孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロヒンギャ帰還を見切り発車するミャンマー政府 ASEANでも強まる批判 ラカイン州の事情

2018-11-16 23:26:53 | ミャンマー

(ASEAN首脳会議の開会式で席が隣り合わせになりながら、目を合わそうともしなかったマハティール首相とスー・チー氏 【11月15日 時事】)

【ロヒンギャ帰還 ミャンマー政府「準備が整った」 国連人権高等弁務官「ロヒンギャの命を危険にさらす」】
ミャンマー国軍による“民族浄化”を目的とする虐殺・暴行・レイプ・放火等によって、イスラム系少数民族ロヒンギャ72万人が隣国バングラデシュに避難している問題について、これまで難民帰還は全く進んでいませんでしたが、ミャンマー政府は「環境が整った」として帰還を実施することを明らかにしました。

****ロヒンギャ帰還「環境整った」 ミャンマー政府が会見****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャ約70万人が、バングラデシュに逃れ難民となっている問題で、両国が「11月中旬に始める」とした難民帰還を前に11日、ミャンマー政府が会見を開き、「難民が安全に帰り、生活する環境は整った」と説明した。ただ、具体的な日程については「バングラデシュ政府次第」として明言を避けた。
 
最大都市ヤンゴンで開いた会見で、ミャッエー社会福祉・救済復興省相は、第1団として、ミャンマー側が身元確認を終えた2251人が、西部ラカイン州の国境付近にある2カ所の受け入れ施設を経て入国すると説明した。
 
政府側は帰還民に、米や油、1人につき1日1千チャット(約70円)の現金を支給。村を焼かれた人たちには、政府側が住居を提供するほか、自分たちで住居を建てる場合は労賃を支払う考えも示した。

ラカイン州にはロヒンギャの帰還に否定的な仏教徒も多いが、「政府が話し合いをして了解を得た」としている。(中略)
 
さらに、多くが無国籍のロヒンギャに対する国籍付与の問題については、「必要な記録が残っていれば国籍申請はできるようにする」としたものの、どのくらいの難民に国籍を与えるのかについては、「法律に従う」と述べるにとどめ、明言しなかった。【11月11日 朝日】
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しかしながら、虐殺などを行った国軍等の責任が問われることもなく、「政府が話し合いをして了解を得た」と言われても、帰還後の安全を信用することは難しいでしょう。

国籍付与の問題も不透明なまま・・・・というか、多くのロヒンギャが“必要な記録”を有していない(着の身着のまま避難したことに加え、これまでミャンマー政府がそうしたものを与えてこなかったことにもよります)ことも考えると、また「法律に従う」というミャンマー側のロヒンギャ排除の本音を考えると、現実処理にあってはほとんど国籍付与はなされず、むしろ“外国人”として正式認定されるのではないかとも懸念されます。

国連人権高等弁務官は、現状での帰還は国際法に違反し、ロヒンギャの命を危険にさらすと警告し、難民帰還の中止をミャンマー政府に求めています。

****命が危ない 国連弁務官、ロヒンギャ帰還の中止求める****
ミャンマーでの迫害を逃れて難民となった少数派イスラム教徒ロヒンギャをめぐり、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官は13日、受け入れ先のバングラデシュ政府に対し、ミャンマーへの帰還第1陣の移動をやめるよう求めた。現状での帰還は国際法に違反し、ロヒンギャの命を危険にさらすと警告した。

 
ミャンマー政府は72万超に上るとされる難民の帰還開始に前向きで、帰還を進める姿勢を示すのは、国際社会の批判をかわすためとみられる。ミャンマー側が身元確認を終えた2200人超が第1陣として、バングラデシュから再入国することになっているという。

だが、バチェレ氏は、多くのロヒンギャ難民は帰還を望んでいないと強調。人権高等弁務官事務所によると、ラカイン州北部では今も殺害や不当な拘束といった人権侵害があるという。

国連人権理事会で9月、ロヒンギャ迫害はミャンマーの国軍が組織的に主導し、特定の民族や宗教に属する集団を殺害する「ジェノサイド」の疑いが強いと指摘した専門家の報告書が公表された。村の焼き打ちや集団レイプといった手法の残虐性も指摘された。

バチェレ氏は、迫害の責任追及が進まないなか、帰還でロヒンギャが再び人権侵害を受けると指摘。迫害の恐れがある国や地域へ追放・送還してはならないと訴える「ノン・ルフルマンの原則」に反するとの見解を示した。

そのうえでミャンマー政府に、根本的な問題を解決し、帰還の環境を整えるため真剣に努力するよう求めた。

チリの大統領を務めたバチェレ氏は、9月に人権高等弁務官に就任した。【11月15日 朝日】
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帰還計画の初日とされた15日には、実際問題としては、帰還者はゼロだったようです。ミャンマー側は、バングラデシュ側の準備の遅れのせいだとしています。

****難民帰還始まらず 「誰も帰って来なかった」****
ミャンマー西部ラカイン州の少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」が隣国バングラデシュで大量に難民化した問題で、ミャンマーのミントゥ外務次官が15日にネピドーで記者会見し、同日から始まる予定だった難民帰還について「誰も帰って来なかった」と述べた。バングラ側の準備の遅れが原因とみているという。
 
ミャンマー政府は11日、バングラ南東部コックスバザール一帯の難民キャンプにいる約72万人のうち、2251人の帰還が15日に始まると発表。対象者は1日当たり150人としていた。
 
一方、ロイター通信は14日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が意思確認した約50家族は帰還を嫌がったと報じていた。

ミャンマーでの安全や生活への不安が背景にあるとみられ、バングラのメディアも15日、キャンプで群衆が「帰還反対」を訴える様子を報じた。
 
帰還希望者がいないわけではなく、ヤンゴンの外交関係者は「既に1000人以上が勝手にミャンマー側に戻ったと聞いている」という。「ミャンマー側の受け入れ環境がまだ不完全だ」として国連などが現時点での帰還に猛反対する中、バングラ政府も積極的ではないとの見方もある。(後略)【11月15日 毎日】
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“帰還希望者がいないわけではない”・・・・それはそうでしょう。各自それぞれの事情がありますので。
ただ、これまで自発的に帰ってきたとされるロヒンギャ難民については、ミャンマー側による“やらせ”“ねつ造”の疑いが指摘されています。

“バングラ政府も積極的ではない”・・・・どうでしょうか? バングラデシュ政府は早く厄介払いしたいというのが本音でしょう。少なくとも難民のバングラ定着は認めない方針で動いています。

【ASEAN首脳会議を前に国際的な批判をかわすための見切り発車】
国連も中止を求めるような状況でミャンマー政府が帰還を見切り発車したのは、13日にシンガポールで開幕したASEANの一連の首脳会議を前に国際的な批判をかわすためではないかと指摘されています。

****ロヒンギャ帰還、本当にできる? 滑り込み発表に疑問も****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャがバングラデシュに逃れて難民になっている問題で、ミャンマー政府は難民の帰還が近く始まると表明した。

しかし、早期の帰還は難しいとの指摘があり、13日にシンガポールで開幕した東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の首脳会議を前に国際的な批判をかわすためではないかとの見方が出ている。

11日に最大都市ヤンゴンで記者会見した担当閣僚らは、今月中旬の帰還開始でバングラデシュ政府と一致したと説明。発表のタイミングについて、社会福祉・救済復興省幹部は「合意に行き着いただけで、他の意図はない」と話した。
 
だが、会見で報道陣に配られた説明文には「ASEAN各国は(帰還に)協力してくれるだろう」と記され、担当閣僚が「万全の態勢を敷いている。ASEAN各国にも理解してもらえると思う」と述べるなど、ASEAN諸国への期待がにじんだ。
 
背景には、ロヒンギャ問題をめぐる厳しい国際世論がある。欧米を中心に、ノーベル平和賞受賞者のアウンサンスーチー国家顧問がロヒンギャへの迫害を許しているとの批判が高まっている。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは12日、スーチー氏に授与した「良心の大使賞」を取り消すと発表した。
 
ASEANの中でも、イスラム教徒が多数を占めるマレーシアやインドネシアには、ミャンマーに対する厳しい声がある。(中略)

スーチー氏には、このタイミングで帰還開始をアピールすることでASEAN首脳会議に加え、域外国が出席する会議でも批判を抑えたいとの思いがあるとみられる。スーチー氏はこの問題に神経をとがらせており、12日のシンガポールでの講演ではロヒンギャに一切触れなかった。
 
だが、昨年8月以降に新たに難民になった約70万人の中には、帰還後の再度の迫害を恐れる人も多く、難民キャンプから逃亡する人もいるという。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、バングラデシュ政府による難民の帰還への意思確認もまだ出来ていないとしており、今月中旬の帰還は難しいとみている。【11月15日 朝日】
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ASEAN首脳会議では、ロヒンギャの迫害問題に関心が集まり、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相はロヒンギャのミャンマー帰還に対する支援を要請しました。

【スー・チー氏をこきおろすマハティール氏 国際圧力で黙認できないASEAN】
しかし、各国の反応は厳しく、特にマレーシア・マハティール首相はスー・チー氏を強く批判しています。

“訪問中のシンガポールで記者団に述べた。マハティール氏は「スー・チー氏らはロヒンギャを大量虐殺している」と指摘。「こうした行為は古代には正当化されたかもしれないが、現代では許されない」とこき下ろした。”【11月13日 日経】 相当に辛辣な批判です。

会議の場でも、マハティール首相の姿勢は変わりませんでした。

****93歳マハティール首相、際立つ存在感=15年ぶりのASEAN会議****
シンガポールで開かれた一連の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議では、15年ぶりに参加したマレーシアのマハティール首相が存在感を発揮し、健在ぶりを見せつけた。
 
93歳のマハティール首相は、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題で積極的に発言。会議筋によると、ASEAN首脳会議ではアウン・サン・スー・チー国家顧問を前に「憤りを覚える」と厳しく非難した。(後略)【11月15日 時事】
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マハティール首相の存在感が際立つと、マレーシア国内におけるアンワル氏への禅譲が不透明になるという問題もありますが、それはまた別機会に。

従来、ASEANはこの種の問題には“内政不干渉”を建前に、消極的な対応をとってきましたが、風向きが変わったようです。

****ロヒンギャ迫害、議論活発=国際圧力で黙認できず―ASEAN会議****
シンガポールで15日まで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議では、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題をめぐり、活発に意見が交わされた。

ロヒンギャ問題に国際的な関心が集まる中、一部加盟国と中国が領有権を争う南シナ海情勢や、北朝鮮の核・ミサイル開発問題が議論の中心だった近年の会議とは趣を異にした。

ASEAN首脳会議では、イスラム教徒が多数派を占めるマレーシアのマハティール首相が特に強い言葉でミャンマーの対応を非難。インドネシアのジョコ大統領も厳しい姿勢を示した。

マハティール首相は記者団に対しても、「(ミャンマーの)アウン・サン・スー・チー国家顧問は決して擁護できないことを擁護しようとしている」と批判。スー・チー氏が軍政時代に長年にわたり、自宅軟禁下に置かれたことに触れ、「拘束された経験があるなら苦しみが分かるはず。他人に同じ思いをさせてはならない」と訴えた。

シンガポール国立大学のジャ・イアン・チョン准教授(国際関係)は、国連人権理事会でロヒンギャ迫害を非難する決議が採択されるなど国際的な圧力が強まり、「ASEANも黙認できなくなった」と解説。ASEANは内政不干渉を原則とするが、「(原則に縛られて)何もしない方がより憂慮すべき事態を招く」と指摘した。

域内国による異例の追及に、会議ではぎくしゃくした場面も見られた。ASEANの会議では、各国首脳は国名のアルファベット順に並ぶ。マハティール首相とスー・チー氏は首脳会議の開会式で席が隣り合わせになりながら、目を合わそうともしなかった。【11月15日 時事】
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アメリカもロヒンギャ問題ではミャンマー政府に厳しい姿勢を見せています。
“ペンス米副大統領は14日、訪問先のシンガポールでミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問と会談し、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害について「理由のない」暴力であると述べるなど、強い口調で非難した。”【11月14日 AFP】

【日本は国際世論とは一線を画するミャンマー支援】
こうしたミャンマー政府に厳しい国際世論と一線を画して、日本はミャンマー政府への支援を続けています。
(8月17日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交”)

このような人権・民主化問題を棚上げして経済支援で穏やかな改善を促すとする日本外交は、ミャンマーの軍政時代に見られたことですが、そのことについてスー・チー氏は、日本がミャンマーを支援することは結果的に軍事政権存続を助ける行為だとして強い不快感を示していました。

その論理でいけば、今はミャンマー支援ではなく、虐殺の責任を厳しく問うべきときだ・・・ということにもなります。

【ロヒンギャ排斥に走るラカイン州の事情 その裏には利権構造も】
一方、ミャンマー国内の強いロヒンギャ嫌悪の背景には、ロヒンギャやイスラム教徒の排斥を煽る過激仏教徒団体「マバタ」や、その中心人物である「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」とも称されるウィラトゥ師の存在があることは2017年10月25日ブログ「ミャンマー “民族浄化”で増え続けるロヒンギャ難民 イスラム教徒全体への嫌悪を扇動する仏教僧」などで、しばしば取り上げてきました。

イスラム教徒が仏教国ミャンマーを乗っ取ろうとしているといった過激な主張、今回の騒動はロヒンギャ側の自作自演だといった陰謀論が受け入れられる背景、特にラカイン州の事情については、下記のような指摘も。

****ロヒンギャを弾圧する側の論理****
(中略) ラカイン州はミャンマー南西部を南北に走るアラカン山脈によって、最大都市ヤンゴンから地理的に分断されている。1785年にビルマ人に侵略されるまでアラカン王国という独立国家が栄えていたこともあり、ラカインの文化はミャンマーの多数派であるビルマ人のものとは人きく異なる。
 
ラカイン州はロヒンギャのホームランドだが、6割以上は仏教徒のラカイン人だ。ラカイン人もまたミャンマーの少数民族で、中央政府からの差別や搾取に長年苦しんできた。それ故、ラカイン州の貧困率は78%と全国平均37.5%(世界銀行2014)を大きく上回っており、国内で最も高い。(中略)

イスラム教徒への嫌悪感
そんなラカイン人が不満のはけ口にしているのが、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する差別だ。

ロヒンギャの祖先は英国植民地時代にベンガル地方からミャンマーにやって来たと言われているが、70年代後半から不法移民として扱われるようになった。現在は無国籍の状態にあるため、教育や医療、福祉といった基本的な公共サービスにアクセスできず、多くの大が貧困と差別、そして断続的な武力弾圧に苫しんでいる。
 
ラカイン人は普段は礼儀正しく親切だが、ロヒンギャの話題になると急に嫌悪感をむき出しにする。(中略)
 
ミャンマー市民にロヒンギャに対する憎悪を植え付けるのに一役買っているのが、13年に発足した強硬派の仏教徒集団「国家と宗教保護のための委員会(通称マバタ)」だ。マバタの前身は「969運動」と呼ばれた反イスラム団体で、それを扇動してきたのが「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」の異名を持つ怪僧アシン・ウィラトゥ(50)である。(中略)

利権に群がる軍と中国
(中略)なぜ、ウィラトゥやマバタはこれほどまでにミャンマーの人々を魅了するのだろうか。シットウェにマバタの僧院を構える仏教僧ウーナンダバータ(51)は、「マバタが地域のセーフティーネットの役目を負っているからだ」と話す。(中略)
 
マバタは貧困者、少数民族被災者、女性に対する支援を積極的に行っている。食糧を施すだけでなく、学校建設に無償教育の提供、女性の積極的な雇用など、その内容は多岐にわたる。
 
ミャンマーで広く信仰されている上座部仏教は、修行の妨げになるという理由から、世俗的な活動を禁止している。ある仏教研究者によれば、戒律の厳守を重んじるミャンマーの仏教界において、僧侶たちが「俗世間の人々」のために奉仕活動をするのは珍しいという。(中略)

ラカイン人には、ビルマ人に対する根強い不信感もある。ラカイン州は、天然ガスや石油などの天然資源が豊富な地域だ。ところが、地理的な遠さやロヒンギャ問題のせいで、民主化前から軍部と深く結び付く中国以外に外資の進出は進んでいない。
 
ラカイン州のリ党であるアラカン国民党(ANP)の書記長フタンアウンチョーによれば、天然資源から生じる利益は中国と中央政府が独占しており、地元ラカイン人にはほとんど還元されていない。

ミャンマー政府とスーチーに対するラカイン人の評価は辛辣だ。フタンアウンチョーもこう不満を吐露した。「われわれは独立以来、ずっと差別に苫しんできた。アウンサンスーチーが返り咲いたときにやっと状況がよくなると思ったが、全く期待外れだった。政府はラカインの開発から得た利益を地元住民に還元すべきだ」
 
その一方で、マバタは信者に貧困の原囚と解決方法を明示してくれる。原因とはイスラム教徒であり、彼らを排斥することが貧困から抜け出す道なのだと。
 
そして、こうしたマバタの活動を支える潤沢な資金の源は、大勢の在家者によるお布施以外に軍部にもある。
ロイター通信によれば、ウィラトウは軍部出身の元宗教相サンシンに重用されてマバタの勢力を拡大した。また、ミャンマー紙イラワジは、ウィラトウと国軍司令官ミンアウンフラインとの間に太いパイプがあると報じている。(中略)

さらに、掃討作戦が起きたロヒンギャの居住地の近くには、中国の投資金融グループ「中国中信集団(CITIC)」が港や経済特区を建設しようとしている。

ミャンマー政府は17年9月、掃討作戦で空いたロヒンギャたちの居住地を「再開発」する目的で管理すると発表した。
 
ミャンマーの宗教対立の原因を「民衆を扇動する過激な仏教僧」と「少数民族を弾圧する無慈悲な多数派」のせいにすることは簡単だ。だが、マバタやウィラトゥもこの搾取構造の駒の1つにすぎないのではないか。

無垢な市民の妄信によって反イスラム運動は拡大し、ロヒンギャ危機は臨界点に達した。解決には、マバタやラカイン人といった表舞台の人間だけでなく、水面下で暗躍する「悪」を追及する必要がある。

そしてマバタの僧侶や市民もまた、自らに問いただすべきではないだろうか。自分の頭で考えることを放棄し、悪の甘言を信じ続けた罪はどれはどの重さなのかと。【11月20日号 Newsweek日本語版】
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ミャンマー  スー・チー氏の言に反して「報道の自由」侵害を懸念させる事件が再び 日本外交の在り様

2018-10-12 23:11:46 | ミャンマー

(スー・チー氏側近が関与する 地方政府の財政運営に対する批判記事が、植民地時代の法律によって“「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性がある”として逮捕され、ヤンゴンの法廷を後にするチョー・ゾー・リン氏(手前)とピョー・ワイ・ウィン氏(左から4人目)【10月11日 AFP】)

スー・チー氏「現状を知りもしない人が多い」「長期的に対応しなければならない」】
ミャンマー西部ラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャに対するミャンマー国軍による虐殺・暴行・レイプ・放火などの「民族浄化」(隣国バングラデシュへの避難民は70万人超)あるいは「ジェノサイド」とも言える弾圧に対する国連等の批判、それに対するミャンマー国軍の否定、スー・チー政権の消極的対応あるいは沈黙については、これまでも再三取り上げてきたところですので、先日来日したスー・チー国家顧問のインタビュー記事のみを。

****アウン・サン・スー・チー氏 ロヒンギャ問題での非難に反論****
日本を訪れているミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問はNHKの単独インタビューに応じ、少数派のロヒンギャの人たちをめぐる問題で国際的な非難が高まり、ノーベル平和賞を取り消すべきだという声さえあがっていることについて「賞や栄誉のことは気にしていない。現状を知りもしない人が多い」と述べて反論しました。

(中略)これについてスー・チー氏はインタビューで「現状を知りもしない人が多い。近ごろは何でもすぐに解決するよう求められるが、私たちは長期的に対応しなければならない。賞や栄誉のことは気にしていない」と反論し、ロヒンギャの人たちに対する差別意識が根強く、軍が強い影響力を保つなか、問題解決には時間がかかるという考えを示しました。(後略)【10月6日 NHK】
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もちろん、スー・チー氏には国軍を動かす権限がないこと、国民世論は圧倒的に“不法移民”ロヒンギャを嫌悪し、国軍の対応を支持していることなどから、スー・チー氏の対応も困難なこと、対応には時間を要することは理解できますが、民主化運動の旗手として輝いていた存在だけに期待も大きく、その分失望も大きなものがあります。

ロヒンギャ対応、報道の自由に関するスー・チー氏の認識への懸念
気になるのは、単に身動きがとれないということだけでなく、彼女の言葉の端々に感じ取れる、彼女自身がロヒンギャの境遇に対してあまり大きな共感を持っていないのでは・・・、世論と似たようなロヒンギャ嫌悪を共有しているのでは・・・との懸念です。

そのような懸念を大きくしているのが、ロヒンギャの人たちの問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が、機密文書を不正に入手したとして禁錮7年の有罪判決を受けた事件への対応です。

両記者は、国家機密の文書を所持していたとして逮捕されましたが、警察当局の罠であるとして無罪を主張しており、“罠”に関する警察官当事者の証言もあります。しかし有罪判決は変わりませんし、スー・チー氏による恩赦等の対応もありません。

スー・チー氏は両記者のことを「裏切り者」と呼んだそうで。隠ぺいすべきロヒンギャ虐殺を国外に知らしめようとしたことが、国家への「裏切り」ということになるのでしょうか。【9月5日 WSJ“スー・チー氏の選択:記者恩赦か沈黙維持か スー・チー氏は収監された記者には「非同情的」”より】

その言葉に、彼女のロヒンギャ問題への認識がうかがわれるようにも思えます。

“判決はミャンマーの報道の自由を揺るがすものだとして国内外で懸念が広がり、国連や欧米諸国、ジャーナリスト団体が2人の釈放を求めています。

しかしスー・チー氏は先月、判決について「裁判所が法律に違反したと判断した。報道の自由の問題とは無関係だ」と述べていて、スー・チー氏が掲げてきた民主主義の在り方が疑問視される事態になっています。”【10月6日 NHK】

この“ミャンマーの報道の自由”に関する批判・懸念に対するスー・チー氏の反論は以下のようにも。

****アウン・サン・スー・チー氏 「報道の自由ある」と主張****
(中略)スー・チー氏は「もし裁判に間違いがあったというのならもちろん調査するが、言論の自由の問題とは区別しなければならない」と指摘したうえで「ミャンマーには多くの報道の自由がある」と述べ、懸念はあたらないと主張しました。

さらに、国家機密法はイギリス植民地時代に制定されたもので、民主化が進むミャンマーにはそぐわないのではないかという批判に対しては「現代にそぐわないといわれたことは一度もない。同じような法律は世界の多くの国にもある」と述べ、法律そのものにも問題は感じていないことを明らかにしました。

また、ロヒンギャの人たちに対する迫害の問題については、国連をはじめとする国際機関に事実を調査させるべきだという国際社会からの圧力が強まっています。

これについてスー・チー氏は、ミャンマー政府がことし7月、外国人の委員を含む調査委員会をみずから設置したことに触れ、「国連の機関とミャンマー政府の委員会にどんな違いがあるのか。私たちは、自分たちで調査する意志と能力があることを示すチャンスが与えられるべきだ」と述べ、あくまで政府が設置した委員会に調査させる考えを示しました。

一方、国連などによる調査については、「人権の大切さを心から信じているが、人権は法の支配と国内的な合意がなければ確保できない。政府が設置した調査委員会でさえよく思わない人もいる」と述べ、国内で反発が強まるおそれがあり受け入れがたいという考えを示しました。(後略)【10月7日 NHK】
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頑なに“守りの姿勢”を強めているようにも見えます。しかし、いったい何を守ろうとしているのか?

地方政府の財政運営に対する批判記事でジャーナリスト逮捕
上記のロイター記者の問題が注目されているなかで、再び“報道の自由”への懸念を感じさせる事件も。

****ミャンマーで新聞編集長ら3人逮捕 スー・チー氏側近の財政運営批判****
報道の自由への懸念を呼ぶ出来事が相次ぐミャンマーで10日、最大都市ヤンゴンの財政運営を批判した新聞の編集長ら3人が警察に逮捕された。

ヤンゴン市のあるヤンゴン管区の地域首相は、アウン・サン・スー・チー国家顧問の側近が務めており、批判記事はこの側近が所管する市のバス交通計画を取り上げていた。
 
逮捕されたのは、新聞の発行元「イレブンメディア」で編集長を務めるチョー・ゾー・リン、ネイ・ミンの両氏と、報道部長を務めるピョー・ワイ・ウィン氏。3氏は10日午前、手錠を掛けられて出廷し、聴聞後に拘置所に移送された。(中略)
 
記事の掲載に「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性があったと裁判所が判断した場合、被告らは罰金と最高2年の禁錮刑を受ける可能性がある。
 
ミャンマーでは長期にわたり、曖昧で時代遅れの法律の下でメディアが訴追される事例が続いており、人権団体は今回の逮捕を批判している。
 
同国では先月、ロイター通信の記者2人に禁錮7年の判決が言い渡されたばかり。公判中、被告らはわなにはめられたとする警官の証言があり、裁判は見せかけだったとの見方が広がった。
 
スー・チー氏は9日公開されたNHKとのインタビューで、「ミャンマーには多くの報道の自由がある」と発言。同氏の政権を批判する人らに対し、ミャンマーで「報道機関が毎日何をしているのか調べる」よう促した。【10月11日 AFP】
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地方政府の財政運営に対する批判記事が“「公衆に恐怖または不安」を引き起こす意図または可能性”として処罰されるのであれば、スー・チー氏が保証するミャンマーにおける「報道の自由」とは一体何なのか?

これも、政権批判を「フェイクニュース」として切り捨てる昨今の風潮の一端でしょうか、あるいは、古くて変わらないミャンマーの国家体質でしょうか。

圧力を強める欧米 支援姿勢の日本
ロヒンギャ問題へのスー・チー政権の対応を批判する欧米は厳しい姿勢を強めています。

****ロヒンギャ迫害で徹底調査要求 米国務長官、ミャンマーに****
米国務省は28日、ポンペオ国務長官がミャンマーのチョー・ティン・スエ国家顧問府相と27日にニューヨークで会談し、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害について徹底調査と関係者の責任追及を求めたと発表した。

国務省は、ロヒンギャ迫害はミャンマー国軍によって「事前に計画、調整された動きだった」と非難する報告書をまとめ、近く公表するとみられている。

ポンペオ氏は会談でミャンマーの民主化を支援する立場を強調した上で、米国や国連が指摘するロヒンギャへの人権侵害について具体的な調査を進め、迫害に関与した関係者の責任を明確にすべきだと伝えたという。【9月29日 共同】
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****EU、カンボジアに経済制裁検討 ミャンマーも対象****
カンボジアの野党弾圧、ミャンマーでのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害を受け、欧州連合(EU)の通商担当閣僚に当たるマルムストローム欧州委員は5日、両国産品輸入の際の関税優遇措置の停止を検討していると明らかにした。事実上の経済制裁に当たる。

カンボジア側に同日、停止に向けた手続きに着手したと伝達した。ミャンマーには近日中に調査団を派遣し、実情を把握した上で手続きを開始するか否かを決める。

EUは、途上国の中でも特に発展の遅れた後発発展途上国(LDC)の産品の輸入関税を減免するなどして、各国の産業振興を後押ししている。【10月6日 共同】
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一方、日本は基本的にはミャンマー政府を支援する姿勢です。国際批判よりは中国の影響力拡大阻止という思惑が優先しているようです。これは、日本外交のいつもの対応でもあります。

****日本、ロヒンギャ居住地域支援へ 中国の影響拡大阻止****
日本が対ミャンマー支援の一環として、迫害を受けるイスラム教徒少数民族ロヒンギャが住む西部ラカイン州でインフラ整備に乗り出すことが7日、分かった。

金額は50億〜60億円程度で検討しており、ミャンマーでの中国の影響力拡大を食い止める狙いがある。日本政府関係者が明らかにした。
 
日本が2016年に表明した8千億円規模の支援の一部を割り当てる。このほか、700億円を最大都市ヤンゴンの下水処理などのインフラ整備に使う方針も決めた。いずれも、安倍晋三首相がアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相と東京で会談する9日に表明する。【10月7日 共同】
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****ミャンマーの民主化支援表明 安倍 スー・チー会談****
安倍首相は9日夕方、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家最高顧問と都内で会談し、ミャンマーの民主化を支援する考えを表明した。

安倍首相は、「民主的な国づくりの努力を、官民挙げて最大限協力して支援する」と述べた。(中略)

安倍首相は、ミャンマーから隣国に逃れたイスラム系少数民族のロヒンギャをめぐる問題について、スー・チー氏の取り組みを評価したうえで、「ミャンマー政府による問題の解決に向けた取り組みを支えていく」と表明した。

現地で住宅建設などの環境整備や、給水分野での支援を行っていくという。

さらに両首脳は、日本人観光客がミャンマーに渡航する際のビザが、10月から不要になったことにも触れ、観光分野でも交流を拡大させることを確認した。【10月9日 FNN】
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“ロヒンギャをめぐる問題について、スー・チー氏の取り組みを評価”・・・・安倍首相はどのように評価しているのでしょうか?国連等の批判的な報告書についてはどのように認識しているのでしょうか?

日本としてできるのは、安全な帰還のために何が必要か、ミャンマー政府に提案していくことではないか
****ロヒンギャの人々が「日本に感謝」する理由 ミャンマー政府を支持した事情 それでも「他人事」ですか****
(中略)
実は日本にも住んでいる、イスラム教徒ロヒンギャの人たち
日本に約200人のロヒンギャが住んでいる地域があることを知っていますか?群馬県の真ん中にある、館林(たてばやし)市です。1990年代、当時の軍事政権による迫害によって逃げ出したロヒンギャが日本にたどり着き、その後もネットワークを頼ってこの地域に集まったと言います。(中略)

非難浴びるミャンマーを「全面的に支援する」日本政府
(スーチー氏が軍や警察に自分で命令したり、動かしたりできないのが実情なのです。)とはいっても、「スーチーさん、どうにかして」という思いを持っている人は多いはず。

そんなアウンサンスーチー国家顧問に今年1月、河野太郎外相がミャンマーの首都ネピドーに会いにいきました。(中略)河野大臣は、「日本政府は問題解決のためにミャンマーを全面的に支援する」と述べました。(中略)

河野大臣はその後、ラカイン州を訪れ、ヘリで上空から視察するなどした後、焼け落ちたロヒンギャらの村を見て、「事態は深刻だ」と報道陣に話しました。(中略)

確かに、「ロヒンギャを迫害している」と責められているミャンマー政府に財政的な援助をして「全面的に支援する」というのは、釈然としないものが残ります。

「賛成」でも「反対」でもなく「棄権」票
そもそも、国際社会がミャンマー政府への批判を続けていた際、国連などで次々と「ロヒンギャへの迫害をやめなさい」といった決議が採択されましたが、日本は「賛成」でも「反対」でもなく、「棄権」票を投じていました。

日本はあくまでもこの問題は「ミャンマーの国内的な問題であり、解決はミャンマー政府に委ねるべきだ」という考え方です。

一方、こういった決議に「反対」してミャンマー政府を完全に擁護していたのが、中国。ミャンマー政府の安全保障に関わるある幹部は、「中国が味方についてくれているから、国連でこれ以上問題が大きくなることはない」と語りました。(中略)

日本政府の人も公には言ってくれませんが、中国の動きを警戒した「棄権」票。つまり、ミャンマー政府との接点を中国政府が独り占めしないようにするという側面もあるといえます。

ちらつく中国の影 日本の立場は……
(中略)丸山(ミャンマー)大使は、「日本の対応が批判されたことは、軍事政権下でもあった」と話します。

1988年から続いた軍事政権時代。欧米などが経済制裁を下す中、日本は援助を続けていました。欧米からは「軍事政権に塩を送る行為」に対して批判されました。

当時もミャンマーに勤務していた丸山大使は、「日本が軍事政権と一定の関係を持ってつき合ったことは『生ぬるい』と国内外から言われた。だが、軍事政権が民主化するためにいろいろな形で話していく必要がある」と語ります。

「本当に国の成長や発展を望むなら、将来に備えた支援が必要だ」

決して他人事として片付けられない
(中略)もちろん、「国益」という考えもあるでしょう。「これからどんどん発展していくミャンマーに対して良い関係をつくっていくことは、日本企業が進出しやすい土壌をつくる」(日本企業関係者)という意味もあるはずです。

記者としては、70万人近くの難民を出した点については、ミャンマー政府を厳しく批判するべきだと思います。一方で、今求められているのは、彼らが安心して帰還すること、その後も安全にミャンマーで暮らすこと。

ロヒンギャが戻る予定のミャンマー政府ラカイン州を何度か訪れましたが、立派な「受け入れ施設」はつくられたものの、多くが村を焼かれた難民がどう暮らしていくのか、明確なプランはなく準備はほとんど進んでいませんでした。

日本としてできるのは、安全な帰還のために何が必要か、ミャンマー政府に提案していくことではないかと思います。(後略)【10月2日 withnews】
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圧力を強める欧米と支援の姿勢の日本、「良い警官と悪い警官」の役割分担で、ロヒンギャ問題や報道の自由に関してミャンマー政府をあるべき方向へ誘導する・・・・というなら、それも一策ですが・・・・。

単に、中国の影響力拡大を阻止したいから・・・、日本企業が進出しやすい土壌をつくるため・・・・というだけでは、やや寂しい感も。そうした外交は、ことを荒立てることを好まない日本人の気質には似合っているのでしょうが。

ミャンマーやカンボジアなど、本来日本が影響力を行使できる問題で現状に目をつぶりながら、中国などとの関係で日本の利益が侵害されそうなときだけ「正義」を主張する・・・というのでは、都合がよすぎるとの感も。国家の「品格」の問題でしょう。
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ロヒンギャ  ミャンマー国軍の「ジェノサイド」責任を問う国際批判 沈黙するスー・チー氏

2018-09-29 23:18:49 | ミャンマー

【9月4日 COURRIER JAPON】

ミャンマー国軍による「ジェノサイド」の責任を問う国連の動き】
ミャンマー西部ラカイン州のロヒンギャについては、ミャンマーにおける安全が保障されないこと、帰還した場合の国籍付与が認められていないことなどから、バングラデシュに逃れた70万人超のロヒンギャ難民の帰還は全く進まない状況ですが、ロヒンギャ追放・虐殺を主導したミャンマー国軍の責任を問う国際的な動きが強まっています。

国連人権理事会が設置した国際調査団は18日、ミャンマー国軍指導層に「特定集団を抹殺する意図があったと判断できる」とする報告書を理事会に提出しています。

****ロヒンギャ問題、刑事責任追及 国連調査団が報告書 ミャンマーに包囲網 国際刑事裁も管轄権認定****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害問題で、国連人権理事会が設置した国際調査団は18日、「深刻な国際法違反に加え、一貫した人権侵害のパターンを立証した」とする報告書を同理事会に提出した。

国軍幹部を名指しして刑事訴追を求める内容で、ミャンマーへの圧力は一段と強まり、同国への投資などに悪影響が及ぶのは必至だ。

報告書は、アウン・サン・スー・チー国家顧問と並ぶ権力者であるミン・アウン・フライン最高司令官ら幹部6人を名指しし、ロヒンギャ殺傷などの行為が民族虐殺に相当すると論じている。

ロヒンギャの存在を否定する発言を繰り返したことを挙げ「特定集団を抹殺する意図があったと判断できる」と指摘。

20世紀末のルワンダや旧ユーゴスラビアの紛争指導者と同様に、国際法廷に訴追すべき容疑者だと指弾した。

難民発生の契機となったのは2017年8月に発生したロヒンギャ系武装集団の襲撃への治安部隊の掃討作戦だが、報告書は「ミャンマー国軍や治安部隊は一般人を無差別に攻撃しており、正当化できない」と指摘。「子供を含め一般人が標的となった」として国際人道法に反すると結論づけた。

ロヒンギャ難民ら875人への面談記録や、焼失した村の衛星画像などを盛り込み、報告書は444ページに及ぶ。8月27日に公表した内容に加え、ロヒンギャの人々が住んでいた村ごとに被害の証言を詳細にまとめた。

国際調査団は名指しした6人に加え、迫害に関わった治安部隊関係者の非公開リストを「関係機関と共有する用意がある」としている。こうした情報を根拠に、欧米各国による制裁が強化される可能性が高まった。(後略)【9月18日 日経】
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調査団は安全保障理事会に対し、ミャンマー国軍がジェノサイド(民族大量虐殺)を意図していた可能性もあるとして、人道犯罪などで訴追権限を持つ国際刑事裁判所(ICC)へ問題を付託するよう勧告。
迫害の実行者に渡航禁止や資産凍結などの制裁を科すことや、ミャンマーへの武器禁輸も求めています。

この動きに並行して、国際刑事裁判所(ICC)は国軍による基本的権利の剥奪や殺害、性的暴行、強制失踪、破壊、略奪などの罪について予備調査を開始しています。

****ロヒンギャ迫害、国際刑事裁が予備調査を開始 虐殺や性的暴行の疑い****
国際刑事裁判所の検察官は18日、ミャンマー国軍がイスラム系少数民族ロヒンギャに対して犯した疑いがある虐殺や性的暴行、強制移住などの罪について予備調査を開始した。
 
(中略)予備調査では、ICCのファトゥ・ベンスダ主任検察官が正式な捜査を正当化するのに十分な証拠があるかどうかを調べる。
 
予備調査の結果次第でICCは正式な捜査を行い、さらに捜査の結果次第では起訴に至る可能性もある。
 
ミャンマーはICC非締約国だが、ICCは約2週間前、バングラデシュが締約国であることを理由に、ロヒンギャ迫害について管轄権を行使できると判断した。(後略)【9月19日 AFP】
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現実には、ICC付託には安保理の決議が必要で、中国の反対も予想されることから実現は難しいとも。

国軍のによる「ジェノサイド(大量虐殺」に対する責任を問う国連での動きに対し、ミャンマー国軍のミン・アウン・フライン総司令官は、国連にミャンマーの主権に干渉する権利はないと反発しています。

****ロヒンギャ問題、「国連に干渉の権利なし」とミャンマー軍司令官****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ問題で、国連の調査団が先週、ミャンマー国軍の高官らを「ジェノサイド(大量虐殺)」の罪で訴追するよう求めたことを受け、同軍のミン・アウン・フライン総司令官は、国連にミャンマーの主権に干渉する権利はないとはねつけた。
 
調査団は国連安全保障理事会に対し、軍高官らの関与をめぐり国際刑事裁判所への付託を要請。またミャンマーは2011年に民政移管したとはいえ、軍が依然強い影響力を握っており、軍は政治から手を引くべきだと訴えた。
 
軍機関紙ミャワディによると、総司令官は23日に軍向けの演説の中で、いかなる国、組織、団体にも「一国の主権について干渉したり決定を下したりする権利」はないと指摘。さらに、「内政に介入する協議は誤解を招く」と警鐘を鳴らしたという。

国連調査団による提言以降、総司令官が自身の見解を公に示したのはこれが初めて。(中略)

軍はほぼ全ての残虐行為を否定し、ロヒンギャに対する取り締まりは過激派を一掃するための合法的な手段だと主張している。【9月24日 AFP】
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アメリカ国務省も迫害に関与した関係者の責任明確化を要求
人権問題には関心がないように見えるアメリカ・トランプ政権も、(かつての軍事政権に制裁を科した経緯もあってか)ミャンマー・ロヒンギャ問題については例外的に強い姿勢で臨んでいます。

ただ、「集団虐殺」や「民族浄化」といった刺激的な用語は使用していないとも。

****米国務省、ミャンマー軍がロヒンギャを組織的に迫害と報告****
米国務省は24日、ミャンマーのラカイン州で政府軍がイスラム系少数民族ロヒンギャを標的に大量殺人やレイプなど組織的な迫害を行っていたと結論付ける報告書を発表した。
 
(中略)米国務省の報告書は、隣国のバングラデシュへ逃れたロヒンギャ難民の成人1024人を対象に4月に実施した聞き取り調査を基にしたもの。既に複数の人権団体が公表している調査結果と内容は一致しているが、個々の事例の説明は個人的感情を抑制した記述となっている。

特筆すべき点は、ラカイン州でのミャンマー軍によるロヒンギャ大量殺人について「集団虐殺」や「民族浄化」といった表現を用いていないことだ。
 
報告書によると、調査対象となったロヒンギャ難民の82%が殺人を目撃し、51%が性的暴行が行われていたと証言した。

目撃者は複数の村に及ぶが、皆一様に、ミャンマー兵らが村の女性全員に家の外へ出るよう強要し、4〜5人を選び出して野原や森、家屋、学校の校舎、モスク(イスラム礼拝所)、仮設トイレなどに連行して集団レイプしたと語っている。

連行された女性の数を20人とするものや、兵士らは家々を回り「魅力的な」少女たちを選んで集団レイプしていたとの証言もある。全てではないが、レイプされた女性の多くはその後、殺害されたという。
 
報告書は「ミャンマー軍の攻撃の範囲と規模からみて、作戦は綿密に計画された組織的なものだったと考えられる」と結論付けている。
 
ロヒンギャ問題をめぐっては、国連も24日、ロヒンギャ難民支援に1億8500万ドル(約210億円)を拠出すると発表した。【9月25日 AFP】
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ミャンマー国軍とランボーの戦いを描いたエンタテイメント映画「ランボー 最後の戦場」の世界が現実に繰り広げられていたようにも思えます。

****ロヒンギャ迫害で徹底調査要求 米国務長官、ミャンマーに****
米国務省は28日、ポンペオ国務長官がミャンマーのチョー・ティン・スエ国家顧問府相と27日にニューヨークで会談し、イスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害について徹底調査と関係者の責任追及を求めたと発表した。

国務省は、ロヒンギャ迫害はミャンマー国軍によって「事前に計画、調整された動きだった」と非難する報告書をまとめ、近く公表するとみられている。

ポンペオ氏は会談でミャンマーの民主化を支援する立場を強調した上で、米国や国連が指摘するロヒンギャへの人権侵害について具体的な調査を進め、迫害に関与した関係者の責任を明確にすべきだと伝えたという。【9月29日 共同】
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国連人権理事会、ジェノサイドの疑いとの非難決議 反発するミャンマー国内世論
国連人権理事会は前出の調査団報告を受けて、特定の民族や宗教に属する集団を殺害する「ジェノサイド」という最も重い人道犯罪の疑いに言及する形で非難決議を採択しています。

****ミャンマー非難、決議 国連「ロヒンギャ集団殺害疑い****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャへの迫害などをめぐり、国連人権理事会は27日、非難決議を採択した。

決議は、特定の民族や宗教に属する集団を殺害する「ジェノサイド」という最も重い人道犯罪の疑いに言及した。国際社会の視線は厳しさを増すが、責任追及や70万人超の難民の帰還は進んでいない。
 
今回の決議は、欧州連合(EU)とイスラム協力機構(OIC)が中心となり、共同提案国は100超に上ったという。定例の理事会の審議で投票にかけられ、47理事国のうち賛成35、反対3、棄権7で採択された。中国などが反対した。

日本はミャンマー政府が設けた独立調査委員会の活動を重視する立場を表明し、投票を棄権した。
 
決議は、ミャンマー国軍幹部が少数民族の迫害を主導したとして、西部ラカイン州でのロヒンギャ迫害でジェノサイドの疑い、北部カチン、シャン両州での迫害で人道に対する罪の疑いを指摘。組織的な人権侵害はアパルトヘイト(人種隔離)に匹敵すると言及した。
 
ミャンマーでの人権侵害をめぐっては、国連の場で何度も是正を促す決議がされてきた。

ただ、今回は人権理事会が設置した調査団が今月、440ページにわたる報告を公表し、特に昨年8月下旬以降のロヒンギャへの大規模襲撃について、村の焼き打ち、村人をより分けて男性を殺して女性をレイプするといった目撃証言を記した。

決議は調査団の報告を踏まえた内容となっており、重みが違う。
 
ミャンマー政府は「外からの干渉は問題を複雑化させる」として調査団に一切の協力を拒み、人権理事会で批判を浴びてきた。

決議は調査団の活動延長に加え、証拠集めなどに当たる独立機関の設置を決め、ミャンマーはさらに窮地に立たされることになった。
 
一方で、調査団は国際刑事裁判所(ICC)での責任追及を勧告したが、実現には国連安全保障理事会の決議が必要で、中国が反対する現状では実現は難しい。

また、EUなどはミャンマー政府を批判しつつ、アウンサンスーチー国家顧問が率いる政権自体を制裁対象にしない方針で、結果として圧力を弱めている。

 ■スーチー氏沈黙、軍に配慮か
国際的な批判が集まるミャンマー国軍に対し、スーチー氏の与党・国民民主連盟(NLD)政権は表立った批判を控えている。NLDが目指す憲法改正や少数民族和平問題で軍の協力が欠かせず、関係を重視せざるを得ないからだ。
 
さらに、ロヒンギャ擁護に回れば、仏教徒が多数を占める国内世論の反発も予想される。ラカイン州の仏教徒団体の幹部は「NLD政権は外国の言うことばかりきいて、我々の声に耳を傾けない」と憤る。

州議会では政府が進めようとしている帰還に反対する決議も可決された。仏教徒による地域政党の幹部は「(ロヒンギャを)擁護するなら徹底して反発する」と話す。
 
政権が解決へ効果的な手を打てないなか、人権問題は経済にも影を落とす。ミャンマー政府によると、今年1~7月の観光客数は前年同期比で独・仏から約3割、英国からは約2割減った。人権問題に敏感な欧州の人々がミャンマー旅行を避けたとみられる。
 
外国企業からの直接投資にも影響が見える。2012年度の約14億ドルから15年度に約95億ドルまで増えたが、16年度に約67億ドル、17年度は約57億ドルに減った。
 
こうした状況が続けば、2年後の総選挙にも影響しそうだ。ラカイン州の旧軍政系の連邦団結発展党(USDP)幹部は「政府への批判が、我々の支持につながっている」と笑みを浮かべた。【9月28日 朝日】
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ミャンマー政府支援を促す日本外交
“日本はミャンマー政府が設けた独立調査委員会の活動を重視する立場を表明し、投票を棄権した”というように、日本はミャンマー批判を強める欧米とは一線を画した対応です。

同じアジアにあって、利害が強く絡むこともありますし、特にミャンマーに関しては、歴史的な関係の深さもあります。

軍事政権時代にも制裁を科す欧米とは異なる対応で、一定に軍事政権との関係も維持はしたものの、やはり関係を薄めたことで、結果的に中国のミャンマーへの影響力拡大を許したという思いもあるのかも。

****河野氏、対ミャンマー支援促す ロヒンギャ問題 ****
河野太郎外相は24日午後(日本時間25日未明)、イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題に関する英仏外相主催のワーキングランチに出席した。

ミャンマーへのロヒンギャ難民の帰還と再定住を促すミャンマー政府の取り組みへの国際社会の支援を訴えた。「スタートしたばかりの民主政府が逆行しないようにアウン・サン・スー・チー政権を支えるべきだ」と語った。【9月25日 日経】
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内政不干渉という点では、人権・民主化への配慮がないと批判の多い中国外交と、ことを荒立てない日本外交は結果的によく似ています。表向きの対応はいろいろあるでしょうが、やはりレッドラインを超えた問題に対する強い意思表示は水面下等であってしかるべきでしょう。

沈黙するスー・チー氏へ高まる批判 10月に来日予定
一方、先述のような国軍の責任問う動きは、国軍の責任やロヒンギャ帰還で沈黙するノーベル平和賞受賞者スー・チー氏への批判にもなっています。

****バングラデシュ首相・スーチー“問題提起できたはず*****
国連総会でミャンマーのイスラム教徒ロヒンギャの人たちが迫害を受けている問題が取り上げられた。
バングラデシュのシェイクハシナ首相はミャンマーでは実権は軍部にあるが“スーチーも世界に向けて問題提起できたはず”と述べ、ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問が問題解決に本腰を入れないことに失望の意を示した。(シンガポール・CNA報道)【9月28日 BS1】
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****カナダ、スー・チー氏の名誉市民号を剥奪 ロヒンギャ危機めぐり****
カナダ議会は27日、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問に与えていたカナダの名誉市民号を実質的に剥奪することを全会一致で決めた。ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの危機を受けた動き。
 
カナダ政府は2007年、長期の軟禁を経験したミャンマーの民主活動家で、ノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チー氏に対し、名誉市民号を授与した。カナダ名誉市民号はこれまでスー・チー氏のほか5人にしか与えられていない。
 
しかし、スー・チー氏がロヒンギャに対するミャンマー軍の残虐行為を非難することを拒むと、同氏の国際的な名声は失墜。カナダ政府は先週、同軍の行為は「ジェノサイド(大量虐殺)」であると宣言していた。【9月28日 AFP】
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スー・チー氏が沈黙しているのは、軍や世論に配慮した政治的判断もありますが、彼女自身も大方の世論同様、、ロヒンギャへの共感は薄いこともあるように見えます。(今年1月までロヒンギャ危機でミャンマー政府を支援する国際諮問機関のメンバーだったビル・リチャードソン氏によれば、スー・チー氏は逮捕拘束されたロイター記者を「裏切り者」と呼んでいたとか【9月5日 WSJより】)

そのスー・チー氏が会議で来日した際に、福島の農村を視察するそうです。

****スー・チー氏が福島訪問へ 農村視察、自国のモデルに****
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が、10月上旬に東京で開かれる「日本・メコン地域諸国首脳会議」での訪日に合わせ、福島県の農村を訪問することが29日、分かった。日本政府関係者が明らかにした。
 
ミャンマーの農村は人手不足が深刻で、農業の担い手不足に直面する日本の取り組みを視察し、自国の農村の発展モデルにしたい考えとみられる。
 
スー・チー氏が訪れるのは福島県南部の泉崎村。高齢化や耕作放棄地の問題で人手不足に直面する農業と、働く場が不足している障害者の福祉施設などが連携する「農福連携」に取り組む現場を視察する。【9月29日 共同】
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「農福連携」もいいですが、ミャンマー・日本の間には、もっと時間をかけて話し合うべき問題があるようにも・・・・。
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ミャンマー  国軍の残虐行為を暴くロイター記者2名へ有罪判決 恩赦も可能なスー・チー氏だが・・・・

2018-09-06 22:06:53 | ミャンマー

(9月5日 WSJ)

【「裁判は茶番だった」「ミャンマーの報道の自由にとって暗黒の日」】
ミャンマーにおいて、国軍兵士によるロヒンギャ虐殺を取材中に(策略的手法とも言われている形で)逮捕され、国家機密法違反の罪で裁判にかけられているロイター通信のミャンマー人記者2人に対する地方裁判所の判決が1週間「延期」された・・・・という話は8月27日ブログ“ロヒンギャ帰還が進まないのはバングラ側の責任と突き放すスーチー氏 ロイター記者裁判判決は延期”で取り上げました。

延期の背景として、“国連安保理が(8月)28日に行うミャンマーに関する協議の結果を待つため”云々といった見方もありましたが、結局、ヤンゴンの裁判所は3日、記者2人に対し禁錮7年の有罪判決を言い渡しました。

この判決に対し、国連や欧米からは強い批判がおきています。

****ロヒンギャ取材のロイター2記者に禁錮7年の有罪判決、ミャンマー****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンの裁判所は3日、イスラム系少数民族ロヒンギャの難民危機を取材中に国家機密法に違反したとして起訴されたロイター通信の記者2人に対し、禁錮7年の有罪判決を言い渡した。
 
この裁判をめぐっては、報道の自由に対する攻撃だとして激しい怒りの声が上がっている。国連は直ちに記者らの釈放を求めた。
 
ミャンマー国籍のワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者は、英植民地時代に制定された国家機密法に違反した罪で起訴され、最長で禁錮14年の刑が言い渡される可能性があった。
 
国際社会はこの裁判について、ミャンマーのロヒンギャ弾圧に関する報道を標的にしたものだと非難している。

ミャンマー西部ラカイン州では、軍が主導する「掃討作戦」によって70万人のロヒンギャが自宅を追われ、隣国バングラデシュに逃げ込む事態に発展した。ミャンマー治安部隊がレイプや殺人、放火など残虐な手法を取ったとの証言が数多くある。
 
記者2人は、いずれも起訴内容を否認。昨年9月にラカイン州の村でロヒンギャ10人が無法に虐殺された事件を明るみに出すため取材の準備をしていただけだと主張している。
 
しかし、イェ・ルウィン判事は「2人は国家機密法に違反した。それぞれ禁錮7年を言い渡す」と述べた。【9月3日 AFP】
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記者2人は昨年12月、ヤンゴンで警察官との夕食に招かれ、その直後の料理店を出た際に国家機密文書所持の容疑で拘束されました。

裁判では、証人として出廷した警察官が、記者との面会は2人を陥れるため仕組まれた「警察の罠」だった、上層部の圧力で拒めなかったと証言する異例の展開となりました。しかし、判決は、資料は「国家の敵やテロリストにとり有益だった可能性がある」として有罪と断定しました。

****国際社会、ミャンマーを非難 ロヒンギャ取材記者への禁錮刑で****
(中略)国際社会からの非難が集中した今回の裁判には、ミャンマー軍がラカイン州で行ったロヒンギャ弾圧に関する報道を封じ込めようとする政府の狙いがあるとみられている。

国連の調査団は先週、ミャンマー国軍の総司令官がロヒンギャに対する「ジェノサイド(大量虐殺)」を指揮したと非難する報告書を発表していた。
 
国連や米国、欧州連合とその加盟国の英仏は今回の判決を強く批判し、両記者の釈放を改めて要求。各人権団体からも批判が相次いだ。
 
ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官は「私は衝撃を受けた。裁判は茶番だった」と断じ、「ミャンマーのあらゆるジャーナリストに対し、恐れず仕事をすることができないどころか、自粛するか訴追される危険を冒すかという二択を迫られるというメッセージを送るものだ」と指摘した。
 
在ヤンゴンの米国大使館は声明を出し、今回の問題は「ミャンマーにおける法の支配と司法の独立をめぐる深刻な懸念」を招くと指摘。「両記者に対する有罪判決はミャンマー政府が掲げていた民主的な自由を拡大するという目標からの大幅な後退」だと批判した。
 
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」は、今回の「いかさまの裁判」とその判決を「ミャンマーの報道の自由にとって暗黒の日」と評した。【9月4日 AFP】
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アメリカのヘイリー国連大使は「ミャンマー軍が大規模な残虐行為に及んだことは明白」「自由な国では、人々に事実を伝え、指導者に説明責任を課すのが責任ある報道機関の責務だ。自らの職責を果たしていた記者2人に対する有罪判決はミャンマー政府にとって新たな汚点となる。われわれは引き続き彼らの即時かつ無条件での釈放を求めていく」【9月4日 ロイター】と批判しています。

まったくヘイリー国連大使の言うとおりだと思います。では、アメリカ国内で報道機関をフェイクニュースとして攻撃している“あの”大統領はどうなんだ?・・・という話にもなりますが、今回はその件はパスしましょう。

国軍の大規模な残虐行為を認めないミャンマー
「ミャンマー軍が大規模な残虐行為に及んだことは明白」というのは、外の世界では共通認識となっています。

国連人権理事会が昨年3月に設置した調査団は8月27日、報告書を発表し、「ミン・アウン・フライン総司令官をはじめとするミャンマー国軍の最高幹部らに対し、ラカイン州北部でのジェノサイドに加え、ラカイン、カチン、シャンの3州における人道に対する罪や戦争犯罪についての捜査および訴追を行わなければならない」と、“ジェノサイド”(大量虐殺)という言葉を使って、無差別殺人、村の焼却、未成年への虐待、女性への集団レイプといった「国際法下で最も深刻な犯罪」を糾弾しています。

記者らの活動は、この国軍の“犯罪”を暴こうとするものでした。

当然のごとく、ミャンマー側はこれを否定しています。

****ミャンマー、ロヒンギャ「大量虐殺」に関する国連調査報告を否定****
ミャンマーは29日、同国軍によるイスラム教徒の少数民族ロヒンギャに対するジェノサイド(大量虐殺)疑惑に関する国連の調査報告を否定した。

国連調査団は27日、ロヒンギャを標的としたレイプや性的暴力、大量殺人、断種措置などの人道に対する罪やジェノサイドが「大規模に犯された」とする証拠を列挙した。

28日に行われた国連安全保障理事会の会議で、米国を含む数か国がミャンマー軍の指導部に対し、こうした疑惑について説明責任を果たすよう求めていた。

しかしミャンマーは29日、ロヒンギャ危機に関して見せてきた傲然(ごうぜん)とした態度で国連の求めをはねつけた。同国の民政指導部と軍指導部のこのような態度は国際的な非難を集めている。

現地英字紙「ミャンマーの新しい灯」によると、ミャンマー政府のザウ・ハティ報道官は、「わが国はFFM (国連事実調査団)のミャンマー入国を認めていない。したがって国連人権理事会決議の承諾も受け入れもしない」と語った。

ハティ報道官によると、「国連機関やその他の国際組織によってでっち上げられた虚偽の主張」に対応するためミャンマーは独自の独立調査委員会を設置したという。

ハティ報道官はミャンマーは人権侵害を一切容認していないと述べる一方、調査を開始するには虐待疑惑の記録や日時などの「有力な証拠」が提供されなければならないと述べた。【8月29日 AFP】
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ミャンマー側が設置した独自の独立調査委員会とは、メンバーに大島賢三・元国連大使が起用された委員会でしょう。(8月17日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交”)

その目的は“「国連機関やその他の国際組織によってでっち上げられた虚偽の主張」に対応するため”という話になると、日本も関与した委員会はミャンマー側に都合のいい形で利用されそうです。

なお、ミャンマー側は「わが国はFFM (国連事実調査団)のミャンマー入国を認めていない」としていますが、そのこと自体が事実を隠蔽しようとする行為に思われます。

強まるスー・チー批判 「私たちは、外の人々とは異なる目でこの問題を見ている」】
こうした“後ろ向き”の対応を容認するスー・チー国家顧問に対する評価も厳しいものになりつつあります。

****天声人語)ジェノサイドの疑い****
(中略)ミャンマー政府は報告書に反発し、調査団の入国も拒んでいる。

これが民主化の星だったアウンサンスーチー氏率いる政権の姿である。軍にものが言えないのか、多数を占める仏教徒の世論におじけ付いているのか

法の支配の下で平穏に暮らし、人間としての尊厳を維持する。それが民主化で求めることだとスーチー氏はかつて書いた。少数者はその枠外にあるというのだろうか。【9月3日 朝日】
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“多数を占める仏教徒の世論”とあるように、国民世論も国軍の行為を正当化しています。
スー・チー氏は、この状況について「私たちは、外から眺めていて、成り行きに影響されない人々とは異なる目でこの問題を見ている」とも語っています。

****ロヒンギャ危機めぐる国際的非難、ミャンマーの反発****
イスラム系少数民族ロヒンギャへの処遇をめぐり、国際社会から不名誉な非難を浴びせられてきたミャンマーでは、多くの人が困惑し、傷つき、憤り、やり場のない気持ちを抱えて過ごしている。

国連のみならず交流サイト最大手の米フェイスブックからもやり玉に挙げられた。だが、仏教徒が大半を占めるこの国で、無国籍のロヒンギャの苦境に寄せられる同情の声はあまり聞かれない。
 
昨年、ミャンマー軍がロヒンギャの武装勢力を取り締まるという名目で行った作戦で約70万人のロヒンギャが暴力にさらされ、世界を震撼させた。

だがミャンマー国内では、軍が侵入者である「ベンガル人(ロヒンギャの蔑称)」から国を守ってくれたとして、幅広い支持を集めている。侵入者とは、ロヒンギャに不当に押し付けられた呼び名だ。
 
国連調査団は先月27日、ミャンマー国軍の総司令官と高官5人をジェノサイド(大量虐殺)の容疑で、捜査および訴追するよう要求する報告書を発表。アウン・サン・スー・チー国家顧問についても、ロヒンギャ保護のために声を上げなかったと名指しで非難した。
 
それでも国民は、反イスラム的思想と軍が捏造(ねつぞう)し広めた歴史によってゆがめられたこの問題に沈黙を守っている。
 
首都ヤンゴンの食堂でAFPの取材に応じた船主の男性は、「民主主義のためなら軍と喜んで戦ったが、ラカイン州のことで戦いたくはない」と話した。「被害を受けた人たちを気の毒には思う。でも、テロから国を守ることの方が重要だ」と続け、ロヒンギャの武装勢力を根絶する目的で行われた軍による「掃討作戦」は正当性がある、という政府の説明を繰り返した。
 
ミャンマーは2011年に軍政から準民主主義にかじを切り、半世紀近く無縁の存在だった自由が国民にもたらされた。だが多くの人は、ロヒンギャ問題で、国営メディアやフェイスブック、政府の方針に従った報道をする新興メディアを情報源として頼っている。

愛国心やいまだ強い影響力がある軍に対する不信感から批判が控えられ、政治問題が再びタブーになりつつある兆候も見られる。

■「外の人」には分からない問題
今でもミャンマーで絶大な人気を誇るスー・チー氏は先月、シンガポールで演説し、国内の状況について次のように述べた。「ミャンマーは過渡期にある。私たちは、外から眺めていて、成り行きに影響されない人々とは異なる目でこの問題を見ている」

国連が軍幹部の訴追を求めたことに呼応し、フェイスブックは前例のない措置を取った。ミン・アウン・フライン軍司令官と17人の軍幹部らのアカウントを停止し、52ページを削除したのだ。これらのアカウントのフォロワー数は1200万人近くに上っていた。(後略)【9月6日 AFP】
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恩赦も可能なスー・チー氏 ただ、2人の記者のことを「裏切り者」と呼んでいた
話を有罪判決を受けた記者の件に戻すと、スー・チー氏は裁判に介入することは(表向きは)できませんが、恩赦という形で記者を解放することは可能です。その対応が注目されます。

****スー・チー氏の選択:記者恩赦か沈黙維持か****
スー・チー氏は収監された記者には「非同情的」

ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相は、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する民族浄化問題で既に自身への評価が損なわれている中、軍の残虐行為を報道したため収監された2人の記者について、恩赦を認めるべきか決断を迫られている。

その間にもミャンマーでは、独裁体制へ逆戻りするのではないかとの懸念が強まっている。(中略)

スー・チー氏の今後の行動は、ミャンマー民主化運動の指導者だった彼女にとって試金石となる。彼女は、ロヒンギャに対する軍の残虐行為を非難しなかったことで、国際社会から批判された。

スー・チー氏は、彼女が率いる文民政権には軍に対する監督権限がないと主張しているが、最近の国連のある報告書は、この軍の行動に明確に反対しなかったとして彼女の責任を指摘した。軍の迫害によって、1万人のロヒンギャが殺害され、70万人以上がバングラデシュへと追いやられた。

記者らの問題では、スー・チー氏が早急に恩赦の決断を下すかどうかが、注目されている。彼女の民主主義の信念が依然確固たるものかどうかを示すことになるからだ。
 
スー・チー氏は、2人の記者を釈放しないよう軍からの無言の圧力を受けている。(中略)
 
スー・チー氏の腹心であるタウン・トゥン国家安全保障顧問は6月、シンガポールで行われた安全保障会議で、政府として恩赦を検討すると述べ、「秘密をもらすわけにはいかないが、時間を与えてくれれば、われわれのすることがいずれ分かるだろう」と話していた。

同氏によると、スー・チー政権は2017年、国会議事堂付近でドローン(小型無人機)を飛ばしたとして収監された2人の記者に恩赦を与えているという。(中略」)
 
米国の前ニューメキシコ州知事で、今年1月までロヒンギャ危機でミャンマー政府を支援する国際諮問機関のメンバーだったビル・リチャードソン氏は、スー・チー氏が2人の記者の釈放を実現させるかは疑問だとの見方を示した。スー・チー氏は記者らが置かれた状況に非同情的だったという。
 
リチャードソン氏は、「わたしが直接彼女にこの問題を提起すると、彼女は怒り出し、興奮してわたしに黙るように言った」と述べ、「彼女はこれが国家機密法違反だと本当に信じているのだとわたしは理解した」と付け加えた。

同氏によると、スー・チー氏は2人の記者のことを「裏切り者」と呼んでいたという。
 
リチャードソン氏は、タウン・トゥン氏が恩赦を認めるようスー・チー氏を説得できることを願っていると述べたが、政府が外国の圧力に屈したと思われることを望んでいないため、あまり期待できないと語った。(中略)

スー・チー氏は、記者たちの事件で公式に発言するのはまれだ。ただ同氏は日本のNHKとの6月のインタビューで、自分自身はミャンマーの司法プロセスを信用していると述べ、ロイター通信記者2人の起訴を擁護していた。
 
ミャンマー人ジャーナリストたちは、スー・チー氏の下で報道の雰囲気はかつての軍事独裁政権下と同じ程度に抑圧的になったと述べている。

そんなジャーナリストの一人で、ジャーナリスト保護委員会のメンバーであるTha Lun Zaung Htet氏は「ワ・ロン氏とチョー・ソウ・ウー氏のケースについてミャンマー政府が独裁者のように行動していると言える」と述べ、「報道の自由は、終えんの段階にある」と語った。【9月5日 WSJ】
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“人権・民主主義に関する欧米的価値観を共有するスー・チー氏は国軍の横暴を何とかしたいのだけど、軍への権限がなく、国民世論の圧力もあって身動きがとれない”・・・といった見方もありますが、上記記事のス・チー氏の言動を見ると、スー・チー氏自身がロヒンギャに対する嫌悪感を有しており、ロヒンギャ過激派のテロ行為に対応するためとする国軍の行為を一定に是認しているように見受けられます。

そうなると、記者への恩赦もあまり期待できません。
仮に行われたとしても、スー・チー氏の人権や報道に関する信念に基づくものというより、国際政治をにらんだ極めてテクニカルなものということにもなります。




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ロヒンギャ帰還が進まないのはバングラ側の責任と突き放すスーチー氏 ロイター記者裁判判決は延期

2018-08-27 22:34:32 | ミャンマー

(バングラデシュ南東部コックスバザールのクトゥパロン難民キャンプで、大量流出につながったミャンマー軍の大弾圧から1年を迎えて実施された行事に参加するため、歩いて会場へ向かうロヒンギャ難民たち(2018年8月25日撮影)【8月25日 ロイター】)

ロヒンギャの武装集団による警察施設襲撃から1年 つのる不信と警戒
ミャンマーを国軍等による虐殺・レイプ・放火などの民族浄化で追われた70万人を超えるイスラム系少数民族ロヒンギャのミャンマー帰国が一向に進まない現状については、8月17日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交”でも取り上げました。

弾圧の発端となったロヒンギャの武装集団による警察施設襲撃から1年ということで、あらためてロヒンギャの状況に関する報道も多くなっています。(なお、国軍による「掃討作戦」は襲撃前の8月の初めから始まっていた可能性も指摘されています)

****大弾圧から1年、警察襲撃のロヒンギャ武装組織が声明 難民らはデモ****
ミャンマー軍の弾圧によってイスラム系少数民族ロヒンギャ70万人が国外へ流出するきっかけとなった、ロヒンギャ武装組織による警察施設襲撃から、25日で1年を迎えた。

ミャンマーと国境を接するバングラデシュ南東部コックスバザールでは、ロヒンギャ難民ら数万人が「正義」を求めてデモ行進した一方、武装組織も声明を発表し、襲撃はロヒンギャを迫害から守るためだったと主張した。
 
ミャンマー西部ラカイン州では昨年8月25日、ロヒンギャの武装集団「アラカン・ロヒンギャ救世軍」が警察施設を襲撃。これが苛烈な弾圧を招き、国際医療支援団体「国境なき医師団」によれば、7000人近いロヒンギャが最初の1か月間で死亡した。
 
この事態を受けて約70万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに殺到。徒歩、もしくは脆弱(ぜいじゃく)な船で流入した難民たちは、レイプや拷問、家屋の焼き討ちなどの被害を受けたと訴えている。
 
こうした中、ARSAは25日、ツイッターで声明を発表。ロヒンギャの保護と祖先伝来の地への安全かつ尊厳ある帰還を確かなものとすることは、ARSAの「正当な権利」だと主張した。
 
ただ、ロヒンギャの人々がバングラデシュにある難民キャンプで劣悪な生活を強いられるという人道危機の一因を担ったARSAが、幅広い支持を得られているかどうかは分かっていない。
 
その一方、コックスバザールのクトゥパロン難民キャンプでは、「二度と繰り返すな:ロヒンギャ大量虐殺(ジェノサイド)の日、2018年8月25日」と書かれた巨大な横断幕を掲げ、「我々はロヒンギャ、我々は正義を求める」などと声を上げながら行進した。
 
地元の警察署長はAFPに対し、推定4万人が行進及び集会に参加したと語った。
 
世界最大の難民キャンプとされる同キャンプはバングラデシュ当局の厳格な統制下に置かれているものの、平和裏にとはいえ、ロヒンギャの人々が怒りの声を上げて行進や集会を実施するのは例がないという。【8月25日 AFP】*******************

ミャンマー側は、ARSAによる再度の攻撃への警戒を強めています。

****<ミャンマー>ロヒンギャの武装集団を警戒****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の武装集団「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が、ミャンマーの警察施設を襲撃してから25日で1年。ミャンマー政府はバングラデシュとの国境付近で、ARSAによる襲撃が再び発生する可能性があるとして警戒を強めている。
 
ミャンマーのインターネットメディア「イラワジ」によると、昨年の襲撃発生から1年を前にミャンマー警察は、ラカイン州北部のバングラとの国境沿いに160を超える警察官詰め所を設置し、1000人を派遣。

さらに、最初に事件が起きたマウンドーなどでは24時間態勢でパトロールにあたり、国軍の協力も受けている。また、地元警察の話として、7月にマウンドーにあるロヒンギャの国内避難民キャンプで、30丁以上の手製の小銃が押収されたと伝えた。
 
ミャンマー政府はARSAを「テロリスト」に認定。21日に訪問先のシンガポールで講演したアウンサンスーチー国家顧問兼外相は「ラカイン州の人道危機を生み出す最初の要因となったテロ活動の脅威は、今も残っている」と指摘。「この安全上の課題に取り組まない限り、相互の暴力の危険は続く」と強調した。
 
ARSA関係者によると、ARSAは現在もバングラに近い山間部に拠点を維持。ミャンマー政府がロヒンギャ迫害に関する国際刑事裁判所(ICC)への捜査協力に同意するかどうかを注視してきたという。
 
だが、ミャンマー政府は今月9日にICCへの捜査協力を拒否。ARSA関係者は「ミャンマー政府の対応には失望している。再び政府側を襲撃する可能性はある」と話す。【8月24日 毎日】
*******************

ARSAによる再度の攻撃は、ミャンマー政府が“テロ活動の脅威”をアピールするのに役立つだけだとは思いますが、武装勢力にはそうした“常識”は通用しないことも。

スー・チー氏 難民帰還の遅れはバングラデシュに責任
スー・チー国家顧問は“テロ活動の脅威”を強調する一方で、バングラデシュに逃れているロヒンギャ難民の帰還の遅れに関しては、「バングラデシュが送り出さなければならない。われわれは出迎えるだけだ」と述べ、バングラデシュに責任があるとの認識を示し、帰還時期を問われると、バングラデシュ側と調整中で「回答は難しい」と述べるにとどめています。

そのように言うしかない事情はあるにしても、事態打開への思いが感じられない対応です。
そもそもミャンマー側は“ロヒンギャ”という呼称すら認めていません。

****************
ミャンマー政府は、ロヒンギャの多くを「不法移民」と位置づけ、自国民族とも認めない。

そのため、スー・チー氏の(21日の訪問先シンガポールでの)講演や質疑でも、ロヒンギャという用語は使われず、「ラカイン州の人道問題」と呼称され、犠牲となった仏教徒のラカイン族なども含めた問題として扱われた。【8月21日 産経】
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しかし、ロヒンギャの問題の根幹は、そうしたミャンマー政府のロヒンギャの存在を認めない(不法移民として国籍も付与しない)対応にあることは明らかであり、そこが改善されない限り、衝突は再燃しますし、難民の帰還も進みません。

両親が虐殺される瞬間を目の当たりにした子供たち
国連事務総長や国連人権高等弁務官によるミャンマー側の民族浄化やジェノサイドに言及する非難、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による「ロヒンギャを国外に追放するだけでなく、帰還を阻むため、ミャンマー国軍が意図的に家屋や田畑を破壊・放火した」とする調査報告書(2017年10月11日)、国連人権理事会での、ミャンマーによるロヒンギャへの「組織的かつ大規模な人権侵害」に対する「強い非難」(2017年12月5日)等々に対し、ミャンマー国軍は、「ベンガル人」への迫害はしていなかったとし、殺害、放火、略奪、強姦などの迫害とされるものは全て「テロリストによるプロパガンダ」とする調査結果を出しています。

もちろん暴力は国軍・警察・ラカイン人側にだけでなく、ARSAなどのロヒンギャ側からのラカイン人やヒンズー教徒への暴力も指摘されてはいますが、ロヒンギャへの暴力が圧倒的規模であったことは間違いないと思われます。

****ロヒンギャ難民の「迷子」6千人超、半数はミャンマーで親殺された孤児****
ミャンマー軍の弾圧を逃れて隣国バングラデシュに逃げてきたイスラム系少数民族ロヒンギャの人々のうち、親が不在の子どもたちの半数は、祖国を脱出する際に親とはぐれたのではなく、既にミャンマー国内で迫害を受け孤児になっていたことが分かった。
 
バングラデシュに設けられた世界最大の難民キャンプに暮らす「迷子」の子どもたち数千人をめぐっては、いつか親と再会できる日が来るのではないかとの希望がこれまで語られてきた。だが、23日に発表された国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の調査結果は、そうした望みを打ち砕く内容だ。

民族浄化」の疑いが指摘されるミャンマー軍の激しい弾圧を逃れ、バングラデシュの難民キャンプにたどり着いた人々のうち、親を伴っていない子どもたちは援助関係者が把握しているだけでも6000人を超える。(中略)
 
ロヒンギャ70万人がミャンマーを追われ難民となった弾圧の開始から1年、「迷子」の子どもたちを両親と再会させる試みが続けられているが、100人以上の子どもたちを調査した過去最大・最新のデータ分析結果によれば、「迷子」たちの半数はバングラデシュ到着前に孤児になっており、しかもその多くは両親が虐殺される瞬間を目の当たりにしたとみられる。

「ひどいことは分かっていたが、これほどとは思っていなかった。児童保護の経験豊富な専門家でさえ、この調査結果には衝撃を受けている」と、バングラデシュ南東部コックスバザールで人道支援活動に当たっているセーブ・ザ・チルドレンのベアトリス・オチョア氏は語った。(後略)【8月23日 AFP】
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民族浄化批判を強めるアメリカ
人権問題に関しては関心を示さないアメリカ・トランプ政権も、ロヒンギャ問題については“民族浄化”として制裁措置を発表しています。(ミャンマー軍事政権の人権侵害を強く批判していたローラ・ブッシュ米大統領夫人以来の名残でしょうか)

****米国、ロヒンギャ問題でミャンマー軍幹部らに制裁発動****
米政府は17日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害疑惑を巡り、「民族浄化」や人権侵害などに関与したとし、ミャンマーの軍・警察幹部4人、および軍の2部隊に対する制裁措置を発動させたと発表した。

今回の措置はロヒンギャ問題を巡る米政府の対応としてはこれまでで最も厳しいものとなる。ただ米政府はミャンマー軍の最高司令官レベルは制裁対象には含めず、ロヒンギャの人々を巡り起きている問題を非人道的犯罪とも、虐殺とも位置付けることは避けた。

ミャンマー軍は民族浄化の疑惑は否定しており、テロリズムとの戦いの一環であるとの立場を示している。【8月18日 ロイター】
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アメリカ政府は昨年12月21日にも、ロヒンギャへの迫害を指揮したとして、ミャンマー軍のマウン・マウン・ソー少将に対し、米国内の資産凍結や米国人との取引を禁じる独自制裁を科しています。

ポンペオ米国務長官は25日、ミャンマーにおけるロヒンギャ族に対する行為は「忌まわしい民族浄化」だとし、関与した者たちの責任を今後も追及していくと述べています。

ロイター記者裁判の判決は1週間延期 安保理での協議の結果待ち
こうした国際的な批判のなかで、国軍兵士によるロヒンギャ虐殺を取材中に逮捕され、国家機密法違反の罪で裁判にかけられているロイター通信のミャンマー人記者2人に対する地方裁判所の判決が注目されていましたが、判決言い渡しは1週間「延期」されました。

****ロイター記者判決、1週間延期=「判事が体調不良」―ミャンマー****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人が国家機密法違反で起訴された問題で、ヤンゴンの裁判所は27日、予定していた判決を9月3日に1週間延期した。
 
裁判所は判事の体調不良を理由にしている。弁護団は、国連安保理が28日に行うミャンマーに関する協議の結果を待つため、延期した可能性があるという見方を示した。
 
昨年9月にロヒンギャ10人が虐殺された事件を調べていた記者2人は12月に逮捕された。2人は警官から食事に誘われ、飲食店で「機密文書」を渡された直後に逮捕されたと説明。証人として出廷した警官も「警察のわなだった」と証言した。
 
ロイターは「2人は犯していない罪で8カ月以上も収監されている。判決が言い渡されず、失望している」との声明を発表。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのロバートソン・アジア局長代理は「判決を読み上げる人物が他にいないという理由で収監を延ばすのは、ミャンマーの司法制度がいかに常識と公正さを欠いているかを示している」と批判した。【8月27日 時事】 
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“国連安保理が28日に行うミャンマーに関する協議”で、ミャンマー側への配慮が見られれば、量刑も一定に配慮するとのミャンマー側の“取引”でしょうか?

舞台が国連安保理となると、批判を強めるアメリカに対し、中国・ロシアはミャンマー批判にコミットしない立場ですから、ミャンマーにとっては強い批判は避けられるとも推測されます。

ただ、この記者2人については、事件そのものが“警察のわな”だったことを警察官が証言しています。
こうした当局側の謀略が許されている限り、スー・チー政権が本気でロヒンギャ問題に立ち向かうこともないでしょう。

なお、国連人権理事会の調査団は、ミャンマー国軍総司令官らの国際刑事裁判所(ICC)への付託を求めています。

****ロヒンギャ迫害で国連委が報告書 軍高官の捜査と訴追求める****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害に関し国連人権理事会が設置した国際調査団は27日、迫害行為へのミャンマー国軍の関与は明白だとして、ミン・アウン・フライン国軍総司令官ら軍高官らへの捜査と訴追を求める報告書を公表した。人道犯罪などで訴追権限を持つ国際刑事裁判所(ICC)に問題を付託するように要請した。
 
またアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が迫害を防ぐために「自身の地位と道徳的権威を用いなかった」と非難した。【8月27日 共同】
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批判を強めるだけではミャンマー側を頑なにするだけ・・・という“大人の論理”が日本外交の立場なのでしょうが、問題によっては白黒をはっきりさせるべきものもあります。

難民の大量流入に苦しむバングラデシュ ビジネスチャンスとする人も
ロヒンギャに関しては、70万人超の難民の帰還をどうするのかという問題、ミャンマー政府がどのように対応するのかという問題、国軍の責任をどう問うのかという問題がメインとなりますが、付随する形でいろいろな問題も起きています。

ひとつは、難民受け入れ側のバングラデシュの問題

****ロヒンギャ流入、おびえる少数派=人口バランス激変―バングラ****
(中略)バングラデシュ南東部コックスバザールに押し寄せたロヒンギャは膨大な数に達する。一方で、コックスバザールには少数派の仏教徒やヒンズー教徒も暮らしており、増え続けるロヒンギャにおびえる人もいる。
 
この1年間、バングラデシュに逃れたロヒンギャは70万人近い。主要な難民キャンプがあるコックスバザール県の二つの郡には、それまでの人口とほぼ同じ人数のロヒンギャが流入し、人口バランスは激変した。
 
ロヒンギャ難民キャンプで支援に当たる国際機関関係者の運転手を務めるバングラデシュ人の男性(40)は、少数派の仏教徒。これまでは「イスラム教徒と衝突もなく、家の窓やドアを開けたまま暮らせるほど平和だった」と昔を振り返った。
 
しかし、昨年8月からのロヒンギャの大量流入で、恐怖を覚えるようになったと語る。「仏教徒にミャンマーを追い出されてきた人たちだ。自分たちに仕返しをしないか不安だ」と心情を打ち明けた。(後略)【8月25日 時事】
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一方で、難民発生の状況をビジネスとして活用する人々も。

****全てがビジネス」、ロヒンギャ難民危機で駆動する経済 バングラ****
ミャンマー出身のラカイン人仏教徒であるミンミンさんはバングラデシュで、自身が船長を務める船から、イスラム教徒の少数民族であるロヒンギャの労働者たちが、ショウガを詰めた袋を担いで荷下ろしする様子を見つめていた。ミンミンさんは難民危機がつくり出したビジネスチャンスをつかんだ一人だ。
 
ミンミンさんは「争いについては心配していない…全てがただのビジネスだ」と言い、船から積み荷が降ろされるのを待ちながらウイスキーやたばこを差し出し、ビンロウの実によって赤く染まった歯を見せて笑った。
 
(中略)ロヒンギャの人々のためのキャンプは今や、丘陵地帯や農地にまで拡大したテント村の様相を呈している。
だがその中では、支援金が呼び水となって、さらには食料、住まい、仕事を必要とする多くの人々、そして消費財を購入する余裕がある人々が形成した市場によって、新しく、かつダイナミックな経済が駆動している。
 
数世代にわたって続けられてきた貿易によって、ラカイン人とロヒンギャ人、さらには両国を往来するバングラデシュ人の間に存在する宗教的な対立関係が希薄化した面もある。(後略)【8月19日 AFP】A
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難民ビジネスのなかには、麻薬密輸のような違法ビジネスもあって、地域を不安定化させる問題ともなっています。
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ミャンマー  ロヒンギャ問題の独立調査委員会に日本人起用 真価を問われる日本外交

2018-08-17 22:35:48 | ミャンマー

(ロヒンギャに対する迫害疑惑を調査する独立調査委員会のメンバーに起用された大島賢三・元国連大使(左)と握手するミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相=15日、ネピドー【8月15日 共同】)

停滞するロヒンギャ難民帰還作業
ミャンマー国軍の民族浄化によって隣国バングラデシュへの避難を余儀なくされた70万人を越えるイスラム系少数民族ロヒンギャの動向については、このところニュースを目にすることはあまり多くありません。

グテレス国連事務総長の難民キャンプ視察からもひと月以上が経過しています。

****国連総長、ロヒンギャ難民視察=「人道上の悪夢」―バングラ****
グテレス国連事務総長は(7月)2日、バングラデシュ南東部コックスバザールで、ミャンマーでの迫害から逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャの難民キャンプを視察した。

グテレス氏はロヒンギャへの暴行や殺害について「人道上、人権上の悪夢だ」と強い危機感を示した。
 
グテレス氏は、同地最大のクトゥパロン難民キャンプを訪問。雨期の豪雨で、バングラデシュに逃れてきたロヒンギャのうち約20万人が地滑りや洪水の危機にさらされていることを引き合いに「ロヒンギャの希望を豪雨で洗い流させはしない」と強調した。【7月2日 時事】 
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バングラデシュの隣のインドでは、大雨による洪水や土砂崩れの被害拡大しており、このひと月半で死者が900人に上っているとも。ミャンマーでも最大都市ヤンゴンの北にある都市など各地で洪水が発生して多くの死者が出ています。

ロヒンギャ難民キャンプのあるバングラデシュはどうでしょうか?毎年のように水害被害が報じられる地域だけに懸念されます。

キャンプの状況については、以下のようにも。

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特に拡張工事が続くクトゥパロン難民キャンプは、国連機関や人道援助団体が建設する仮設学校、診療所、舗装道路など、バングラデシュ政府が当初認めていなかったセミ・パーマネント(半恒久的)構造物が目立って増え、野菜や魚の干物、駄菓子、衣料品、日用雑貨などの売店、喫茶・食堂、散髪屋が通りに並ぶ。見渡す限り広がる数千のテント群は、生きるエネルギーが充満した風変わりな巨大都市の様相を呈している。
 
ロヒンギャ難民は「虐げられた無力な人々」という絵面で伝えられているが、身近に接すると、信仰心厚く勤勉で忍耐力があり、少し前の世代の日本人に通じる美徳を備えている(もちろん悪い連中もいるが)。まともな教育を受けていないが聡明である。【8月14日 中坪 央暁氏 東洋経済ONLINE】
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大雨など自然による被害も懸念されますが、自然よりも弱者を深く傷つけるのは人間です。

****ロヒンギャへの性被害相次ぐ 難民の置かれた状況困難に****
(中略)ロヒンギャ難民は国際機関に対し、バングラデシュに逃れる前に、多くの女性がミャンマーの治安部隊にレイプなどの暴行を受け、妊娠した人もいると訴えている。(中略)

UNFPA(世界の性暴力被害の根絶に取り組む国連人口基金)の運営をめぐっては、トランプ米政権が昨年4月、資金の拠出を停止。

国連全体では、仮設住宅の建設などロヒンギャ支援に必要な資金約1050億円のうち、2割ほどしかまかなえていないという。

キャンプ地が雨期に入ると衛生状態も悪くなるため、(事務局長の)カネム氏は国際社会が早急に支援する必要性があると訴えた。(軽部理人)

■赤十字国際委現地代表 当面の帰還「難しい」
救援活動にあたる赤十字国際委員会(ICRC)ヤンゴン代表部のファブリツィオ・カルボーニ首席代表は、ミャンマーとバングラデシュの両政府が合意した難民の帰還について、「(以前のように)移動の自由がないままでは、仮に家を建てても生計は立てられない。中長期的に帰還の可能性はあるが、難しい」と述べた。住民が安心して戻れる状態には当面ならないとの見通しを示した。

(中略)(ロヒンギャ武装組織の襲撃)事件後のミャンマー治安当局による掃討作戦の影響について、カルボーニ氏は「戦闘は収まり、都市部では、ある程度の経済活動も再開している」と現地の状況について語った。そのうえで、農村部では当局による破壊の状況がひどく、「人々が住める状況にはない」と説明した。
 
カルボーニ氏は、国民とみなされず無国籍の状態にあるロヒンギャに国籍を付与することなど、ミャンマー政府による問題解決が必要だとの認識も示した。【7月5日 朝日】
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帰還先のミャンマー・ラカイン州の状況については、“帰れる状況を整えるには時間がかかる”とも。

****帰還先に医療も教育もなし=ロヒンギャ問題―赤十字国際委ミャンマー代表****
隣国バングラデシュへの大量脱出で揺れるミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題で、帰還先となるミャンマー北西部ラカイン州について、赤十字国際委員会(ICRC)ヤンゴン代表部のファブリツィオ・カルボーニ首席代表が「医療を含め保健も教育も、公務員が怖くて現場に戻りたがらないから、なかなか再開されない」と厳しい現状を語った。

ミャンマー、バングラデシュ両政府は帰還で合意したが、帰れる状況を整えるには時間がかかると考えている。
 
(中略)首席代表は、ラカイン州に残ったロヒンギャも、対立する仏教徒ラカイン人も「全住民が心に傷を負い、監視し合っている」と指摘した。対立する主張のどちらが正しいか考えるよりも「とにかく恐怖心が働いている。この点を過小評価してはならない」と述べた。
 
疑心暗鬼で「強制されているよりも、自分たちで移動を制限している」のが住民の現状だ。おびえて暮らしていて、「怖くて村の外に出られない。海にも畑にも山や森にも行けない」。

しかし「こうした場所は住民の収入源」で、止まった経済活動の再建を急ぐ必要があるが、人道支援だけでは難しいと訴えた。

(中略)「法と秩序の再建」が優先課題の一つで、医療や教育、経済を立て直し、「全住民が『自分たちは守られている』と実感できる」環境で初めて帰還は進む。
 
しかし、現場にはイスラム教徒と仏教徒、軍と文民政権といった複雑な力学が絡み合う。アウン・サン・スー・チー国家顧問といえども「ラカイン州に対して何かこうしなさいと強制することはできない」というのが首席代表の現場での実感だ。【7月30日 時事】
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疑わしいミャンマー側の本気度
そもそも、ロヒンギャを追放したミャンマー側が帰還に向けて取り組む意思があるのか・・・も疑問です。ミャンマー側が気にしているのは国際批判の回避だけのようにも。

****ロヒンギャ問題、批判回避か ミャンマー政府、帰還者数多めに発表****
ミャンマー西部ラカイン州で昨年起きた国軍とイスラム教徒少数民族ロヒンギャの武装集団との衝突を受け、隣国バングラデシュに避難したロヒンギャ難民のうち、ミャンマー当局が「自主的に帰還した」とした男性が、「バングラデシュには行っていない」と当局の説明を否定した。当局が帰還者数をより多く発表した可能性がある。
 
ミャンマーとバングラデシュの両国政府はロヒンギャ難民の帰還で合意し、今年1月下旬に帰還開始の予定だったが、まだ始まっていない。

ミャンマー政府の「自主帰還」アピールには、早期の帰還実施を求める国際社会の批判をかわしたいとの思惑が透けて見える。
 
ミャンマー政府は6月下旬、同州の主要都市マウンドー郊外の帰還者受け入れ施設の視察など外国メディアの取材ツアーを実施した。当局は5月下旬までにバングラデシュの難民キャンプから62人のロヒンギャが独自に国境を越えて帰還したとし、うち10人のインタビューも認めた。
 
そのうちの一人、モハマド・インヌースさんは帰還者受け入れ施設で「そもそもバングラデシュには行っていない」のに、それを理由に当局に拘束されたと訴えた。

事実であれば、ミャンマー当局が、帰還が実現しない責任を回避するため、難民ではない人を「帰還者」として拘束した疑いがある。
 
施設の当局者は、合意に基づく帰還は実現していないが「受け入れ準備は完全に整っている」と強調。地元記者は「まだ始まらないだろう」との見方を示した。【7月24日 SankeiBiz】
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欧米とは異なる独自の立場をとる日本から独立調査委員会メンバー起用で事態打開をはかる
こうした帰還作業が停滞する状況で、事態を打開するためには、“民族浄化”と言われる混乱のなかで一体何が行われたのか、その責任は誰にあるのかを明らかにする必要があります。

そのうえで、ロヒンギャへの国籍の付与、帰還先での安全の確保をはかる必要があります。

スー・チー国家顧問は、ロヒンギャに対する迫害疑惑を調査する独立調査委員会のメンバーに大島賢三・元国連大使を起用、日本への期待を示すものとも。

****ミャンマー、ロヒンギャ問題打開へ日本接近 スー・チー氏、独立調査委に大島・元国連大使起用****
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害疑惑を調査する独立調査委員会のメンバーに大島賢三・元国連大使を起用した。

ロヒンギャ問題を巡り非難を強める欧米と異なり日本は「ミャンマー政府とともに問題解決に取り組む」(河野太郎外相)との立場だ。日本人起用でミャンマー国内の反感を抑えつつ、国際社会が注視する同問題の打開を探る。

独立調査委のメンバーは15日、首都ネピドーに初めて集まり、外務省内でスー・チー氏と面会した。ミャンマー政府が7月末に設置した独立調査委は4人の国内外の有識者で構成する。

海外からは大島氏のほか、議長にフィリピンのロサリオ・マナロ元外務副大臣を迎えた。

国軍関係者は関与せず、調査委の下部には国内外の法律専門家からなるチームを設ける。「ロヒンギャ系武装集団による攻撃後の人権侵害の事案を調査する」(ミャンマー政府)ことが任務とされている。
 
ミャンマー政府は2017年3月、前年の武装集団と治安部隊の衝突を受けて国連人権理事会が設置した国連調査団を「問題の解決につながらない」と拒否。18年5月、自国主導の調査委設置を決めた。

ミャンマー国内では旧軍政の流れをくむ最大野党・連邦団結発展党などが「外国人を関与させるべきではない」と強く反発したが、スー・チー政権が押し切った。1人としていた外国人の委員も2人に増員した。
 
独立調査委の設置は、国連機関の活動再開とともに、国際社会の懸念を払拭するための打開策の一つとして、日本政府が働きかけてきた。(中略)

約70万人の難民が隣国バングラデシュに逃れる事態を招いた17年8月の西部ラカイン州での大規模衝突から、25日で1年となる。スー・チー政権が日本を巻き込んで事態打開に動く背景には国際的な孤立が深まることへの危機感がある。
 
国連安全保障理事会などでは中国が最大の後ろ盾。だが日本の支持を得られれば、独立調査委への信頼性をアピールし、なお疑念を抱く欧米との橋渡しも期待できる。河野外相も「ミャンマー政府の取り組みが進展すれば、国際社会に一緒に説明したい」と応じた。
 
日本の存在は、調査対象となる国軍への「重し」にもなる。日本は自衛隊での人事研修や少数民族武装勢力との和解支援などを通じ、国軍上層部とのパイプを維持しているからだ。
 
ただ独立調査委の調査は「難航するのは必至」(外交筋)だ。国軍からの調査協力を引き出しつつ、その軍の威信に傷をつけかねない迫害疑惑の事実解明を求められる。

欧米の人権団体からは、調査委の中立性を疑問視する声もある。被害を訴えるロヒンギャ難民の声に耳を傾け、国際社会の納得を得られる調査結果を示せるかが焦点だ。
 
チョー・ティン・スエ国家顧問府相は6月の来日時、日本経済新聞の取材に対し、独立調査委の活動内容の例としてバングラデシュ側に逃れた難民からの直接聞き取り調査などを挙げた。訴えをもとに、独立調査委でミャンマー側の村落での現場検証や住民聴取を行い「事実関係を徹底的に調べてもらいたい」と述べた。その上で「違法な殺害や性的暴行が確認されれば相応の行動を取る」と強調した。【8月15日 日経】
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ミャンマー政府に批判的な欧米とは一線を画し、歴史的にもミャンマー側との深いつながりを有する日本の外交について、下記記事は“ミャンマーに寄り添いつつ落としどころを探す日本の関与は、ちょっとした賭けである”とも。また、“日本外交の「控えめな目玉商品」”とも。

****18歳「ロヒンギャ花嫁」と難民キャンプの今****
(中略)こう着状態打開のカギを握るのが日本である。河野太郎外相は8月6日、ミャンマーの首都ネピドーでアウンサンスーチー国家顧問と会談し、難民の早期帰還に向けた協力を確認するとともに、ラカイン州の電力・送電網整備や小学校建設などインフラ支援を進める方針を表明した。(中略)

とりわけ歴史的つながりがあるミャンマーに対しては、日本は軍事政権時代も欧米の人権外交と一線を画し、政府軍首脳とスーチー陣営の双方と付き合う独自路線をとった。

ロヒンギャ問題でも非難一辺倒でミャンマーを意固地にさせるのではなく、長年の信頼関係を生かして、国際社会との仲介役を担おうとしている。

ロヒンギャなる民族の存在自体認めていないミャンマー政府に配慮して、その呼称を使わず、国連で昨年11月と12月に採択されたミャンマー非難決議も棄権。今年3月にはスーチー氏と親しい外務省きってのミャンマー通、丸山市郎氏を大使に起用し、水面下での働きかけを続けた。(中略)

ミャンマーに寄り添いつつ落としどころを探す日本の関与は、ちょっとした賭けである。

加減を間違うと、ミャンマーは中国の庇護下に逃げ込もうとするだろうし、「最初の1カ月で少なくとも6700人が殺害された」(NGO国境なき医師団)とされるミャンマー政府軍の“人道に対する罪”の責任追及が尻すぼみに終わるようだと決定的な失望を招く。(中略)

ロシアによるクリミア併合、中国の南シナ海進出など、武力によって現状変更と既成事実化を強行する策動が近年相次いでいるが、自国の少数派を圧倒的暴力で根こそぎ追い出すような暴挙を不問に付していいはずはない。真相究明なしに帰還を促しても誰一人帰らないだろう。(中略)

ロヒンギャ難民の大量流入から1年、問題の長期化は必至である。平和外交と人道支援の両面で日本が存在感を示す余地は大きい。【8月14日 中坪 央暁氏 東洋経済ONLINE】
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難航必至 どのように迫害疑惑の事実解明を行うのか?】
しかし、“民族浄化”“暴力・殺戮・レイプ・放火”といった国軍の威信を損なうような評価を拒否する国軍との関係を維持しながら、一定にその責任を問わねばならない・・・非常に難しい作業です。

調査委員会は独立した立場で調査を行い、1年以内に結果を報告する方針を明らかにしています。

****ロヒンギャ迫害 ミャンマー政府調査委「1年以内に報告*****
(中略)フィリピンの元副外相のマナロ委員長は去年の衝突を機に何が起きたのか、独立した立場で軍や警察、それに被害を受けた住民から話を聞くなどして調査を行い、1年以内に結果を報告する方針を明らかにしました。

ミャンマー政府は、この問題について国連の調査を拒否していて、政府がみずから設置した委員会が独立性や透明性を保ちながら、どこまで事実を解明できるのか問われています。

調査委員会のマナロ委員長は「独立した中立的な調査になると確信している。真実だけが問題を解決に導く」と述べました。

また、委員の大島賢三元国連大使は「どこまで調査できるかは軍を含む関係機関の協力にかかっている。ミャンマー政府や国際社会にとって役立つ結果を出したい」と述べました。【8月17日 NHK】
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ロヒンギャへの迫害問題を調査するアナン元国連事務総長が委員長を務めた諮問委員会の後継組織である政府諮問会議は、軟禁中のスー・チー氏に外国人として初めて面会した、スー・チー氏の「盟友」といえるアメリカのリチャードソン前ニューメキシコ州知事が「諮問会議は(ロヒンギャ迫害の)隠蔽工作にすぎない」と述べ、1月にメンバーを辞任しています。

リチャードソン氏の後任メンバーもまた7月、「職務遂行できない」と辞任しています。

****ロヒンギャ問題、国際諮問機関の主要メンバーが辞任 「職務遂行できない****
(中略)(辞任したコープサック氏は)諮問機関が「ロヒンギャ問題の一部」になりかねないという。

コープサック氏は、ミャンマー当局がロヒンギャ問題で国際社会の懸念にじゅうぶん対応してきたと錯覚するように諮問機関が仕向けていると批判。実際は深刻な事態であるにも関わらず、対応はとられていると錯覚する危険な状況になってきていると危惧を示した。(後略)【7月22日 AFP】
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この国際諮問機関と大島氏らの独立調査委員会の関係は知りません。

国軍・ミャンマー当局との緊密な関係を維持しながら、その責任を問うというようなことができるのでしょうか? 国軍の責任を問わないような“日本外交の恥さらし”にはなってほしくないのですが。
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ミャンマーの「忘れられた紛争」 国軍はロヒンギャに次いで北部のカチン族を標的に

2018-05-29 21:43:53 | ミャンマー

(ミャンマー北部カチン州で、軍とカチン独立軍との衝突を避けて避難する住民(2018年4月26日撮影)【4月29日 AFP】)

約10万人が避難生活を強いられているミャンマー北部で戦闘激化、避難民も更に増加
ミャンマーでは、西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャに対する国軍等による“民族浄化”(昨年8月以降、約70万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに避難)が国際的にも大きな問題となっていますが、ミャンマーではイギリスの支配から独立した1948年から70年間、20以上の少数民族勢力との戦闘が続いてきました。

2015年10月に当時のテイン・セイン政権と少数民族武装勢力8組織との間で署名が交わされ、今年2月にはスー・チー政権のもとではじめて、新たに2組織と停戦合意が署名されています。

ということは、まだ半数が停戦に合意していないということで、そのうちの一つ、北部カチン州のカチン独立軍(KIA)との戦闘が、4月に国軍兵士26人が殺害された襲撃以来、激しさを増しています。

“KIAは(戦闘が続く少数民族の)主要勢力の一つで、キリスト教徒が多いカチン族の自治権拡大を求めている。
KIAと国軍は11年以降、断続的に戦闘を続け、村落を追われ約10万人が避難生活を強いられている。
ミャンマー政府は、早ければ5月中にも3回目となる和平交渉の場「21世紀のパンロン会議」を開き、和平実現に向けて道筋を示したい考えだ。【5月9日 日経】”

4月以降の戦闘激化でさらに数千人ほど、今年1月からでは2万人ほどの避難民が発生しています。

****ミャンマー北部で軍と武装勢力が衝突、数千人が避難 国連****
国連(UN)当局によると、軍と少数民族武装組織の間で緊張が続くミャンマー北部で新たな戦闘が発生し、数千人が避難した。
 
国連人道問題調整事務所(OCHA)のマーク・カッツ代表が27日、AFPに語ったところによると、過去3週の間に、中国国境に近いミャンマー北部カチン州で4000人以上の住民が避難したという。
 
この人数には、今年1月以降に避難していた約1万5000人と、2011年に発生した強力な少数民族の武装勢力「カチン独立軍(KIA)」とミャンマー軍の衝突以来、カチン州とシャン(Shan)州内の国内避難民用キャンプに住む約9万人は含まれていない。
 
カッツ氏は最近発生した衝突について、「われわれは地元当局から、紛争地帯に大勢の民間人が現在も閉じ込められているという報告を受け取っている」と述べた。
 
衝突で民間人が殺害されたという報告について、OCHAは真偽を確認できていない。また、ミャンマー政府の報道官のコメントは得られていない。【4月29日 AFP】
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“国軍は1月以降、KIAへの攻勢を強めている。KIAの報道担当者は「(国軍は)空軍機の爆撃や重火器による攻撃を強化している」と指摘。カチン州の州都ミッチーナの教会に約3千人が避難し、2千人がジャングルに逃れていると語った。地元出身のリン・リン・ウー議員は「避難民は飲料水不足などに直面している」と支援を訴えた。”【5月9日 日経】とも。

****ミャンマーの「忘れられた紛争」、家を追われるカチンの人々****
(中略)ミャンマー北東部での反政府活動は、過去60年にわたり続いているが、イスラム系少数民族ロヒンギャをめぐる問題とは対照的に、世界中で大きく取り上げられることはまれだ。

「忘れられた紛争」と呼ばれることもあるが、今年に入ってからは状況が劇的に悪化しており、すでに2万人が避難を余儀なくされている。
 
この紛争では、自治権や民族的アイデンティティー、麻薬、ヒスイやその他の天然資源など、さまざまな要素をめぐって武装勢力「カチン独立軍」とミャンマー政府が対立している。
 
4月11日、銃声と戦闘機の音が近づく中、ダナイの村の住民たちは農地へと逃げ込んだ。しかし、その3日後、村内への着弾をきっかけに、地域の指導者たちは住民2000人を避難させることを決めた。
 
避難民の中に、前日に女の子を出産したばかりのセン・ムーンさんがいた。ムーンさんは、ダナイの避難所でAFPの取材に応じ、「(出産直後で)まだ出血していた。死ぬかと思った」「とても大変だったけれど、私たちは川を渡らなければならなかった」と語った。
 
幼い子どもや病人、高齢者が多いグループにとって、深い森の中を進むのは容易ではない。
 
だが幸運なことに、森の厳しい状況の中で地元の象使いたちから救いの手が差し伸べられた。目的地の避難所に向かうためには、胸の深さほどある川を渡る必要があるのだが、体の弱い避難民らを中心に、ゾウ使いが彼らを対岸まで運んだのだ。避難所は木造の小さな教会敷地内に設けられていた。
 
少数民族のカチン族は主にキリスト教徒だが、ミャンマーでは仏教徒が圧倒的多数を占める。(後略)【5月29日 AFP】
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カチン独立軍と共に、やはりまだ停戦合意していないタアン民族解放軍もシャン州で作戦を展開しているようです。

****軍と武装勢力の衝突で19人死亡 ミャンマー****
ミャンマーのシャン州で12日、ミャンマー軍と少数民族武装勢力との間で新たな武力衝突が発生し、少なくとも19人が死亡、数十人が負傷した。同軍および地元の情報筋がAFPに明らかにした。
 
武力衝突はミャンマー軍と、自治権の拡大を求める少数民族武装勢力の一つである「タアン民族解放軍」の間で発生したものとみられる。(後略)【5月13日 AFP】
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この衝突地域は中国国境地帯で、中国側にも被弾し中国人3名が死亡したということで、中国がミャンマーに抗議しています。

やはり中国と国境を接するカチン州の戦闘について、ミッソン水力発電ダムの問題や難民流入などもあって、中国が和平に向けた仲介を行っているという話は、1年前の2017年5月17日ブログ“ ミャンマーの少数民族和平交渉を仲介する中国の思惑”でも取り上げました。

(2017年5月23日号 Newsweek日本語版)

その後の中国の動きは把握していません。

対ロヒンギャの残虐行為で非難されている部隊を配備
カチン独立軍等による衝突の今後の“惨劇”を想像させる不吉な兆候は、カチン州にロヒンギャに対する残忍な行為が非難された第33軽歩兵師団がカチン州に配備されたことです。

****ミャンマー軍、ロヒンギャの次はカチン族を標的に****
ミャンマー軍が少数民族への弾圧を再び強めている。イスラム系少数民族ロヒンギャの大半を隣国バングラデシュへと追いやった軍は目下、武装ヘリコプターや戦闘機、重火器などを使い、中国との国境に近い北部山岳地帯でカチン族の武装勢力に攻撃を加えている。
 
カチン族はキリスト教徒の多い少数民族。ミャンマー政府と軍は、主に国境沿いに暮らす様々な少数民族との間で停戦協定の締結を目指しており、カチン族への攻撃は、協定締結を拒む武装勢力に対して、軍が弾圧を強めていることを映し出している。
 
攻撃のパターンからは見えるのは、カチン族などの少数民族の武装勢力が資金源としている翡翠(ひすい)や琥珀(こはく)鉱山へのアクセスを軍が断とうとしていることだ。米国と中国はともに、紛争の即時停止を求めている。

ミャンマー軍は過去およそ5年、反政府組織に対して全面対決よりも話し合いを優先した経緯がある。軍が攻撃を強めていることは、従来の方針から転換したことを意味する。

カチン州北部に配備されたミャンマー軍の一部部隊は、ロヒンギャに対して残虐行為を行ったとして人権団体から批判されている組織だ。

だがミャンマー軍に対抗できる戦闘部隊を持たないロヒンギャとは異なり、カチン族は百戦錬磨の戦闘員1万人程度を抱えており、過去数十年にわたりゲリラ戦術を展開してきた。ミャンマー軍にとって最も手ごわい勢力の1つだ。
 
ミャンマー軍はカチン州の戦闘地帯への報道陣や国際監視団の立ち入りを制限しており、紛争の正確な状況を把握することは困難だ。犠牲者の数も分かっていない。

だが退避を余儀なくされた住民、現地の支援団体や政治勢力への取材からは、戦闘が激化し、人道危機が深刻化している実態が浮き彫りとなっている。
 
戦火を逃れようと数千人の一般市民がジャングルへと逃避。ゾウの背中に乗って逃げる者もあれば、国境を越えて中国へと入るグループもあったという。市民に食料や物資を提供している赤十字国際委員会(ICRC)は、4月初旬以降、7500人のカチン族が住む家を追われたと推測している。
 
軍幹部は先週メディアに対し、戦闘は反政府勢力によって引き起こされたものだとし、政府軍が現地集落に火を放ったとの報道を否定した。(中略)

非営利の国際人権組織、ヒューマン・ライツ・ウォッチのリチャード・ウィアー氏は、「ミャンマー軍は攻撃性を増している」と指摘する。

国連は軍によるロヒンギャ弾圧を民族浄化として批判しているが、これまで制裁発動には至っていない。ウィアー氏は、国際社会がミャンマー軍を罰しなかったことで、他の民族への攻撃を強める事態を招いてしまったと述べる。

(中略)ノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー氏は歴史的な選挙勝利で政権交代を成し遂げた後、2016年に実質的な同国指導者に就任すると、少数民族との和平実現が最優先課題だと表明した。

だがスー・チー氏が政権を掌握して以降も、政府と軍は和平合意の締結で反政府勢力を説得できずにいる。
 
一部の専門家は今回のカチン族への攻撃について、和平プロセスを阻害し、スー・チー氏と同氏が率いる国民民主連盟(NLD)の邪魔をする軍幹部の策略ではないかと指摘している。NLDはこれを否定、軍はコメントを差し控えた。
 
安全保障関連のアナリスト、 アンソニー・デービス氏は「戦闘を激化させることで、NLDの看板政策は完全な失敗だったと結論づけることになる」と指摘。「選挙は2年後に迫っているが、NLDは何を有権者に訴えることができるだろうか」と述べた。

スー・チー氏のオフィスの報道官は、兵士26人が殺害された 4月初旬のカチン族の襲撃が引き金となって、最近の戦闘激化を招いたとした上で、「軍は状況に適切に対処している」とコメントした。一方、カチン族は政府軍による侵攻が紛争を招いたと主張している。
 
今年開催を予定されていた国家和平会議はすでに2度延期となっており、関係者の多くは再び先送りされると予想する。
 
ミャンマー平和センターのシニアプログラムオフィサー、アマラ・ティハ氏は「和平プロセスは完全に暗礁に乗り上げた」と話す。同センターは、軍と反政府勢力との交渉を支援する組織だ。
 
北部山岳地帯の戦闘は通常、6月半ばには下火になる。激しい雨で道路が通行不可能になるためだ。だがミャンマーは近年、空軍の戦闘能力を著しく高めている。前出のデービス氏らアナリストは、天候にかかわらず、軍によるカチン族への攻撃が続くとみている。【5月29日 WSJ】
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国軍が実権を握る安全保障面で影が薄いスー・チー氏
国軍が、少数民族側の襲撃をもって掃討作戦の正当性を主張し、集落への放火などの行為は否定しているというのは、ロヒンギャのケースと同じです。

上記【WSJ】記事では、国軍側には、戦闘を激化させることでスー・チー氏と同氏が率いる国民民主連盟(NLD)が進める和平プロセスを阻害する狙いがあるのでは・・・との指摘があります。

ただ、“ロヒンギャへの注目を政府軍は利用しながら、「平和交渉のテーブルに」つかせるためにKIAを攻撃した”との指摘もあるようです。【5月29日 AFPより】

“ロヒンギャへの注目を政府軍は利用しながら”というのは、「抵抗を続けると、ロヒンギャのように殺し・焼き尽くしてしまうぞ!」とのメッセージでしょうか?

また、カチン独立軍側の思惑として“現地の政治情勢に詳しい専門家は「KIAは政府との全土停戦協定の締結を模索している。戦線が固定化される前に互いに少しでも優位な情勢を獲得しようとしている」と分析する。”【5月9日 日経】】との指摘もあります。

もしそういうことであれば、衝突は戦略的なものであり、全面的に拡大することはない・・・・とも推測されます。

いずれにしても、“民主化運動の指導者であるアウン・サン・スー・チー氏は、2年前に同氏が党首を務める政党が政権を握って以後、国全体の平和構築が最優先課題だと述べていた。だが安全保障問題をめぐっては、軍が今も主導権を握っている。”【5月29日 AFP】というのが実態で、スー・チー氏の影が薄いのは否めません。
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ミャンマー  ロヒンギャによるヒンズー教徒住民虐殺 被害者が加害者となるとき

2018-05-23 22:58:20 | ミャンマー

(ミャンマー西部ラカイン州マウンドーで、発掘された家族の遺体のそばで泣くヒンズー教徒の女性たち(2017年9月27日撮影)【5月23日 AFP】)

少数派イスラム教徒ロヒンギャの武装勢力によるヒンズー教徒住民虐殺
ミャンマー西部のラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャに対する、過激派掃討を名目にした国軍等による暴力的“民族浄化”の問題は再三取り上げてきたところです。

このロヒンギャの問題は、イスラム系少数民族ロヒンギャとミャンマーにおける多数派仏教徒の対立という構図で語られる場合が多いのですが、この地域にはロヒンギャ以上に少数派であるヒンズー教徒も暮らしており、イスラム系ロヒンギャによるヒンズー教徒虐殺という問題も指摘されています。

****ロヒンギャ危機】武装勢力、ヒンドゥー教徒100人近くを大量虐殺か=人権団体****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは22日、ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が、昨年8月の襲撃で何十人ものヒンドゥー教徒の民間人を殺害していたとする報告書を公開した。

報告によると、ARSAは1回もしくは2回にわたる虐殺行為で、最大99人のヒンドゥー教徒を殺害したとされる。ARSAは関連を否定している。

虐殺は、ロヒンギャの武装集団がミャンマー軍に対して行った攻撃の初期に行われた。ミャンマー軍も、ロヒンギャに対する残虐行為で批判を浴びている。

昨年8月以降、ロヒンギャなど70万人近くの人々が暴力から逃れた。
この紛争では、ミャンマー人の多数を占める仏教徒や、ヒンドゥー教の人々も住む場所を追われた。

アムネスティ・インターナショナルは、闘争の起きたミャンマー西部ラカイン州や避難先のバンクラデシュで難民に聞き取り調査を行った結果、昨年8月末にARSAが警察の詰め所を襲撃した際、バングラデシュ国境近くのマウンドーのいくつかの村で大量殺人を行ったことが明らかになったとしている。

またARSAは、他の地域でも小規模ではあるものの、市民に対して暴力行為を働いていたことが分かった。

報告書では、8月26日にヒンドゥー教徒の村が襲われた際、「この残虐で無意味な行為で、ARSAの戦闘員は多くのヒンドゥー教の女性や男性、子供を捕らえて弾圧した後、村の外で殺害した」と詳しく説明している。

生き延びたヒンドゥー教徒はアムネスティ・インターナショナルに対し、親族が殺されるのを目撃したり、その叫び声を聞いたと語った。

この村出身の女性は、「(ARSA戦闘員は村の)男たちを殺した。私たちは、その姿を見るなと言われた(中略)ナイフやくわ、鉄棒を持っていた(中略)私たちは生け垣に隠れていたので少しだけ見えた(中略)叔父や父、兄弟、みんな殺された」と話した。

ARSAの戦闘員はこの村で、男性20人、女性10人、子供23人を殺害したと言われている。子供のうち14人は8歳以下だったという。

アムネスティ・インターナショナルは、この村の住民45人の遺体が昨年9月、4カ所の集団墓地で発見されたとしている。残りの犠牲者や、隣村で殺害された46人の遺体は発見されていない。

調査では、この隣村での大量殺人も同じ日に行われた。合計の死者は推定99人に上るという。

アムネスティ・インターナショナルはまた、「ミャンマー軍による非合法で一方的な暴力活動」も批判している。
「ARSAの非道な行為の後、ミャンマー軍はロヒンギャに対する民族浄化を行った」

一連の調査結果は、「ラカイン州やバングラデシュ国境で行われたインタビューに加え、司法病理学者による証拠写真の鑑定」に基づいているという。

アムネスティ・インターナショナルのティラナ・ハッサン氏は、この調査が「最近のラカイン州北部の言語道断なほど暗い歴史において、ほとんど報道されてこなかったARSAによる人権侵害に、必要な光を当てた」と話した。

「ARSAの行為はあまりに残虐で、無視するのは難しい。証言してくれた生存者たちに、ぬぐいがたい強烈な印象を残していた。ARSAの責任を問いただすことは、ミャンマー軍がラカイン州北部で行った人道に対する罪と同じくらい重要だ」

昨年8月以降、70万人近いロヒンギャの人たちがバングラデシュへ避難した ARSAはこれまで、虐殺行為の疑いを否定しており、戦闘員が村民を殺したなどの主張は「うそ」だと反論している。

ロヒンギャは独自の国家を持たないイスラム教徒の少数民族で、ミャンマーでは広く差別の対象となっている。実際には何世代も前からミャンマーに住んでいるものの、同国はロヒンギャをバングラデシュからの不法移民とみなしており、政府はロヒンギャに市民権を与えていない。

バングラデシュも、ロヒンギャに市民権を認めていない。【5月23日 BBC】
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このロヒンギャによるヒンズー教徒虐殺は、以前から(国際社会からロヒンギャ虐殺で非難されている)ミャンマー国軍によって強くアピールされています。

下記記事は、ヒンズー教徒の集団墓地が発見された昨年9月のものです。

****ミャンマー軍、ヒンズー教徒の集団墓地発見 「ロヒンギャの仕業****
ミャンマー軍は24日、暴力の連鎖で荒廃した同国西部ラカイン州で、女性と子どもを含むヒンズー教徒28人の集団墓地を発見したと発表した。

その上で、殺害に及んだのはイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団だと断定した。
 
ラカイン州では先月25日にロヒンギャ武装集団による襲撃が発生して以来、宗教間の暴力紛争に発展し、以前はイスラム教徒と同じ村内に暮らしていたヒンズー教徒も、ロヒンギャ武装集団の標的にされていると訴えて数千人が避難している。
 
同域ではミャンマー軍が立ち入りを厳しく規制しているため、発表の真偽の第三者的立場からの確認は取れていない。(中略)

ラカイン州からは1か月足らずで43万人以上のロヒンギャがバングラデシュに避難。避難者らはミャンマー軍の兵士らが自警団員と結託して民間人を殺害し、村全体を焼き払ったと訴えている。
 
また同州内のヒンズー教徒と仏教徒の合わせて約3万人も、暴力行為のため避難を余儀なくされている。いずれもAFPの取材に対し、ロヒンギャ武装集団に恐ろしい思いをさせられたと語っている。【2017年9月25日 AFP】
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バングラデシュ側における仏教徒迫害も
更に、ロヒンギャ難民が大量流入したバングラデシュ側には少数派仏教徒が暮らしており、この地では多数派であるイスラム系ロヒンギャから迫害を受けているとの訴えもあります。

****ロヒンギャが直面する想像以上に深刻な対立****
ヒンドゥー教徒・仏教徒も命の危険に怯える

(中略)宗教がからむ形での住民殺戮は、バングラデシュにある別の難民キャンプでも聞かされた。迫害されているはずのロヒンギャたちは、別の宗教を攻撃しているのだ。

「イスラムに改宗しろ、さもなくばヒンドゥー教徒は殺すと脅された。行方不明になった人たちだってたくさんいる」

そう話すのは、夫を失い、必死にミャンマーから出国した女性。彼女が身を寄せているのはクトゥパロン・キャンプからほんの数キロ離れた、「ヒンドゥパラ」と呼ばれる難民キャンプ。

人数は約500人と小規模で、全員がヒンドゥー教徒だという。幹線道路にまで人があふれるイスラム教徒のキャンプとは異なり、そこは奥まった場所にひっそりとあった。

ロヒンギャから迫害される人たち
「われわれを襲ったのはロヒンギャです。ここに来てからもイスラムのロヒンギャから暴力を受けて安心できない」
ヒンドゥー教徒が「ロヒンギャに暴行された」と傷跡を見せてくれた

多くのヒンドゥー教徒難民が、ミャンマーで経験したロヒンギャからの迫害と被害を口にする。中には「ARSA(アラカン・ロヒンギャ救世軍)」と武装勢力の名前を挙げ訴える者もいたが、他方、ミャンマー軍に追い出されたと話す難民もいて情報は錯綜していた。

ミャンマー軍は最近になって国内で虐殺されたヒンドゥー教徒の集団墓地をたびたび発見し、そこに埋葬された人々の殺害を「ロヒンギャの仕業だ」と報告している。

対してバングラデシュに避難したロヒンギャ難民は、ヒンドゥー教徒の虐殺は仏教徒、すなわちミャンマー軍が行ったと主張する。ミャンマー軍の言い分に同意し協力するヒンドゥー教徒を非難する声も、ロヒンギャたちからは聞こえた。

こうなると本当はなにが起こっているのか分からなくなってくる。確かなことは、ミャンマー国内においてもっとも少数派であるヒンドゥー教徒が、自分たちより多数派の“何か”に迫害され、難民化したということだ。

今回の難民の大量流出は、ロヒンギャの武装勢力とミャンマーの軍治安部隊の衝突がきっかけだった。背景にあるのはミャンマー南部ラカイン州に住むイスラム教徒ロヒンギャへの、長年にわたる仏教徒たちからの迫害とされる。

政府はロヒンギャを「ベンガル人の移民」などと呼び、少数民族として認めてもいない。

そもそもロヒンギャとはどんな人たちなのか。歴史的、民族的な特長で括られる存在なのか。イスラム教でつながる彼らの宗教的エスニシティ(ひとつの共通な文化をわかち合い、その出自によって定義される社会集団)を指すのか。実は明確には定まってない。

この地域を研究する専門家たちに実際に聞いても、意見は分かれる。さらにロヒンギャが暮らしていたラカイン州には、ロヒンギャと同じベンガル系住民のヒンドゥー教徒が隣り合って暮らす。

バングラデシュの難民キャンプで彼らは、「ヒンドゥー・ロヒンギャ」という名称で難民登録さえされていた。ロヒンギャ問題の解決の難しさは、この地域の人々が形成するアイデンティティの複雑さにも一因があるのだろう。

国家間での難民の押し付け合いが始まっている
ミャンマーとバングラデシュ両国は11月、ロヒンギャ難民の帰還を進める合意書に署名をした。しかし、具体的な帰還手続きや期限は盛り込まれてはいない。

難民化したロヒンギャという“厄介者”を早期返還したいバングラデシュ側と、追い払った異分子はもう受け入れたくないミャンマー側。

合意からは問題解決の意思よりも、難民を押し付け合う両国の思惑がいっそう透けて見えてしまう。

バングラデシュの中で、今回の事態をもっとも危惧しているのは国内の仏教徒たちだ。ミャンマーとは逆に、バングラデシュでは仏教徒は少数派であり、イスラム教徒から迫害を受ける立場だとされる。

コックスバザール郊外に約3万人の仏教徒が住む「ラモ」という町があるが、ここでは5年前、イスラム教徒によって12の仏教寺院などが襲撃され焼失した。

「当時、イスラムの暴徒にはロヒンギャも混ざっていました。彼らは難民キャンプからやって来た。ロヒンギャはとても好戦的で、再び大量流入している現状を私たちはとても心配しています」(シマビハール寺院のシラピリャ僧侶)

そう言われたロヒンギャ難民にしても、なにも望んでバングラデシュにやって来たわけではない。彼らだってできることなら一刻も早く故郷に戻りたいのである。

しかし、迫害が続くミャンマーへの帰還を巡っては、難民の間でも揺れる気持ちがあるようだ。

ロヒンギャ難民のノルさん夫妻に新しい家族が誕生した。子どもはイスラム教徒が多数のバングラデシュで育てたいと話す

難民キャンプで生まれた子の未来は
バングラデシュ最大の難民収容所、クトゥパロン・キャンプでの礼拝後、モスクから足早に自宅へと向かうロヒンギャの男の姿があった。彼、ノルさんにはその朝、ひとりの男の子が生まれた。身重のまま国境の川を越えた妻コリーさんが、出産を終えたのだ。キャンプでは、コリーさんが近所の人たちに祝福されながら、ようやく目が開きかけた赤子を抱いて待っていた。

「幸せです。この子のためにもう危険なミャンマーには戻りたくない。イスラム教徒がいるバングラデシュで教育を受けさせたい」

ミャンマーからの難民流入は60万人を超えた。その半数以上は子どもたちだとされる
ミャンマーで教師をしていたというノルさん。彼の願いが叶えば、生まれた子にとってはバングラデシュの難民キャンプこそが“故郷”になる。

難民として異国のイスラムコミュニティーで育つこの子の未来は、はたしてどんな世界が待っているのだろうか。名前はまだなかった。イマーム(イスラムの指導者)に相談していい名を付けたいと、若い父親は語ってくれた。【1月1日 木村 聡氏 東洋経済online】
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ミャンマー国軍がロヒンギャ虐殺を認めていないように、ロヒンギャ側もヒンズー教徒虐殺を認めておらず、国軍等による陰謀だとの主張もあります。

そのあたりの真相はよくわかりませんが、今回アムネスティ・インターナショナルがロヒンギャによる暴力を認定したということは、それなりの証拠があるということでしょう。(ミャンマー政府はラカイン州での独立した調査を妨害しており、アムネスティ・インターナショナルもARSAが行ったとされる虐殺現場を訪れることができていませんが)

虐げられる立場にある者が、自分たちよりさらに厳しい立場にある者に対して暴力をふるう・・・というのは、ロヒンギャに限らず、あるいは民族間の問題に限らず、しばしばみられる構図ではあります。
非常に悲しい人間の性(さが)とも・・・・。
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ミャンマー  ロヒンギャ以外の少数民族問題 停戦合意に向けて個人の立場で尽力する日本人も

2018-05-13 23:43:09 | ミャンマー

(「タアン民族解放軍」の基本綱領が書かれた冊子【2014年4月28日 アジアプレス・ネットワーク】)

【ロヒンギャ問題 国連安保理視察団を受け入れたものの、国際社会との溝は埋まらず】
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する“民族浄化”の問題については、ミャンマー民主化を期待されたスー・チー国家顧問の消極的対応への国際的失望などを含め、再三取り上げているところです。

****スーチー氏への失望広がる ロヒンギャ問題****
国連安全保障理事会の視察団がミャンマーの少数イスラム教徒ロヒンギャ族の問題に関連して、避難民として逃れているバングラデシュのキャンプや元々居住していたミャンマーのラカイン地方、そして首都ネピドーを訪問した。

各国国連大使など15人からなる視察団はネピドーでアウンサンスーチー国家顧問兼外相やミンアウンフライン国軍最高司令官と会談し、ロヒンギャ問題で意見を交換したものの「ミャンマー国軍による深刻な人権侵害や民族浄化」を証明しようとする国連側とあくまでテロリストを対象にした軍事作戦であるとするミャンマー側の主張の隔たりは埋まらなかった。

ロヒンギャ問題が2017年8月に大きくクローズアップされて以来、国連による初の大規模視察団をミャンマーが受け入れたものの、ロヒンギャ問題の根本的な解決にはほとんど無力だった。(中略)

ネピドーに戻った視察団の英国連大使ピアース氏はロヒンギャ族に対するミャンマー国軍の数々の人権侵害に関し「きちんとした捜査が必要だ」と述べた。その上で人権侵害事案の捜査を「国際刑事裁判所(ICC)」に委ねることも一案との考えを示した。

国連をはじめとする国際社会がミャンマー国軍など治安組織によるロヒンギャ族への人権侵害は「民族浄化」であるとの主張を繰り返しているものの、ミャンマー側は一貫して「人権侵害の事実はなく、国軍の行動は(ロヒンギャ族の)テロリストに対して行ったものである」と主張、双方が立場を譲らない状態が続いている。

ピアース大使の発言は、その膠着状態を打開する方策の一つとしてICCの介入を示唆したものとみられている。

■ スーチー女史との会談も平行線
視察団はラカイン州を訪問する前日の4月30日にネピドーでスーチー国家顧問兼外相と会談した。

会談ではスーチー顧問が「(ロヒンギャ族の)帰還プロセスの手続き促進にはバングラデシュの協力が不可欠である」と強調しながらも現在まで帰還が始まっていないことについては「バングラデシュ側が準備した帰還希望者の書類に不備があったため遅れている。ミャンマー側の受け入れ態勢はすでに整っている」と主張し、バングラデシュ側に責任を押し付ける姿勢をみせた。

さらにスーチー顧問は今後の問題点として「帰還した人々と他の地域の住民の信頼関係をどう構築するか。帰還者に市民権を与えるかどうか」などを指摘したものの、具体的な方針には触れなかった。

その後視察団はミンアウンフライン国軍最高司令官とも会談したが、司令官は視察団がバングラデシュの収容施設で聞いた人権侵害の数々の事例について「誰一人としてバングラデシュでは幸せではない状態で、そうした悲劇的な事例の話をして同情を買おうとしているだけで、全ては誇張されている」と反論。

その上で「帰還した人々の安全を心配することはない。彼らが決められた地域にいる限りは安全だ」と強調し、視察団の懸念の払しょくに努めた。

視察団は国際社会の「ミャンマー国軍による人権侵害」の実態把握とバングラデシュに逃れた約70万人の避難民の帰還プログラムのスムーズな実施に向けた実情を視察する目的があった。

しかし、人権侵害との指摘には「ロヒンギャ族のテロリストを対象にした軍事作戦である」として完全否定の姿勢を崩さず、帰還プログラムに関しても「ミャンマー側は準備万端だが、バングラデシュの問題で遅れている」などと責任転嫁に終始するなど、国際社会とは平行線をたどったままで視察は終わったといえる。(後略)【5月13日 大塚智彦氏 Japan In-depth)】
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今も交戦状態にある少数民族も
ロヒンギャ“民族浄化”問題はそういった状況ですが、周知のようにミャンマーはロヒンギャ以外にも多くの少数民族問題を抱えており、そのうちのいくつかについては交戦状態にあります。

****ミャンマー北部 政府軍と武装勢力の戦闘で住民5000人超が避難****
(中略)カチン州では、自治権の拡大を求める少数民族のカチン族の武装勢力と政府軍との間で戦闘が続いていますが、先月以降、戦闘の影響で5000人を超える住民が州内の別の場所に避難しています。

国際社会からは政府軍が住宅地を攻撃しているという批判も出ているため、政府は11日までの3日間、現地を初めてメディアに公開しました。

住民が避難したという村では、戦闘が続いている様子は見られず、政府は「戦闘は最小限の規模ですでに終了し、住民への被害は出ていない」と説明しました。

しかし、避難所では多くの人が身を寄せ合って生活していて、取材に答えた住民たちは、「村の近くで銃声が聞こえた」とか、「以前のように、軍人に拷問を受けるのではないかと思い、逃げてきた」と話していました。(後略)【5月12日NHK】
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“住民への被害は出ていない”など、政府・軍が現状を隠蔽しようとする体質は、ロヒンギャ問題と共通しています。

ミャンマー北部シャン州でも激しい交戦があったようです。(上記カチン州の動きとの関連はよくわかりません)

****軍と武装勢力の衝突で19人死亡 ミャンマー****
ミャンマーのシャン州で12日、ミャンマー軍と少数民族武装勢力との間で新たな武力衝突が発生し、少なくとも19人が死亡、数十人が負傷した。同軍および地元の情報筋がAFPに明らかにした。
 
武力衝突はミャンマー軍と、自治権の拡大を求める少数民族武装勢力の一つである「タアン民族解放軍」の間で発生したものとみられる。
 
人権団体は、国際社会が西部ラカイン州における、イスラム系少数民族ロヒンギャの問題に重点的に取り組む中、中国と国境を接するミャンマー北部では過去数か月の間に武力衝突が増加していると指摘した。(後略)【5月12日 AFP】
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上記衝突は中国国境付近で起きており、中国をも巻き込む形になっています。

****ミャンマーの中国国境近くで武力衝突、中国側に砲弾が着弾****
2018年5月12日、環球網は、ミャンマーで武力衝突があり、中国側に砲弾が着弾したと伝えた。

記事によると、5月12日午前6時45分ごろ、徳宏タイ族チンポー族自治州瑞麗市と隣接するミャンマーのシャン州ムセ地区で、政府軍と武装勢力との間で武力衝突が発生し、避難民が国境を越えて中国側へ避難したほか、砲弾が中国側に着弾したという。記事は、「砲弾の1発は中国側の約200メートルの所に着弾し爆発したが、負傷者は出なかった」と伝えた。

瑞麗市は、直ちに「国境安定応急処置作業対応策」を始動し、国境と市民の命や財産の安全を確保して、同時に国境を越えて流入した避難民に対して適切に対応し、登録を強化して違法な流入を防ぐ対策をとったという。

記事によると、現在のところ中国側の人的被害は報告されていない。記事は市民に対し、「しばらくは国境付近での生産活動を避け、勝手に国境を越えず、特別な事情で国境を越える必要がある場合は、中華人民共和国出入国管理法を厳守し、決して密出入国しないように」と呼びかけている。

中国中央テレビは、ミャンマーのムセ地区での武力衝突で、19人が死亡、29人が負傷したと伝えた。【5月13日 Record china】
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日本も関与して進められる停戦合意
スー・チー顧問は、全少数民族との停戦協定締結を重点施策として進めていますが、これまでのところ、従来の8民族に加え、今年2月には新たに2民族との停戦協定が締結されています。

この交渉には、日本も深く関与しています。下記は河野外相の談話です。

****ミャンマーにおける少数民族武装勢力との停戦合意署名について(外務大臣談話****
1 (2月)本13日(現地時間同日),ミャンマー連邦共和国の首都ネーピードーにおいて,新モン州党とラフ民主連盟の全国停戦合意への署名が行われたことは,ミャンマーの国民和解実現に向けた前向きな動きであり,日本政府として心より歓迎します。

2 署名式典では,笹川陽平ミャンマー国民和解担当日本政府代表が様々な協力をミャンマー側関係者と相談しつつ実施してきたことを受けて,我が国から同代表が証人として署名しました。


定住のための支援を重視しており,これまで,カレン州を中心に,日本財団等の日本のNGOと連携して住居,学校,病院,橋などの建設を行ってきています。

今後は,ミャンマー政府や地方政府とも協議しつつ,モン州等において紛争の影響下にあった住民にも対象を拡大して,復興・開発支援を行っていきます。

4 ミャンマーにおける和平と国民和解の実現は,インド太平洋地域の安定と平和のために極めて重要です。ミャンマー政府,国軍,少数民族武装勢力が全国停戦合意を実現し,和平プロセスを進展させることで,より多くの人々が平和を実感することを強く期待します。

【参考1】ミャンマーにおける和平プロセス
ミャンマー政府は,2011年8月以来,国内和平達成のため,少数民族武装勢力と和平交渉を実施。2015年10月,カレン民族同盟(KNU)等の少数民族武装勢力8勢力が署名していたが,新モン州党等残る勢力との停戦合意実現が課題となっていた。

【参考2】新モン州党(NMSP)
 ミャンマー東部モン州を拠点とする少数民族武装勢力。1948年以来,国軍との間で戦闘が繰り返され,多くの避難民が発生してきた。

【参考3】ラフ民主同盟(LDU)
 ミャンマーのシャン州東部とタイを拠点とするラフ族の少数民族武装勢力。ラフ族の一部は,シャン州及びタイ領内で避難民となっている。【2月13日】
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【『ビルマのゼロファイター』】
上記記事にもある、日本政府お墨付きの大きな団体だけでなく、個人としてミャンマーの停戦合意に尽力されている方もいます。何の後ろ盾もなく、身ひとつで活動していたことから、現地では『ビルマのゼロファイター』とも呼ばれていたそうです。

****ミャンマー少数民族和平に尽くす日本人****
山澤
「けさは、今も内戦が続くミャンマーの和平交渉で大きな役割を果たしてきた、井本勝幸さんをご紹介します。」

丹野
「ミャンマーと言えば、ロヒンギャの人たちへの対応が国際社会から批判を浴びていますが、それと同様に大きな課題となっているのが、国内の紛争問題です。
ミャンマーでは、イギリスからの独立以降、70年にわたって少数民族の武装勢力と政府軍との間で内戦が続いていますが、政府はおよそ20ある武装勢力のうち、これまで10の勢力と停戦協定を結びました。」
山澤
「この和平交渉のプロセスで大きな役割を果たしたのが、井本さんです。
単身ミャンマーの山岳地帯に入ったのが8年前。それ以来、武装勢力と政府の仲介などに尽力してきました。
外国人、そして一般人でありながら、長年対立する人々をなぜ和解に導くことができたのか。ミャンマーから一時帰国した井本さんに話を聞きました。」

ミャンマー和平交渉 命をささげる日本人
(中略)井本さんは、大学時代からボランティアやNGOのメンバーとしてソマリアやタイ、カンボジアの難民支援活動に携わってきました。

その後、28歳で出家。
福岡の叔父の寺で副住職を務める一方、仏教徒ネットワークを立ち上げ、東南アジアの難民や農村地域の支援を行ってきました。

中でも、井本さんが特に気になっていたのがミャンマーでした。
当時、軍事政権下にあったミャンマーへの入国を何度も試みていた井本さん。 8年前、タイから入り、初めて目にした現地の状況が井本さんの人生を大きく変えました。

1948年にイギリスから独立して以降、平等と自治権を求める少数民族と政府軍の間で戦闘が続き、多くの人たちが難民となっていたのです。

井本勝幸さん
「少数民族の地域に入ると、まだ当時内戦の最中だったんですね。そうすると被害者を見るわけですね。
悲惨な状況にある人たちのことを見て、知ってしまって、しかも知り合ってしまって、これ、知らないフリしたら罰が当たるなというかですね、人としてどうだろうかっていう部分で、これはきっと自分に課された試練じゃないのかなというふうに、僕自身は思ったんですね。」

周囲の反対を押し切り、単身ミャンマーに飛び込んだ井本さん。
まず始めたことは、互いに団結するよう説得するため、各武装勢力を訪ねて回ることでした。
井本さんの熱意に、やがて心を開いていった少数民族たち。

2011年11月に、主要な11の武装勢力で構成される組織を設立しました。

山澤
「和平に向けた交渉は長年実現できなかったことですし、そんなに簡単なことではないと思うんですけれども、なぜ、少数民族たちは、この交渉を受け入れたんでしょうか?」

井本勝幸さん
「当時は敵は、ミャンマー国軍じゃないですか。なのに、こちらは一枚岩でないどころか、お互いに喧嘩してたりするんですよね。

当時は、ミャンマーはテイン・セイン政権になって、民主化に向けて大きく舵がきられたんですね。
そういう中にあって、君たちこのままいったら取り残されるぞ、国はある意味、世界から認められて、民政移管を達成しつつある。

ここで一枚岩になって話さなかったらいつ話すんだというふうに説いて回った。

紛争地というのはどこもそうなんですが、長年の間戦ってきてますので、お互いに、その身内を殺されてきた。
これは簡単には拭えないですね。

敵対者同士だと、やっぱり不信感がありますから、あるいは恨みがありますから、簡単には仲よくなれない。
けれども、私のような第三者がいる。 双方とも双方それぞれに信頼されている。そういう意味では、彼らもストンといったでしょうね。」

こうして一枚岩となった少数民族と交渉せざるを得なくなったミャンマー政府。
井本さんは代理人として、政府との最初の接触を託されました。

井本勝幸さん
「ネピドーまで行って、1人で行ったんですよね。やっぱり緊張しますね。
武装勢力のボスたちからは、行ったら出されたものは食べるな、飲むな。かつて俺たちのリーダーたちは毒殺されたことはあるとかですね、言われるわけですよね。

だからもう、相当緊張して行きましたよ。
ですが、行ってみれば、向こうの方は準備してくれていて、要件はUNFCをやっているようだけれども、和平交渉の仲介をやってくれないかと。あの時は、驚きと達成感がありましたね。」

そして3年前の8つの武装勢力に加え、今年(2018年)2月、新たに2つの勢力と政府の間で停戦協定の合意が締結されました。

しかし、それ以降、両者の交渉は大きく進んでいないという声も聞かれます。

井本勝幸さん
「やはりミャンマーの国っていうのは、民主化したとはいえ、まだ軍が力を持ってますし、そういった中で、スー・チーさんができることっていうのは限度があると思いますし、しかし、少なくとも政治的な部分では後退はしていないですよね。

そういう中で、今やらなきゃいけないことは、批判よりもむしろ手を取り合って、みんなで何ができるのか、それはもう国軍も含めて、武装勢力を含めて、みんなで考えていくことなので、私自身は、この政権がいいとか悪いとかっていうのは一切考えてないですね。どこの政権になろうと、やることっていうのは決まってるわけですから。」

山澤
「現地では戦闘が続いている状態です。 全土での戦争終結するにあたって何が必要だと、井本さんはお考えですか?」

井本勝幸さん
「やっぱり関わってる人間の中に、この問題に命を捧げるっていうんですか、腹をくくるっていうんですか、リスクを最後までしょいきるっていうんですか。そういう人間がいることが大事、基本だと思いますね。 一番大事だと思います。

僕自身は、全部捨てたつもりで入ったんですね。 正直言って、そこで死のうと思ってたんです。これでダメなら、もう自分の人生を賭けたんですね。

それからもう1つは、敵対したもの同士が同じ地域にいるわけですから、やはり共存していかなきゃいけないんですね。

じゃあ、共存するためには何が必要か。それには、彼らがそれを通して共に生きていくことができるというような場所を提供していく。これが必要だと思いますね。」(後略)【5月7日 NHK「特集ワールドアイズ」】
******************
日本人にもエライ人がいるものです。

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ミャンマー・ロヒンギャ問題  ロイター記者逮捕事件では進展も、帰還作業は進まず、定住化の様相も

2018-05-02 23:29:30 | ミャンマー

(難民キャンプと田の上にかかる竹製の橋。地元のバングラデシュ人は米を育て、蒸発池で塩をつくる 【4月6日 WSJ】)

ロイター記者逮捕は警察の「わな」 裁判所が証言の信頼性を認める
ミャンマー西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャに対する“民族浄化”を進めるミャンマー国軍が、ようやく兵士7人について「殺人行為に手を貸し、参加した」として懲役10年に処した・・・という件は、これまで全くロヒンギャ殺害を認めてこなかった国軍の立場からの“一歩前進”とみるべきか、国際社会から厳しい批判を形ばかりの処分で実質的には無視し続けているとみるべきか・・・。

国軍は、あくまでも殺害されたロヒンギャは一般民間人ではなく、過激派「テロリスト」であったと主張しており、法的手続きを経ずに殺害されたことを問題としています。殺害されたロヒンギャ10人が「テロリスト」であった証拠は示していません。

69万人にも及ぶとされる大量避難民を引き起こす原因となった殺戮・暴行・レイプ・放火等への国軍の組織的関与を認めるものでは全くありません。

****ミャンマー、ロヒンギャ殺害で兵士7人に懲役10年****
ミャンマー軍は10日、イスラム系少数民族ロヒンギャの男性10人の殺害にかかわったとして、兵士7人が懲役10年の判決を受けたと明らかにした。

軍は発表文で、「殺人行為に手を貸し、参加した」兵士たちが10年間の重労働を伴う懲役を命じられたと述べた。
軍は今年1月、軍の兵士がロヒンギャ殺害に関与したと初めて認めた。(中略)

村での殺人を調査していたロイター通信の記者2人が国家機密法違反の罪に問われて逮捕され、現在も勾留されている。ミャンマーの裁判所は11日、ワ・ロネ、クヤウ・ソエ・ウー両記者の公訴棄却を求める弁護側の申し立てを却下した。

昨年8月にロヒンギャの武装集団と治安部隊との衝突が起きて以来、65万人以上のロヒンギャが国境を接するバングラデシュに避難した。

避難した人々は、虐殺や強姦、拷問などが行われたと語った。地元の暴徒化した仏教徒たちが軍を後押しし、村々を焼き払い、市民を攻撃し殺害したという。

ミャンマー軍は、市民は標的にしておらず、ロヒンギャの武装集団と戦っていると主張した。【4月11日 BBC】
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上記事件を調査していたロイター通信の記者2人が、ラカイン州における政府軍作戦に関連した機密文書を所有していたとして、国家機密法違反の疑いで12月から逮捕拘留されており、上記のように公訴棄却の申し立ては裁判所に却下されています。

この記者逮捕は、ミャンマーにおける「報道の自由」の侵害を象徴するものでもあります。

“ここ数年、多くのジャーナリストがミャンマー政府に起訴され、国連は報道の自由が着実に浸食されていると警鐘を鳴らしてきた。ミャンマー軍によるロヒンギャ掃討作戦が実施されて以降、外国人記者はビザ取得が一段と困難になり、多くの地区へのアクセスも禁じられている。”【4月12日 WSJ】

ところが、この記者逮捕は「わな」だったという証言が警察側から出てきました。

****<ミャンマー>ロイター記者逮捕は「わな」 予審で警官証言****
ミャンマーでロイター通信のミャンマー人記者2人が国家機密法違反の罪で起訴された事件で、裁判所の予審に出廷した警察官が事件は警察による「わな」だったと証言し、波紋を呼んでいる。

ロイターは「法廷はついに真実に達した。裁判を終わらせる時だ」と主張している。
 
2人は昨年12月、少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」が暮らすラカイン州と治安部隊に関する政府機密文書を所持していたとして逮捕された。
 
ロイターなどによると、最大都市ヤンゴンの裁判所で、国家機密法違反罪で審理すべきかどうかを決める予審に20日、警察官が検察側証人として出廷。

警察幹部が部下に対し「極秘文書」を記者に渡し、密会場所から出てきたところを逮捕するよう命じたと証言した。幹部は「捕まえなければ、あなたたちが刑務所に行くことになる」と迫ったという。
 
証言した警察官は、規律違反を理由に昨年12月から拘束されている。警察報道官はロイターに対し「この警察官は自分の感情のまま話している。ほかの証人の話を聞く必要がある」とコメントした。
 
記者2人は、昨年9月にラカイン州でロヒンギャ10人が治安部隊員とみられる人物に殺害された事件を調べていた。国軍は今月10日、関与した7人に懲役10年の判決が言い渡されたと公表した。
 
欧米などは「報道の自由の侵害」だとして記者2人の即時釈放を求めている。【4月24日 毎日】
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警察側は、「わな」証言をした警察を禁固刑に処しており、その証言は信用できないと主張しています。

****ミャンマーで「わな」暴露の警官に禁錮刑=取材対応理由か*****
ミャンマー警察当局者は30日、イスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題を取材していたロイター通信記者が逮捕された事件をめぐり、逮捕は「警察のわなだった」と証言した警察高官が禁錮1年を言い渡されたことを明らかにした。
 
高官は29日、警官を裁く裁判所で懲戒規定に基づき裁かれた。高官はロイターの取材に応じたことがあり、これが不適切と判断されたとみられる。【4月30日 時事】
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裁判においても、このまま、「わな」証言も無視されるのか・・・とも思ったのですが、裁判所は「わな」証言を信頼性があると判断したそうです。

****ロイター記者逮捕「警察が仕組んだ」証言 無罪の可能****
ミャンマーで「機密情報に触れた」としてロイター通信のミャンマー人記者2人が逮捕、起訴された事件をめぐり「警察自身が仕組んだもの」とした現職警察官の証言についてヤンゴンの裁判所は2日、信頼性があると判断した。2人が無罪になる可能性が高まった。
 
4月20日の公判で、検察側証人の警察官が「上司から記者に文書を渡し、受け取ったら逮捕しろと指示された」と証言。検察側は証拠不採用を求めたが、裁判官は「今回の警察官が信頼できないとは考えられない」との判断を示した。
 
記者2人が逮捕されたのは昨年12月。警察は「2人は機密に触れる情報を入手した」と説明したが、2人は「文書に目を通していない」と主張していた。2人はミャンマー国軍が関与したイスラム教徒ロヒンギャの殺害事件を追っていた。判決は8月以降の見通し。
 
法廷で証言した男性警察官は「上官の命令に従わなかった」として先月末、警察内部の裁判で1年の懲役刑を受けたという。
 
閉廷後、被告の1人、ワローン記者(32)は集まった記者団に、「もうすぐ、真実が明らかになる」と話した。ワローン氏らの弁護士、キンマウンゾー氏(70)は、「ミャンマーの司法が正常に機能することが証明された」と語った。【5月2日 朝日】
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最終判決においても「ミャンマーの司法が正常に機能することが証明された」となればいいのですが。

本来であれば、「わな」を仕組んだ警察幹部及び警察組織の責任が問われるべきところですが、ミャンマーの現状ではそこまで期待するのは無理でしょうか。

【“政府自身で調査を行う”とするミャンマー政府に、その“意思”と“力”は?】
一方、本筋でもある“ロヒンギャ迫害”“民族浄化”の有無については、国連安保理の視察団がミャンマーに入っています。

****ロヒンギャへの迫害 ミャンマー政府がみずから調査の考え****
ミャンマーの少数派のロヒンギャの人たちが隣国への避難を余儀なくされている問題で、治安部隊による避難民への迫害があったかどうかについて、アウン・サン・スー・チー国家顧問は国際機関ではなく、ミャンマー政府自身が事実関係の調査を行う考えを示しました。

ミャンマー西部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難したロヒンギャの住民は、去年8月に戦闘が起きて以降、国連の推計で69万人を超えています。

この問題で、15か国の国連大使らからなる安保理の視察団が1日、初めてミャンマー西部のラカイン州を訪れ、ミャンマー政府が避難民の帰還に向けて整備した受け入れ施設などを視察しました。

視察後の記者会見で、イギリスのピアース国連大使は、ミャンマーの治安部隊によるロヒンギャの人たちへの迫害の疑いについて、国際機関またはミャンマー政府が信頼できる調査を行い、事実を解明するべきだとスー・チー氏に求めたことを明らかにしました。

これに対し、スー・チー氏は「証拠があれば政府がきちんと調査する」と述べ、国際機関ではなく、ミャンマー政府自身で調査を行う考えを示したということです。

一方で、視察団は70万人近い避難民を安全かつスムーズに帰還させるには、ミャンマーだけでは難しいと指摘し、国連が関与する必要があると強調しました。【5月2日 NHK】
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スー・チー氏が“ミャンマー政府自身で調査を行う”と主張するのは、主権国家として当然の話ではありますが、ミャンマー政府に国軍・警察等の責任を問う“力”があるのか、そもそも“その気”があるのか・・・疑わしいところです。ピアース英国連大使は「きちんとした捜査が必要」として、国際刑事裁判所(ICC)への付託も一つの案だと指摘したそうですが。

進まない帰還作業 仮説キャンプは定住化の様相
バングラデシュに避難しているロヒンギャの帰還については、ミャンマー政府は、今年1月23日からのロヒンギャ帰還を予定していたが、バングラデシュ側が提出した帰還者リストの不備などを理由に延期しています。

そもそも、帰還後の安全の保証がなく国籍も認められないとして、ロヒンギャ難民の多くが帰還をためらっており、帰還作業が今後も順調に進むかは不透明です。

そうした中で4月14日、1家族計5人がミャンマーに帰還したことが明らかにされています。衝突以来、初の帰還とみられますが、あくまでも「ひそかに戻ってきたため受け入れた」突発的なものです。

ロヒンギャの中には、安全の保証がなく国籍も認められないとして、帰還に反対する勢力があり、この家族も他の難民からミャンマー政府寄りと見られ「嫌がらせを受けていた」ことで、単独での帰還強行を決意したようです。

帰還後も、携帯電話で「裏切り者、殺してやる」と脅されているとも。【4月25日 毎日より】

この帰還した家族(アランさん)の話では、帰還が進まない理由として以下のようにも。

“ミャンマー政府は帰還者に市民権申請や「移動の自由」の保障に必要な「身分証」の取得を求めている。アランさんによると「現地では身分証の意味が理解されていない。帰還すれば不法移民とみなされるのを恐れている」ことが帰還を望まない理由の一つだという。”【同上】

迫害を行った国軍等の責任が明らかにされておらす、帰還後の安全が保障されていないこと、ミャンマー政府が帰還民に要求している「身分証」(別報道では、かつてミャンマーに住んでいたことを証明するもの)提示が、高いハードルになっていること、ロヒンギャ内部に帰還の問題を政治的に利用しようとして帰還を妨害する勢力が存在すること・・・等々で、帰還作業は進んでいません。

ミャンマー政府は基本的にロヒンギャを自国民として認めていませんので、今回の帰還は“外国人として受け入れる”というスタンスでしょうか。これまで認めてこなかった市民権を認めるとも思えませんので。

もし、そういうことであれば、帰還に応じれば外国人であることを自ら認める話にもなる・・・・ということでしょうか。帰還に反対する勢力というのも、そこらを問題にしているのでしょうか。

バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプの環境が悲惨な状況にあることは、以前からも懸念されています。

ロヒンギャ難民子どもたちの栄養不良、超緊急レベルに 米調査”【4月11日 AFP】
ロヒンギャ難民「悲劇的」=安保理代表団、キャンプ視察―バングラデシュ”【4月29日 時事】

また、当然ながら、大量の難民流入は、“職を奪う”などの現地住民との軋轢を起こします。
帰還の希望がなく、経済的に困窮した難民の中には、薬物密輸などの犯罪行為に走るものも出てきます。少女売春も。

バングラで大量の麻薬押収相次ぐ、ロヒンギャが収入源として密輸”【3月27日 AFP】
ロヒンギャ少女たち、人身売買で売春に BBCが実態取材”【3月21日 BBC】
「自分に何が起きるのか分かっていました。仕事があるよと言った女の人が人々にセックスさせているのはみんな知っていた。(中略)だけど、仕方がなかった。ここでは何も手に入らない」【同上】

これから現地は雨期を迎えますので、仮説キャンプ地の危機的状況は一段と深刻化します。

****雨期迫り、ロヒンギャ帰還早く開始へ****
ミャンマー西部ラカイン州から隣国バングラデシュに逃れた少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の帰還が遅れている問題で、ミャンマーのウィンミャエー社会福祉・救済復興相らが19日、最大都市ヤンゴンで記者会見し「雨期が迫っており、できるだけ早く帰還を開始したい」と述べた。
 
ウィンミャエー氏らは11〜13日にバングラを訪問し、南東部コックスバザールのキャンプなどを訪ねた。会見で現地のロヒンギャの生活環境について「劣悪で、風雨にも耐えられそうにない」と懸念を示した。
 
一方、バングラ側から提供を受けた帰還希望者の身元確認用書類には、署名や指紋などが付いておらず「(両国で)合意された書式ではなかった」と、改めて不満を表明。バングラ側に改善を求めたことを明らかにした。(後略)【4月20日 毎日】
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「(両国で)合意された書式ではなかった」・・・・こうした“初歩的”な問題が出る背景はよくわかりません。

帰還が進まないなかで、バングラデシュ側は、ロヒンギャ難民の「無人島移住計画」も明らかにしています。

****ロヒンギャ難民10万人の「無人島移住計画」、6月開始へ バングラ****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが迫害を受けて隣国バングラデシュに大量に避難している問題で、同国当局は4日、6月にも約10万人のロヒンギャ難民の無人島移住計画に着手すると明らかにした。
 
バングラデシュ災害対策当局によると、ベンガル湾にある2006年に海面から現れたばかりのブハシャンチャ―ル島には、既に約5万人分の収容施設が建設されている。
 
また複数の国連機関に対し、2か月以内に残りの施設の建設も完了すると説明。無人島移住計画について「6月第1週に着手する」と述べている。
 
ロヒンギャ難民の移住先として計画されているブハシャンチャ―ル島をめぐっては、洪水が頻発し、ヘドロ状の土地であることから難色を示す声が上がっていた。
 
当局によると、5月31日までにバングラデシュ海軍が大規模な施設を1440軒以上建設する予定で、10万人を収容できる。満潮や嵐の被害を受けないように、低地の埋め立てや、堤防、避難施設の建設も行っているという。
 
バングラデシュは昨年11月、ロヒンギャ難民をブハシャンチャ―ル島に移住させるため、2億8000万ドル(約300億円)の予算を充てている。【4月5日 AFP】
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“洪水が頻発し、ヘドロ状の土地”に人が住めるのか?
十分な“低地の埋め立てや、堤防、避難施設の建設”を行える資金力がバングラデシュにあるのか?
バングラデシュ政府は本気でしょうか? 単に、何らかの政治的意図があっての発表でしょうか。

実現性には問題もある計画です。“強制移住”となると、新たな問題を惹起しそうです。

現実は、仮設キャンプの“定住化”の様相を示しています。

****バングラのロヒンギャ難民、定住化の様相 ****
昨年8月以来、70万人超がミャンマーから流入 帰還のめど立たず

バングラデシュの広大な難民キャンプには、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが数十万人暮らしている。キャンプは倒壊寸前のように見える仮設のものだが、道路や橋や井戸、学校・診療所などを備え、まるで定住地のようになりつつある。
 
こうした変化は、難民が当面は隣国ミャンマーに戻らないことを支援組織とバングラデシュ政府が暗に認めていることを示す。(中略)

ロヒンギャ難民はキャンプ外での就労をほぼ禁じられているが、仕事を探す者は多い。
 
沿岸のキャンプで生活するサリム・ウッラーさん(45)は、バングラデシュ人の保有する船で漁をして生計を立てている。足と肩には傷がある。数年前、なたを手にした仏教徒の隣人と土地を巡って争った時にできたものだ。
 
ウッラーさんはたばこを吸いながら、「ミャンマーで漁をすればもっと稼げる。だがここでは誰にも煩わされない」と話した。故郷の村から逃げ出したのは昨年8月、治安部隊が夜明けに家々に火を放ち、少なくとも2人を射殺した時だという。
 
いつか帰れるとは思っていない。ミャンマーは数十年にわたり、ロヒンギャに市民としての権利と安全を拒否してきた。それが保障されない限り、「ここで死んだほうがいい」とウッラーさんは話している。【4月6日 WSJ】
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