は鈍るなかで物価上昇によって市民生活が困窮する・・・という現状から、スー・チー政権に対し、主に地方で失望が広がり、“ミャンマーでは2020年11月に総選挙が予定されている。4年前の選挙で大勝したのはアウンサンスーチー国家顧問率いる現政権党・国民民主連盟NLD)だが、最近は逆風にさらされている。”【11月30日 朝日】という政治状況にあります。

 

そのなかで“国内では、スーチー氏の出廷が高く支持されている。応援集会が連日開かれ、ICJの日程に合わせたハーグ行きのツアーに申し込みが殺到。スーチー氏が率いる与党・国民民主連盟は16年の政権奪取後、思うような成果を出せず国民には不満がたまっていたが、今回の件で挽回(ばんかい)につながる可能性もある。”【12月8日 朝日】とも。

 

単にそうした国内向けパフォーマンスのために法廷に立った訳でもないでしょうが。

 

おそらくスー・チー氏は、ロヒンギャを嫌悪する国内世論とその嫌悪感を共有しており、軍のロヒンギャ追放を基本的なところでは支持しているのでは・・・。(殺害・レイプ・放火してもいい・・・とは思っていないでしょうが)

 

(ミャンマー国民及び彼女にとって)“理不尽な”国際批判をかわすために多少の対応はあるにしても、この問題でスー・チー氏に多くは期待していません。

 

 

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ロヒンギャ難民問題  長期化に伴うキャンプ地での軋轢 スー・チー氏、国際法廷で反論か

2019-12-04 23:00:12 | ミャンマー

(あらたに流入したロヒンギャ難民が食料の配給を受け取るために並ぶ。地元住民には配給がないため、不公平感が募る【1128日 龍神孝介氏  WEDGE Infinity】)

 

【長期化に伴い、地元民や以前からの難民たちとの軋轢も】

ミャンマー西部ラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャの弾圧から2年が経過しましたが、バングラデシュに避難した70万人を超えるロヒンギャ難民の帰還にめどが立たないことはこれまでも取り上げてきました。

 

長期化する難民生活で、受け入れ側のバングラデシュ地元住民、そして、以前から難民として暮らしていたロヒンギャの人々と、国際的支援を受ける新たな大量難民との間で生活環境や治安の悪化、雇用機会の競合など様々な軋轢が生じているであろうことは想像に難くありません。

 

****ロヒンギャ大流出で地元住民の生活は?****

20178月に発生したミャンマー軍主導による、大規模なロヒンギャに対する弾圧から2年が経過した。バングラデシュに逃れてきたロヒンギャの多くが早期の帰還を望むも、状況は改善されずキャンプでの暮らしは長期化の様相を呈してきた。

 

ただ、この被害者は大流出したロヒンギャだけではない。地元住民や以前からキャンプで暮らすロヒンギャにもしわ寄せがきている。こうした状況はメディアではあまり報道されていない側面だ。

 

70万人以上の難民を受け入れたコミュニティ

難民キャンプがあるバングラデシュ南東部のコックスバザールは国内でも貧しい地域で、多くの住民が日雇い労働や漁業、農業などに従事している。ここに2年前、あらたに70万人以上のロヒンギャ難民を受け入れることになった。

 

ロヒンギャが流入した当初、地元住民は食料を分け与えたり、寝床を貸したり、洋服をあげたりして献身的に助けていた。同じムスリムであり、困っている人を助けるのは当然だと言う思いがあり、そして何よりいずれ近いうちに彼らはミャンマーに帰るという観測があった。

 

しかし2年が経過するも難民の帰還は進まず、定住化の不安からかホストコミュニティ(ロヒンギャ難民を受け入れている現地の人々)の心境も微妙に変化してきた。

 

ロヒンギャに対しては食料などの援助も届き、無料の診療所が設けられるなど国際社会からの注目も高い。一方で多くの受け入れ側の地元住民は「何の恩恵も受けていない」と訴える。ロヒンギャが流入したことによる様々な問題も生じている。

 

居住地の環境や雇用が悪化

多くの地元住民がロヒンギャの居住地や国際機関、NGOの施設のために、農業用などの土地を政府によって接収された。広大な丘陵は削られて住居や施設のために整備され、森林は伐採され住居や燃料として使われた。

 

地元男性は「ここは以前、とても静かな場所で住みやすかった。ロヒンギャが来てから、井戸が無数に掘られ水源が汚くなった。木も伐採されたためどんどん暑くなってきている」と訴える。(中略)

 

ロヒンギャは国連機関によるインフラ設備、防災工事、NGOの手伝いに従事するケースもあるが、競争率が高いために現地住民が営む農業や漁業などに従事することが多い。

 

本来ロヒンギャは就労が許可されていないため、雇い主も安い賃金でロヒンギャを雇うことが出来る。結果として今まで働いていた地元の人が仕事にありつけなくなってしまう事態が起こっている。

 

地元住民にとっては、働き口が減少して収入は減少した中で、急激に増えた人口による需要の高まりで物価が高騰して暮らしを逼迫させている。(中略)

 

関係性もこじれ、事件も頻発

キャンプ内ではヤバという錠剤で使用されるミャンマー産の覚醒剤が蔓延している。2年前の大流出以降、国境警備の取り締まりが厳しくなり、犯罪組織がロヒンギャ難民を運び屋として利用しているためだ。

 

そのためロヒンギャが密売人や運び屋として逮捕されたり、治安当局によって射殺されたりする事件も数多く報告されている。少女が運び屋として逮捕されたケースもあった。

 

地元の若者がキャンプへ行ってロヒンギャとの関わりによってドラッグに手を染めるのでないかと大人たちは心配する。

 

今年の822日には与党青年組織の地域代表が何者かに殺害される事件が起こった。地元警察は容疑者として10人以上のロヒンギャを射殺した。

 

2年前の流入以来、ロヒンギャによる地元住民への強盗や空き巣が頻発。2年間にキャンプ内で50人近くのロヒンギャが別のロヒンギャに殺害されるなど治安は悪化する一方だ。

 

治安の悪化に怒りを募らせた地元住民によるロヒンギャが営む露店の破壊や、道路封鎖も起きており、関係性は明らかに悪くなっている。(中略)

 

数十万人のロヒンギャ難民が集結した抗議集会に対して、幾つかの地元メディアは「難民が政治活動を行うのは、国連やNGOなどが手厚く保護するからだ」と批判的な記事を掲載した。様々な代償を払い難民を受け入れているホストコミュニティのロヒンギャに対する心境は着実に変わりつつある。

 

2017年以前からキャンプで暮らすロヒンギャの心境

もともとバングラデシュにはおよそ30万人のロヒンギャがバングラデシュのキャンプに暮らしていた。主に彼らは1970年代から20178月までに何度か起こったミャンマーでの弾圧や圧政から逃れてバングラデシュにやってきた。(中略)

 

2017年以前から難民キャンプで暮らすロヒンギャたちは一様に2年前に比べて暮らしぶりが悪くなったと語る。彼らが言うには新しく来たロヒンギャの方が人数も多く、発言力もあって社会からの注目度も高いため、手厚い援助を受けている。「自分たちの方が古くからここで暮らしているのに不公平だ」と主張する。(中略)

 

以前から暮らしていたロヒンギャへの援助は減少し、移動は厳しく制限され、仕事にあぶれることも多くなった。通信も制限され、ミャンマーにいる家族や親戚との連絡手段がなくなった。「難民として最低限の暮らしを強いられてきたが、さらに不自由になった」と嘆く。(中略)

 

同じロヒンギャであり、同じ難民でありながら心境は複雑だ。注目度の高さや発言力により格差が生じている。はっきりとは言わないが彼らの多くがあらたにやって来たロヒンギャに何らかの不満を持っている。

 

2年前に起きた大弾圧で凄惨な体験をしたロヒンギャには安息の場所が与えられるべきである。しかし難民の間にも格差が生じ、ホストコミュニティにも負担が強いられる。

 

昨今、大量の難民が流入した一部のヨーロッパ諸国が体験したようにこの軋轢が今後、大規模な衝突や排斥運動に繋がることも懸念される。早期の帰還へのプロセス作りが最も優先されるべき課題だが、一方で共存への道を探ることも忘れてはならない。【1128日 龍神孝介氏 (フォトジャーナリスト)WEDGE Infinity

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難民生活の長期化に伴って、子供たちの教育をどうするのか・・・という問題も生じています。

 

****ロヒンギャ40万人に教育を 人権団体、バングラデシュを非難*****

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は3日、ミャンマーで迫害され、隣国バングラデシュで暮らすイスラム教徒少数民族ロヒンギャの子どもたち約40万人の教育を受ける権利を、バングラデシュ政府が奪っていると非難する報告書を発表した。

 

報告書は、バングラデシュは難民キャンプで暮らすロヒンギャの子どもたちに、公的な教育を受けることを許可していないと指摘。教育を受けられなかった子どもたちは児童労働や児童婚の被害者になる危険性が高まるとして、直ちに改善するように訴えた。【123日 共同】

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【故郷ラカイン州で活動が活発化する「アラカン軍」 改善しない治安】

問題の解決・緩和のためには、キャンプ地での共存のための施策、教育の提供も必要ですが、やはり本筋としては、早期に帰還できる環境を整えることが一番重要でしょう。

 

もちろん、バングラデシュ政府が検討しているような難民たちをベンガル湾に浮かぶ島へ移住させて実質的に隔離するというのは解決策になりません。

 

難民帰還のためには、故郷ラカイン州の安定が絶対条件ですが、弾圧の主体となったミャンマー国軍がその責任を認めておらず、いまだに状況があんていしないという問題があります。

 

それに加えて、ラカイン州では「アラカン軍」の抵抗という新たな問題が表面化しており、治安改善は見通せない状況のようです。

 

ラカイン州に暮らす地元住民ラカイン人はロヒンギャを迫害したとされていますが、ミャンマー全体からすれば彼らもまた少数民族であり、中央政府の差別に対する武装闘争を劇化させています。

 

****ミャンマー少数民族問題の新たな火種──仏教徒ゲリラ「アラカン軍」という難題****

<少数民族が武装闘争を続けるミャンマーで新たな混迷を呼ぶ「アラカン軍」が支持される複雑な理由>

 

(中略)ミャンマーには、政府に公認されているだけで135もの少数民族が存在する。モザイク国家を絵に描いたようなその多様性は1948年の独立以来、紛争の火種になってきた。少数民族を戦いに駆り立てるのは、政府や国軍の長年にわたる差別や搾取に対する強い不満だ。

 

独立時に掲げられた「連邦制」は名ばかりで、多くの少数民族には自治権はおろか学校で自分たちの歴史や言語を学ぶことも許されていない。

 

さらに彼らの居住地では、国軍による強制労働や土地の収奪、住民に対する暴力が頻繁に起きている。また、戦闘が発生するたびに多くの市民が家を追われ、隣国の中国やタイで難民化した。

 

中央政府は少数民族と和平協議を続けてきたが、その目的は彼らの土地に眠る天然資源や国境貿易の利権だったため、交渉はまとまっては決裂し、新たな紛争が生まれた。

 

2016年にアウンサンスーチー国家顧問が率いる国民民主連盟(NLD)が政権に就き、少数民族との和平を最優先課題に掲げると、やっと状況が変わるという期待が広がった。

 

だが、国軍と少数民族の調整がうまくいかず、和平協議は難航しており、現在も中国国境付近のシャン州などで、複数の武装勢力が戦闘を繰り広げている。なかでも今、勢いを増しているのが仏教徒ゲリラのアラカン軍だ。

 

アラカン軍は2009年に設立された比較的新しいラカイン人の武装組織。今年の1月、ラカイン州北部の警察施設への襲撃を皮切りに独立闘争を開始した。

 

これまでに警察施設のほか国軍の交通・物流の拠点などを幾度も攻撃しており、当初は北部中心だった戦闘地域も南部や市街地にまで伸張している。10月にはラカインの州都シットウェから北部に向かうフェリーをハイジャックして、ミャンマー軍兵士や警察官およそ50人を誘拐する大胆な作戦を敢行し、海外メディアにも注目された。(中略)

 

失望と戦いの悪循環

「ヤンゴンに初めて行ったとき、すごくびっくりした。ビルがたくさんあって、道路も整備されていて、どこでも電気が通っている。僕の村はとても貧しくて、毎晩ロウソクの火で勉強していたから」

 

(元「アラカン軍」メンバーの)アウンは最大都市ヤンゴンを訪れて、初めて故郷ラカインの貧困に気付いた。自分たちの失われた権利や富を取り戻すためには戦うしかない。それが、14年前にゲリラに入隊した理由だった。(中略)

 

かつてラカイン州に栄えたアラカン王国はベンガル湾の覇権を握る大国で、ラカイン人はその歴史に揺るぎない誇りを持っている。

 

1784年にビルマ人王朝に王国が滅ぼされた後も、学識の高さで知られたラカイン人は、英国の植民地政府で要職を得ていたという。だが独立後のミャンマーでは、多数派ビルマ人の言語や宗教、歴史を中心にした「ビルマナショナリズム」による国造りが進められる。

 

その結果、他の少数民族の人々は、経済開発の恩恵や社会的地位を得る機会を失っていく。ラカイン州も同じ道をたどり、同州の貧困率は今や78%と国内平均の倍以上だ。

 

もう1つ彼らが不満を募らせているのが、中国資本の経済開発だ。1988年に誕生した軍事政権下で国際的に孤立したミャンマーは、隣国・中国に依存するようになる。1990年代から対外援助を利用して自国経済の発展を目指した中国は、ミャンマーへの経済・軍事協力を続け、両者は親密さを増していった。

 

「一帯一路」構想が打ち出されると、インド洋に面し、豊富な天然資源を擁するラカイン州でも、中国資本の経済開発が盛んに行われるようになる。だが、こうした開発の収益は中国企業と中央政府で分配されているため、地元にはほとんど還元されていない

民主化の象徴だったスーチーの再起には、ラカイン人も期待を寄せた。ところが、地元の民族政党アラカン国民党(ANP)のミャウー支部で書記を務めるタンニーウィン(33)は、「スーチー氏が政権トップになって3年が過ぎたが、変化は感じられず、NLDに対する失望が広がっている」と話す。

 

誰も助けてくれないのなら独立しかない──ラカイン人の積年の鬱屈を晴らす唯一の希望がアラカン軍なのだ。(後略)【1128日 今泉千尋氏(ジャーナリスト) Newsweek

*******************

 

「アラカン軍」は武器・資金の支援を中国に求めています。

中国は、紛争状態が続いた方が、調停者としての影響力を発揮できます。

国軍も、紛争状態が続く方が存在感が高まります。

 

このように、ミャンマーがいつまでも紛争から抜け出せない背景には、戦いに乗じて甘い汁を吸おうとする当事者の思惑があるとも上記記事は指摘しています。

あるミャンマー研究者は、「ミャンマーでは紛争が秩序の前提になっている」と指摘しているとも。

 

【スー・チー氏のもとでも状況改善せず 地方部で高まる不満】

そうした状況の打破が期待されたスー・チー氏でしたが、今のところは改善の歩みは遅いようです。

そのため、特に地方部においてスー・チー人気の陰りが見えるようです。

 

****こんなはずじゃなかった スーチー氏、地方で強まる不満****

ミャンマーでは2020年11月に総選挙が予定されている。4年前の選挙で大勝したのはアウンサンスーチー国家顧問率いる現政権党・国民民主連盟NLD)だが、最近は逆風にさらされている。(

 

「期待を裏切られ、悲しかった」。ミャンマー南部モン州議会議員を務める、少数民族モン族中心の政党メンバーのアウンナインウーさん(49)がそうこぼす理由は、州都モーラミャインの橋の名前だ。

 

地元の地名を使うと決まっていたのだが、一昨年、アウンサンスーチー氏の父、アウンサン将軍の名前をつけるようNLD政権から指示された。「この地の名前一つ一つはモンの人々にとって大切。それを権力で変えることが『民主化』なのか」。数万人による抗議活動も起きた。

 

もともと、ビルマ族中心の政府から距離を置いていた少数民族の人々だが、前回選挙では「民主化で平等にしてくれる」とNLDを支持した。(中略)しかし政権の座についたNLDの中央集権的なやり方に、地方では不信感が膨らむ。

 

各地で少数民族系政党の再編が進み、東部カレン州では4党が、モン州や北部カチン州では3党が一本化した。次の選挙でこれらの政党に票が流れる可能性が高まっている。

 

和平も改憲も進まず

NLDが公約した少数民族武装勢力との和平協議は進んでいない。約20ある武装勢力のうち、前政権で8組織が署名した停戦合意はNLD政権では2組織にとどまる。

 

少数民族側からは不満が噴出する。カチン州で強い影響力を持つカチンバプテスト教会のカラム・サムソン氏(58)は「和平の橋渡しをしなければならない州選出のNLDの国会議員には経験も熱意もない」と批判する。「党本部の意向ばかり気にして我々の声を聞こうとしない」(中略)

 

もう一つの旗印、憲法改正も見通しが立たない。スーチー氏らは議会の議席の4分の1を「軍人枠」とする現憲法の改正を求めるが、改憲には4分の3超の賛成が必要なため、軍の同意が不可欠だ。国軍側は少数民族との衝突が続く現状に「国の安定が必要だ」として、スーチー氏らの要求に応じる気配はない。(中略)

 

経済政策にも不満の矛先が向く。前政権で8%超だった経済成長率は5~6%台。増える消費に生産が追いついていないなどの理由から、インフレ率は19年8月に8%を超え、東南アジアで最悪だ。食料品を中心に物価が上がっている。カチン州の農家サラクエシンさん(35)は「NLD政権で暮らしも楽になると思っていた。前政権の時の方が生活はよかった」と憤る。

 

都市部はなお盤石

NLDが前回同様の大勝を収めるのは難しそうだが、都市部を中心にNLDへの支持はなお厚く、第1党は間違いない情勢といえる。(中略)

 

約70万人が難民になっている少数派イスラム教徒ロヒンギャ問題でも、国際社会が厳しい視線を送る中で「自国の問題。自分たちで解決する」と強気の姿勢を崩さないスーチー氏に国内の支持はむしろ強まっている。仏教徒が約9割を占めるミャンマーロヒンギへの視線が冷めているのが理由だ。(後略)【1130日 朝日】

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【ロヒンギャ問題で国際批判に対する“勝負に出る”スー・チー氏】

地方部での人気の陰りがみられるスー・チー氏としては、ロヒンギャ問題で国際批判に屈しない対応を示すことは、国民の支持をつなぎとめる重要な手段ともなります。

 

****スー・チー氏、12月国際法廷に ロヒンギャ巡りリスクも****

ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害問題を巡り、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が12月上旬にオランダの国際法廷に赴き、欧米諸国からの厳しい批判に直接反論することになった。

 

国内では歓迎の声が上がる一方、事実上の国のトップだけに、不調に終わった場合のリスクが高すぎるとの懸念も聞かれる。

 

スー・チー氏が出廷するのは国際司法裁判所(ICJ、オランダ・ハーグ)。西アフリカのガンビアがイスラム協力機構(OIC)を代表し、ジェノサイド(民族大虐殺)があったとしてミャンマーを提訴した。スー・チー氏は、異議を唱える見通しだ。【1130日 共同】

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これまでロヒンギャ問題について語ることが少なかったスー・チー氏ですが、国際批判に反論する形で“勝負に出る”ようです。

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ロヒンギャ難民 進まぬ帰還 バングラデシュ側は携帯禁止、強制移住で「隔離」へ

2019-09-07 21:20:22 | ミャンマー

(ロヒンギャの「ジェノサイドの日(825日)」にバングラデシュの難民キャンプで開催された大規模集会【93日 Newsweek】)

 

【責任逃れの域を出ないミャンマー側の取り組み】

これまでも取り上げてきたように、ミャンマー西部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難した70万人をこえるイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還は進んでいません。

 

国際社会から批判を受けるミャンマー政府は帰還のためのパフォーマンスは行っていますが、民族浄化と言える殺害・暴行・レイプ・放火などを行った国軍の責任が問われず、国籍の付与も明らかにされておらず、ラカイン州での安全な生活が保障されていない現状では、ロヒンギャ難民は帰還に応じていません。

 

帰還を可能にする基本的な問題に手を付けないまま、単にバスだけ用意して、帰還に向けて取り組んでいますと言われても・・・・。

 

****大弾圧から2年、ロヒンギャ20万人が難民キャンプで集会 バングラ****

ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが国外に逃れるきっかけとなった同国軍による苛烈な弾圧から2年を迎え、バングラデシュにある難民キャンプで25日、ロヒンギャ約20万人が参加して集会が開催された。

 

ロヒンギャをめぐっては数日前、2度目となるロヒンギャを帰還させる2度目の試みが行われたものの、失敗に終わっていた。

 

20178月に開始された国軍の容赦ない弾圧により、ロヒンギャ約74万人がミャンマーのラカイン州を脱出。バングラデシュ南東部にある広大な難民キャンプにはすでに、迫害のため以前から避難していたロヒンギャ20万人が暮らしていた。

 

世界最大の難民キャンプであるクトゥパロンの中心部では、ロヒンギャの人々が「ジェノサイド(大量虐殺)の日」と呼ぶこの日をしのび、子どもやヒジャブを着用した女性、「ルンギー」と呼ばれる長いスカート状の服を着た男性らが行進し、「神は偉大なり、ロヒンギャ万歳」とシュプレヒコールを上げた。

 

さらに焼け付くような日差しの下、大勢が「世界はロヒンギャの苦悩に耳を傾けない」という歌詞の愛唱歌を合唱した。

 

タヤバ・カトゥンさんは頬に涙を流しながら、「2人の息子を殺されたことに対する正義を求めてここに来た。最後の息をつくまで正義を求め続ける」と語った。

 

ミャンマー側は弾圧について、ロヒンギャの武装集団に警察施設が襲撃されたことを受け、鎮圧作戦を実施したと主張している。しかし国連は昨年、ミャンマー軍幹部をジェノサイドの罪で訴追するよう求めた。

 

ロヒンギャの指導者であるモヒブ・ウラー氏は、ロヒンギャは故郷へ戻ることを求めているが、まずは市民権を付与され、安全が保証され、自分たちの村で再び暮らすことが認められてからだと話す。

 

ウラー氏は集会で、「ビルマ(ミャンマー)政府に対話を求めてきた。しかしまだ何の返事もない」「われわれはラカイン州で殴打され、殺され、レイプされた。だが今もそこは故郷であり、われわれは戻りたい」と訴えた。

警察官のザキール・ハッサン氏がAFPに明らかにしたところによると、この集会にはロヒンギャ約20万人が参加した。 【825日 AFP】

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ミャンマー側も、国際批判の手前、多少は動きを見せないと・・・という考えもあるのか、一部国軍兵士の責任を問う動きもあるようです。

 

****ロヒンギャ迫害か、国軍兵士ら訴追へ ミャンマー****

ミャンマー国軍は、約70万人が難民になっている少数派イスラム教徒ロヒンギャが暮らしていた地域での、治安部隊による問題行動について、軍法会議を開き、関与した者を訴追する方針を示した。8月31日、国軍最高司令官事務所が明らかにした。

 

ロヒンギャへの新たな迫害行為を国軍が認める可能性がある。国軍が運営するメディアも同様の内容を報じた。

 

同事務所のウェブサイトなどによると、ロヒンギャが住んでいた西部ラカイン州の村で複数件、兵士らが「指示に従わなかった」行為があったとして、国軍が軍法会議にかけて必要な措置を取るとしている。

 

問題行為の具体的な内容は明かされていない。国軍が示した村の名前などから、AP通信が昨年2月、ロヒンギャの多くの遺体が埋められたと報じた件に関連している可能性がある。

 

国軍は、2017年8月の治安部隊による掃討作戦でロヒンギャを迫害したと国際社会から非難され、同年の独自調査でロヒンギャへの暴行を「なかった」と結論づけた。その後、ロヒンギャ10人の殺害に兵士らが関与したことが発覚し、兵士7人が懲役刑を受けていた。【92日 朝日】

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74万人を国外に追いやった民族浄化が、一部兵士の「指示に従わなかった」行為によるものとは到底思えませんが、ミャンマー国軍としては、このあたりが限界なのでしょうか。

 

自浄が期待できないなら、国際機関を入れての調査が必要になりますが、ミャンマー政府はこれを拒んでいます。

 

【負担が大きいバングラデシュ政府は「隔離政策」の方向へ】

一方、難民社会における難民の犯罪行為への関与やテロ勢力の浸透など、大量の難民を受け入れてきたバングラデシュ側の負担も大きくなっています。

 

****ロヒンギャ大量流出2年 帰還開始で合意も希望者ゼロ****

ミャンマーからイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に流出し、4日までに2年が経過した

 

。両国は帰還開始で合意しつつも、難民に希望者がおらず事態は膠着(こうちゃく)。事態の早期解決が困難な状況の中、バングラデシュではロヒンギャが治安の不安要因となり始めている。

 

2017年8月25日、ミャンマー西部ラカイン州で治安部隊とロヒンギャの武装集団が衝突し、国連によると、約74万人が難民となってバングラデシュ南東部コックスバザールに逃れた。

 

両国は昨年11月の帰還開始で合意したが、希望者がおらず中止に。今年8月22日にも両国が約3500人の帰還開始で一致し、大型バスも用意されたが、手を挙げる難民はなく帰還は実現しなかった。逆に難民は流出2年となった25日にキャンプで10万人規模の集会を開催し、ミャンマー政府に対して抗議の声を挙げた。

 

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相率いる与党国民民主連盟(NLD)は、来年の総選挙を控え、多数派仏教徒の支持を取り付けたい局面にある。

 

ロヒンギャの帰還を急げば、受け入れに反発する仏教徒の支持離れは免れない。国際社会に問題を解決する意向は示しつつも、積極的な帰還には及び腰だ。

 

バングラデシュ側は受け入れについて、「限界に達している」(ハシナ首相)と繰り返し訴えている。2年を経て顕在化するのは、治安への不安だ。

 

ロヒンギャ難民が犯罪グループに加入するケースが相次ぎ、特に薬物の運び屋として“雇用”されている。今年に入って40人以上のロヒンギャが薬物犯罪に関わったとして治安当局などに殺害されたとされる。

 

バングラデシュ政府は難民キャンプ周辺で「安全保障上や治安上の理由」により携帯電話を遮断する方針も打ち出す。

 

地元ジャーナリストは、難民がイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)などテロ組織に勧誘される可能性を指摘。「事態の膠着が続けばあり得ない話ではない」と警戒している。【94日 産経】

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上記記事にある「携帯電話禁止措置」については、以下のようにも。

 

****ロヒンギャ難民の携帯利用禁止 バングラ政府 ****

バングラデシュは、イスラム系少数民族ロヒンギャ難民が携帯電話サービスを利用できないようにする。

 

ネット接続の主要手段を奪うことにもなり、本国ミャンマーからのニュースや親族との連絡を携帯電話に頼るロヒンギャにとって大きな痛手となる。

 

ロヒンギャ難民はバングラデシュ内での移動や雇用機会を著しく制限されており、携帯電話の利用ができなくなれば孤立状態がさらに深まる。バングラデシュには2年前、ミャンマー軍の弾圧を逃れようとするロヒンギャ難民70万人超が流入した。

 

バングラ政府は1日、携帯電話会社に対して、ロヒンギャ難民への携帯SIMカードの販売を停止するよう指示した。

 

ムスタファ・ジャバル通信相はインタビューで、ロヒンギャ難民の身元確認資料が不足していることが要因と説明した。同国の法律では、身元確認資料がそろっていないとSIMカードの登録ができない決まりだという。

 

また、ロヒンギャ難民が現在使用しているSIMカードも使えないようにする方針だと述べた。ロヒンギャの犯罪組織が携帯電話を使って連携するのを阻止する狙いがあるとした。

 

外国政府はこれまで、先進国の多くが移民受け入れを制限する中で、イスラム教徒中心のバングラデシュが大量のロヒンギャ難民を受け入れたことを高く評価していた。

 

バングラデシュ政府はロヒンギャに対し、自発的にミャンマーに帰還するよう求めているが、ロヒンギャはミャンマー政府による帰還受け入れの申し出を拒否している。

 

ミャンマー政府は8月下旬にも少数の帰還受け入れを申し出たが、ロヒンギャの間ではミャンマー軍に再び攻撃されるとの懸念がなお根強い。【95日 WSJ】

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就労も禁止され、通信手段も奪われる・・・・ということで、ますます難民キャンプ全体が大きな監獄のようにもなっていきます。

 

バングラデシュ政府は、キャンプそのものを交通もままならない辺鄙な場所に移してし、地域社会から隔離する計画も進めています。

 

****ロヒンギャ難民、強制移住も視野 バングラデシュ、避難長期化で****

バングラデシュのモメン外相は26日までに共同通信のインタビューに応じ、隣国ミャンマーから逃れてきたイスラム教徒少数民族ロヒンギャの集団帰還が進まないため、国境近くの難民キャンプからベンガル湾の島に強制移住させることも視野に入れていると明らかにした。

 

70万人以上が避難するきっかけになったロヒンギャ武装勢力と治安部隊の戦闘から25日で2年が経過した。モメン氏は同日のインタビューで避難生活の長期化に懸念を表明。

 

南東部コックスバザールのキャンプは雨期に土砂災害の危険があるとして「帰らないなら、より強い姿勢を取ることになる」と述べた。【826日 共同】

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この強制移住先“ベンガル湾の島”については、【627日 Newsweek「終わりなきロヒンギャの悲劇」】によれば、およそ人が住むには適さない場所とされています。

 

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なお、難民受け入れの負担を何とか減らしたいバングラデシュ政府が強行しようとしているのが、キャンプから北西に約120キロ離れた国内の無人島バシャンチャールに、10万人のロヒンギャを移送する計画です。

 

ベンガル湾に浮かぶこの小さな島は、1020年ほど前に浅瀬に泥が堆積してできた「泥の島」で、バングラデシュ政府による突貫工事で防波堤と10万人分の居住施設が完成間近だそうです。

 

ただ、もともと泥の堆積による「泥の島」で、人間の居住には適さないとして以前計画が棚上げ状態にもなった場所です。

 

建設中の防波堤がどれほどのものかは知りませんが、バシャンチャールは島というよりは中州のように海抜が低く、海が荒れたらひとたまりもなく水没しそうだ。627日 Newsweek「終わりなきロヒンギャの悲劇」】とも。

 

また、住民によれば、この辺りの島々は外界から隔絶しているため医療・教育施設が乏しく、荒天時には文字どおり孤島になるという。そんな場所に難民を閉じ込めれば、バングラデシュ社会と共生することもミャンマーに帰ることも難しくなるだろう。【同上】

715日ブログ「中国のウイグル族弾圧を擁護するミャンマーのスー・チー政権」より再掲】

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こういう状況にあれば、難民のなかに過激なテロ組織に共鳴する者が出てきてもなんら不思議ではなく、そうなるとますますバングラデシュ政府の隔離政策が強まることも予想されます。

 

多くの問題同様、ロヒンギャの問題も出口が見えない状況です。

 

 

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中国のウイグル族弾圧を擁護するミャンマーのスー・チー政権

2019-07-15 23:25:29 | ミャンマー

(モンスーン期の豪雨に襲われたバングラデシュのロヒンギャキャンプ【712日 CNN】)

 

【中国をする擁護する国々のそれぞれの事情】

中国・新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル族などイスラム系少数民族を中国当局が100万人規模で「職業訓練」という名目で収容施設に拘束し、宗教・文化的“浄化”を行っているのではないかとの重大な疑念に関しては、国連人権理事会を舞台に、中国を批判する日本・英仏などと、中国を擁護するロシアなどが公開書簡という形でやり合うという異例の展開になっています。

 

批判する側は、日本のほかオーストラリア、カナダ、英国、フランス、スイスなど22カ国の大使が署名していますが、議案や公式声明ではなく公開書簡の形をとったは各国政府が中国からの政治的、経済的反発を恐れたためとのことです。

 

書簡は、新疆と中国全土で宗教の自由や信仰の自由を含めた人権と基本的自由を尊重するよう中国に要求し、国際的な専門家による新疆地区への視察を中国が認めるよう要請しています。【711日 ロイターより】

 

一方の中国支持グループは・・・。

 

****ロシアなど37か国が国連に書簡、ウイグル問題で中国擁護****

中国・新疆ウイグル自治区におけるウイグル人や他の少数民族への処遇をめぐり、日本や欧米諸国などが今週、国連人権理事会に中国を非難する書簡を提出した。これを受けて今度は、37か国の国連大使らが12日、中国の対応を擁護する書簡を公開した。

 

同自治区では、主にウイグル人ら100万人が収容施設に拘束されていると伝えられており、欧州連合各国や、オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランドの大使らは今週、中国の処遇を非難する文書に署名していた。

 

これに対し、ロシアやサウジアラビア、ナイジェリア、アルジェリア、北朝鮮など、37か国のグループは12日、中国政府に代わって共同書簡を公開。ミャンマーやフィリピン、ジンバブエなども署名した。

 

この書簡には、「われわれは、人権の分野における中国の顕著な成果をたたえる」「テロリズムや分離主義、宗教の過激主義が、新疆の全ての民族に多大なダメージをもたらしていることにわれわれは留意している」と記されている。

 

国連人権理事会では通常、各国が非公開の席で交渉し、公式決議を作成しようとするため、公開書簡の形で応酬する事態は珍しい。 【713日 AFP】

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このやり取りでまず気づくのは、中国批判グループに中国との対立を深めているアメリカの名前がないこと。

アメリカは1年前に中国やロシアといった「人権侵害国」が理事国になれるような仕組みは受け入れがたいこと、イスラエルに対する恒常的な偏見があること――などを理由に、人権理事会を離脱しています。

 

イスラエル云々はともかく、確かにアメリカが主張するように人権理事会の構成・運営には問題がありますが、トランプ流の反国際協調路線では、国際社会への影響力が弱まる結果にもなります。

 

面白いと言うか、興味深いのは中国擁護グループの顔ぶれ。それぞれの事情が垣間見えます。

 

まず、中国擁護の旗振り役にロシアが立っていることは、アメリカに対抗する形での最近の中ロ接近を示すものともなっています。

 

サウジアラビアはやはり国際社会から、カショギ氏殺害事件など、重大な人権侵害があると批判されていますので、中国と共同戦線をはって国際批判に対抗しようということでしょうか。

 

フィリピン・ドゥテルテ政権も、麻薬問題での「超法規的殺人」を批判されていますので、サウジと同様なところでしょう。また、ドゥテルテ大統領と中国の親密な関係も周知のところです。

 

ナイジェリア、アルジェリア、ジンバブエの事情はよく知りませんが、中国が長年アフリカとの関係を重視してきたこと、および中国による近年の莫大な経済投資の成果でしょうか。

 

そして、ミャンマー。

 

ミャンマーもやはり二つの事情を抱えていると思われます。

ひとつは、イスラム系少数民族ロヒンギャへの民族浄化的弾圧を中国同様に国際社会から批判されており、そうした国際批判への反発があるのでしょう。

 

もうひとつは、やはり中国との関係を重視したいという思惑でしょう。

 

脛に傷を持つ国々、中国の投資を期待する国々が、欧州主導の“人権擁護”世論に抗しているという構図です。

 

なお、人権理事会を離脱しているアメリカ・トランプ政権は、対中国批判と言う点では日本・西欧と同じ側にあるのでしょうが、もし対中国という要素がなければ、単に“人権擁護”といういう視点からの批判に関して言えば、サウジアラビアやドゥテルテ政権と同じ側に立つのかも。

 

このあたりが、世界が抱える深刻な問題点です。

 

【終わりなきロヒンギャの悲劇】

話をミャンマーに戻します。

ロヒンギャの帰還問題が一向に進展しないのは、これまでも取り上げてきたように、基本的には、帰還してもミャンーにおいて安心して生活できる状況にないことが理由です。

 

隣国バングラデシュのキャンプでの生活が長期化するにつれ、かねてより懸念されていた雨期の問題が表面化しています。

 

****ロヒンギャ難民キャンプがモンスーン被害、10人死亡 住居約5000戸が破壊される****

100万人近くのイスラム系少数民族ロヒンギャが収容されているバングラデシュ南東部の難民キャンプがモンスーンの被害に遭い、少なくとも10人が死亡、多くの住居が破壊された。当局が14日、明らかにした。

 

バングラデシュ気象局によると、ミャンマー軍の弾圧から逃れたロヒンギャ難民が生活しているバングラデシュ南東部のコックスバザールでは、今月2日からの雨量が585ミリに達した。

 

国際移住機関の報道官は、難民キャンプで発生した土砂崩れにより、7月前半の2週間だけで、防水シートと竹でできた小屋4889戸が破壊されたと説明。このキャンプでは、丘の斜面に難民たちの小屋が多く建てられているという。

 

国連によると、この難民キャンプでは4月以降、200回以上の土砂崩れが報告されており、少なくとも10人が死亡し、5万人近くが被害を受けた。また、先週だけでも未成年のロヒンギャ難民2人が死亡し、約6000人が豪雨によって住居を失った。

 

さらに、750か所以上の学習センターが被害を受け、5か所が激しく損壊したことで、子ども約6万人の教育が中断したという。

 

難民らは雨で物流や日常生活に影響が出ていると話す。その一人はAFPに対し、泥水の中を歩いて食料配給センターに行くのは大変だと訴え、「豪雨と突風で生活は悲惨な状態になった」と嘆いた。

 

また難民らは、飲料水の不足や、トイレが水浸しになったことで病気の流行が助長され、健康上の危機が迫っていると訴えた。 【715日 AFP

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この事態に“バングラデシュの外務相高官は、「国連と連携した不測の事態に対する備えは万全」だったと強調し、ハシナ首相は常にロヒンギャに特別の配慮をしていると言い添えた。”【712日 CNN】とのことです。

 

このままでは雨期になれば大きな被害が出るだろうということは、以前から指摘されていた問題です。

モンスーンの季節は始まったばかりで、10月まで続きます。

 

なお、難民受け入れの負担を何とか減らしたいバングラデシュ政府が強行しようとしているのが、キャンプから北西に約120キロ離れた国内の無人島バシャンチャールに、10万人のロヒンギャを移送する計画です。

 

ベンガル湾に浮かぶこの小さな島は、1020年ほど前に浅瀬に泥が堆積してできた「泥の島」で、バングラデシュ政府による突貫工事で防波堤と10万人分の居住施設が完成間近だそうです。

 

ただ、もともと泥の堆積による「泥の島」で、人間の居住には適さないとして以前計画が棚上げ状態にもなった場所です。

 

建設中の防波堤がどれほどのものかは知りませんが、“バシャンチャールは島というよりは中州のように海抜が低く、海が荒れたらひとたまりもなく水没しそうだ。”【627日 Newsweek「終わりなきロヒンギャの悲劇」】とも。

 

また、“住民によれば、この辺りの島々は外界から隔絶しているため医療・教育施設が乏しく、荒天時には文字どおり孤島になるという。そんな場所に難民を閉じ込めれば、バングラデシュ社会と共生することもミャンマーに帰ることも難しくなるだろう。”【同上】


ようするに地元住民と難民の軋轢を回避するための隔離政策でしょうか。

 

内政不干渉で加盟国間の批判を避けようとするのが基本姿勢のASEANは、ロヒンギャ帰還問題には及び腰ですが、今年の外相会議ではロヒンギャ難民の帰還スケジュールについてミャンマー・バングラデシュ両国が協議し、明確にするよう求め、ASEANとしての積極的関与姿勢を示したとのこと。

 

また首脳会議では、イスラム国のマレーシアのマハティール首相とインドネシアのジョコ大統領は首脳会議で、ロヒンギャ難民の帰還は「安全が保証されなければならない」と強く要求したとのことです。

 

ただ、実態としては多くの変化は期待できない状況でもあるようです。

 

****ロヒンギャ流出から来月2年 ASEAN、ロヒンギャ問題「役割強化」で一致も遠い解決****

ミャンマーからイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に流出し、来月で2年となる。帰還への見通しが立たない中、先月23日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議ではASEANが解決に向けて行動することが再確認された。

 

ただ、来年に選挙を控えるミャンマーは帰還に消極的なこともあり、早期の解決は困難な状況だ。(中略)

 

ミャンマーは来年に総選挙を控え、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相率いる与党国民民主連盟(NLD)は多数派仏教徒の支持を取り付けたい局面だ。ロヒンギャの帰還を急げば、一部仏教徒の支持離れは免れない。(中略)

 

ASEAN諸国には自国に難民が押し寄せることについて懸念があるが、加盟国ミャンマーへの配慮から、ミャンマーとバングラデシュに自助努力を促す姿勢に変化はなさそうだ。

 

内政不干渉が原則のASEANが議長声明で関与強化を明言したことを評価する声もあるが、どれだけ実効性を伴った「役割」を果たせるかは不透明だ。【71日 産経】

****************

 

【中国の圧力と住民反発の板挟み】

ミャンマーがウイグル族収容所問題で中国擁護にまわっているもうひとつの要素、中国との関係については、ミャンマー政府としては中国からの投資に期待するところが大きいようですが、住民レベルでは中国の経済進出への不満も大きくなっているようです。

 

特に注目されているのは、工事再開を求める中国と、建設に反対する住民との間でミャンマー政府が板挟み状態にもなっているミッソンダム建設で、この問題は52日ブログ“ミャンマー  ミッソンダム建設再開で住民と中国の板挟み状態のスー・チー政権 劣悪な電力事情”でも取り上げました。

 

その後、ミャンマー政府の明確な対応が示されたという話は聞きませんので、依然として板挟み状態が続いているのではないかと思われます。

 

「一帯一路」の要としてのミャンマー進出に力を入れる中国と地元住民の反感という問題は、ミッソンダム建設だけではありません。

 

****ミャンマーの中国人強制退去****

ミャンマー北部カチン州のワインモー郡当局は5月から6月にかけて、同郡にある無許可の違法バナナ農園などで不法滞在して労働に従事していた中国人23人などを検挙、罰金を科すとともに中国に強制送還する措置をとったことが明らかになった。

 

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が613日に伝えたもので、ミャンマーなどで急増している中国人による不法労働の実態が浮き彫りになった。(中略)

 

(強制退去処分となった)この10人は近くの中国資本のバナナ農園で労働者として働いていたが、農園そのものも許可受けていない無許可違法農園であることがわかり、郡の関係当局が実態調査を始めた。

 

別のバナナ農園で働いていた中国人9人は他人所有の土地などに侵入して不許可で樹木を伐採したり、勝手に開発したりするなどしていたためミャンマーの森林法違反で摘発され、やはり同額の罰金を支払わされた。(中略)

 

■ 12年前から違法バナナ農園による乱開発

カチン州でこうした不法滞在の中国人が相次いで摘発、強制送還処分を受ける背景には同州の州都ミッチーナ近くを流れるイラワジ川沿いに点在する空き地や休耕地に続々とバナナ農園ができているという背景があると地元NGOは指摘する。

 

カチン州のNGO組織「土地と環境保護のネットワーク」によると中国資本のバナナ農園は近隣のミャンマーやタイでは原則禁止されている。

 

このため約12年前からミッチーナ郡やバモー郡、ワインモー郡など中国と国境を接するカチン州に続々とバナナ農園が進出、現在では合計の広さは約10エーカーにも達しているという。

 

バナナ農園の多くが中国資本で、地元住民とともに中国人労働者が農園労働者として働いているものの、その大多数が労働許可を取得していない不法滞在の中国人という。さらに郡当局によると、中国資本のバナナ農園はそのほとんどが無許可経営で周辺住民との間でいろいろな問題を起こしていると指摘する。

 

ミャンマー農民が所有する空き地や休耕地や農地に無許可で侵入しては勝手にバナナの樹を植えて農園にしてしまうという無茶な手法や森林や林をこれも無許可で伐採して開発する手口は農民とのトラブルだけでなく森林の動植物の生態系を乱し、深刻な環境破壊を引き起こしていると地元NGOは指摘する。

 

■ 対策にようやく本腰の地元当局

こうした事態に地元関係郡当局者たちは、カチン州政府に対して早急な対策を講じるよう要求している。

 

自然環境や周辺住民、農民の生活への打撃や地元労働市場への影響などの実態調査をするための州政府による対策委員会を立ち上げて、中国人労働者と同時に中国資本の違法バナナ農園に対する監督指導、そして法に基づく処分などを検討するよう提言しているという。

 

東南アジアではミャンマーだけでなく、ラオスやカンボジアなどで中国資本による開発とそれに伴う中国人労働者の流入が地元企業や周辺住民との間で軋轢を起こすケースが近年目立っている。(中略)

 

こうした反面、当事国の政府は中国の習近平国家主席が進める「一帯一路」政策による多額の経済援助、資本投下の前に表立って異を唱えることが難しいという現実があり、苦しい立場に追い込まれているのが実態といえる。【623日 大塚智彦氏 Japan In-depth

***************

 

【それにしても、ウイグル族収容問題でも中国を擁護するというのは・・・・】

話を冒頭のウイグル族収容所問題に関する公開書簡に戻すと、ミャンマー・スーチー政権がロヒンギャ問題に関して、軍部との関係やロヒンギャを嫌悪する国内世論に配慮して、欧米の求めるようなロヒンギャ支援策を取れない・・・というのは、一定に事情はわかります。(賛同はしませんが)

 

ただ、そうした問題との兼ね合い、あるいは中国との関係といったことがあるにしても、直接の国内問題ではない中国ウイグル族の問題に関しても、人権擁護の立場を見せない、むしろ弾圧側を擁護するというのはいささか残念

なことです。

 

スー・チー氏が軍事政権時代に自宅軟禁処分を長年受けていたことに国際世論が強く反発したことで今のスー・チー氏があること、また、スー・チー氏が強権支配への明確な反対を示す象徴的存在だったことを考えると・・・。

 

民主化運動の象徴と、政権運営を託された現実政治家では立場が全く異なるといえば、もちろんそうですが。

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ミャンマー  ミッソンダム建設再開で住民と中国の板挟み状態のスー・チー政権 劣悪な電力事情

2019-05-02 22:37:04 | ミャンマー

(ミャンマーの電気が届いていない家庭で使用しているTOYOバッテリー。1週間に1回、400kyat(約40円)でバッテリーを充電しているそうだ。【2017年11月7日 塩野愛実氏 Inclusive World】

 

【中国が求めているメッセージ「中国はいじめっ子ではない」】

中国「一帯一路」については、「債務のわな」等の批判があるなかで、27日には中国主催の国際会議が開催され、中国はこうした懸念払しょくに努めていました。

 

****中国、インフラの質改善約束=「一帯一路」会議閉幕―北京****

中国政府主催の北京でのシルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議は27日、習近平国家主席と37カ国の首脳級の円卓会議を開き、一帯一路の関連事業推進に向けた共同声明を採択、3日間の日程を終え閉幕した。

 

記者会見した習氏は「質が高く持続可能で、リスクに強く、費用が合理的なインフラを建設する」ことで各首脳と合意したと明らかにした。

 

習氏によると、今回の会議を機に各政府や企業は283の合意文書を締結。同時に開かれた企業関係者のフォーラムでは、総額640億ドル(約7兆1000億円)以上の事業協力で一致した。

 

トランプ米政権は、「戦略的競争相手」と見なす中国による世界規模の影響力拡大の試みとして、一帯一路を警戒。中国がインフラ建設融資で途上国を支配下に置く「債務のわな」を仕掛けていると批判している。

 

習氏はこうした批判を念頭に、「われわれは融資ルートを広げ、融資コストを下げる。各国の金融機関が投融資に参加することを歓迎する」と強調。資金面や環境面で無理を強いないインフラ建設を実施する方針を示し、一帯一路に対する各国の懸念払拭(ふっしょく)に努めた。【4月27日 時事】 

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支援を受ける側も、マレーシア・マハティール首相のように、中国の足元をみすかすような形で、より有利な条件を引き出そうとする動きもあります。

 

結果的には、そうした要求にこたえることは、中国にとっても「一帯一路」のイメージアップとなるでしょう。

 

****「一帯一路」戦略立て直し 習氏、国際ルール順守強調 国際フォーラム開幕****

(中略)開幕式に先立つ25日、人民大会堂で習氏に迎えられたマレーシアのマハティール首相は、「一帯一路は偉大なイニシアチブだ」などと持ち上げた。

 

しかし、当初の姿勢は冷ややかだった。昨年首相に返り咲いた後、ナジブ前政権が中国と合意した鉄道建設計画を「返せないほどの借金をしなければならない事業で必要ない」と、同年8月に中止を発表したのだ。

 

タイ国境からマレー半島南部のマラッカ海峡を結ぶ「東海岸鉄道」の建設は、マレーシアでの目玉事業だっただけに中国側の衝撃は大きく、マレーシア側に218億リンギ(約5900億円)の賠償金を求めた。

 

だが、マハティール政権は中国とたもとを分かったわけではなかった。コスト削減を求めて交渉を続け、中国の譲歩を引き出した。

 

交渉役を務めたダイム・ザイヌディン元財務相(80)は朝日新聞の取材に「『中国はいじめっ子ではなく、心からマレーシアを助けようとしている』と外から言われる形にしようと伝えた。それは彼らがまさに求めていたメッセージだった」と明かす。

 

中国の融資で建設した港で巨額負債を抱えたスリランカは、99年間の港運営権を中国に譲った。中国の金融機関が焦げ付くリスクにかまわず貸し出しをする問題が横行、米国などが「債務のわな」と強く批判した。東海岸鉄道も「スリランカの二の舞いになる」といった声が地元メディアで報じられていた。

 

中国が強硬な姿勢をとり続ければ、一帯一路の評判をさらに傷つけかねない。マレーシアの提案は、一帯一路の成否と国際世論を気にする中国に強く響いたとザイヌディン氏は見る。

 

中国側は「搾取する意図はない」と歩み寄り、鉄道はルートを変えて短縮。当初の建設費の3割にあたる215億リンギ(約5800億円)を削減した。

 

マハティール氏は今月、事業の再開を発表。習氏は「一帯一路は特に周辺国家に大きなチャンスをもたらす」と、満足げだった。(後略)【4月27日 朝日】

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【別途存在する新疆ウイグル弾圧問題】

そうした「債務のわな」の議論とは別に、中国が「一帯一路」を進めるうえで、地理的に計画の要となる新疆でウイグル族などの徹底弾圧を行っていること、それに周辺イスラム国でさえも声を上げようとしないことへの批判もあります。

 

****言うこととやることが大違い、一帯一路は欺瞞である****

(中略)今回のサミットの狙いは、昨年(2018年)どん底に落ちた一帯一路ブランドのイメージ、つまり「債務の罠」だとか「中国版植民地主義」だとか、資金調達の透明性の問題だとかを払拭するのが狙いで、習近平は賢明に国際標準のルールを尊重することや投資規模のスリム化についてアピールしていた。

 

だが、一帯一路に対する最大のブラックイメージであるウイグル弾圧問題についてはほとんど言及されていない。

 

一帯一路の起点である新疆地域の治安を維持するために、平穏に暮らしていたウイグル人まで“再教育”施設に強制収容している状況について、日本を含めて一帯一路を支持する西側国家は言及しなかった。

 

それどころかカザフスタンやキルギス、パキスタンといったイスラム国家は一帯一路の果実を得るために、中国のイスラム弾圧に目をつぶっている状況だ。

 

一帯一路構想こそ、中国がことさらウイグル弾圧に力を入れる原因でもある。一帯一路を支持することは、世紀の民族弾圧に加担することではないか、という視点でこの問題を考えてみたい。(後略)【5月2日 福島 香織氏 JB Press】

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【ミッソンダム建設再開をめぐって住民と中国の板挟み状態のスー・チー政権】

中国にとって、米軍がコントロールするマッラカ海峡を通らない石油等の搬入ルートを確保するうえで、前出のマレーシア、パキスタンと並んでミャンマーは重要なポイントになります。

 

そのミャンマーとの関係で、「一帯一路」停滞の事例としてよく挙げられるのが、ミッソンダム建設計画の中断です。

このダム計画をめぐって、再開するのか、中止するのか、スー・チー政権は決断を迫れています。

 

****中国主導のミッソンダム、右往左往のミャンマー政権*****

ミャンマー政府(前テイン・セイン政権時)が中国が支援するカチン州のミッソンダムプロジェクトの一時中断を決めてから7年が経つ。

 

中国はこのダムプロジェクトを「一帯一路構想」の要の一つとしており、スー・チー政権が誕生してからもプレッシャーをかけ続けてきた。

 

ここ数週間でその動きが活発化しており、昨年12月下旬には在ミャンマー中国大使がカチン州を訪問して現地の政党や社会活動グループのリーダーに会い、今月半ばには「カチン州の地元の人たちはミッソン水力発電プロジェクトに反対していない」という声明を在ミャンマー中国大使館が出した。

 

地元の指導者達は即反発、中国大使館の声明は誤解を与えているとし、カチン人はプロジェクトが「永久的に」お流れになることを望んでいるとした。

 

スー・チー氏は、野党時代にはダムプロジェクトの契約書を公表すべきだとしていたが、政権について3年、公表の兆しは見えない。

 

また、国民民主連盟(NLD)政権になってから、カチン州知事を含むプロジェクト見直しのための委員会が設立され、既に2つの報告書が出されているが、政府は公表しないままだ。

 

そんな中、スー・チー氏が今月22日に質問に答える形で、「前政権が認めたプロジェクトを、政策が合わないからと言って新しい政権が止めてしまったら、ミャンマーのことを信じる投資家がいなくなってしまう」と発言。このことが憶測を呼び、カチン州ではプロジェクトが地元民の声を無視して推し進められるのではないかと心配の声が上がり始めた。

 

29日からネピドーで行なわれている「Investment Myanmar Summit」の会議では、投資・外国経済関係担当のタウン・トゥン大臣が火消しに回り、現時点では何も決定されていないと明言した。政府は「中国との関係を大切にしており、どうにか解決策を探したいと思っている」と正直に答え、ダムの規模縮小や場所の移転、また他の代替プロジェクトの開発も視野に入れているとした。

 

ダムの建設予定地が地震断層線上にあり、集水地域がシンガポールの国土の2倍というリスクの高い壮大なダムプロジェクトだが、地元の自然や文化・歴史的遺産を飲み込み、多くの村民が移住を余儀なくされることもあり、地元の反対は変わらない。

 

スー・チー氏自身がミャンマー一帯一路委員会のトップを務めるが、はてさてミッソンダムという要のプロジェクトに関してはなかなか難しい舵取りを迫られている。決断にはまだ時間がかかりそうだ。【1月30日 ASIA RISK】

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上記記事にもあるように、これまで沈黙してきたスー・チー氏が、いよいよ建設計画再開に踏み出すのではないか・・・との憶測が流れています。

 

****ミャンマーに圧力かける中国****

 

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が中断されている北部の水力発電ダム建設の再開を強く求める中国と反対する住民らの間で板挟み状態になっている。(中略)

 

同ダムは計画当初、発電量6000メガワットの約90%が中国に輸出され、中国は南部雲南省の開発にその電力を使う構想を抱いていたとされる。しかし、ミャンマーでの反対運動の高まりと前政権による建設工事中断を受けて、現在では「中国国内の電気需要は賄えるようになったので、発電所の電気はミャンマー国内で大半が消費される」ということになっているという。

 

■ 中国は再開に向けて圧力強化

こうしたミャンマー政府の対中政策の転換に中国政府は当初戸惑いと衝撃を受けていたが、スー・チー政権が誕生したことをきっかけに「建設再開」に向けた水面下での交渉を強めている。

 

中国側は建設工事契約に基づき、中止となれば「契約違約金」「これまでの投資への損害賠償金」など多額を要求する構えをみせてスー・チー政権に圧力をかけているとされる。

 

こうした手法は中国の「一帯一路」構想の常とう手段で、債務不履行に追い込まれれば所有権、借用権で実質的に中国が運営管理に乗り出し、計画途中での中断や中止は損害賠償要求で窮地に追い込むなど、いずれにしろ中国側が有利な立場に立つことになるのだ。

 

野党「国民民主連盟(NLD)」時代は環境問題への配慮からダム建設に反対していたスー・チー顧問もミャンマー北部の電力需要への対応策も求められる一方で、住民の反対運動そして圧力をかけてくる中国との間で「板挟み状態」に陥っているのが現状といえる。

 

■ 地元中心に広がる反対運動

北部カチン州で二つの川が合流し、ミャンマーを代表するイラワジ川となる場所で進められていたミッソンダム建設計画は、周囲の豊かな自然環境を破壊し、生態系に深刻な影響を与えること、自然災害への影響、さらに文化遺産が破壊される懸念などから地元住民を中心に建設反対運動が再び大きくなっている。(中略)

 

4月19日には仏教、キリスト教、イスラム教の各宗教の指導者がダム建設計画の完全そして永久放棄を求める集会を開催するなど反対運動はカチン州の住民に留まらず、いまや国民的運動にまで拡大しようとしている。

 

反対運動の盛り上がりの背景にはダムそのものの環境破壊問題もあるが、その一方で対中強硬政策から親中政策に舵を切ろうとしているスー・チー政権と、「一帯一路」構想を押し付けてくる中国そのものへの反発が根底にあるとみられている。

 

政府のタウン・トゥン投資対外経済関係相は2019年1月にネピドーで会見した際に外国メディアの質問などに答えて「環境問題も大事であり、反対する地元民の声は無視できないが、国家開発推進には電力が必要である」との立場を示し、スー・チー政権内で特別委員会を設置して「ミッソンダム建設工事の再開の当否を検討、協議している」ことを明らかにした。

 

こうした流れからスー・チー顧問が建設再開に前向きで、中国訪問で「中断している建設工事の再開」を伝える可能性が浮上している。スー・チー顧問自身はこのダム問題に関しては一切コメントをせず、沈黙を守っているが、逆にそれが「ゴーサイン」を伝える証左ではないかとの見方が強まっている。

 

中国にとってミャンマーはインド洋、南西アジアへの足掛かりという戦略上重要な位置を占めている。それだけにスー・チー顧問が予定する訪中で、中国側から多額の経済援助と見返りに「ダム建設の再開」を要求されることは明らかで、ミャンマー国内では安易な合意への警戒感も高まっている。【5月2日 大塚智彦氏 Japan In-depth)】

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【中国批判には、反ユダヤ主義的「ヴェニスの商人」のような感も】

暴騰にとりあげた国際会議に出席したスー・チー氏が中国側にどのような回答を伝えたのか・・・現段階では明らかにされていません。

 

ただ、上記のような中国「一帯一路」批判は、やや中国に対して一方的過ぎるような感もあります。

 

計画中止になったとき、違約金や損害賠償を求めるというのは、中国ならずともどこの国でも行うことでしょう。

 

「債務のわな」云々にしても、中国支援の計画を決定したのはミャンマーなど支援受ける側であり、返済が滞れば、何らかの弁済措置を求めるというのも、これまた中国ならずともどこの国でもある話でしょう。

 

いささか、「ヴェニスの商人」における、ユダヤ人金貸しシャイロックに対する反ユダヤ主義的“無理難題・理不尽”な判決のような感も。

 

【日本とは全く次元の異なる深刻な電力事情】

スー・チー氏が対応を明確にしてこなかったのは、現実政治家として住民生活向上・ミャンマー経済活性化のために電力がどれほど重要かを認識しているからでしょう。

 

“ジェトロが行った調査(2017年度)によると、ミャンマーに進出した日系企業の80%以上が「電力不足・停電」を経営上の課題に掲げています。電力をはじめとするエネルギー問題の解決は、日本企業のミャンマー進出にとって、重要なポイントの一つと考えられます。”【2018年04月18日 VACグループHP】

 

これまでミャンマーについては、4回、1週間弱程度の観光旅行をしただけですが、それでもミャンマーの電力事情の劣悪さはわかります。

 

“ときどき停電がある”というのではなく、毎日停電があり、時期・地域によっては電気を使える時間の方が少なかったりもします。

 

ただ、外国人旅行者が宿泊するホテルは自家発電機を有していますので、停電・電力事情の問題の実態は理解できていないかも。そもそも電気が通じていなければ、停電も何もありません。(先日のパキスタン旅行では、ホテルも夜12時を過ぎると自家発電機を止めるので、全くの暗闇となり困りました。パキスタンでも中国支援でダム建設が進んでいます)

 

****貧困層にみるミャンマーの電力事情****

私がミャンマーのヤンゴンで暮らし始めた4月頃は、停電が毎日のように起きていた。

ミャンマーの電力供給は水力発電が中心であるため、雨がほとんど降らない乾季(11月~翌4月)になると停電が起きやすい。また、暑さが酷い3~5月もエアコンが多用されるため、電力が不足し、頻繁に停電が発生する。

 

最高気温が45度近い中での数時間におよぶ停電。うだるような暑さの中で、いつになるか分からない復旧をひたすらに待たねばならず、自分が日頃いかに電気に依存した生活を送っているのかを再認識する。

 

このように、ミャンマーでは最大都市ヤンゴンですら電力供給が未だ不安定だ。
一方で、貧困地域に至っては、そもそも電気が届いていない家庭も多い。(中略)

 

電気が届いていない貧困層の家庭

まず、公共の電気が届いていない家庭から見てみよう。電気が届いていないこのお宅には、代わりに充電式バッテリーがある。(中略)

電気の通っていない世帯では、この充電器のように、バッテリーから電化製品に向かってコードが延びているのをよく目にする。また他の家庭では、小さい充電式バッテリーが電灯用に使われ、照明器具へとコードが延びていた。(中略)

 

このように、公共の電力サービスがない無電化世帯においても、充電式バッテリーを利用し、意外に多くの人が電気を利用している。

 

簡易的な発電機(ジェネレーター)を持つ電気屋から線を引いている家庭もある。

(弊社の調査では、無電化世帯においても何らかの電気にアクセスできる世帯は98%にのぼる。またバッテリーを使っている世帯は、平均して月々約4,900チャット(約490円)を充電に支出している。)

 

ちなみに、無電化地域におけるバッテリーの需要に伴い、バッテリー充電をビジネスにしている人もいる。
充電だけをする業者もあれば、充電だけでなくバッテリーの戸別回収から、充電、配達までする業者もある。(中略)


ミャンマーの国勢調査(2014年)によると、無電化世帯は67.6%。大半の人々が公共の電力を利用できない状態にある。

 

しかし、ここ最近、公共の電力網が整備されていない地域において、民間企業による新しい動きが見られる。

例えば、現地大手企業ヨマ・ストラテジック・ホールディングスはノルウェーの政府系ファンドと合弁企業を設立し、無電化地域におけるミニ電力網の構築に取り組む。(中略)

民間企業の取り組みに加え、ミャンマー政府によって2030年までに電化率100%を達成するという目標が打ち出された。国を挙げて、ミャンマー全土に公共の電力を普及させようという動きだ。(後略)【2017年11月7日 塩野愛実氏 Inclusive World】

********************

 

こうした電力事情にあって、「発電所の電気はミャンマー国内で大半が消費される」ということであれば、検討に値するでしょう。

 

もちろん、ミャンマー国民が電力より環境を選ぶ、あるいは、中国の影響拡大を拒否するということであれば、それは最大限に尊重されるべきですが、電力問題を実感できない日本の人間がステレオタイプな中国「一帯一路」批判で云々するのであれば、やや違和感も感じるところです。

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ミャンマー  国民の期待に応えられていないスー・チー政権 来年総選挙に向けて正念場

2019-04-24 22:21:28 | ミャンマー

(政治家として正念場を迎えているスー・チー氏 画像は【4月3日 NHK】)


【予想どおり、ロイター記者上告棄却】

ミャンマーの最高裁は23日、ミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャに対して行った弾圧を取材中に、国家機密法に違反したとして禁錮7年の刑を言い渡されたロイター通信の記者2人の上告を棄却しました。

 

****ミャンマー最高裁、ロイター記者らの上告棄却 国家機密法違反で禁錮7年****

(中略)ミャンマー国籍のワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者は、2017年12月に国家機密法違反で逮捕されて以来、身柄を拘束されている。

 

2人はミャンマー西部ラカイン州で同国軍のロヒンギャ弾圧に関する取材を行っていた際に機密文書を所持していたとして昨年9月、国家機密法違反で禁錮7年を言い渡されていた。

 

2人が出廷しなかった最高裁での判決も、下級審を支持するものだった。人権団体や法律専門家らはこの裁判は不正だらけだと訴えている。

 

ロヒンギャ危機では2人が取材していた残虐な弾圧により、約74万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れた。 【4月23日 AFP】

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“2人は、ミャンマー治安部隊によるイスラム系住民ロヒンギャへの迫害を取材していた2017年12月、最大都市ヤンゴンで、警察からロヒンギャ関連の機密文書を受け取った直後に逮捕された。18年4月の予審では、検察側証人として出廷した警官が(文書を渡したのは)ワナだったと暴露し、2人も一貫して無罪を主張していた。”【4月24日 読売】と、事件の構図そのものが“疑わしい”ものですが、そのあたりはミャンマーでは無視されているようです。

 

国軍が圧倒的な実権を有する、また、かつては民主化運動の象徴だったスー・チー氏もロヒンギャ問題に関しては口を閉ざしているミャンマーの国内事情を考えれば、国軍の“犯罪”を取材した記者が弾圧されるというのは予想された流れではありますが、落胆を禁じえません。

 

“記者側の弁護士によれば、両記者はこれ以上の上訴は行わない考え。その代わり、大統領からの恩赦を待つ方針だという。同弁護士は今回の判断について報道の自由にとって大きな障壁だと指摘した。”【4月24日 CNN】とのことですが、恩赦の可能性も厳しいものがあります。

 

先日の新年の恩赦でも、二人は含まれていませんでした。

 

“4月17日、ミャンマーは9000人以上の囚人を刑務所から釈放し始めた。ウィン・ミン大統領が同国の元日に際して恩赦を発表したことを受けたもの。国家機密法違反の罪で収監されているロイターの記者2人は恩赦の対象に含まれていない。”【4月17日 ロイター】

 

【ロヒンギャ問題で対応を硬化させる欧米 投資減少で経済失速も】

この問題に対する国際的な見方は厳しく、グテレス国連事務総長は「この2人の記者がラカイン州のロヒンギャ族に対する重大な人権侵害を取材したことで訴追される事態は容認し難い。2人の釈放とジャーナリストの保護強化を推進し、尽力していかなければならない」と述べています。【4月23日 ロイター】

 

こうした欧米社会の厳しい見方を背景に、“欧米企業のミャンマーへの投資意欲がそがれかねない。北米や欧州からの観光客数も下げ止まらない可能性が高い。”【4月24日 日経】とも。

 

民主化期待で急拡大したミャンマーへの外国投資は最近はブレーキがかかっており、ミャンマー経済の減速要因となっています。

 

****スー・チー政権3年 外国投資ピーク時の3分の1に 総選挙控え規制緩和急ぐ****

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)政権の発足から3月30日で3年となった。

 

この間に打ち出した経済改革は成果を出せず、外国投資はピーク時の3分の1に縮小。経済成長は鈍化が続く。政権は2020年の総選挙を控え、規制緩和などを急ぎ始めた。

 

「ミャンマーは経済の門戸を開き、国際基準に合うよう規制緩和に取り組んでいる」。スー・チー氏は2月下旬、西部ラカイン州タンドウエで開いた投資セミナーで経済改革の推進を強調した。

 

16年3月、長年の軍人出身者主導の支配が終わり、民主化指導者のスー・チー氏を実質的なトップとするNLD政権が発足した。直後には米国が経済制裁を解除するなど、経済開放に弾みがつくと期待された。

 

だが実態は期待どおりには進んでいない。3月初旬のミャンマー南部のダウェー経済特区。整地された土地だけが広がる。15年にタイ建設大手が開発権を得たが工事は一向に進行していない。地元の企業関係者は「政権は本気で取り組むつもりがあるのか」と疑問の声をあげる。

 

ミャンマー投資委員会の外国投資認可額は18年4月から19年2月で34億ドル(約3700億円)と前年同期比35%減。3年連続の減少でピーク時の3分の1の水準だ。

イスラム系少数民族ロヒンギャへの迫害問題を受け欧米が投資を控えていることが響いている。

 

欧州商工会議所のフィリップ・ローウェリセン事務局長は「当局が問題の深刻さを認識し、問題解決に取り組む姿勢をみせることが重要だ」と指摘する。(後略)【4月1日 日経】

******************

 

欧米から投資を呼び込むためにはロヒンギャ問題での譲歩が必要ですが、国軍の抵抗だけでなく、ロヒンギャを強く嫌悪する国民世論を考えると、それは国民支持を失うことにもなりかねません。(スー・チー氏自身も、ロイター記者を“裏切り者”呼ばわりしていることからすると、ロヒンギャを擁護するような欧米的認識は持っていないようにも見えます)

 

【成果を示せないスー・チー政権 かつての勢いを失った与党NLD】

2020年には総選挙があります。市民の間で生活向上が実感できないことへの不満が強まっており、このままではNLD政権は過半数を維持できない可能性もあります。

 

昨年11月の国会と地方議会の補欠選挙でも、スー・チー氏率いる与党NLDにはかつての勢いが見られませんでした。

 

****ミャンマー補選、与党が4議席失う 地方に失望の声****

ミャンマーで国会と地方議会の補欠選挙が3日に行われ、国営テレビは4日夜、計13議席中12議席の当選者を発表した。

 

前回2015年の総選挙で計11議席を得たアウンサンスーチー国家顧問率いる与党・国民民主連盟(NLD)は計6議席にとどまった。

 

経済成長の鈍化や民主化の停滞でNLD人気が失速した形で、20年の総選挙でも苦戦する可能性が出てきた。(中略)

 

一方、軍事政権の流れをくみ、前回総選挙で大敗した野党・連邦団結発展党(USDP)は議席がなかったが、今回は上院1議席を含む計3議席を得た。

 

16年に発足したNLD政権だが、旗印に掲げた民主化のための憲法改正は進まず、少数民族武装勢力との和平も停滞する。

 

少数派イスラム教徒ロヒンギャの問題などで外国投資や欧米からの観光客も減少し、地方を中心に「期待はずれだ」との声が上がっている。

 

一方、USDPは「(テインセイン)前政権時代は国民が幸せだった」などと不満票の取り込みを狙った。

 

ミャンマーでは軍政時代に定められた憲法の規定で国会の4分の1の議席が軍に割り振られている。有権者のNLD離れが続けば、20年の総選挙で国会の単独過半数を維持できなくなる可能性が高まる。【2018年11月4日 朝日】

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経済成長の鈍化だけでなく、上記記事にもあるように少数民族武装勢力との和平も停滞しています。

スー・チー氏としては、少数民族問題に関しては、少数民族の権利擁護に前向きだった父アウン・サン将軍の志を継いで取り組む意向を見せていましたが・・・。

 

****スー・チー氏父の像に抗議=ミャンマー少数民族暴徒化****

ミャンマー東部カヤ州で12日、アウン・サン・スー・チー国家顧問の父、故アウン・サン将軍の銅像設置に抗議する少数民族のデモ隊が暴徒化し、警察が催涙ガスや放水で鎮圧に当たった。地元当局者によると、抗議行動には約3000人が加わり、約10人が負傷した。

 

アウン・サン将軍は、多数派のビルマ民族からは英国の植民支配と闘った「建国の父」と慕われているが、少数民族はビルマ民族による支配の象徴とみている。【2月12日 時事】

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経済問題、少数民族問題で停滞するなかで、せめて憲法改正で動きを見せたいという焦りにも似た思いもあってのことでしょうが、今年1月、スー・チー与党は軍の反対を振り切る形で憲法の改正に向けた委員会の設置を決めています。

 

****スーチー与党、改憲へ動き 軍との緊張高まる可能性****

ミャンマー国会は29日、軍事政権下で定められた憲法の改正に向けた委員会の設置を決めた。

 

アウンサンスーチー国家顧問の与党・国民民主連盟NLD)は軍の政治関与を定める憲法が「非民主的だ」として、改憲を掲げてきたが、2016年に政権に就いて以降は、軍との関係を考慮して国会での改憲動議を封印してきた。今後、軍との緊張が高まる可能性がある。

 

地元メディアによると、NLDの上院議員が29日、上下両院の議員によって構成される憲法改正委員会の設置を緊急提案した。改憲をめざす動きに、軍人議員は強く反発。NLD議員らの賛成多数で可決したが、多数の棄権票が出た。

 

NLDは軍も参加する少数民族武装勢力との和平協議の中で軍の賛同を取り付けたうえで改憲を実現する戦略を描いていた。だが、和平協議が進展しない中、NLDは来年に迫った総選挙に向け、改憲への姿勢を国民にアピールする必要に迫られていた。

 

憲法では、軍人枠のほか、外国人の家族がいると大統領になれないことなどが定められており、NLDは改憲を旗印に15年の総選挙に臨み、大勝した。ただ、改憲には国会の4分の3超の賛成が必要で、軍が態度を変えない限り、不可能だとされている。【1月31日 朝日】

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しかし、軍が反対する状況で、今後の見通しはたっていません。

 

【20年総選挙は、スー・チー氏の政治家として正念場】

来年総選挙までに、経済・少数民族問題・憲法改正などで、どれだけの実績を示せるか、スー・チー氏は正念場を迎えています。

 

****ミャンマー 民主化勢力による政権発足から3年 正念場のスー・チー氏****

2016年、ミャンマー民主化のリーダー、アウン・サン・スー・チー氏が国民の圧倒的な支持を集め、国の事実上のトップになって3年。

 

政権誕生の際には「国民の融和」と「国全体を豊かにすること」を理想に掲げたが、国民の間からは怒りが噴出している。

 

長年内戦を続けてきた少数民族の武装勢力と政府軍との和平交渉には大きな進展がみられない。また欧米各国との関係が冷え込む中、高い成長を続けていた経済にも暗雲が立ちこめている。来年行われる総選挙を前に、スー・チー政権は今、大きな岐路に立たされている。

 

各地で相次ぐ少数民族によるデモ

100を超える民族が暮らすミャンマー。スー・チー氏は、すべての民族が平等で、共存できる国にすることが、民主化と安定を実現する上で大きな課題だとしてきたが、理想の言葉とは裏腹に、各地でデモが相次いでいる。

 

今年2月、ミャンマー東部の町で、地元の少数民族・カレンニ族による数千人規模のデモが勃発した。デモが起きたきっかけは、スー・チー氏の父親で、ミャンマーの建国の父とされるアウン・サン将軍の銅像が、この町に建設されたことだった。

 

建設を進めたスー・チー氏率いる政権側の目的は、民族の自治と共存を掲げたアウン・サン将軍の建国の理念を広めることだった。

 

しかし少数民族の人たちは、銅像は、むしろ多数派のビルマ族の支配の象徴にしか見えないと受け止めたのだ。

 

デモを主導した一人、ディーディーさん(38)は、軍事政権下だった子どもの頃から住民が暴行を受けるなど、抑圧を目の当たりにしてきた。そのため、前回の選挙では、自分たちを平等に扱ってくれると信じてスー・チー氏を支持した。

 

しかし今は、スー・チー氏の姿勢に疑問を感じている。「私たちは相変わらず無視され、2等市民のような扱いを受け続けている」(ディーディーさん)。ディーディーさんは次の選挙では、地元の少数民族政党の支持に回ろうと考えている。

強まる国際社会からの非難

スー・チー氏の政権は国際的な非難にもさらされている。国連は、軍主導の治安部隊が、少数派のイスラム教徒・ロヒンギャの迫害に関与した疑いがあるとして、ミャンマー政府に対して事実の解明など、責任ある対応を求めている。

 

これに対してミャンマー政府は「一方的な非難だ」と反論している。

 

こうした事態を受けて、経済支援を通じてミャンマーの民主化を促してきたEU=ヨーロッパ連合は、これまでの方針を見直そうとしている。2013年から関税を免除してきた優遇策の撤廃を検討しているのだ。

 

実際に撤廃された場合、打撃が及ぶとみられているのがミャンマーの製造業をけん引している縫製産業だ。輸出のおよそ半分はヨーロッパ向け。

 

ミャンマー縫製産業協会の事務局長は「免税措置のおかげでヨーロッパ向け輸出は急増してきた。雇用に影響が出かねない」と述べ、優遇策が撤廃されれば、経済成長にブレーキがかかるかもしれないと懸念を示している。

 

国民に広がる不安 正念場のスー・チー氏

妹とともにミャンマー最大の都市ヤンゴンに出稼ぎに来ているヌエ・ニさん(26)は、縫製工場の工員で、ひと月の給料は日本円で約2万円。寮で生活しながら、給料の大半を実家の家族に仕送りしている。

 

そんなヌエ・ニさんは、これまではスー・チー政権を支持してきた。この3年で給料が大幅に増え、豊かさを実感している。しかし、海外からの投資に影響が出てくれば、会社から解雇されてもおかしくない今の状況に不安も感じている。

 

ヌエ・ニさんは、取材班のインタビューにこう語った。「参入する外国企業が増えて、ミャンマーの経済が続くことを願っている。来年の選挙で誰に投票するかは、まだ決めていない」。

 

国民の多くが、理想と現実の隔たりに気づき始めるなか、スー・チー氏は積極的に地方を回り、国民に理解を求めている。「国の繁栄と安定、平和という最初の目標を達成するためには、あらゆる問題において、お互いに妥協しなければならない」(アウン・サン・スー・チー氏)。

 

ミャンマー民主化のシンボルとして、これまで期待を一身に集めてきたスー・チー氏は、を迎えている。【4月3日 NHK】

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ロヒンギャ ミャンマーへの帰還を拒否する難民 インド政府もロヒンギャ排斥

2019-04-10 23:48:46 | ミャンマー

(ロヒンギャ難民キャンプ【47日 HARBOR BUSINESS Online 】)

 

【治安が回復しないミャンマー・ラカイン州】

最近、あまり関連報道を目にしなくなったミャンマー西部・ラカイン州からのロヒンギャ難民は今どうしているのか?という話。

 

ラカイン州では、イスラム系ロヒンギャの武装勢力(“武装”とは言っても、“武器は乏しく、わずかな銃器の他は、鉈や鋭くとがらせた竹の棒を使っているという”【ウィキペディア】というレベルですが)と国軍等の治安当局との衝突に加え、もともとミャンマー全体から見ると少数民族になる仏教徒ラカイン人の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」(こちらは宣伝動画で見る限り、りっぱな武装軍隊のようにも見えます)と治安当局の衝突が起きていることは以前も取り上げました。

 

26日ブログ“ミャンマー 進まぬロヒンギャ難民帰還に加えて、新たな仏教徒ラカイン族難民も発生”)

 

現状に関する報道は目にしていませんが、3月段階では、ラカイン人「アラカン軍」の活動は続いているようです。

 

****警察署襲撃、9人死亡 ミャンマー西部、1月も襲撃事件****

ミャンマー西部ラカイン州で(3月)9日深夜、警察署が襲われ、警察官9人が死亡した。同州では1月、仏教徒の少数民族武装勢力アラカン軍(AA)が警察施設を襲撃し、警察官13人を殺害しており、治安部隊との緊張が高まっていた。

 

10日の時点で犯行声明はないが、地元メディアは国軍などの情報として、AAのメンバー約100人による襲撃とみられると伝えている。

 

地元メディアによると、襲撃があったのは同州の州都シットウェーの北約50キロの村。複数の警察官が負傷、行方不明になっているとの情報もある。

 

同州ではAAが自治権拡大を求め、国軍など治安部隊と衝突を繰り返しており、これまでに約1万人の住民が避難。1月の襲撃以降、国軍は同州で兵士を増員していた。

 

同州からは少数派イスラム教徒ロヒンギャ約70万人がバングラデシュに難民として逃れている。ミャンマー政府は難民帰還を進めようとしているが、国際機関などは治安悪化を理由に「帰還を急ぐべきではない」などと忠告している。【310日 朝日】

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現状はよくわかりませんが、少なくとも現地ラカイン州の状況は治安が安定する方向ではなく、むしろ新たな衝突で新たな難民が発生する状況にもあります。

 

【再びロヒンギャ「ボート難民」も】

ロヒンギャについても、最近は耳にしなかったボートによる海外漂着も3月、4月に報じられています。

 

****ロヒンギャ41人が漂着 マレーシア、先月に続き****

マレーシア北部ペルリス州の海岸に8日、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ41人が漂着した。同州の海岸では3月にも子どもを含むロヒンギャ34人が保護されている。地元警察が発表した。

 

発表によると、今回漂着したロヒンギャは1430歳。タイで1人当たり4千リンギット(約109千円)を支払って船に乗ったが、同州沿岸で放置され、海岸にたどり着くまでに6人が行方不明になったという。

 

警察はこの他に約200人がタイ海域の船上に残されているとみている。【48日 共同】

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「連れ戻され、殺されるなら自分で死ぬ方がいい」

こうした状況で、バングラデシュに逃れた70万人超のロヒンギャ難民帰還はまったく動いていません。

 

治安も安定しない、そもそも自分たちを焼き討ちし、暴行し、レイプし、殺害した国軍等はその責任を認めてもいないし、当然責任も追及されていないという状況では、多くのロヒンギャ難民が帰還したがらないというのは、これまた当然の話です。

 

無理やり帰還させられるなら死んだ方がまし・・・と、自殺をはかる難民もいるようです。

 

ミャンマー・バングラデシュ両国政府も、あまりこの問題に積極的に取り組んでいるようには見えません。

 

****ロヒンギャ「帰りたくない」 ミャンマー当局へ不信感 バングラへ避難1年半*****

バングラデシュに逃れていたミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの帰還が始まらない。ミャンマー当局への不信感があるためだ。約70万人が逃れて1年半が過ぎ、難民生活は長期化している。(コックスバザール=染田屋竜太)

 

連れ戻され殺されるなら…自殺図る

バングラデシュ南東部コックスバザール郊外。竹の骨組みをシートで覆った無数に並ぶ簡易住居の一つを訪ねた。電気のない難民キャンプはどの家も薄暗い。

 

「連れ戻され、殺されるなら自分で死ぬ方がいいと思った」。ディル・モハマドさん(60)が声を絞り出した。ここでの生活が1年半を超えた。

 

昨年11月。殺虫剤を水に混ぜ一気に飲んだ。1週間後に始まる予定だった難民帰還の第1陣リストに自分の名前があった。「知らないところで準備が進んでいた」。気を失い、キャンプの医療施設で一命を取り留めた。

 

帰還を拒むのは、ミャンマー側から逃れる時の光景が目に焼き付いているからだ。「村が焼かれ、遺体が転がっていた。(ミャンマー)軍の仕業だ」

 

約70万人が難民になる発端は、2017年8月のロヒンギャ武装組織アラカン・ロヒンギャ救済軍(ARSA)による警察襲撃事件だった。

 

これに対し軍や警察が掃討作戦を実施。ミャンマー側は否定するが、国連などによると多数のロヒンギャが殺され、家を焼かれたとされる。

 

両政府は昨年11月、難民約2千人の帰還を始めるとしていた。だが別の帰還対象者のヌルル・アミンさん(50)は「用意された10台ほどのバスに乗る人はいなかった」と振り返る。帰還は先延ばしになった。

 

「今の状況で帰りたい人はいない」とアミンさんは言う。難民の多くが帰還の条件とするのは、ミャンマー国籍の付与、掃討作戦をした治安部隊の訴追、そして帰還後の安全確保だ。

 

ミャンマー政府は、国内居住歴が確認できた難民には国籍申請資格のある身分証を渡すとしている。だが、同じく帰還リストに名前があったモヌ・マジヒさん(49)は「信用できない」と言う。

 

ロヒンギャの住んでいたラカイン州では、仏教徒らが帰還に反対。約200人が死亡した12年の仏教徒との衝突で国内避難民になった10万人超のロヒンギャですら、州内の避難民キャンプから戻れないでいる。「ましてや国外に逃れた我々が戻って、安心して暮らせるはずがない」とマジヒさんは吐き捨てた。

 

両政府、鈍る動き

両政府とも、難民帰還に向けた動きは鈍くなってきている。バングラデシュ政府の難民帰還担当責任者シャムサッド・ドウザ氏は「事態が進んでおらず、取材には応じられない」と話した。

 

昨年末に総選挙を控えていたバングラデシュは「難民問題に触れると厄介だ」(与党幹部)と目立った動きをしなかった。だが与党は選挙で大勝した後も、帰還を進める気配がない。

 

ミャンマー側は「帰還難民用の住宅建設が順調に進んでいる」と説明する。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などは、難民を一時帰還させ、まず現状を見てもらって本格的に戻るかどうか判断させるようミャンマー政府に求めているが、政府は明確な回答をしていない。

 

 キャンプで支援をする国際機関職員からは「数年は多数の難民がキャンプ生活を続けると覚悟した方がいいかもしれない」との声が上がる。日本政府もミャンマー政府とUNHCRを仲介して帰還準備を進めようとしているが、現地の仏教徒らに帰還への根強い反対があり、難しいという。

 

「仲間守るため」銃を持った 武装組織メンバー名乗る難民

ARSAのメンバーと名乗る難民がキャンプ近くで取材に応じた。ラカイン州北部出身の男性(49)は2012年、前身組織に加わった。

 

その年「アタウラ」と名乗る男が村に現れ、「我々は仏教徒に迫害されてきた。仲間を守るため立ち上がろう」と呼びかけ、多くの村人が賛同したという。アタウラはARSAのリーダーとされ、サウジアラビアなどで戦闘訓練を積んだとみられている。

 

男性は数カ月に1度、近くの山や丘で数十人とともに戦闘訓練を受けた。5、6丁の自動小銃AK47を交代で使い、教師役から撃ち方を教わった。

 

17年8月、アタウラが男性の村近くに「戦闘員」を集め、「我々の尊厳を守れ」と呼びかけた。ARSAが政府を攻撃するらしいと聞いたが、同月の警察襲撃には加わらなかった。男性は「我々は自分の身を守っているだけだ。テロリストではない」と話した。

 

ARSAの影響は若者に広がる。16年に加入した男性(19)は、政府機関で「ロヒンギャは高等教育を受けられない」と言われ、大学入学を阻まれたのがきっかけ。「民族で差別するのは間違っている」と話す。キャンプでは仕事もできず、イライラが募る生活を送る。「ARSAは特別じゃない。ロヒンギャを守りたいと思えば誰でもメンバーなんだ」と訴えた。

 

キーワード

<ロヒンギャ> 多くがバングラデシュとの国境地帯に暮らすイスラム教徒。仏教徒が9割近くを占めるミャンマーでは、バングラデシュからの移民とみなされている。大半が国籍を与えられていないため、移動の自由が制限されるなど差別や迫害につながっているとされる。【410日 朝日】

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ミャンマー政府が難民帰還に消極的なのはわかりますが、バングラデシュ政府もあまり急いでいないのはよくわかりません。難民保護は資金的にも大きな負担になるはずですが。

国際的な難民支援のカネを中間搾取している訳でもないでしょうに。

 

【インド政府 4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じる】

なお、ロヒンギャに関しては、インド政府がインド国内に暮らすロヒンギャをミャンマーに引き渡す動きがあるとの報道が以前ありました。

 

その後の動きについては知りません。

 

****ンド、ロヒンギャ7人をミャンマーに強制送還 国連の警告無視****

インドは(201810)4日、国連の警告を無視してイスラム系少数民族ロヒンギャの男性7人をミャンマーに強制送還した。

 

国連は、国軍がロヒンギャに対する「ジェノサイド(大量虐殺)」を行っているとされるミャンマーに7人を送還すれば、迫害を受ける恐れがあると警鐘を鳴らしていた。

 

入国法違反の罪で2012年から身柄を拘束されていたこの7人は、インド北東部マニプール州の国境検問所で、ミャンマー当局に引き渡された。

 

7人の強制送還を阻止するためインド最高裁に不服が申し立てられていたが、最高裁は4日、これを却下し、ロヒンギャを不法移民とする判断を支持した。

 

人権団体フォーティファイ・ライツのジョン・クインリー3世氏は、ロヒンギャ7人をミャンマーに強制送還するとしたインドの決定について、「残酷で、命を拷問などの迫害や死の危険にさらす恐れがある」と指摘した。

 

インド政府は過激派組織とのつながりを理由に、ロヒンギャを安全保障上の脅威と位置づけている。政府は昨年、4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じた。

 

最高裁は、政府の国外退去命令を違憲とする申し立てを審議している。

 

国連は、インド国内に登録されたロヒンギャの数を16000人としている。【105 AFP

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****インドのロヒンギャも難民化、バングラ国境で31人拘束****

インドの警察当局は(1月)22日、バングラデシュ国境でどちらの国にも受け入れられなかったために立ち往生していたイスラム系少数民族ロヒンギャ31人を拘束したと発表した。

 

インドには約4万人のロヒンギャが生活しているが、政府はここ数週間、ロヒンギャの逮捕とミャンマーへの引き渡しを実施。国連や人権団体の激しい非難を受けている。

 

ロヒンギャはミャンマーで、国連が「民族浄化」と非難する暴力と迫害を受けているため、引き渡しを逃れようとするインドのロヒンギャが大量に移動を始めた。バングラデシュには数週間で1300人のロヒンギャがインドから流入している。

 

今回、拘束された子ども17人を含む31人は、インド側国境にある有刺鉄線のフェンスを越えたがバングラデシュに入国できず、3日間にわたって立ち往生していた。最終的にバングラデシュの国境警備隊が一行の身柄をインド当局へ引き渡した。

 

インドの警察当局によると、31人が拘束されたのは同国北東部トリプラ州で、「不法入国」の容疑に問われているという。政府へもロヒンギャ31人が国内で勾留されていることを伝えたという。さらに国連難民高等弁務官事務所へ報告する予定だと説明した。

 

一方、バングラデシュはこれまで南東部の大規模な避難キャンプにロヒンギャ難民約100万人を受け入れている。うち75%が20178月のミャンマー軍による弾圧から逃れてきたロヒンギャで、彼らは軍による殺害やレイプ、放火などを証言している。

 

人権侵害が続いているとの懸念から、ロヒンギャのミャンマー帰還計画はこう着状態にある。 【123日 AFP】

*********************

 

“インド政府は過激派組織とのつながりを理由に、ロヒンギャを安全保障上の脅威と位置づけている。政府は昨年、4万人と推定する国内のロヒンギャ全員の国外退去を命じた。”というのも随分乱暴な話に思えるのですが、トランプ大統領の移民排斥に見られるように、現代ではこうした異質な者の不寛容は、ごく“当然”のことのように実施されるようになっています。

 

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ミャンマー  進まぬロヒンギャ難民帰還に加えて、新たな仏教徒ラカイン族難民も発生

2019-02-06 23:24:11 | ミャンマー

(戦闘訓練を行うアラカン軍女性戦闘員 【9周年記念動画】)

【ロヒンギャ問題への対応を変えないミャンマー政府】
ミャンマー政府軍等による虐殺・暴力・放火・レイプなどを逃れてミャンマー西部のラカイン州から隣国バングラデシュに逃れた70万人を超えるイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還が一向に進まないことは、これまでも再三取り上げてきたところです。

帰還が進まない最大の理由は、ラカイン州での治安が安定せず、仮に帰還しても再び暴力にさらされるのではないかとのロヒンギャ難民の不安が払しょくできないからです。

スー・チー氏率いるミャンマー政府は国軍による弾圧・暴力を認めようとしませんので、そうした難民たちの不安も当然のことと思われます。

国軍の責任を認めないだけでなく、ミャンマー司法当局は国軍の暴力を伝えようとしたロイター記者を国家機密法違反の罪で逮捕拘束しています。(スー・チー氏は救済に動く気配がないばかりでなく、逮捕された記者のことを「裏切り者」と呼んでいたとのことですので、この件に関する彼女の認識は司法当局と一致しているのでしょう)

****ロイター記者が上告、ミャンマーでの国家機密法違反****
ミャンマーでイスラム教徒少数民族ロヒンギャに関する極秘資料を不法に入手したとして国家機密法違反の罪に問われ、控訴審で禁錮7年の判決を受けたロイター記者2人の弁護士は1日、判決を不服として上告した。

同法違反の罪に問われているのはワ・ロン記者(32)とチョー・ソウ・ウー記者(28)の2人。昨年9月に一審で禁錮7年の判決を言い渡され、控訴審もこの判決を支持した。

ロイターは「最高裁がワ・ロンとチョー・ソウ・ウーに最終的に正義をもたらし、下級裁判所の誤った判決を破棄し、ジャーナリストの解放を命じるようわれわれは求める」とする声明を発表した。

政府の報道官からはコメントを得られていない。【2月1日 ロイター】
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【仏教徒・武装勢力アラカン軍による警察襲撃で、ラカイン族難民も発生】
ロヒンギャ難民が帰るべきラカイン州では、今年に入ってから仏教徒・ラカイン族武装組織と国軍の衝突が報じられており、新たな衝突拡大で、難民帰還どころか、新たな難民が発生する状況にもなっています。

****ラカイン州から新たな難民流入、バングラデシュがミャンマーに抗議****
ミャンマー西部ラカイン州で治安部隊と武装集団が衝突し、新たに大量の難民がバングラデシュに流入していることについて、同国政府は5日、ミャンマー側に抗議した。関係者が6日、明らかにした。
 
バングラデシュ外務省は5日午後、ミャンマー大使を呼び、ラカイン州からの難民流入について抗議した。同州では2017年8月にミャンマー軍がイスラム系少数民族ロヒンギャへの弾圧を開始して以降、70万人以上が国外へ避難した。
 
匿名でAFPの取材に応じたバングラデシュ外務省高官によると、今回流入した難民はラカイン州の仏教徒やその他の部族の出身だという。具体的な人数は明かさなかったが「数は増えている。すでに国境で待機している人々がおり、彼らはおそらく入国するだろう。(ミャンマーに対して、ラカイン州の)衝突を終息させるために、早急に効果的措置を講じるよう要請した」と述べた。(中略)
 
バングラデシュはすでに、2017年8月以降に流入したロヒンギャ難民74万人の対応に追われている。またそれ以前にも、ラカイン州での衝突のせいで30万人がバングラデシュに逃れていた。
 
ラカイン州では現在、同州の多数派を占める仏教徒が、18か月前にロヒンギャ弾圧に加わった部隊と衝突している。
 
先月4日には、ラカイン人の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」が国境警察の施設を襲撃し、13人を殺害した。 【2月6日 AFP】AFPBB News
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ラカイン州の多数派住民でもある仏教徒ラカイン族(アラカン族)は、歴史的には18世紀まではビルマ本体とは別個の独立王国を有しており、その言語もいわゆるミャンマー語とは全く異なります。

ビルマやイギリスの支配を経て、現在はミャンマーの一部となっていますが、歴史的経緯や文化・言語の違いなどもあって、独立運動が続いており、その武力闘争を担っているのがアラカン軍(AA)という組織です。

ロヒンギャの問題は、現地レベルではイスラム系少数派ロヒンギャと仏教徒多数派のラカイン族の対立でもありますが、そのラカイン族もミャンマー全体からすると少数民族として差別を受ける立場にもあります。

差別を受ける者が、自分らより劣後する位置にある者を更に差別するという構図は、一般的にも多く見られるものですが、ラカイン州においてもそうした構図になっています。

いさかいも懸念されるロヒンギャ難民とラカイン族難民双方を受け入れるバングラデシュも対応に苦慮するでしょう。

アラカン軍(AA)が国際的に注目されたのは年明け早々に起きた襲撃事件でした。

****警察襲撃、13人死亡=仏教徒武装集団―ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州で4日早朝、仏教徒ラカイン族の武装集団「アラカン軍」が警察署4カ所を襲撃し、情報省は警官13人が死亡、9人が負傷したことを明らかにした。ロイター通信によると、アラカン軍は警官12人を一時拘束した。

ラカイン州では昨年12月から、ラカイン族による自治拡大を求めるアラカン軍と治安部隊の間で衝突が激化。約2500人が避難する事態になっている。4日はミャンマーの独立記念日だった。【1月5日 時事】 
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最初、“ラカイン州”“警察襲撃”という文字を見て、ロヒンギャの武装組織とされるアラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)が事件を起こしたのか・・・と思い、また国軍等の報復が激しく行われるのでは・・・とも懸念したのですが、記事をよく読むと、ロヒンギャではなく、仏教徒ラカイン族の武装勢力の起こした事件でした。

ミャンマー国軍は昨年12月、政府との停戦協定に署名していない少数民族武装勢力が活動する中国との国境地域などでの攻撃を今年4月末まで停止すると発表しましたが、ラカイン州やAAなどは、停戦の対象に含まれていません。

この襲撃事件を受けて、ミャンマー政府は国軍にこれまで以上の取り締まり強化を指示しています。

****ミャンマー政府、軍にラカイン人武装勢力の取り締まり指示****
ミャンマー西部ラカイン州で先週、仏教徒民族ラカイン人の武装集団が警察署4か所を襲撃した事件を受け、同国大統領府は軍に「取り締まり作戦の開始」を求めた。政府報道官が7日明らかにした。
 
ラカイン州ではここ数週、ラカイン人の仏教徒の自治権拡大を要求する武装集団「アラカン軍」と治安部隊の衝突が発生。急速な暴力の拡大により、一帯では数千人が家を追われている。
 
同州はミャンマーで最も貧しい地方の一つで、民族および宗教上の根深い憎悪がある。(中略)
 
政府報道官は7日、首都ネピドーで記者会見し、「大統領府はすでに、反乱分子を取り締まる作戦を開始するよう軍に指示した」と発表した。
 
国連国連人道問題調整事務所は同日、過去数週間の暴力行為により、約4500人が避難を余儀なくされていると表明した。 【1月8日 AFP】
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このアラカン軍(AA)の9周年記念動画なるものがYouTubeで見られます。(https://www.youtube.com/watch?v=vT3uE9BG31w&=&fbclid=IwAR1s9l5VRfrEQEdVh0zRZuszcxyt0wHM5lkh_HjRqlc6J0A7PecHWsIeZCs

“9周年”ということは、そんな古い組織ではないようです。最近の武装組織は動画による広報・リクルート活動を重視していますので、りっぱな動画をさくせいしていますが、アラカン軍(AA)の動画も、プロによって作成されたと思われるりっぱなものです。

この動画については、「ミャンマーよもやま情報局」でも詳しく解説されています。
そこで注目しているのは、動画に出てくるAA戦闘員が使用している高額な武器です。「武装組織」というより「軍隊」のイメージです。(広報動画ですから、極力そのようなイメージをふりまくように作られているのでしょうが)

資金源は、他の関連組織からだったり、麻薬密売だったり、支援者の寄付だったり・・・と、いろいろあるようです。

別のネットサイトでは、ミャンマーの少数民族問題に深く関与している周辺某大国の関与を疑っているような指摘もありますが、根拠は知りません。

「ミャンマーよもやま情報局」によれば、わずか69人の決起ではじまったアラカン軍は、いまや7000人規模にふくれあがっていろあるようでするそうです。

いずれにしても、ロヒンギャのARASの“竹やり部隊”(“武器は乏しく、わずかな銃器の他は、鉈や鋭くとがらせた竹の棒を使っているという”【ウィキペディア】)とは大違いです。

動画では、ミャンマー奥地の山中を行進するAA部隊が出てきますが、個人的には、タイ奥地の「黄金の三角地帯」も近いメーサローンで見た、台湾から孤立してタイ・ミャンマー国境地域で戦闘を続けた、かつての国民党軍の写真を思い出しました。



国民党軍にしても、麻薬王クンサーにしても、あるいはアラカン軍(AA)にしても、ミャンマー奥地には中央政府の支配の及ばない勢力が昔も今も跋扈しているようです。

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