(バングラデシュ・クトゥパロンの難民キャンプを訪問し、ロヒンギャ難民らと面会するウィン・ミャ・エー社会福祉・救済復興大臣(左、2018年4月11日撮影)【4月11日 AFP】 何やら揉めているようですが・・・)
【“レディー”の後継者は? 「大統領は交代可能だが、彼女は違う」】
ミャンマーでは先月ティン・チョー大統領(71)が休養を理由に辞任し、スー・チー氏の側近ウィン・ミン氏(66)が新大統領に選出されました。
ティン・チョー大統領辞任の背景について“関係者によると、スーチー氏はウィンテイン氏のメディア対応に不満で、同氏の息子がメディア関係者と結婚したことにも苦言を呈し、関係が悪化したという。”【3月22日 朝日】といった報道もありますが、以前から健康問題が取り沙汰されていたということですから、まあ、そういうことなのでしょう。
いずれにしても、現在の与党・政権はスー・チー氏が大統領の上に立つ、彼女の個人商店みたいなものですから、誰が大統領になっても大きな路線変更はありません。
ただ、今後のミャンマー民主主義を考えるとき、そのようにスー・チー氏一人に依存した体制で大丈夫なのか?・・・という不安もあります。
スー・チー氏自身の健康問題もありますが、指導部は高齢化し、また、スー・チー氏の他者の意見をあまり聞かない頑なな性質もあって、イエスマンしか指導部におらず、有能な後継者が育っていない・・・という弊害が目につくようにもなっています。
(オーストラリア訪問中に体調不良で講演をキャンセルしたのは、ロヒンギャ問題に関する質問を受けたくなかったのでは・・・とも思っていますが、本当に体調が悪くてキャンセルしたら、もっと心配な事態です)
****ミャンマー指導部は高齢化、軍を抑えきれるか****
スー・チー氏率いる与党NLD、若返り進まず
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問(72)が率いる国民民主連盟(NLD)政権の発足から2年。指導部の高齢化が進むなか権力を継承する次世代の担い手が現れず、民主化勢力が対抗する軍部の権力を抑制できるかどうか危ぶまれている。
ミャンマー政界はこの2週間、大きく揺れ動いた。ティン・チョー大統領(71)が休養を理由に辞任し、スー・チー氏も体調不良を理由に予定されていた演説を取りやめた。これを受けスー・チー氏が近く引退するのではないかとのうわさが広がり、NLDは打ち消しに追われた。
議会は28日、スー・チー氏の側近ウィン・ミン氏(66)を新大統領に選出した。NLDの中央執行委員会メンバーの3分の2は、ミャンマー男性の平均寿命65歳を超えている。
多くの専門家は、NLDが次世代の指導層を育てられなければ、軍部との権力争いに敗れる恐れがあると警告する。軍部は、主要閣僚のポストを抑えるとともに、議会で4分の1の議席を占めている。
豪ロウイー研究所・東アジアプログラムのアーロン・コネリー研究員は、NLDの新世代の人材不足について「ミャンマー、NLD、そしてスー・チー氏にとって深刻な問題だ」と指摘。「スー・チー氏の側近らは彼女に耳の痛い真実を語ろうとせず、指導力に欠けている」と批判する。
ミャンマー軍は昨年以降、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する武力弾圧を推し進めてきた。NLDは軍部の弾圧を公に支持して国際的な非難を甘受するか、国内では不人気のロヒンギャを擁護すべきか、難しい選択を迫られてきた。
NLDは2016年、経済や教育制度を改革し、さらには憲法改正に踏み込んで軍部の権力を抑えるとの期待を受けて政権の座に就いた。
しかし、いまだに公約を実現できていないと批判されている。その一因として、NLDが極めて中央集権的な指導体制をとり、あらゆる決定をスー・チー氏と高齢化した側近たちの手に委ねていることを挙げる向きもある。
NLD指導部の高齢化は、より深刻な問題を象徴しているとの見方もある。幹部は主にスー・チー氏に対する忠誠度を基に選出されており、全盛期を過ぎた者が多い。
NLDには若手もいるが、昇進のスピードが遅いため、野心のある若者は政治以外の分野にチャンスを求める傾向がある。
スー・チー氏が側近を重用していることを擁護する声もある。NLDに近いミャンマーの政治アナリストNaing Ko Ko氏は、スー・チー氏の閉鎖的な指導スタイルは、一定の権力を維持している軍部に向き合わざるを得ないNLDの難しい立場を反映していると指摘する。「敵は強大であり、平気で銃を撃つ。だからわれわれは指導部の中核を固めておかなければならない」
スー・チー氏が体調不良となったことで後継者をめぐる疑問が浮上している。2人の息子は英国市民で、ミャンマー憲法の規定により政府のポストに就くことはできない。
「NLD指導部の高齢化にもかかわらず、レディー(スー・チー氏のこと)の後継者問題は明確な課題になっていない」。スウェーデンの安全保障開発政策研究所のエリオット・ブレナン客員研究員はこう話す。「大統領は交代可能だが、彼女は違う」【3月29日 WSJ】
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【踏み込んだ発言を避けるスー・チー氏】
国際的にスーチー氏の指導力への疑念も高まっているロヒンギャ問題ですが、政権発足2年を迎えての演説でも、踏み込んだ発言はなく、世界を失望させてもいます。
****ロヒンギャ問題踏み込まず スー・チー氏 政権発足2年で演説****
ミャンマーでは50年以上にわたって続いた軍が強い影響力を持つ政権に代わって、おととし民主化勢力が主導する政権が発足しました。
先月30日で政権発足から2年がたったのに合わせて、事実上政権を率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問が1日夜、国民に向けて国営テレビを通じて演説しました。
スー・チー氏は「力を合わせることであらゆる困難を乗り越えることができる」と述べて、国の平和と繁栄に引き続き協力してほしいと呼びかけました。
ミャンマーでは西部ラカイン州に暮らしていた少数派のロヒンギャの人たち推計67万人が隣国バングラデシュに避難を余儀なくされ、治安部隊による迫害行為があったと批判されていますが、演説でスー・チー氏は「ラカイン州だけでなく、国全体の発展のために立ち上がらなければならない」などと述べるにとどまりました。
国際社会からは、スー・チー氏にその影響力を発揮して問題の解決を促してほしいという期待も寄せられていますが、ロヒンギャの人たちに対する国民の根強い反発や差別感情にも配慮し、踏み込んだ発言を避けたものと見られます。【4月2日 NHK】
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ロヒンギャを追放している国軍に対する影響力を持っていない、国民にはロヒンギャへの根強い反発や差別感情がある・・・・いつも言われることで、スー・チー氏の難しい立場を示すものですが、そういう弁解はいささか“聞き飽きた”という感も。
【ロヒンギャが済んでいた土地にミャンマー政府支援で仏教徒が入植】
“民族浄化に成功した”ミャンマー側が、本気でロヒンギャ帰還に取り組むのか・・・非常に疑問でもあります。
以前のブログでも紹介したかと思いますが、ロヒンギャの帰還予定地に治安部隊の設備やヘリポート、道路が造られているという報告もあります。
****ミャンマー政府、ロヒンギャ集落に治安施設を設営か アムネスティが報告書****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは(3月)12日、ミャンマー政府が軍の掃討作戦によって壊滅状態になったイスラム系少数民族ロヒンギャの集落に、治安部隊の施設を設営しているとする報告書を発表した。
ミャンマー政府は北部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難している何十万人ものロヒンギャの帰還を進めているが、計画に疑念を抱かせる事態となっている。(後略)【3月12日 AFP】
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更には、ロヒンギャが住んでいた土地に、バングラデシュの仏教徒などがミャンマー政府の支援の下で移住しているとも。
****バングラ仏教徒、ロヒンギャの元居住地に移住 ミャンマー政府が支援****
ミャンマー西部ラカイン州で、迫害を受けて同国から避難したイスラム系少数民族ロヒンギャが住んでいた土地に、バングラデシュの仏教徒などがミャンマー政府の支援の下で移住していることが分かった。同国当局が、2日明らかにした。
移住したのは、バングラデシュの人里離れた丘陵や山岳地帯に住んでいたおよそ50世帯。主に仏教徒で、キリスト教徒も含まれるという。ミャンマー政府から無料で土地と5年分の食料が提供され、市民権も付与される。
仏教徒が多数派のミャンマーでは軍がロヒンギャの掃討作戦に乗り出した昨年8月以降、70万人近いロヒンギャがラカイン州から隣国バングラデシュに避難した。国連や米国はロヒンギャに対する迫害は「ジェノサイド(大量虐殺)」だと指摘している。
ミャンマーとバングラデシュの両政府はロヒンギャのミャンマー帰還で合意しているが、いまだに実行されていない。ロヒンギャのリーダーらは、元の村に戻ることを許可されなければ、難民キャンプからミャンマーへは戻らないと述べている。【4月3日 AFP】
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詳しい事情はわかりませんが、バングラデシュ側がロヒンギャを引き受けるかわり見返りに、イスラム国バングラデシュの仏教徒ラカイン族をミャンマー側が引き受けるという“交換”でしょうか?お互いに“厄介者”を整理できるという・・・。
実際にロヒンギャが帰還した場合には、ロヒンギャと入植仏教徒の間で深刻な対立がおきることも懸念されます。パレスチナのユダヤ人入植地のように。
治安部隊施設なら理屈上は政府によって撤去もできますが(国軍に影響力がないスー・チー氏にできるかどうかは別問題ですが)、民間人同士の争いとなると手に負えなくなります。
そもそも、ミャンマー側にはロヒンギャをもとの土地へもどすつもりもない・・・ということでしょうか。
【不問に付される国軍の責任】
ロヒンギャ虐殺を行った国軍等の責任については、ようやく7人の兵士が有罪とされましたが、国軍の組織的犯行については不問のままです。
*****ロヒンギャ殺害、兵士7人に懲役10年 ミャンマー軍発表****
ミャンマー西部ラカイン州で昨年9月にイスラム系少数民族ロヒンギャ10人が法的手続きを経ずに殺害された事件に関与したとして、同国軍の兵士7人が、重労働を伴う懲役10年の刑を言い渡された。軍司令官が10日夜、フェイスブックへの投稿で明らかにした。
ラカイン州北部では昨年8月以降、暴力的な取り締まりを逃れるために隣国のバングラデシュに避難を強いられたロヒンギャが約70万人に上っている。同州で行われたとされる残虐行為のうち、ミャンマー軍は9月2日にインディン村で発生した同事件についてのみ事実と認めている。
昨年12月には、事件を取材していたロイター通信のミャンマー人記者、ワー・ロー氏とチョウ・ソウ・ウー氏の2人が、ヤンゴン郊外で機密文書所持の容疑で逮捕された。裁判で有罪となれば最高で禁錮14年を言い渡される可能性がある。
記者2人の逮捕から1か月後、ミャンマー軍は、兵士の一部がロヒンギャ男性10人の殺害に関与していたことを認める異例の声明を出し、関与した人物に対する措置をとると表明。同軍はこれら10人が「テロリスト」だったと繰り返し主張しているが、その主張の裏付けとなる証拠は示していない。
国軍司令官ミン・アウン・フライン将軍はフェイスブックへの投稿で、事件をめぐり将校4人と兵士3人が除隊処分と重労働を伴う懲役10年の刑を受けたと発表。
事件をめぐっては、独立調査を求める声が国際社会から上がっていたが、裁判はそれを無視する形で非公開で行われた。【4月11日 AFP】
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上記記事にもある、国軍兵士の犯罪を報じた記者は逮捕拘束されていますが、保釈は認められていません。
****ミャンマー裁判所、ロヒンギャ取材記者の釈放認めず****
ミャンマーでイスラム系少数民族ロヒンギャの窮状を取材していたロイター通信の記者2人が昨年12月から拘束されている問題で、同国の裁判所は2人の公訴棄却の申し立てを却下した。ミャンマーの民主化が一段と困難に直面していることが浮き彫りとなった。
ロイターのワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者に対する裁判は、ミャンマー軍がロヒンギャ族約70万人を隣国バングラデシュへと追い立てて以降、ミャンマーで報道の自由が失われつつあることを物語っている。
国連は昨年8月に始まった同国の作戦について、大量虐殺の性格を帯びていると批判した。
ミャンマーで報道の自由が芽吹いたのは、長年支配してきた軍部が2010年に民主化への移行を始めたことが契機だった。15年の選挙戦でノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー国家顧問(72)が率いる政党が勝利を収め、民主化への動きはピークを迎えた。
だが、軍部はなお強力な権限を有し、憲法に基づき内務省と国防省を支配している。
ここ数年、多くのジャーナリストがミャンマー政府に起訴され、国連は報道の自由が着実に浸食されていると警鐘を鳴らしてきた。
ミャンマー軍によるロヒンギャ掃討作戦が実施されて以降、外国人記者はビザ取得が一段と困難になり、多くの地区へのアクセスも禁じられている。
ワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者は軍によるロヒンギャ虐殺事件を取材中に拘束され、「公務秘密法」違反の罪で起訴された。最高14年の禁錮刑が科される可能性がある。【4月12日 WSJ】
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【「前向きな発展」とされる動きもあるものの・・・・】
なんとも今後に希望が持てないニュースばかりですが、若干は明るさも感じられるニュースも。
****国連安保理の視察受け入れ ロヒンギャでスー・チー氏****
イスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害問題で、ミャンマー政府が設立した諮問機関のスラキアット議長は3日、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が国連安全保障理事会の視察団受け入れに合意したと明らかにした。シンガポールでの記者会見で述べた。
諮問機関メンバーは2日、ミャンマーの首都ネピドーでスー・チー氏らと会談、スー・チー氏は安保理や隣国からの代表者の視察受け入れを言明したという。
スラキアット氏は「国際機関が関与し、地域の平和と発展を取り戻すための非常に前向きなステップだ」と歓迎した。【4月3日 共同】
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スラキアット議長はタイの元副首相です。諮問機関は、昨年8月に公表されたアナン元国連事務総長率いる諮問委員会のロヒンギャ問題解決への提言をどう実現するかを具体的に助言する機関です。
もうひとつ“前向き”なニュースも
****ミャンマー閣僚、ロヒンギャの難民キャンプを訪問 大量流入以降初****
ミャンマーのウィン・ミャ・エー社会福祉・救済復興大臣は11日、イスラム系少数民族ロヒンギャ100万人あまりが収容されているバングラデシュの難民キャンプの一つを訪れた。
ミャンマー軍の掃討作戦によってバングラデシュに大量のロヒンギャ難民が流入して以降、ミャンマーの閣僚によるキャンプ訪問はこれが初。
当局によると、3日間の日程でバングラデシュを訪問中のウィン・ミャ・エー氏は南東部コックスバザール近くのクトゥパロンにある難民キャンプを訪れた。
昨年8月、ロヒンギャの武装組織による一連の襲撃に対してミャンマー軍が掃討作戦を実施したことで、ロヒンギャおよそ70万人が国境を越えて隣国バングラデシュに避難した。
難民であふれかえり、悪臭を放つキャンプにウィン・ミャ・エー氏はミャンマーの閣僚として初めて訪問。地元警察幹部によると同氏はキャンプで当局者らと面会し、国際移住機関の代表者らとも話をしたという。
ロヒンギャの指導者らはウィン・ミャ・エー氏と直接会う機会を歓迎する考えを示しており、指導者の一人はAFPに対し「大臣に直接会いたい」と語った。
情報筋によると、ウィン・ミャ・エー氏は難民キャンプ訪問中にロヒンギャの指導者40人あまりと対面する予定だという。【4月11日 AFP】
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“ミャンマーが国連安全保障理事会の派遣団を受け入れると決めたことや、同国の社会保障相が難民帰還のため、バングラデシュを訪れると決めたことについて諮問機関は、「前向きな発展だ」と評価した。”【4月4日 朝日】
“前向き”ではありますが、アナン委員会や国連安保理派遣団(どういう性格のものかは知りませんが)の提言をどのように実行するのかが問題ですし、何より、ロヒンギャ虐殺を行った国軍の責任を明らかにして、その再発防止を確たるものにしない限り、ロヒンギャも帰還できません。
ロヒンギャ居住地に虐殺を行った治安部隊が施設を作っている現状では、事態が大きく前進することは望めません。