孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー・ロヒンギャ問題  踏み込んだ発言を避けるスー・チー氏 問われることのない国軍の責任

2018-04-12 22:55:30 | ミャンマー

(バングラデシュ・クトゥパロンの難民キャンプを訪問し、ロヒンギャ難民らと面会するウィン・ミャ・エー社会福祉・救済復興大臣(左、2018年4月11日撮影)【4月11日 AFP】 何やら揉めているようですが・・・)

【“レディー”の後継者は? 「大統領は交代可能だが、彼女は違う」】
ミャンマーでは先月ティン・チョー大統領(71)が休養を理由に辞任し、スー・チー氏の側近ウィン・ミン氏(66)が新大統領に選出されました。

ティン・チョー大統領辞任の背景について“関係者によると、スーチー氏はウィンテイン氏のメディア対応に不満で、同氏の息子がメディア関係者と結婚したことにも苦言を呈し、関係が悪化したという。”【3月22日 朝日】といった報道もありますが、以前から健康問題が取り沙汰されていたということですから、まあ、そういうことなのでしょう。

いずれにしても、現在の与党・政権はスー・チー氏が大統領の上に立つ、彼女の個人商店みたいなものですから、誰が大統領になっても大きな路線変更はありません。

ただ、今後のミャンマー民主主義を考えるとき、そのようにスー・チー氏一人に依存した体制で大丈夫なのか?・・・という不安もあります。

スー・チー氏自身の健康問題もありますが、指導部は高齢化し、また、スー・チー氏の他者の意見をあまり聞かない頑なな性質もあって、イエスマンしか指導部におらず、有能な後継者が育っていない・・・という弊害が目につくようにもなっています。

(オーストラリア訪問中に体調不良で講演をキャンセルしたのは、ロヒンギャ問題に関する質問を受けたくなかったのでは・・・とも思っていますが、本当に体調が悪くてキャンセルしたら、もっと心配な事態です)

****ミャンマー指導部は高齢化、軍を抑えきれるか****
スー・チー氏率いる与党NLD、若返り進まず
 
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問(72)が率いる国民民主連盟(NLD)政権の発足から2年。指導部の高齢化が進むなか権力を継承する次世代の担い手が現れず、民主化勢力が対抗する軍部の権力を抑制できるかどうか危ぶまれている。
 
ミャンマー政界はこの2週間、大きく揺れ動いた。ティン・チョー大統領(71)が休養を理由に辞任し、スー・チー氏も体調不良を理由に予定されていた演説を取りやめた。これを受けスー・チー氏が近く引退するのではないかとのうわさが広がり、NLDは打ち消しに追われた。
 
議会は28日、スー・チー氏の側近ウィン・ミン氏(66)を新大統領に選出した。NLDの中央執行委員会メンバーの3分の2は、ミャンマー男性の平均寿命65歳を超えている。
 
多くの専門家は、NLDが次世代の指導層を育てられなければ、軍部との権力争いに敗れる恐れがあると警告する。軍部は、主要閣僚のポストを抑えるとともに、議会で4分の1の議席を占めている。
 
豪ロウイー研究所・東アジアプログラムのアーロン・コネリー研究員は、NLDの新世代の人材不足について「ミャンマー、NLD、そしてスー・チー氏にとって深刻な問題だ」と指摘。「スー・チー氏の側近らは彼女に耳の痛い真実を語ろうとせず、指導力に欠けている」と批判する。
 
ミャンマー軍は昨年以降、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する武力弾圧を推し進めてきた。NLDは軍部の弾圧を公に支持して国際的な非難を甘受するか、国内では不人気のロヒンギャを擁護すべきか、難しい選択を迫られてきた。
 
NLDは2016年、経済や教育制度を改革し、さらには憲法改正に踏み込んで軍部の権力を抑えるとの期待を受けて政権の座に就いた。

しかし、いまだに公約を実現できていないと批判されている。その一因として、NLDが極めて中央集権的な指導体制をとり、あらゆる決定をスー・チー氏と高齢化した側近たちの手に委ねていることを挙げる向きもある。
 
NLD指導部の高齢化は、より深刻な問題を象徴しているとの見方もある。幹部は主にスー・チー氏に対する忠誠度を基に選出されており、全盛期を過ぎた者が多い。
 
NLDには若手もいるが、昇進のスピードが遅いため、野心のある若者は政治以外の分野にチャンスを求める傾向がある。
 
スー・チー氏が側近を重用していることを擁護する声もある。NLDに近いミャンマーの政治アナリストNaing Ko Ko氏は、スー・チー氏の閉鎖的な指導スタイルは、一定の権力を維持している軍部に向き合わざるを得ないNLDの難しい立場を反映していると指摘する。「敵は強大であり、平気で銃を撃つ。だからわれわれは指導部の中核を固めておかなければならない」
 
スー・チー氏が体調不良となったことで後継者をめぐる疑問が浮上している。2人の息子は英国市民で、ミャンマー憲法の規定により政府のポストに就くことはできない。
 
「NLD指導部の高齢化にもかかわらず、レディー(スー・チー氏のこと)の後継者問題は明確な課題になっていない」。スウェーデンの安全保障開発政策研究所のエリオット・ブレナン客員研究員はこう話す。「大統領は交代可能だが、彼女は違う」【3月29日 WSJ】
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踏み込んだ発言を避けるスー・チー氏
国際的にスーチー氏の指導力への疑念も高まっているロヒンギャ問題ですが、政権発足2年を迎えての演説でも、踏み込んだ発言はなく、世界を失望させてもいます。

****ロヒンギャ問題踏み込まず スー・チー氏 政権発足2年で演説****
ミャンマーでは50年以上にわたって続いた軍が強い影響力を持つ政権に代わって、おととし民主化勢力が主導する政権が発足しました。

先月30日で政権発足から2年がたったのに合わせて、事実上政権を率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問が1日夜、国民に向けて国営テレビを通じて演説しました。

スー・チー氏は「力を合わせることであらゆる困難を乗り越えることができる」と述べて、国の平和と繁栄に引き続き協力してほしいと呼びかけました。

ミャンマーでは西部ラカイン州に暮らしていた少数派のロヒンギャの人たち推計67万人が隣国バングラデシュに避難を余儀なくされ、治安部隊による迫害行為があったと批判されていますが、演説でスー・チー氏は「ラカイン州だけでなく、国全体の発展のために立ち上がらなければならない」などと述べるにとどまりました。

国際社会からは、スー・チー氏にその影響力を発揮して問題の解決を促してほしいという期待も寄せられていますが、ロヒンギャの人たちに対する国民の根強い反発や差別感情にも配慮し、踏み込んだ発言を避けたものと見られます。【4月2日 NHK】
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ロヒンギャを追放している国軍に対する影響力を持っていない、国民にはロヒンギャへの根強い反発や差別感情がある・・・・いつも言われることで、スー・チー氏の難しい立場を示すものですが、そういう弁解はいささか“聞き飽きた”という感も。

ロヒンギャが済んでいた土地にミャンマー政府支援で仏教徒が入植
“民族浄化に成功した”ミャンマー側が、本気でロヒンギャ帰還に取り組むのか・・・非常に疑問でもあります。

以前のブログでも紹介したかと思いますが、ロヒンギャの帰還予定地に治安部隊の設備やヘリポート、道路が造られているという報告もあります。

****ミャンマー政府、ロヒンギャ集落に治安施設を設営か アムネスティが報告書****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは(3月)12日、ミャンマー政府が軍の掃討作戦によって壊滅状態になったイスラム系少数民族ロヒンギャの集落に、治安部隊の施設を設営しているとする報告書を発表した。

ミャンマー政府は北部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難している何十万人ものロヒンギャの帰還を進めているが、計画に疑念を抱かせる事態となっている。(後略)【3月12日 AFP】
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更には、ロヒンギャが住んでいた土地に、バングラデシュの仏教徒などがミャンマー政府の支援の下で移住しているとも。

****バングラ仏教徒、ロヒンギャの元居住地に移住 ミャンマー政府が支援****
ミャンマー西部ラカイン州で、迫害を受けて同国から避難したイスラム系少数民族ロヒンギャが住んでいた土地に、バングラデシュの仏教徒などがミャンマー政府の支援の下で移住していることが分かった。同国当局が、2日明らかにした。
 
移住したのは、バングラデシュの人里離れた丘陵や山岳地帯に住んでいたおよそ50世帯。主に仏教徒で、キリスト教徒も含まれるという。ミャンマー政府から無料で土地と5年分の食料が提供され、市民権も付与される。
 
仏教徒が多数派のミャンマーでは軍がロヒンギャの掃討作戦に乗り出した昨年8月以降、70万人近いロヒンギャがラカイン州から隣国バングラデシュに避難した。国連や米国はロヒンギャに対する迫害は「ジェノサイド(大量虐殺)」だと指摘している。
 
ミャンマーとバングラデシュの両政府はロヒンギャのミャンマー帰還で合意しているが、いまだに実行されていない。ロヒンギャのリーダーらは、元の村に戻ることを許可されなければ、難民キャンプからミャンマーへは戻らないと述べている。【4月3日 AFP】
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詳しい事情はわかりませんが、バングラデシュ側がロヒンギャを引き受けるかわり見返りに、イスラム国バングラデシュの仏教徒ラカイン族をミャンマー側が引き受けるという“交換”でしょうか?お互いに“厄介者”を整理できるという・・・。

実際にロヒンギャが帰還した場合には、ロヒンギャと入植仏教徒の間で深刻な対立がおきることも懸念されます。パレスチナのユダヤ人入植地のように。

治安部隊施設なら理屈上は政府によって撤去もできますが(国軍に影響力がないスー・チー氏にできるかどうかは別問題ですが)、民間人同士の争いとなると手に負えなくなります。

そもそも、ミャンマー側にはロヒンギャをもとの土地へもどすつもりもない・・・ということでしょうか。

不問に付される国軍の責任
ロヒンギャ虐殺を行った国軍等の責任については、ようやく7人の兵士が有罪とされましたが、国軍の組織的犯行については不問のままです。

*****ロヒンギャ殺害、兵士7人に懲役10年 ミャンマー軍発表****
ミャンマー西部ラカイン州で昨年9月にイスラム系少数民族ロヒンギャ10人が法的手続きを経ずに殺害された事件に関与したとして、同国軍の兵士7人が、重労働を伴う懲役10年の刑を言い渡された。軍司令官が10日夜、フェイスブックへの投稿で明らかにした。

ラカイン州北部では昨年8月以降、暴力的な取り締まりを逃れるために隣国のバングラデシュに避難を強いられたロヒンギャが約70万人に上っている。同州で行われたとされる残虐行為のうち、ミャンマー軍は9月2日にインディン村で発生した同事件についてのみ事実と認めている。

昨年12月には、事件を取材していたロイター通信のミャンマー人記者、ワー・ロー氏とチョウ・ソウ・ウー氏の2人が、ヤンゴン郊外で機密文書所持の容疑で逮捕された。裁判で有罪となれば最高で禁錮14年を言い渡される可能性がある。

記者2人の逮捕から1か月後、ミャンマー軍は、兵士の一部がロヒンギャ男性10人の殺害に関与していたことを認める異例の声明を出し、関与した人物に対する措置をとると表明。同軍はこれら10人が「テロリスト」だったと繰り返し主張しているが、その主張の裏付けとなる証拠は示していない。

国軍司令官ミン・アウン・フライン将軍はフェイスブックへの投稿で、事件をめぐり将校4人と兵士3人が除隊処分と重労働を伴う懲役10年の刑を受けたと発表。

事件をめぐっては、独立調査を求める声が国際社会から上がっていたが、裁判はそれを無視する形で非公開で行われた。【4月11日 AFP】
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上記記事にもある、国軍兵士の犯罪を報じた記者は逮捕拘束されていますが、保釈は認められていません。

****ミャンマー裁判所、ロヒンギャ取材記者の釈放認めず****
ミャンマーでイスラム系少数民族ロヒンギャの窮状を取材していたロイター通信の記者2人が昨年12月から拘束されている問題で、同国の裁判所は2人の公訴棄却の申し立てを却下した。ミャンマーの民主化が一段と困難に直面していることが浮き彫りとなった。
 
ロイターのワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者に対する裁判は、ミャンマー軍がロヒンギャ族約70万人を隣国バングラデシュへと追い立てて以降、ミャンマーで報道の自由が失われつつあることを物語っている。

国連は昨年8月に始まった同国の作戦について、大量虐殺の性格を帯びていると批判した。
 
ミャンマーで報道の自由が芽吹いたのは、長年支配してきた軍部が2010年に民主化への移行を始めたことが契機だった。15年の選挙戦でノーベル平和賞を受賞したアウン・サン・スー・チー国家顧問(72)が率いる政党が勝利を収め、民主化への動きはピークを迎えた。

だが、軍部はなお強力な権限を有し、憲法に基づき内務省と国防省を支配している。
 
ここ数年、多くのジャーナリストがミャンマー政府に起訴され、国連は報道の自由が着実に浸食されていると警鐘を鳴らしてきた。

ミャンマー軍によるロヒンギャ掃討作戦が実施されて以降、外国人記者はビザ取得が一段と困難になり、多くの地区へのアクセスも禁じられている。
 
ワ・ロン記者とチョー・ソウ・ウー記者は軍によるロヒンギャ虐殺事件を取材中に拘束され、「公務秘密法」違反の罪で起訴された。最高14年の禁錮刑が科される可能性がある。【4月12日 WSJ】
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【「前向きな発展」とされる動きもあるものの・・・・
なんとも今後に希望が持てないニュースばかりですが、若干は明るさも感じられるニュースも。

****国連安保理の視察受け入れ ロヒンギャでスー・チー氏****
イスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害問題で、ミャンマー政府が設立した諮問機関のスラキアット議長は3日、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が国連安全保障理事会の視察団受け入れに合意したと明らかにした。シンガポールでの記者会見で述べた。
 
諮問機関メンバーは2日、ミャンマーの首都ネピドーでスー・チー氏らと会談、スー・チー氏は安保理や隣国からの代表者の視察受け入れを言明したという。

スラキアット氏は「国際機関が関与し、地域の平和と発展を取り戻すための非常に前向きなステップだ」と歓迎した。【4月3日 共同】
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スラキアット議長はタイの元副首相です。諮問機関は、昨年8月に公表されたアナン元国連事務総長率いる諮問委員会のロヒンギャ問題解決への提言をどう実現するかを具体的に助言する機関です。

もうひとつ“前向き”なニュースも

****ミャンマー閣僚、ロヒンギャの難民キャンプを訪問 大量流入以降初****
ミャンマーのウィン・ミャ・エー社会福祉・救済復興大臣は11日、イスラム系少数民族ロヒンギャ100万人あまりが収容されているバングラデシュの難民キャンプの一つを訪れた。

ミャンマー軍の掃討作戦によってバングラデシュに大量のロヒンギャ難民が流入して以降、ミャンマーの閣僚によるキャンプ訪問はこれが初。
 
当局によると、3日間の日程でバングラデシュを訪問中のウィン・ミャ・エー氏は南東部コックスバザール近くのクトゥパロンにある難民キャンプを訪れた。
 
昨年8月、ロヒンギャの武装組織による一連の襲撃に対してミャンマー軍が掃討作戦を実施したことで、ロヒンギャおよそ70万人が国境を越えて隣国バングラデシュに避難した。
 
難民であふれかえり、悪臭を放つキャンプにウィン・ミャ・エー氏はミャンマーの閣僚として初めて訪問。地元警察幹部によると同氏はキャンプで当局者らと面会し、国際移住機関の代表者らとも話をしたという。
 
ロヒンギャの指導者らはウィン・ミャ・エー氏と直接会う機会を歓迎する考えを示しており、指導者の一人はAFPに対し「大臣に直接会いたい」と語った。
 
情報筋によると、ウィン・ミャ・エー氏は難民キャンプ訪問中にロヒンギャの指導者40人あまりと対面する予定だという。【4月11日 AFP】
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“ミャンマーが国連安全保障理事会の派遣団を受け入れると決めたことや、同国の社会保障相が難民帰還のため、バングラデシュを訪れると決めたことについて諮問機関は、「前向きな発展だ」と評価した。”【4月4日 朝日】

“前向き”ではありますが、アナン委員会や国連安保理派遣団(どういう性格のものかは知りませんが)の提言をどのように実行するのかが問題ですし、何より、ロヒンギャ虐殺を行った国軍の責任を明らかにして、その再発防止を確たるものにしない限り、ロヒンギャも帰還できません。

ロヒンギャ居住地に虐殺を行った治安部隊が施設を作っている現状では、事態が大きく前進することは望めません。
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ミャンマー・ロヒンギャ問題 沈黙を守るスー・チー氏へ強まる批判 未だ収束していない民族浄化

2018-03-20 21:23:48 | ミャンマー

(豪シドニーで開催された同国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議に出席するミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問(2018年3月18日撮影)【3月18日 AFP】
何の話題のときの写真かはわかりませんが、いかにも“身動きが取れず苦悩を深めるスー・チー氏”あるいは“高まる批判に苛立ちを強めるスー・チー氏”といった感がある写真です)

講演キャンセルの理由は? 抗議集会に訴追を求める動きも
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャが国軍等の暴力による民族浄化として隣国バングラデシュ島に追放されたこと、および、その状況が一向に改善しないことに関し、沈黙したままのスー・チー氏の最高指導者としての責任を問う声が強まっています。

そのスー・チー国家顧問はオーストラリアを訪問していますが、体調不良で講演をキャンセルしたとのこと。

****スーチー氏、体調不良で講演キャンセル 訪問先の豪州****
オーストラリアを訪問しているミャンマーの国家顧問アウンサンスーチー氏が、体調不良を理由に、シドニーで20日に予定していた講演をキャンセルした。

シドニーのシンクタンク、ローウィー研究所は19日、スーチー氏の体調がすぐれないことから、20日の講演を中止せざるをえなくなったと発表した。講演後は、聴衆からの質問を受け付けるはずだったという。

講演が取りやめになった数時間後、ミャンマー政府報道官はCNNの取材に対し、スーチー氏は時差ぼけで多少体調を崩したが、今は回復してオーストラリア在住のミャンマー団体と過ごしていると説明した。日程を調整し直して講演を行う予定はないとしている。

スーチー氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席するため17日にシドニーに到着。19日には首都キャンベラで、オーストアラリアのターンブル首相と会談した。

シドニーでは17日の首脳会議に合わせて、スーチー氏に対する抗議集会が開かれていた。

ミャンマー政府は、少数派イスラム教徒のロヒンギャに対する「民族浄化」を行ったとして国際社会から非難されている。隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャは、過去半年で少なくとも68万8000人に上る。

オーストラリアのロヒンギャ団体はスーチー氏に対する抗議運動を展開。ターンブル首相に対し、スーチー氏との会談ではミャンマーの人道危機について話し合うよう求めていた。

ターンブル首相が18日の記者会見で語ったところによると、スーチー氏はASEAN首脳会議で行った演説の中で、ロヒンギャ危機に対応するための人道支援や対策の強化を呼びかけたという。【3月20日 CNN】
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“スーチー氏に対する抗議集会が開かれていた”という風当たりが強い状況ですから、質疑でのそうした批判を回避した・・・・と、どうしても思ってしまいます。

オーストラリアでは、「普遍的管轄権」に基づいて、「人道に対する罪」でスー・チー氏を裁くように求める動きも出ています。

****スーチー氏の裁判、豪弁護士が求める ロヒンギャ問題で****
ミャンマーの少数派イスラム教徒ロヒンギャの約70万人が国外に逃れた問題でオーストラリアの人権派弁護士らが16日、アウンサンスーチー・ミャンマー国家顧問を豪州で裁くよう、豪ビクトリア州の地裁に申し立てた。ロヒンギャを国外に追放した「人道に対する罪」を犯したとしている。
 
豪州は2002年、人道犯罪や戦争犯罪などについて、起きた国や加害者の国籍に関係なく自国で裁く権限があるとする「普遍的管轄権」を採用。今回の申し立てもこれに基づく。
 
スーチー氏は17、18の両日に開かれている豪州と東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議のためにシドニーを訪問中。ロヒンギャ問題への対応に批判が高まるなか、豪州に住むロヒンギャの人々の求めに応じて、この時機を狙って申し立てた。
 
弁護士らの発表では「ミャンマー治安部隊のロヒンギャに対する殺害やレイプなどを含む犯罪が幅広く目撃された」としたうえで「スーチー氏は治安部隊による強制的な国外追放に対して(それを止められる)自らの権限を行使してこなかった。強制追放を認めたことになる」と申し立て理由を説明している。
 
ただ、豪州での普遍的管轄権での起訴は司法長官(閣僚)でないとできない規定になっており、訴追へのハードルは高い。起訴されれば、スーチー氏は裁判所への出頭を求められる。【3月17日 朝日】
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もちろん、実際に起訴されるようなことはないのでしょうが、ミャンマー民主化の期待を込めてノーベル平和賞が授与されたスー・チー氏を取り巻く空気は様変わりもしています。

豪・ASEANの特別首脳会議でも厳しい意見が出されたものと思われます。

****豪・ASEAN首脳会議、ロヒンギャ問題を議論 スー・チー氏からも説明****
オーストラリアのシドニーで18日、同国とミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問らが出席する東南アジア諸国連合の特別首脳会議で、イスラム系少数民族ロヒンギャの問題が議論された。
 
スー・チー氏は、ミャンマーのラカイン州で政府軍によるロヒンギャ弾圧を逃れ隣国バングラデシュに70万人近くのロヒンギャが流出している事態にも沈黙を貫き続け、国際社会からの激しい批判にさらされている。
 
ロヒンギャの人道危機問題は、シドニーで同日まで開かれた豪・ASEANの特別首脳会議でも主要な議題となった。
 
オーストラリアのマルコム・ターンブル首相は会議後の記者会見で「ラカイン州での状況を、長時間かけて議論した」と述べた。スー・チー氏自身からも、ロヒンギャ問題に関して時間をかけた話があったという。
 
今年のASEAN議長国を務めるシンガポールのリー・シェンロン首相も同じ記者会見で、ロヒンギャをめぐる現在の状況は「ASEANの全加盟国の懸念事項だが、ASEANは干渉したり結果を強要したりはできない」と述べた。
 
そのうえで両首相は、ロヒンギャ問題の長期的な解決策に到達するための取り組みを支援し、ロヒンギャ難民らへの人道的支援を提供していくと述べた。【3月18日 AFP】AFPBB News
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強まるミャンマー政府とスー・チー氏の責任を問う声
国軍への影響力を彼女が有していないことや、国民一般のロヒンギャへの嫌悪感が強く、世論を味方につけての動きもとれないこと、それどころか、ロヒンギャへの宥和的な対応をとれば国民世論から批判を受けかねないことなど、スー・チー氏が置かれている政治状況が難しいものであることは事実ではありますが、民主化運動の象徴としての期待が大きかっただけに、沈黙を守るスー・チー氏への失望も大きなものとなっています。

また、依然としてロヒンギャの厳しい状況が続いていることに関しては、やはり政治の責任者として、“権限がない”云々では済まされないでしょう。

****ミャンマーのロヒンギャ迫害に「大量虐殺の性質」 国連特別報告者****
ミャンマーの人権問題を担当する国連の李亮喜(イ・ヤンヒ)特別報告者は12日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害は「ジェノサイド(大量虐殺)の性質」がみられると指摘し、迫害の責任はミャンマー政府にあるとの認識を示した。
 
仏教徒が多数派のミャンマーでは軍がロヒンギャの掃討作戦に乗り出した昨年8月以降、70万人近いロヒンギャが北部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難している。
 
ロヒンギャに対して兵士や自警団員らが放火や殺人、レイプに及んだとする証言もあり、米国や国連は民族浄化の疑いがあると非難する一方、ミャンマー政府はロヒンギャ武装集団「アラカン・ロヒンギャ救世軍」による襲撃に対応したものだとして、迫害を断固否定している。
 
しかし李氏は12日の国連人権理事会で、ラカイン州でのロヒンギャ迫害について「ジェノサイドの性質を有しているとの確信を強めている」と述べ、「最大級の強い言葉で説明責任を求める」と糾弾した。
 
李氏はミャンマーへの入国を同国政府から禁じられているが、生きたまま火をつけて殺害するといった無差別殺人に関する「信頼ある報告」があったと懸念を口にした。

また、責任について「命令を下した人々と暴力に及んだ人々を追求しなければならない」と言及し、迫害を放置した政府指導部にも責任があると強調した。
 
ロヒンギャ迫害をめぐってはゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官も先週、ミャンマーでの残虐行為の刑事告発も視野に入れた新たな国際調査団の組織を呼び掛けた。【3月13日 AFP】
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****スー・チー氏にも「責任ある」 ロヒンギャ迫害で国際調査団長****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害に関し国連人権理事会が設置した国際調査団のダルスマン団長は12日、「調査の結果、大規模な暴力があったのは明らかで、国際法違反の犯罪といえる」と指摘した。

ミャンマー指導層の責任にも言及し、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相にも責任があるとの見方を示した。ジュネーブで共同通信のインタビューに応じた。
 
ダルスマン氏は12日、人権理で調査結果を報告。ミャンマー政府が入国を認めないため、周辺諸国でロヒンギャ難民ら600人以上から迫害の実態について聞き取り調査をした。【3月13日 共同】
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進まぬ帰還作業 未だに続く民族浄化の動き どういう資格で帰還できるのか?】
70万人近くが難民化したロヒンギャのバングラデシュからの帰還は、今年1月23日からを予定していましたが、作業が遅れています。

ミャンマー政府は14日、「帰還を進める準備はできている」と述べ、また、ラカイン州のロヒンギャが居住していた地域で、国際メディアに取材を許可する意向も表明しています。

こうした動きは、メディアを通じて帰還への取り組みを公開し、高まる国際批判をかわす狙いがあると思われます。

ただ、作業は遅延しています。

****身元確認374人にとどまる=ロヒンギャ帰還でミャンマー****
ミャンマーのミン・トゥ外務次官は14日、ネピドーで記者会見し、西部ラカイン州から隣国バングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還に向け、身元確認できたのは374人にとどまっていることを明らかにした。次官は「374人については受け入れる用意がある」と明言した。
 
バングラデシュはこれまでに帰還対象者8032人のリストを送ってきたが、指紋や顔写真がないなどの不備が多かったという。

ミャンマー政府は身元が確認できなければ帰還を認めない方針。両国は1月23日の帰還開始で合意していたが、先送りされたままとなっている。【3月15日 時事】
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そもそも、ロヒンギャが居住していた地域での安全も確認されず、暴力の責任の所在も明らかにされていない状況で、ロヒンギャの多くが帰還を拒んでいると報じられています。

ラカイン州ではいまだにロヒンギャ追放・民族浄化に向けた力が働いているとも言われています。

****ミャンマー(ビルマ):ロヒンギャを飢えに追い込む作戦 帰還は時期早尚****
ミャンマーは、依然としてロヒンギャに対する民族浄化を続けている。食糧補給の道を断つ「強制的飢餓」もその一つだ。国連が発表した。

この卑劣な民族浄化作戦は、アムネスティがロヒンギャの人びとへの聞き取りで確認した事実とも一致し、疑いようもない事実である。

ロヒンギャの難民たちは口々に、真綿で首を締めるような兵糧攻めで、住み慣れた土地から追い出されている様子をアムネスティに語った。

この状況では、バングラデシュのロヒンギャ難民の本国送還は、はなはだ時期尚早だ。安全が確保され、安心して自主的に帰国できるようになるまで待つべきだ。

ミャンマー当局は、武力であろうと強制的飢餓であろうと、ロヒンギャの人びとを追い出すいかなる作戦も停止すべきである。また、国際社会は今こそ、武器の禁輸や特定の制裁など実効性ある対応を取らなければならない。

背景情報
アムネスティは2月7日の記事で、ロヒンギャの人びとが、食糧を断たれ、所持品を盗まれ、子どもを含む女性たちが性的暴力を受けるという民族浄化がいまだ続いている状況を報告した。【3月13日 国際事務局発表ニュース】
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****ロヒンギャの「民族浄化」は今も継続 国連の人権問題担当者が主張****
ミャンマー北部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャに対する暴力が横行している問題で、国連の人権問題担当特使は6日、同国では現在も恐怖と強いられた飢えを伴う「民族浄化」が続いていると主張した。
 
昨年8月にミャンマー軍がロヒンギャ掃討作戦に乗り出して以降、兵士や自警団員らによるロヒンギャへの暴力、殺人、レイプ、放火についての証言が絶えない。
 
国連人権担当アンドリュー・ギルモア事務次長補はバングラデシュのコックスバザールにある難民キャンプで新たに到着したロヒンギャの人々と対面した後、「ロヒンギャの民族浄化は続いている。コックスバザールで私が見聞きしたことからは、それ以外の結論を導くことができると思えない」と主張した。
 
また「暴力の性質は、昨年における流血の事態および集団レイプの激発というものから、恐怖と強いられた飢えという軟性のものに変わった」と指摘。
 
同氏はミャンマー政府がロヒンギャの帰還受け入れを開始すると約束したものの、近い将来に可能となることは「あり得そうもない」と述べ、「ミャンマー政府が世界に対して、ロヒンギャの帰還者を受け入れる用意があると言い立てているが、一方で同時に軍はロヒンギャをバングラデシュに追い立て続けている」と話した。【3月6日 AFP】*****************

帰還するにしても、どういう資格・地位で帰還するのか、ミャンマー国民として帰還できるのか、外国人として受け入れるのか・・・・も問題になります。

****援助金よりも安全の担保を」ロヒンギャ問題に見る日本の責務****
・・・・ミャンマー外務省は「2年以内に全員を帰還させる」と宣言。日本政府もこれに対し、1月12日に河野太郎外務大臣がアウンサンスーチー国家顧問と首都ネピドーで会談し、ロヒンギャ難民帰還のために「ミャンマー政府に寄り添う」として約25億円の支援を申し出た。

これらの動きはあたかも事態が平和裏に収束へ向かっているかの印象を与えた。

しかし、決してそうではなかった。筆者は帰還開始が決まった1月16日にクトゥパロンの難民キャンプを訪れた。冒頭のコメントはそのときにコミュニティーの長とも言える75歳の老人から聞いた言葉である。

「故郷には誰もが帰りたいと思っている。しかし、ミャンマー政府が提唱している帰還と再定住はとうてい受け入れることはできない。我々は帰っても国籍のないまま外国人として登録されるのだ。収容されてラカイン州の外に行くことも就労の自由もない。何よりもまた迫害の恐怖に晒されて殺されてしまうことが怖い」

そもそもロヒンギャに対する民族浄化は、1982年に制定されたビルマ市民権法によってミャンマー国籍を剥奪され、違法移民におとしめられて合法的に行われてきた。

今回の合意に基づいて帰国を果たしたとしてもその地位は何ら変わらず、しかも外国人として自ら登録してしまえば、父祖の土地を完全に放棄することになり、いつ何時再び追いたてられるか分からない。【3月17日 AERAdot.】
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更には、ロヒンギャの集落に、治安部隊の施設を設営しているとの情報も。

****ミャンマー政府、ロヒンギャ集落に治安施設を設営か アムネスティが報告書****
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは12日、ミャンマー政府が軍の掃討作戦によって壊滅状態になったイスラム系少数民族ロヒンギャの集落に、治安部隊の施設を設営しているとする報告書を発表した。

ミャンマー政府は北部ラカイン州から隣国バングラデシュに避難している何十万人ものロヒンギャの帰還を進めているが、計画に疑念を抱かせる事態となっている。
 
アムネスティは報告書「ラカイン州の再生」で、ロヒンギャの集落で軍用施設やその他の建造物が今年に入って急増していると、入手した衛星写真と取材を基に指摘している。
 
アムネスティで危機対応を統括するティラナ・ハッサン氏は施設について、「ロヒンギャが帰還すべき場所にミャンマー当局が建設をしていることを示している」と説明。また、建設において現存する家屋が破壊されたケースもあるという。
 
アムネスティは衛星写真に写っているのが一部の地域であることを認めているものの、写真にはロヒンギャの帰還予定地に治安部隊の設備やヘリポート、道路が造られている様子が捉えられていると主張している。(後略)【3月12日 AFP】
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こうしたロヒンギャ民族浄化の動きが未だ収束していないことを推察させる情報が報じられる現状では、ミャンマー政府が本気でロヒンギャの帰還を進めようとしているとは考えにくく、沈黙を守るスー・チー国家顧問が批判の矢面に立たされるのはやむを得ないことでしょう。

 
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ロヒンギャの惨劇 彼らはどう焼かれ、強奪され、殺害されたか【2月12日 ロイター】

2018-02-12 21:50:08 | ミャンマー

(縛られ、拘束された10人のロヒンギャの男たちは、すぐそばで浅い墓穴を掘る隣人の仏教徒たちを見つめていた。それからまもなく、昨年9月2日朝、彼ら10人の遺体がその穴に横たわった。そのうちの2人を切り殺したのは仏教徒たち。残る8人はミャンマー軍によって射殺されたと、穴を掘ったグループの2人がロイターに証言した。【2月12日 ロイター】)

本当に“新たな一歩”か?】
1月31日ブログ“ミャンマー ロヒンギャ難民「戻ったら殺される」 軍に沈黙し、批判に苛立つスー・チー氏”でも取り上げたように、ミャンマー国軍は武装集団のメンバーとみられる10人を拘束し、正当な手続きによらず殺害したことを認めました。

この件に関し、スー・チー国家顧問は「今回の軍の対応はそのための新たな一歩だ」と評価しています。

****スー・チー氏 ロヒンギャ問題でみずからの責任言及せず****
(中略)ミャンマー軍は、治安部隊が西部ラカイン州で去年、行ったロヒンギャの武装勢力に対する掃討作戦のなかで、無抵抗のロヒンギャの住民10人を銃やナイフで殺害したことを今月10日、初めて認めました。

これについてアウン・サン・スー・チー国家顧問は12日、首都ネピドーで開かれた記者会見で、「ミャンマーは法の支配を責任をもって確立しなければならず、今回の軍の対応はそのための新たな一歩だ」と述べて、今後、軍が法にのっとって殺害に関与した隊員を処分するという見通しを示しました。

この問題をめぐっては、ロヒンギャの人たちが、多くの無抵抗の住民が殺害されたと訴えているほか、国際社会からも「迫害や虐殺があった」と非難が強まっていますが、スー・チー氏は、不法な暴力は確認されていないと主張してきました。会見では、こうした点でのみずからの責任についてスー・チー氏から言及はありませんでした。

またスー・チー氏は「さまざまな批判を受け止めているが、最もよい対策が何かを決められるのは私たちだけだ」と述べ、あくまでミャンマー政府の責任で解決する問題だと強調しました。【1月12日 NHK】
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多くの虐殺があった(過去形ではなく、難民が増え続けていることからして“行われている”と現在形で言うべきでしょうか)とされているなかの“10人”の話であり、しかも、あくまで対象は“武装集団のメンバー”だったという内容、スー・チー氏に当事者・責任者としての認識がうかがえないことなど、“新たな一歩”と見ていいかは、はなはだ疑問でもあります。

しかも、この“10人”に関する取材を行っていた記者は、ミャンマー当局に国家機密法違反の罪(ラカインに関する機密情報を入手したという容疑)で起訴されています。

軍がロヒンギャ殺害への関与を認めたのは、この記者らの取材・逮捕(昨年12月12日)の後(1月10日)であり、彼らの取材・報道によるものと思われます。

****ロイター記者、虐殺暴き逮捕か=ロヒンギャ10人犠牲―ミャンマー****
ロイター通信は9日、ミャンマー当局に国家機密法違反の罪で起訴された同通信のミャンマー人記者2人は、西部ラカイン州でイスラム系少数民族ロヒンギャの住民10人が虐殺された事件を取材していて逮捕されたと報じた。
 
2人は昨年12月12日に逮捕された。検察当局は1月10日に起訴。同じ日に国軍は治安部隊が昨年9月2日にロヒンギャ10人を殺害したことを認めた。ロイターは「虐殺に関するロイターの調査が逮捕の引き金になった」と断じた。【2月9日 時事】 
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【「この事件で起きたことをはっきりさせておきたい。この先、二度とこのようなことは繰り返して欲しくない。」(取材に協力したラカイン州の長老)】
逮捕・起訴されている記者らによる“10人殺害”の内容については、以下のように報じられています。
長い記事ですが、まだ目にしていない方のために、あえて全文を引用します。

****特別リポート:ロヒンギャの惨劇 彼らはどう焼かれ、強奪され、殺害されたか****
縛られ、拘束された10人のロヒンギャの男たちは、すぐそばで浅い墓穴を掘る隣人の仏教徒たちを見つめていた。それからまもなく、昨年9月2日朝、彼ら10人の遺体がその穴に横たわった。

そのうちの2人を切り殺したのは仏教徒たち。残る8人はミャンマー軍によって射殺されたと、穴を掘ったグループの2人がロイターに証言した。

ミャンマーで起きたイスラム系少数民族ロヒンギャの惨劇。「ひとつの墓穴に10人を入れた」。同国ラカイン州インディン村にある仏教徒集落の退役兵士、Soe Chayはそう語り、同日の事件で自ら墓穴掘りに加わり、殺害を目撃したことを認めた。

彼によれば、兵士たちは、拘束したロヒンギャ1人に2、3発の銃弾を打ち込んだ。「埋められるとき、数人からはまだうめき声が聞こえていた。他はすでに死んでいた」と彼は話した。

<終りの見えない「浄化作戦」>
ミャンマーの西の端にあるラカイン州の北部では、ロヒンギャたちに対する暴力行為が広範囲に行われている、と隣国バングラデシュに逃げ込んだロヒンギャ難民や人権擁護団体は訴える。海岸沿いの村インディンで起きた虐殺事件は、暴力的な民族対立の悲惨さを雄弁に物語っている。

昨年8月以降、自分たちの村を脱出、国境を越えてバングラデシュに避難したミャンマーのロヒンギャ住民は69万人近くに達する。インディン村にはかつて6000人のロヒンギャたちが住んでいたが、10月以降、残っているものは誰もいない。

およそ5300万人の人口を持つミャンマーは、国民の圧倒的多数が仏教徒だ。イスラム系住民であるロヒンギャたちは、同政府軍が自分たちを抹殺するため、放火、暴行、殺戮(さつりく)を続けていると訴えている。

国連はこれまでもミャンマー軍が虐殺を行っていると非難し、米国政府は同国での民族浄化を制止する行動を呼びかけている。一方、ミャンマー側はこうした「浄化作戦」はロヒンギャ反政府勢力による攻撃に対する合法的な対抗策だと繰り返している。

ロヒンギャたちにとって、ラカイン地域はこれまで何世紀にもわたり自分たちが住み続けてきた場所だった。しかし、ミャンマー人の多くは、彼らをバングラデシュからやってきたイスラム系の招かれざる移民とみなし、軍はロヒンギャたちを「ベンガル人」と呼ぶ。

こうした対立はここ何年かの間に激しさを増し、ミャンマー政府は10万人以上のロヒンギャたちを食糧も医薬品も教育も十分に提供されないキャンプに閉じ込めてきた。

<食い違う現場と政府の証言>
インディン村の惨劇はどのように起きたのか。ロイターは事件への関与を告白した仏教徒の村民たちに接触し、ロヒンギャたちの家屋への放火、殺害、死体の遺棄についての初めての証言を得た。証言からは軍の兵士や武装警察官が関係していたことも明らかになった。

村に住む長老の仏教徒からは3枚の写真を渡された。そこには9月1日の夕刻、ロヒンギャたちが兵士に拘束され、翌2日の午前10時過ぎに処刑されるまでの決定的な瞬間が写し出されていた。

ロイターが事件の調査を続ける中、警察当局は12月12日、同社記者であるWa LoneとKyaw Soe Ooの2人を逮捕した。ラカインに関する機密情報を入手したという容疑だった。

そして、年が明けた1月10日、軍はロイターによる報道内容をある部分で確認する声明を出した。インディン村において、10人のロヒンギャ住民が虐殺されたことを認める発表だった。

しかし、軍が示した説明は、いくつかの重要な点で、事件を目撃したラカインの仏教徒やロヒンギャたちがロイターに提供した証言と食い違ってる。

軍側は殺された10人を治安当局に攻撃を仕掛けた「200人のテロリスト」の一味であると決めつけた。しかし、村の仏教徒住民はロイターに対し、インディン村において、大勢の反乱分子よる治安部隊への攻撃は全くなかったと明言している。そして、ロヒンギャの目撃者によると、その10人は近くの浜辺に避難していたロヒンギャたちから引き抜かれるように連行されていった人たちだった。

さらに、ロイターの取材に応じた多くの仏教徒、兵士、武装警官、ロヒンギャたち、そして地元の行政当局者の証言から、より詳しい状況が明らかになった。

・仏教徒村民によると、軍の兵士や武装した警察官がインディン村の仏教徒住民を集め、そのうちの少なくとも2人がロヒンギャ住民の家に放火した。

・3人の武装警察官およびラカイン州の州都シットウェの警察官によると、インディン村のロヒンギャ集落を「浄化」する命令は、軍の指揮系統を通じて下された。

・インディン村の仏教徒行政官と武装警官によると、武装警察隊の数人がロヒンギャ住民から牛やオートバイを売却目的で略奪した。

<政府側は軍の作戦を擁護>
ロイターが入手したこれらの証言や情報について、ミャンマー政府はどう反応しているのか。

スポークスマンであるZaw Htayはロイターに対し、「人権侵害の申し立てがあることは否定しない。そして、全てを否定してもいない」とし、もし不法行為について「十分かつ信頼できる一次証拠があれば、政府は調査を行う」と語った。「そして、証拠に間違いがなく、暴力があったことが分かれば、我々は現行法に従って必要な行動を取る」と述べた。

インディン村のロヒンギャ集落を「浄化」するよう命令を受けたという武装警官たちの証言については、「証明が必要だ。内務省と警察当局に聞かなければならない」と返答。武装警官たちによる略奪に関しては、警察が捜査するだろうと語った。

同スポークスマンは、仏教徒村民たちがロヒンギャたちの住宅を焼き討ちしたとの情報には驚いた表情で、「いくつも様々な異なった申し立てがあるが、誰がそうしたのかを証明することが必要だ。今の状況下では、それは非常に難しい」と付け加えた。

一方、同氏はラカイン地域における軍の作戦を擁護した。「国際社会は誰が最初にテロ攻撃を仕掛けたのか理解すべきだ。もし、そうしたテロ攻撃が欧州各国や米国で、例えばロンドン、ニューヨーク、ワシントンで起きたら、メディアは何と言うだろうか」。

<隣人に牙をむく隣人>
一連の出来事は昨年8月25日、ロヒンギャの反政府集団がラカイン州北部にある警察署と軍の基地に対して行った襲撃から始まった。身の危険を感じたインディン村の数百人の仏教徒村民たちは修道院に逃げ込んだ。8月27日、ミャンマーの第33軽歩兵部隊およそ80人が同村に到着した。

村の5人の仏教徒によると、部隊を統率する兵士の1人は到着後、彼らに対し、治安作戦に参加することもできると持ちかけた。実際に仏教徒の「治安グループ」から名乗りを上げる者が出たと言う。

その後の数日間で、兵士、警官、仏教徒村民たちは同村のロヒンギャたちが住む家のほとんどに放火した、と10人以上の仏教徒住民がロイターに証言した。

警官の1人は、ロヒンギャが住む地区へ「出かけて浄化する」よう司令官から口頭で命令を受け、放火しろと言う意味で受け止めたと話した。インディンの北にあるいくつかの村に何度か襲撃を仕掛けたという別の警官もいた。

その警官とインディンの仏教徒行政官であるMaung Thein Chayによると、こうした治安部隊は村人たちに紛れ込めるよう民間人のシャツを着ていたという。

ロヒンギャたちがインディン村から逃れた後に起きた略奪について、仏教徒たちがニワトリやヤギなど奪う一方、オートバイや畜牛といった価値の高い物品は第8治安警察隊の隊長が集め、売り払ったとの証言もあった。

この隊長であるThant Zin Ooは、ロイターの電話取材に対し、コメントしなかったが、警察の広報を務めるMyo Thu Soe大佐は、略奪があったかどうか捜査すると話している。

昨年9月1日までには、数百人のロヒンギャ住民がインディンから近くの海岸に避難していたと、複数の目撃者は話す。彼らの中に、殺害された男性10人がいた。彼らのうち5人は漁師または魚売りだった。その他の2人は店の経営者、2人は学生、1人はイスラム教指導者だった。

ロヒンギャたちの証言によると、このイスラム教指導者Abdul Malikは食べ物や竹を取りに村に戻っていた。避難場所に戻る時、少なくとも7人の兵士と武装した仏教徒の村人が後をつけてきた。その後、兵士はロヒンギャたちから男性10人を選んだという。

その夜に撮影された1枚の写真には、村の小道にひざまづく10人の姿が写っている。仏教徒村民の話では、9月2日、彼らは墓地近くの低木地に連行され、そこで再び写真を撮られたという。

兵士らは彼らに、行方不明となっている仏教徒の農民、Maung Niの消息を問いただした。ロイターの取材に対し、複数の同州仏教徒とロヒンギャ住民は、10人のうちの誰かと行方不明の農民を結びつける証拠については何も知らないと答えた。

仏教徒3人は、兵士がこの10人を処刑場所に連行するのを目撃したと話した。墓穴を掘った1人である元軍人のSoe Chayによると、現場を仕切る将校が、行方不明になっているMaung Niの息子たちを呼び、最初の一撃を加えるよう促した。

そして、長男がイスラム教指導者のAbdul Malikを斬首にし、次男も他の男性の首を切り落としたという。

殺害後の様子をとらえた写真をロイター記者に提供したラカイン州の長老は、その理由をこう語った。
「この事件で起きたことをはっきりさせておきたい。この先、二度とこのようなことは繰り返して欲しくない。」【2月12日 ロイター】
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特に、コメントも必要ないでしょう。

以前、映画「ランボー」シリーズに、軍事政権時代のミャンマーを舞台に少数民族カレン族への弾圧を背景にした「ランボー/最後の戦場」(2008年)という映画がありました。

エンターテイメントとしてはともかく、この種の映画ではありがちなことではありますが、映画のなかのミャンマー軍は極悪非道の集団というステレオタイプで描かれ、そのことにはいささか辟易するものもありました。

なお“本作品の舞台としてミャンマーが選ばれたのは、「現実に、残忍な暴力や虐殺が起こっている地域を舞台にしたい」というスタローン本人の強い希望による。日本や米国ではイラクの方が報道は多いが、世界の中で実際に人権が踏みにじられながら、それが注目されていないか忘れ去られていることへの警告として、スタローンの持つ本質的なメッセージ性が顕れていると言える。”【ウィキペディア】とのことです。

上記リポートのミャンマー軍は、まさにこうした映画に登場する“悪者”そのままのようにも。

若干の救いは、軍の虐殺行為に関する取材に協力した仏教徒もいた・・・ということでしょうか。

この報道について何か言うべきは、ミャンマー国軍であり、国家のリーダーであるスー・チー国家顧問です。
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ミャンマー  ロヒンギャ難民「戻ったら殺される」 軍に沈黙し、批判に苛立つスー・チー氏

2018-01-31 22:35:51 | ミャンマー

(イスラム教徒ロヒンギャの村人と話す、河野太郎外相(右端)=13日午前、ミャンマー西部ラカイン州【1月13日 朝日】「ミャンマー政府にしっかり寄り添って支えたい」「不安なく昔通りに住める状況をつくるため、しっかり支援したい」とも)

帰還合意はしたものの、帰還作業開始は延期
ミャンマー西部ラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャに対する弾圧、その結果としてのロヒンギャのバングラデシュへの逃避・難民化は、現在問題となっている2016年8月以降の約65万人だけでなく、それ以前からの問題であり、バングラデシュの難民キャンプでの登録者数は100万人を超えています。

登録作業を率いるバングラデシュ軍幹部によれば、登録者には生体認証カードが与えられているそうです。【1月17日 AFPより】

バングラデシュ側は、財政的な問題もあるでしょうし、急激な大量の難民流入は地元民との軋轢を惹起し、治安悪化にもつながりますので、早期のミャンマーへの帰還を望んでいます。

また、難民キャンプでは衛生状態悪化による伝染病の流行も問題となっています。

ミャンマー・バングラデシュ両国は2年以内に帰還を完了させることで合意しています。(帰還合意の対象は2016年10月以降にバングラデシュに入国したロヒンギャのみ)

しかし、ミャンマーの帰還受け入れは延期されており、今後の予定は不透明です。

****ロヒンギャ帰還開始延期=施設整備など遅れか―バングラデシュ****
ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受けたイスラム系少数民族ロヒンギャが、隣国バングラデシュに大量に避難している問題で、バングラデシュ政府当局者は22日、23日から予定されていたロヒンギャの帰還が延期になったことを明らかにした。開始時期は未定という。
 
バングラデシュは、ロヒンギャの帰還に際し、対ミャンマー国境に一時宿泊施設を設置する計画だが、作業が遅れているとみられる。

同当局者は「施設建設や人道支援の準備が整い次第、帰還を開始できる。開始時期は未定だ」と述べた。(後略)【1月22日 時事】 
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【「戻ったら殺される」】
ミャンマー側の受け入れ態勢も問題ですが、そもそも難民らが、自分たちを殺害・追放したミャンマーへの恐怖感を強く抱いており、そんな危険な状態への帰還を望んでいないことが、今後の大きな問題となるでしょう。

****ロヒンギャ避難民「安全の保障ない」ミャンマー帰還に反対デモ****
(中略)ミャンマーとバングラデシュの両政府が避難民の帰還に向けた準備を進める中、バングラデシュにある避難民キャンプでは26日、100人近い避難民らが早期の帰還に反対するデモを行いました。

参加者は「安全が約束されない限り、戻らない」とか「帰還は時期尚早だ」などとシュプレヒコールをあげていました。

多くのロヒンギャの人たちはミャンマーの治安部隊に迫害されたと訴えて帰還をためらっており、去年9月に逃れてきた男性は「ミャンマー政府は信用できず自分たちの権利が守られない限り帰るつもりはない」と話していました。

ミャンマー政府は避難民が住んでいた村の再建を約束するなどして早期の帰還を促していますが、避難民のキャンプでは同じようなデモがたびたび起こっていて、ミャンマー政府への不信感が浮き彫りとなっています。【1月27日 NHK】
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帰還どころか、今もバングラデシュへの避難が止まっていない状況です。

****ロヒンギャ、帰還合意後も迫害=「戻ったら殺される」―バングラへの避難続く****
ミャンマー西部のラカイン州で迫害を受け、隣国バングラデシュに避難するイスラム系少数民族ロヒンギャが後を絶たない。

両国はロヒンギャを近く帰還させる方針で合意している。しかし、バングラデシュには29日も、船でロヒンギャが到着。口々に「戻ったら殺される」と帰還への恐怖を口にした。【1月30日 時事】 
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ミャンマーへの帰還を恐れるロヒンギャの中で、帰還推進派の指導者が殺害される事件も起きており、バングラデシュ政府も対応に苦慮しています。

****ロヒンギャ、帰還に募る不安=バングラ側、対応に苦慮―ミャンマーに安全確保要請****
ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受け、バングラデシュに逃れた68万人超のイスラム系少数民族ロヒンギャに関し、両政府は近く帰還させる方針で合意している。しかし、ロヒンギャは「今のまま戻っても同じことの繰り返しだ」と不安を募らせる。「帰還推進派」の指導者が殺害される事件も発生、バングラデシュ当局は対応に頭を悩ませている。(中略)
 
別のキャンプでは、1月に入り、帰還推進派の指導者が殺害される事件が発生した。このキャンプに住むシャリフ・フセインさん(27)は「推進派は(ラカイン州で多数派の仏教徒)ラカイン族と連絡を取り合っている」と不信感を隠さない。
 
フセインさんは「一緒に逃げた500人のうち、200人は殺された。安全が確保されなければ、同じことの繰り返しだ」と訴える。
 
キャンプの警備に当たる地元警察当局者は「殺害事件以降、ロヒンギャの間に『帰還推進』と表立って口にできない雰囲気があるようだ」と語る。対立激化を避けるため警備を強化するぐらいしか打つ手がない。
 
バングラデシュは国連機関などと共に支援を続けてきたが、短期間に大量のロヒンギャが流入したため、すでに「限界」(地元住民)状態。できる限り早く帰還を実現させたいのが本音だ。

だが、人道上、ロヒンギャの安全は軽視できない。アリ外相は30日、ミャンマー政府に対し、ロヒンギャを安全に受け入れる環境整備など「有効な対応」を取るよう求めた。【1月31日 時事】 
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「有効な対応」とは言っても、物的な環境整備はともかく、難民の恐怖・不安を払拭するにはどうすればいいか・・・となると、なかなか難しいところです。

(物的な環境整備については、河野外相が、外国要人としては初めて混乱が起きた現場地域の視察が認められたように、ミャンマー側には日本への大きな期待があるようです。)

混乱の責任追求を明確にし、事態改善・帰還受け入れに向けたスー・チー氏の積極的な発言でもあれば、事態も少しは変わるのでしょうが。

事態改善への姿勢が見えないミャンマー
そもそも、ミャンマー政府・国軍に、帰還したロヒンギャの安全を保障する気があるのかも怪しいところです。
民族浄化を実現したミャンマーとしては、おびえる難民がこのまま帰ってこないことを望んでいるでしょう。

ミャンマー国軍は1月10日、ロヒンギャ10人が法的手続きを経ずに虐殺された事件への関与を認め、これについてアウン・サン・スー・チー国家顧問は「最終的には、国内における法の支配(を実現すること)は、その国の責任である。われわれが責任を果たすため歩んでいることは、前向きな兆候だ」として、「わが国が踏み出した新たな一歩」と評価しています。

しかし、その中身を見ると・・・・違法に殺害はしたが、村民を脅した「テロリスト」への報復だったという内容であり、その他の膨大な虐殺・放火・レイプ等を認めるものでもありません。

****ロヒンギャ殺害を認めても懲りないミャンマー****
<殺害は認めても国軍の責任は認めていないし、事件現場近くで取材していた記者2人は起訴された>

ミャンマー南西部のラカイン州の集団墓地で昨年12月にイスラム系少数民族ロヒンギャ10人の遺体が見つかった事件で、ミャンマー軍は1月10日、殺害への関与を認めた。軍がロヒンギャ殺害を認めるのは初めてだが、10人を民間人だとは認めなかった。

ミャンマー軍司令部はフェイスブックへの投稿で、ロヒンギャの「テロリスト」10人が仏教徒の村人を脅したため、報復として殺害したと主張した。

「村人と治安部隊がベンガリ(ロヒンギャの蔑称)テロリスト10人の殺害を認めたのは事実だ」と、ミャンマー軍は発表した。「交戦規定を破って殺人を犯した治安部隊員は処分する。事件は、テロリストが仏教徒の村人を脅して挑発したために起こった」(中略)

責任追及の意思も能力もない
ミャンマーのロヒンギャ迫害は「民族浄化の典型例」だと、国連は9月に糾弾した。レックス・ティラーソン米国務長官も11月のミャンマー訪問後、「民族浄化に等しい」と非難した。(中略)

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの東南アジア・太平洋部代表のジェームズ・ゴメックスは、ラカイン州で発覚したロヒンギャ10人の殺害について、独立した調査の必要だと言う。

「国軍が10人の殺害を認めたのは、ロヒンギャ迫害を全面否定してきた従来の方針からすれば大きな進歩だ。だがこの事件は氷山の一角に過ぎない。ロヒンギャを標的にした民族浄化の過程で他にどんな残虐行為が行われたのか、本格的な独立調査が必要だ」

ロヒンギャ虐殺の全容解明は、国連の調査団や独立した監視団体による現地調査をミャンマー政府が受け入れない限り不可能だ。

12月に集団墓地が見つかったラカイン州マウンドー近くにあるインディン村は、同州で最も弾圧が激しかった地域の1つだ。同月上旬、ロヒンギャ問題を取材していたロイター通信のミャンマー人記者2人がミャンマー当局に身柄を拘束されたのもこの地域だった。(中略)

国家機密法違反で記者逮捕
事実、ミャンマーの司法当局は1月10日、ロイター通信のワ・ロー記者(31)とチョー・ソー・ウー記者(27)の2人を国家機密法違反の罪で起訴した。有罪になれば、最高で禁固14年が科される可能性がある。

「私たちに真実を明らかにさせないための不当逮捕だ」と、ワ・ローは初公判後にロイター通信を通じて声明を発表。アメリカ、国連、EU、国際機関やその関係者らは相次いで、ミャンマー政府に対して2人の即時釈放を求めた。

(中略)米国務省も、無条件の即時釈放を訴えた。「2人の記者が起訴されたことに、アメリカは深い失望を表明する」【1月12日 Newsweek】
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これまで国軍の虐殺を否定してきたスー・チー氏ですが、そのことの責任への言及もありません。国際的な介入も拒否する姿勢です。

****スー・チー氏 ロヒンギャ問題でみずからの責任言及せず
(中略)(国軍によるロヒンギャへの暴力という)この問題をめぐっては、ロヒンギャの人たちが、多くの無抵抗の住民が殺害されたと訴えているほか、国際社会からも「迫害や虐殺があった」と非難が強まっていますが、スー・チー氏は、不法な暴力は確認されていないと主張してきました。

会見では、こうした点でのみずからの責任についてスー・チー氏から言及はありませんでした。

またスー・チー氏は「さまざまな批判を受け止めているが、最もよい対策が何かを決められるのは私たちだけだ」と述べ、あくまでミャンマー政府の責任で解決する問題だと強調しました。【1月12日 NHK】
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国際批判に苛立つスー・チー氏
スー・チー氏のロヒンギャ問題への消極的対応については、国際社会において失望も大きくなっています。

****ミャンマー、ロヒンギャ危機の諮問機関メンバーを解任 前米知事****
ミャンマー政府は25日、イスラム系少数民族ロヒンギャへの弾圧に関する諮問機関のメンバーを務める前米ニューメキシコ州知事のビル・リチャードソン氏を解任したと明らかにした。同氏によるアウン・サン・スー・チー国家顧問への「個人攻撃」を非難している。
 
ロヒンギャ弾圧を示す証拠が相次で明らかになる中、ロヒンギャの側に立った発言をしていないスー・チー氏は人権を守るスター政治家としての評価が急激に下がっていた。
 
ミャンマー政府は、22日に首都ネピドーで諮問会議が行われたが、ロヒンギャ問題で助言することにリチャードソン氏が関心を持っていないことが「明らかになった」としている。

隣国バングラデシュには69万人近くのロヒンギャが逃れており、リチャードソン氏は国際諮問機関のメンバー5人のうちの一人だった。
 
フェイスブックに投稿された英語の声明で政府は「異なる意見が表面化してきたことを考慮し、彼が今後も諮問機関のメンバーを務めることは、全ての関係者にとって最善ではないと判断した」と述べている。ビルマ語の声明では「解任」という言葉を使っている。
 
一方、リチャードソン氏の広報担当者は、ミャンマー政府の主張は「事実ではない」と批判している。
リチャードソン氏はミャンマー政府が設置した諮問機関がロヒンギャ危機の原因を「ごまかしてしまう」ことを危惧しているとして、そのような機関に居続けることは良心に反すると表明する声明を出していた。
 
またリチャードソン氏はスー・チー氏には「道徳的なリーダーシップが欠如」していると激しく非難。ロイター通信の記者2人の釈放を求めたリチャードソン氏に対し「怒り狂った反応」をしたと指摘した。【1月26日 AFP】
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“リチャードソン氏はロヒンギャ問題を取材していたロイター通信記者2人が国家機密法違反の罪で起訴されたことに関し、「報道の自由は民主主義の根幹」と強調。この問題でミャンマーの内相と会談する予定だったが、急に中止になったことを明らかにした。難民流出に対する国軍の責任問題でも、追及しないスー・チー氏に不満を示した。
”【1月26日 時事】とも。

スー・チー氏が他人の助言を聞き入れない“唯我独尊”的な傾向があることは以前から指摘されていたことですが、事態は悪い方向へ流れているように思われます。

軍の力の前で沈黙か
いつも言及しているように、スー・チー氏には国軍を動かす権限がない、国民世論もロヒンギャを嫌悪しているという大きな制約があるのは事実です。ただ、そうであっても・・・・

****盟友の死、スーチー氏沈黙 ミャンマー与党法律顧問、銃撃死1年****
ミャンマー最大都市ヤンゴンの空港で起きたある弁護士の殺害事件から29日で1年がたつ。殺されたのはアウンサンスーチー国家顧問の盟友で与党の法律顧問だったコーニー氏(当時63)。

軍の関与を疑う見方もある中、真相解明が進まない事件はスーチー氏の苦しい立場を象徴している。
 
■軍の影、進まぬ解明
「警察や裁判所が本気で真相を明らかにしようとしているとは思えない」。コーニー氏の遺族側代理人のロバート・サンアウン弁護士は取材に語気を強めた。
 
コーニー氏は昨年1月29日午後5時ごろ、インドネシアから帰国してヤンゴン空港で車を待っていたところ、拳銃で後頭部を撃たれ、即死した。

実行役の男(54)がタクシー運転手らに取り押さえられ、殺人の疑いで逮捕・起訴された。2月中旬、殺害を指示したとして軍の元中佐(47)が指名手配されたことで、軍の影がちらつき始めた。
 
実行役の男らの裁判は昨年3月から今月までに40回を数えた。だが、裁判や捜査には不可解な点がある。
 
事件に使われた拳銃について、警察は「我々の仕事ではない」と、いまだに鑑定を行っていない。今月26日の公判では、付着した指紋すら調べていないことが明らかになった。また、手配された元中佐は首都ネピドーでの足取りを最後に逃亡を続けている。

裁判所は「事実が判然としない」との理由で、法律で決められた指名手配犯の財産差し押さえ命令を出していない。

■政権不安定化、懸念?
コーニー氏は与党・国民民主連盟(NLD)で重要な役割を果たしてきた。英国籍の息子がいるため、軍事政権下でつくられた憲法の規定で大統領になれないスーチー氏を実質的な政権トップの国家顧問にする法案作成を担った。スーチー氏が掲げる憲法改正でも推進役の一人だった。
 
スーチー氏は昨年2月にあった追悼集会で、「大きな損失だ」とその死を悼んだものの、その後は一切発言をしていない。

NLDの国会議員は、「軍の関与が疑われても、下手な追及はできない」と説明する。決定的な証拠もなしに事を荒立てれば、政権の不安定化にもつながる。
 
また、コーニー氏がイスラム教徒であることも影響しているとの指摘もある。仏教徒が約9割を占めるミャンマーではイスラム教徒への視線は冷たい。

イスラム教徒ロヒンギャの問題で国際社会の批判を浴びる中、コーニー氏の殺害直前のインドネシア訪問は、ロヒンギャ問題解決の方策を探るためだったという。
 
ロヒンギャを支援するビルマ人権ネットワークのチョーウィン代表は、「殺害事件の解明にはミャンマーの民主国家としての力量が問われている。これができなければ、さらに複雑なロヒンギャ問題の解決は無理だろう」と話した。【1月28日 朝日】
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スー・チー氏が就任して以来、国軍に抵抗して民主化・人権のために奮闘している・・・という話はほとんど聞きません。報じられるのは国軍の影響に配慮して迎合するような発言ばかりです。

軍の影響力を恐れ、何もできないということであれば、民主化に一定の理解を示し、実際に民主化に大きな力を発揮し、軍への影響力も有していたテイン・セイン前大統領のほうがまだよかったかも・・・ということにもなります。「そんなことはない・・・」というところを見せてほしいのですが。

なお、「超法規的殺人」で国際的には悪評高い、フィリピンのドゥテルテ大統領は1月26日、スー・チー氏との最近の会話で、ミャンマーの問題に対する人権活動家の反発を無視するよう助言したことを明らかにしたそうです。
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ミャンマー 今なお続くロヒンギャ迫害と難民 否定したはずの軍事政権と同じ轍を踏むスー・チー政権

2017-12-27 21:57:43 | ミャンマー
続く「民族浄化」の迫害、止まぬ難民
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの問題。

ミャンマー政府は9月5日にロヒンギャ武装組織の掃討作戦を終了したとしていますが、その後もミャンマーを逃れて隣国バングラシュに向かうロヒンギャ難民はやまず、「民族浄化」を批判する国連などの国際的批判にもかかわらず、現地ではミャンマー国軍及び協力者によるロヒンギャ襲撃が散発的に続いていると思われます。

****<ロヒンギャ>迫害やまず 難民「逃げるしかない*****

ミャンマー国境を流れるナフ川のバングラデシュ側ほとりで今月3日朝、幼い娘を抱えた女性が途方に暮れていた。「家族5人でボートで上陸した後、弟2人とはぐれてしまって……」。黒い布の間からのぞく瞳には、深い疲労がにじむ。
 
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民流入が続くバングラ南東部コックスバザール。幼い娘2人を抱えたこの女性、ミヌワラ・ベガムさん(25)は5日間歩いて国境近くにたどりつき、月明かりの下、他の難民約20人とともに小舟で近くの川岸に上陸した。その後、闇夜の中を歩くうち、20歳と18歳の弟を見失ったという。
 
ミャンマー政府は9月以降、「軍による掃討作戦は行っていない」としている。だが、ミャンマー西部ラカイン州ブティドウン地区にあるベガムさんの村では軍とみられる集団による襲撃が散発的に続いており、夫は約1カ月前、農作業に向かう途中に撃たれ死亡した。

先月末には「軍関係者」が突然現れ、村を出るよう通告してきた。慌てて食料をかばんに詰め、国境を目指した。「逃げるしかなかった。難民キャンプに行くことになると思うが、その前に弟を捜さないと」
 
バングラ、ミャンマー両政府は先月23日、難民の早期ミャンマー帰還に向けた覚書を交わしたが、今もバングラ側への難民流入は続く。

難民キャンプを視察したバングラのカデル運輸相は取材に対し、「両国の共同作業部会で作業中だ」と述べ、帰還準備は進んでいると強調したが、いらだった口調でこうも語った。「難民はまだ続々とやって来ている。彼ら(ミャンマー)は流出を止められないんだ」【12月26日 毎日】
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ミャンマー側は“流出を止められない”のではなく、“流出を強いている”と言うべきでしょう。

****ロヒンギャの村、焼き打ち続く=帰還合意後も被害―人権団体****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは18日、ミャンマー西部ラカイン州で10〜11月にイスラム系少数民族ロヒンギャの村40カ所が焼き打ちに遭ったとする声明を発表した。衛星写真で判明した。
 
ミャンマー治安部隊とロヒンギャ武装集団の衝突が始まった8月25日以降、焼き打ちされた村は354カ所。このうち少なくとも118カ所は、政府が掃討作戦を終了したと説明した9月5日以降に被害に遭った。
 
ミャンマーは11月23日、ロヒンギャ住民の脱出先となっているバングラデシュと難民の帰還で合意したが、その後も焼き打ちは続いていた。

ヒューマン・ライツ・ウオッチは「合意直後のミャンマー国軍による村の破壊は、難民の安全帰還に関する約束が宣伝にすぎなかったことを示している」と批判した。【12月18日 時事】 
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ミャンマー政府発表とは桁違い多い犠牲者 劣悪な難民キャンプで苦しむ子供たち
「民族浄化」をもくろむミャンマー国軍等の迫害により、ミャンマー国軍が掃討作戦を始めてから最初の1カ月間で、少なくとも6700人のロヒンギャが殺害されたと推定されています。

その後の犠牲者を含めると、看過できない暴力がスー・チー氏率いるミャンマー政府のもとで実行されていると言わざるを得ません。

****ロヒンギャ殺害、1カ月で6700人か 子ども多数犠牲****
・・・・(国際NGO「国境なき医師団」)MSFによると、ロヒンギャの武装集団の襲撃事件を受けて掃討作戦が始まった8月25日からの1カ月間で、少なくとも9千人のロヒンギャが亡くなった。

71・7%は暴力によるもので、少なくとも6700人が殺害された。うち730人が5歳未満の子どもとみられるという。また暴力で亡くなった死因の約7割が銃撃だったという。
 
11月、バングラデシュの難民キャンプで抽出した約1万1千人を対象とする調査から推計した。MSFは「ロヒンギャがどれだけ暴力で命を奪われたかという証拠だ。調査できていない人も考えれば犠牲者はもっと多いと考えられる」としている。
 
ミャンマー政府は現時点までの犠牲者は計430人で、そのうち387人は武装集団の「テロリスト」であり、市民の犠牲は28人だと発表している。同政府はMSFの調査について「何もコメントすることはない」としている。【12月14日 朝日】
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バングラデシュに逃れた難民も厳しい環境に置かれています。

*****ロヒンギャ難民の子供、4分の1が栄養失調で命の危機 ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)は22日、ミャンマーからバングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民のうち、5歳未満の子供の4分の1が、生死にかかわる深刻な栄養失調に陥っていると発表した。
 
今年10月22日から11月27日の間に3回実施された調査の結果、過密状態にある難民キャンプに収容された乳幼児の約25%が急性栄養失調となっていることが分かったという。

スイス・ジュネーブで記者会見したユニセフのクリストフ・ブリアラク報道官は「調査を受けた子供たちの半数近くが貧血、40%が下痢、最大60%が急性呼吸器感染症を患っている」と述べた。
 
ミャンマーのラカイン州では、軍事作戦によって今年8月以降に難民化したロヒンギャの数が65万5000人を超えており、うち約半数が子供となっている。国連(UN)は、この軍事作戦は民族浄化であるとの見方を示している。【12月23日 AFP】
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アメリカの制裁・国連総会決議にさらされるミャンマー取り込みを図る中国
人権問題には無関心なアメリカ・トランプ政権も、ミャンマー軍幹部への制裁を発表しています。

*****ロヒンギャ問題 米がミャンマー軍幹部に制裁****
(中略)アメリカ財務省は、世界各地での深刻な人権侵害に関わった関係者への圧力を強める大統領令に基づき、ミャンマー軍のマウン・マウン・ソー少将に対して、アメリカ国内の資産を凍結するなどの制裁を科したと21日発表しました。

この少将が率いていた治安部隊をめぐっては、ことし8月、西部のラカイン州で少数派のロヒンギャの人たちを無差別に殺害したほか、集落に放火したといった証言が寄せられているということです。

国連の推計によりますと、これまでにおよそ65万人のロヒンギャの人たちが隣国バングラデシュに避難を余儀なくされ、アメリカは、ロヒンギャに対する民族浄化だと厳しく非難しています。

この問題が起きてからアメリカ政府がミャンマー政府の関係者に制裁を科すのは今回が初めてで、ロヒンギャへの迫害をやめるよう強く促す狙いがあると見られます。

また、国務省の高官は「ほかの個人についても証拠を集め、ふさわしい判断を下す」として、今回対象となった軍幹部以外の関係者に対しても制裁を科す可能性を示唆しました。【12月22日 NHK】
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日本は、安倍首相がミャンマー大統領に“懸念”を表明していますが、同時にミャンマーを「官民挙げて最大限支援をしていく」ことも表明しています。

国連総会は軍事力行使停止決議を採択しましたが、日本は棄権しました。

****ロヒンギャ問題】ロヒンギャへの軍事力行使停止決議を国連総会が採択、日本は棄権****
ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの迫害問題をめぐり、国連総会(193カ国)の本会議は26日までに、ミャンマー政府に対し、軍事力行使の停止や、国連などによる制限のない人道支援を認めるよう求めた決議案を賛成多数で採択した。
 
24日の採決では賛成は122カ国、反対は10カ国、棄権が24カ国だった。反対したのはミャンマーのほか、中国、ロシア、カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナム、ベラルーシ、シリア、ジンバブエ。
 
決議では、国連などによる人権問題の実態調査の受け入れも要求。日本はミャンマー政府の協力がなければ調査は効果的ではないとの立場で、11月の委員会採決に続いて棄権した。【12月27日 産経】
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“反対”にはASEAN加盟国が多く含まれています。同様の人権問題を抱え、“内政干渉”を嫌う周辺国はミャンマー政府を支援する方向のようです。

日本政府がミャンマー批判を明確にしない背景には、これまでのミャンマー・日本の歴史的・経済的な深いつながりに加え、国際的なミャンマー批判は結果的に中国へミャンマーを追いやることになる・・・との懸念があると思われます。

****ロヒンギャ問題、ミャンマーを取り込もうとする中国****
中国の王毅外相がミャンマーを訪問、ロヒンギャ問題への新提案をしたことについて、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の11月21日付け社説は、中国の提案は不適切であると批判しています。要旨は次の通りです。
 
中国の王毅外相は11月19日、ミャンマーを訪問、ロヒンギャの人道危機の解決策を提案した。中国はその影響力を、軍を抑制するために行使していない。中国の提案はミャンマー政府による少数民族の誤った扱いを助長するだろう。(中略)
 
中国は当初、ミャンマー軍の行動を「国家安定の維持」に必要として支持、国連安保理による暴力非難決議に拒否権を行使した。対ミャンマー制裁や国際刑事裁判所への付託の圧力が高まっているが、王毅は中国のミャンマー支持が確固たるものであることを示した。
 
王毅の新提案は、まず停戦と安定の回復を求めている。それに異を唱えるのは難しいが、ミャンマーには迫害対象のロヒンギャはほとんど残っていない。12万人からなる最後の大規模グループは、2012年以来シットウェ郊外のキャンプに収容されている。
 
同提案は第二に、ミャンマーとバングラデシュが、他国や他のグループの同席無しで、危機の解決策を話し合うよう求めている。

これは、ミャンマーが国連の関与を拒否するのを助長する。バングラデシュとの対話は既に始まっているが、バングラデシュのみではミャンマーに象徴的な数の難民の帰還を認めさせる以上のことはできないであろう。
 
第三に、中国は、あらゆる政治的不安定に対する同国の標準的対応、すなわち経済発展を提案している。王毅は、雲南省、ヤンゴン、ロヒンギャが住むラカイン州を結ぶ経済回廊についての新計画を公表した。
 
西側諸国は、ロヒンギャ問題でミャンマーに圧力をかけるべく制裁を検討しているが、中国のミャンマー支持は、制裁が限られた梃子にしかならないことを意味する。アウンサン・スー・チーの側近は本紙に、制裁はミャンマーを中国の影響下に押し戻すだろう、と言っている。
 
しかし、ミャンマーの民族浄化を放置するのにもリスクがある。スー・チーは軍に接近し、批判するジャーナリストを弾圧している。ミャンマーの他の民族グループは、権利の縮小に直面している。

ロヒンギャ危機はミャンマーの政治的軌道を変え、中国による支援は極端なナショナリズムへの動きを加速し得る。【12月25日 WEDGE】
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軍政時代と変わらぬスー・チー政権の対応
国際的な批判・制裁の結果。中国との関係を強める・・・・というのは、かつての“ミャンマー軍事政権”と同じ流れです。

スー・チー氏による民政はそうした軍事政権を否定する流れの中で誕生したはずですが・・・・

スー・チー氏率いるミャンマー政府のロヒンギャ問題や国内言論への対応も、軍事政権時代を思い起こさせるものがあります。

****ミャンマー、言論弾圧に通信法悪用 文民政権下で摘発激増****
ミャンマーで、アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)による文民政権が発足して以降、同国の通信法に基づく名誉毀損(きそん)罪などで市民が摘発されるケースが激増していることが11日、人権団体の報告により明らかとなった。

人権団体らは権力者や富裕層が同法を悪用し、市民社会やメディアに言論弾圧を加えていると非難している。
 
およそ半世紀ぶりとなった文民政権の誕生は、軍事政権下で抑圧された言論の自由獲得への突破口となる前触れと期待が寄せられていた。

しかし、人権団体「フリー・エクスプレッション・ミャンマー(FEM)」によると、期待されていたものは今のところ全く得られていないという。
 
FEMの報告書によると、ソーシャルメディアへの投稿を取り締まる根拠とされている悪名高い電気通信法第66条(d)に基づいて市民が摘発された件数は、軍事政権下で11件にとどまっていたが、文民政権が発足した2016年3月以降では97件に上っている。
 
ほぼ全てが名誉毀損罪に関わるもので、インターネット上で風刺記事を書いた人や活動家、ジャーナリストが取り締まり対象となっている。また、裁判が行われたすべてのケースで禁錮刑を含む有罪判決を言い渡されているという。
 
FEMは、「権力者は自分たちに説明責任を課そうとする市民への罰則を拡大しようとしており、電気通信法第66条(d)はこの2年間、そうした権力者にとって最適な道具となっている」と指摘。

その上で、この「根本的に非民主的」な法律の撤廃を改めて求めた。名誉毀損の厳密な定義が行われれば、申し立ての少なくとも3分の2は取り下げられるという。【12月12日 AFP】
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****ロイター記者2人の勾留を2週間延長、ミャンマー裁判所****
ミャンマーの裁判所は27日、国家機密法に基づき逮捕されていたロイター通信のミャンマー人記者2人の勾留期間をさらに2週間延長することを決定した。
 
勾留されているのは、ワー・ロー記者とチョウ・ソウ・ウー記者。ミャンマー政府軍が主導していたイスラム系少数民族ロヒンギャ難民に対する弾圧を取材していたが、警察当局からヤンゴン郊外での夕食に招かれた後に逮捕されていた。
 
2人はラカイン州で政府軍が行っていたロヒンギャへの弾圧に関する重要な文書を保持していた疑いで勾留されており、有罪になれば最長14年の禁錮刑が言い渡される可能性がある。
 
ミャンマー当局者らは2人が勾留されている場所や釈放される時期については一切発言を拒否している。(中略)
 
記者2人の逮捕をめぐり、ミャンマー当局に対しては、報道の自由を損なうとして大きな非難を浴びている。今年、ミャンマーでは少なくとも11人の記者が逮捕されている。【12月27日 AFP】
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****ミャンマー、国連報告者の入国拒否=ロヒンギャ調査に協力せず****
ミャンマー政府は同国の人権を担当する国連の李亮喜特別報告者(韓国出身)に対し、入国を拒否し、同氏への協力を今後行わない方針を伝えた。国連が20日発表した。
 
李氏は来年1月にミャンマーを訪れ、イスラム系少数民族ロヒンギャ迫害を含む人権状況を調査する予定だった。李氏は声明で「ミャンマー政府の決定に失望している。(人権をめぐり)大変なことが起きているに違いない」と非難した。
 
李氏は7月のミャンマーでの現地調査後、「以前の(軍事)政権の手法が今も用いられている」などと批判。ミャンマー政府はこうした評価について「偏っており不公正だ」と反論し、協力取りやめの理由に挙げているという。【12月20日 時事】
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スー・チー氏に軍・警察に対する権限がないとか、国民世論がロヒンギャを嫌悪しており、ロヒンギャへの宥和的対応は軍・国民世論の両方の支持をうしなうことにもつながる・・・といった問題があることは、再三触れてきたところです。

しかし、だからといって「民族浄化」が進む現状の責任を逃れることはできません。

スー・チー氏自身も国際的批判に苛立ちを募らせているようですが、軍政時代に自宅軟禁状態にあった彼女は、人権問題に対しては“内政干渉”云々は通用しないとの国際批判によって支えられていたのではないでしょうか。

その彼女が今、国際的批判に十分に応えることなく、“内政干渉”に反対する中国への傾斜を強めるというのは、非常に残念な流れです。

期待できない二国間協議
なお、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の二国間で行われている難民帰還に関する交渉に関しては、60万人を超える難民のどれだけが帰国できるのか危ぶまれるものがあります。

*****解決急ぐバングラデシュ*****
・・・・ミャンマー、バングラ両政府が帰還に向けて11月23日に交わした覚書は、難民のミャンマーでの居住証明を帰還条件にした1992年の合意を基礎としているとされる。

だが、帰還を急ぐバングラ政府は、難民からの自己申告に基づき名前や顔写真を登録する身分証発行手続きを進めている。

一方で、ミャンマー政府は住民だったと証明できる書類に基づいて審査を行うとみられ、こうした書類にこだわれば、難民は帰還できなくなる可能性がある。(後略)【12月26日 毎日】
*******************

大量難民の圧力に苦しむバングラデシュは早急な難民帰還を求めていますが、ロヒンギャ難民が“ミャンマー国民として”“今後の安全な生活を保障される形で”帰還できるのか・・・・?

これまでのミャンマー政府の対応からすると、あまり期待できません。国連等の介在が必要ですが、ミャンマー政府は応じないでしょう。それは「民族浄化」を完遂したいためでしょうか?
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ロヒンギャ問題  「1歳の娘が生きたまま火を付けられた」 及び腰のASEAN ナショナリズムに曇る目

2017-11-14 23:20:34 | ミャンマー

(焼け焦げて互いにもつれ合った複数の遺体の上に自分も放置されていたと証言するロヒンギャ難民女性【11月13日 CNN】)

凄惨なロヒンギャ虐殺に関する証言
再三取り上げているミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャ弾圧の問題。

ミャンマー国軍やロヒンギャ排除を支持する仏教徒住民などによる、殺害・暴行・放火・レイプに関しては今更の感もありますが、下記記事などみると改めてその暴力の過酷さを痛感します。

****住民集め銃撃、乳児は火に ロヒンギャが語る大量殺人の実態****
「最悪級の残虐行為」、生き残ったロヒンギャが証言
少数派イスラム教徒ロヒンギャの住民が虐殺されたと伝えられるミャンマー西部ラカイン州。同州トゥラトリ村に住んでいたロヒンギャ女性のムムタズさんは、焼け焦げて互いにもつれ合った複数の遺体の上に自分も放置されていたと証言する。

「彼らは次々に人を殺して遺体をうず高く積み上げた。まるで竹材のように」「遺体の山には人の頭や人の脚があった。自分がどうやって抜け出せたのか分からない」。ムムタズさんはそう振り返る。

恐怖はそれで終わらなかった。遺体の山から抜け出したムムタズさんは民家に引きずり込まれ、複数の兵士によって強姦されたと訴える。その後、この家は施錠され、放火されたという。

ムムタズさんは、家の中にいた7歳の娘のラジアさんに助けられ、壊れたフェンスの隙間から脱出して物陰に隠れた。やがて2人を発見した村人の助けを借りて、隣国バングラデシュへ避難した。

支援団体によると、バングラデシュへ逃れたロヒンギャの難民は8月25日以来、61万5000人に上る。

ラカイン州北部で起きた衝突についてミャンマー軍は、警察拠点がロヒンギャの武装集団に襲撃された事件を受け、「テロリスト」に対する「掃討作戦」を強化したと主張している。

国連はラカイン州の事態を「民族浄化の典型的な実例」と位置付け、ムムタズさんの村で8月30日に起きた大量殺人については「過去2カ月半で最悪級の残虐行為」と形容した。

「最悪級の残虐行為」、生き残ったロヒンギャが証言
(中略)集団強姦や殺人、放火については、ミャンマーを脱出したロヒンギャの多くが証言している。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは10月、トゥラトリ村の住民30人の証言をもとに、国軍による民族浄化の実態を告発する報告書をまとめた。

住民の証言によると、村の近くにヘリコプター数台が着陸したのは8月30日午前8時ごろ。兵士にラカイン州の仏教徒住民など50人ほどが加わり、ロヒンギャの住民に対して川岸に集まるよう指示した。

高台からこの現場を見ていたという男性によれば、兵士らは集まった住民に向けて無差別に銃を乱射し、同時に民家に火を放ったという。

「大勢の人が銃弾を浴び、うつ伏せに倒れた。地面に倒れた人たちは集められて切り刻まれ、後に川に投げ込まれた」。別の女性はそう証言する。

ロヒンギャ女性のハシナさんは、1歳の娘が生きたまま火を付けられたと訴え、「彼らは私の腕から娘を奪い取ると、火が付いた衣類の山に投げ込んだ」と涙ながらに振り返った。

生き残った人たちによると、この日死亡した人は1500~1700人に上る。

一方、ミャンマーの事実上の指導者アウンサンスーチー氏の広報はトゥラトリ村の事件について、8月30日にラカイン州の住民や治安部隊が、数百人のテロリスト集団に襲撃される事件が相次いだと説明している。

ムムタズさんたちが身を寄せるバングラデシュの難民キャンプでは、食料や医薬品の確保が難しくなり、国連が大規模な人道危機と位置付ける事態が深刻化しつつある。

ムムタズさんによると、夫は川岸で撃たれ、3人いた息子のうち1人は火の中に投げ込まれ、残る2人は放火された家から脱出できずに死亡した。兄弟や父親も焼かれたり銃で撃たれたりして命を落としたという。

唯一生き残った娘のラジアさんの頭には、殴られた傷痕が残る。だがそれ以上に、心に追った傷はまだ生々しい。
「小さな娘が、何もかも目の当たりにした」「娘は火に包まれた弟を抱き上げようとしたけれど、できなかった」。母のムムタズさんはそうつぶやいた。【11月13日 CNN】
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“生き残った人たちによると、この日死亡した人は1500~1700人に上る”・・・・本当でしょうか?
仮に、実際はその“数分の一”だったとしても、“大虐殺”とも言うべき事態です。

「彼らは次々に人を殺して遺体をうず高く積み上げた」「地面に倒れた人たちは集められて切り刻まれ、後に川に投げ込まれた」「彼らは私の腕から娘を奪い取ると、火が付いた衣類の山に投げ込んだ」・・・・信じがたい状況です。

憎しみに駆られた狂気としか言いようがありません。

ミャンマー国軍「テロリストによるプロパガンダ」】
ラカイン州には100万人ほどのロヒンギャが生活していたと言われていますので、バングラデシュへの避難民が61万人超ということは、ミャンマー国軍・その支持勢力はロヒンギャを国外に追放するという“民族浄化”の目的をほぼ達成したとも言えます。

もちろんミャンマー国軍は上記のような暴力を認めていません。あくまでもロヒンギャの武装勢力掃討を行っているとの主張を崩していません。

****ロヒンギャへの暴行「なかった」 ミャンマー国軍****
60万人超のイスラム教徒ロヒンギャがミャンマーから隣国バングラデシュに逃れている問題で、ミャンマー国軍は13日、掃討作戦をした治安部隊は、ロヒンギャへの暴行などを「していなかった」と結論づける報告書を発表した。ロヒンギャ難民が主張する治安部隊による迫害行為は「テロリストによるプロパガンダ(宣伝)」だとした。
 
報告書は、国軍による約1カ月の調査に基づくという。ロヒンギャら3千人以上への面会などから「治安部隊は無実の村人への銃撃や女性へのレイプ、放火といった行為をしていない」とした。部隊は「村人を脅すことなく、医療行為も提供した」と主張している。
 
また、8月25日に警察施設などを襲ったロヒンギャとみられる武装集団を「ベンガリ(ベンガル語を話す人)のテロリスト」と呼び、その数は1万人以上で「治安部隊よりも多い」とした。この「テロリスト」が村に火をつけ、治安部隊の暴行といった誤った情報を流したとしている。
 
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は14日、「報告書の内容は衛星写真や難民の証言と大きく異なる」とし、「独立した国際機関による調査が必要だ」との声明を出した。【11月14日 朝日】
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国連や国際人権団体などが報告している内容とは全く異なるものです。

“11月12日にはロヒンギャ問題を担当する国連事務総長特別代表で「紛争下の性的暴力担当」のプラミラ・パッテン氏がロヒンギャ難民が集中しているバングラデシュ南東部コックスバザールでの視察を終え、ダッカで会見した。その席で同氏は、ミャンマー国軍兵士によるロヒンギャの女性、少女に対するレイプが多発している実態を報告した。”【11月14日 大塚智彦氏 Newsweek】

冒頭証言は“レイプ”どころの話ではない状況を明らかにしています。

もちろん、どちらが正しいというのは部外者にはわかりません。

決めつけることはできませんが、60万人を超す避難民が現実に生じている状況、彼らが口にする現地での状況、国軍が「治安部隊よりも多い」と主張するロヒンギャ武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)に関して伝えられる実態、焼失した村落の衛星写真等々を考えると、ミャンマー側の主張は信用できないと考えてしまいます。

“非政府組織「国際危機グループ」の報告書やミャンマーメディアなどによると、ARSAは数百人から1000人程度の規模と言われるが、ミャンマー軍のミンアウンフライン最高司令官は、8月25日の警察施設への攻撃には約4000人が参加したと主張。”【11月3日 毎日】

もし“「テロリスト」が村に火をつけ、治安部隊の暴行といった誤った情報を流したとしている。”と言うのであれば、その実態について国連等による公開性のある徹底した現地調査を速やかに行うべきです。即時の援助団体の現地入りを保証すべきことは当然のことです。(国軍の調査に、おびえる住民が正直に答えられるとは思えません)

【“例によって”事なかれ・内政不干渉のASEAN
この問題に、本来は調査を主導する立場にある周辺国ASEANが“及び腰”なのは、“例によって”というしかありません。

“南シナ海問題”でも同様ですが、自国内に様々な人権問題を抱える国々(したがって、互いに内政には干渉しないことがルールとなります)の単なる経済互助組織にすぎないASEANに、毅然とした対応を求めることが間違っているのでしょう。

****<ASEAN>「ロヒンギャは敏感な問題」浮き彫りに****  
◇首脳会議の議長声明案で、ほとんど触れられず
14日閉幕した東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議で、ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」が難民化している問題が取り上げられた。

ミャンマーの対応を批判してきたナジブ・マレーシア首相は「4月の首脳会議と違い率直に議論できる。明らかな前進だ」とブログに掲載。ただ、首脳会議の議長声明案ではほとんど触れられず、内政不干渉を原則とし結束を重視するASEANでは、敏感な問題であることを印象づけた。
 
ブログによると、ナジブ氏は13日の首脳会議で「世界中がASEANの対応を見守っており、組織としてこれ以上黙っているわけにはいかない」と強調。「難民は過激派組織『イスラム国(IS)』影響を受ける可能性もある」と、早急な対応が必要だと訴えた。

インドネシアのジョコ大統領も「問題の複雑さは良く理解しているが、黙っているわけにはいかない」と述べた。両国ともイスラム教徒が多数派を占める。
 
こうした声にミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問兼外相は、難民の帰還に向けバングラデシュと交渉しており、近く覚書に署名できる見通しであることや、国内での取り組みを説明。また、テロに関する情報交換の必要性も訴えた。
 
これまで批判の急先鋒(せんぽう)に立っていたナジブ氏は「とてもよく説明してもらった」と記した。
 
ただ、声明案は朝鮮半島問題のように「重大な懸念」を示すわけでもなく、ロヒンギャが暮らす西部ラカイン州への支援活動が必要だと指摘するにとどまっている。(中略)
 
ASEANは南シナ海問題でも中国と領有権を激しく争ったフィリピンやベトナムと、親中国の国との間に亀裂が生じたことがある。今回も声明などで大きく取り上げると、結束が揺らぐ可能性もあるため、取り扱いに慎重になったようだ。
 
ミャンマーはロヒンギャに国籍を与えず、不法滞在者扱いしている。また「ロヒンギャ」と呼ぶのを嫌い「バングラデシュからの人々」という意味で「ベンガリ」と呼んでいる。
 
ASEANのレ・ルオン・ミン事務局長は14日、一部日本メディアの取材に応じ、質問が「ロヒンギャ」に及ぶと顔をしかめた。「その表現は使わないようにしましょう。それは受け入れられた名称ではないからです」と述べ、ASEANの中でロヒンギャ問題が慎重に取り扱われていることを示唆した。【11月14日 毎日】
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イスラム教徒がメインのマレーシアやインドネシアが個々の発言としてロヒンギャ問題を取り上げたことが“前進”だったようです。

そのマレーシア・ナジブ首相も、スー・チー氏の「ミャンマー政府は具体的成果を出すためにこの問題に積極的に取り組む用意がある」といった空虚・抽象的・曖昧な説明・弁明に「とてもよく説明してもらった」・・・・とんだ茶番です。

問題は暴力・民族浄化の実態だけではありません。
スー・チー氏は身元確認作業を行えば難民の帰国を認めるとは言っていますが、着の身着のままで逃げた、これまで国籍も与えられていない彼らがどのようにミャンマー住民であることを証明すればいいのでしょうか?

ASEANとしては“敏感な”ロヒンギャ問題には深入りしないというのは、既定の方針だったようです。

****議長国フィリピンは及び腰****
ASEANの議長国として首脳会議のまとめ役であるフィリピンは、ロヒンギャ問題に対して開催前から消極的だった。それは9月24日に国連総会出席のためニューヨークに集まったASEAN外相の意見を議長国フィリピンが中心になってまとめて発表した議長声明に遠因があるとされる。

この時、声明でフィリピンはミャンマーに配慮して「全ての暴力行為を非難する」と盛り込み、ミャンマー国軍だけでなく、ロヒンギャ側の武装組織にも問題があるともとれる内容にした。

ところがこれにマレーシアやインドネシアが猛反発、抗議を受けた。その後フィリピンはロヒンギャ問題には極めて及び腰、消極的になったとASEAN筋は指摘する。

今回はその時の轍を踏まないために事務方が事前に特にマレーシア、インドネシアと交渉し、「個々の言及には口を挟まないが、議長声明には具体的には盛り込まない」ことで水面下の調整を続けた結果、議長声明では「ミャンマーのラカイン州北部で緊急支援が必要な事態が起きている」との当たり障りのない表現、指摘に留めることに成功したのだった。【11月14日 大塚智彦氏 Newsweek】
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国際政治というのはこういうものなのでしょう。それにしても・・・という感はありますが。

ロヒンギャへの敵対心に駆られる国内世論
ミャンマー国軍のロヒンギャへの熾烈な対応の背景には、これを支持するミャンマー国内世論があります。

****仏教徒・ヒンズー教徒の敵対心「州が乗っ取られる」「世界の同情買っている****
(中略)ミャンマー西部ラカイン州北部は、大量のロヒンギャ難民を生んできた。8月25日にロヒンギャの武装組織に襲撃された治安部隊が掃討作戦を展開したためだ。

国際社会は深刻な人道問題だと解決を訴えるが、同州では、仏教徒やヒンズー教徒らがロヒンギャへの敵対心を深めていた。
 
州都シットウェにあるヒンズー教寺院では、455人の同教徒が避難を続けていた。北に約100キロ離れた、バングラデシュ国境に近い主要都市マウンドーで、ロヒンギャの武装組織に襲われ逃れてきた。

留守で助かったというカー・ジョー・リーさん(16)は「家族7人全員殺された。どう生きていけばいいのか」と訴えた。
 
ミャンマー政府は9月下旬、マウンドーでヒンズー教徒の集団墓地を発見。50人以上が殺害され、190人以上が行方不明とした。
 
「近所のイスラム住民が急に暴漢に変貌し『殺せ、殺せ』と叫び出した」。以前マウンドー庁舎脇に住んでいた仏教徒のラカイン族女性は、8月25日未明の様子を語った。庁舎に爆弾3発が投げ込まれたが不発だった。近くの仏教寺院に2日間隠れ、シットウェに家族で避難してきたという。
 
25日のマウンドーの警察施設など30カ所以上への同時攻撃で、ARSAが犯行声明を出した。父親がラカイン州出身で、パキスタンで生まれ、サウジアラビアで育ち、過激派ロヒンギャを束ねるアタ・ウラ氏が、指導者とされる。2013年から軍事訓練を始めた、と国軍筋は指摘する。だが、国際テロ組織の関与は確認されておらず、不明な部分が多い。
 
ARSAに反抗し殺害されたとみられるロヒンギャの若者の死体が見つかるなど、異常を察した国軍は8月中旬、将兵約1000人をマウンドーに派遣していたが、襲撃を許してしまったという。
 
仏教徒が9割を占めるミャンマーで、イスラム教徒は4%ほどだが、マウンドーでは98%を占める。ロヒンギャは人口増でラカイン州南部に勢力を広げた。
 
州の国際機関への助言役、ター・プイント氏は、「一夫多妻制とバングラデシュからの不法移民流入で、州全体が乗っ取られてしまう」と主張。ロヒンギャについて「自分の家に火を付け、国軍の乱暴をでっち上げ、世界の同情を買って、さらなる支援を獲得している」と訴えた。【12月2日 産経】
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衝突が起きたとき、双方に暴力行為が発生するのは通常のことです。ときに一方がプロパガンダによって“悪役”に仕立てられるということもない訳ではありません。

旧ユーゴスラビア紛争でNATO空爆にさらされたセルビアなどは、意図的に“悪役”を強調された側面はあります。

シリアでも、政府軍だけでなく反体制派にも暴力行為はあります。
パレスチナでも、パレスチナ側によるイスラエルに対する暴力もあります。

ただ、“暴力の応酬”とはいっても、そうした対立の原因はどこに責任があるのかという問題のほかに、バランスの問題もあります。

警察施設などが襲撃されたからといって、60万人を追い出し、“1歳の娘が生きたまま火を付けらる”といったことは容認されません。

ミス・コンテスト「ミス・ユニバース」のミャンマー大会で2位に入賞した女性が、ロヒンギャ難民による一方的な訴えばかりが世界に発信され「事実がゆがめられ公正ではない」といった見方をインターネットに投稿したところ、世界から非難が殺到し、「ミス・グランド・ミャンマー」の称号を剥奪されたという“事件”が話題になりました。

“欧米メディアの関心とは裏腹に、故郷のヤンゴンではロヒンギャ問題は話題にすらならない。「自国のことを自分が英語で世界に伝えなければ」との使命感を抱き、同問題について勉強を始めた。”【10月30日 産経】

民族的憎悪とナショナリズムに曇った目には、自分に都合のいいことしか見えなくなってしまいがちです。
彼女が取り上げたロヒンギャの武装組織に殺害されたとする仏教徒の写真なども現実のひとつではありますが、その他の多くのロヒンギャ難民の惨状は彼女の目に入らないようです。

“故郷のヤンゴンではロヒンギャ問題は話題にすらならない”のであれば、ミャンマー国民には不都合な真実を国内に向けて発信する方向で動いてほしかったとのですが。

“民族的憎悪とナショナリズムに曇った目には、自分に都合のいいことしか見えなくなってしまいがち”なのは、ミャンマーだけでなく、過去の歴史的出来事に関する日本の反応でも同様です。
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ミャンマー  “民族浄化”で増え続けるロヒンギャ難民 イスラム教徒全体への嫌悪を扇動する仏教僧

2017-10-25 23:04:12 | ミャンマー

(ヤンゴンの集会でイスラム排斥の熱弁をふるう過激派仏教僧ウィラトゥ師(8月下旬)【10月13日 WSJ】)

スー・チー氏、国民が根強い差別感情を持つ中、問題の解決に向け理解を求める
再三取り上げているミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する国軍や一部仏教徒による“民族浄化”とも言えるような迫害の問題。

前回10月10日ブログ“再び増加するロヒンギャ難民 スー・チー国家顧問自身のロヒンギャに対するネガティブな意識”では、民主化運動の象徴でもあったノーベル平和賞受賞者スー・チー氏の消極的対応の背景には、単に軍への影響力を持たないことや、国民世論がロヒンギャを嫌悪しているという“動きにくい状況”の問題だけではなく、彼女自身のロヒンギャに対する認識も、「彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」といった発言に見られるようにネガティブなことがあるのでは・・・という件を取り上げました。

スー・チー氏も全く動いていない訳でもなく、12日には、ロヒンギャの帰還を支援する資金や物資を集める組織を自ら主導して政府内につくることを明らかにしています。

****ロヒンギャ問題 スー・チー氏が新たな支援の枠組み作り表明****
ミャンマー西部の戦闘の影響で、少数派のイスラム教徒、ロヒンギャの人たちが隣国のバングラデシュに避難し、国際的な批判が高まる中、ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は、政府や国際機関などが連携して避難民の支援に当たるための新たな枠組みを作り、みずからトップを務めて事態の打開を目指す方針を明らかにしました。

ミャンマー西部ラカイン州では、ロヒンギャの武装勢力と政府の治安部隊の間で起きた戦闘の影響で、これまでにロヒンギャの住民51万人以上が隣国のバングラデシュに避難したと見られています。

この問題について、ミャンマーを事実上率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問は12日夜、首都ネピドーで国民に向けたテレビ演説を行いました。

この中でスー・チー氏は、「私たち国民は、ミャンマーの平和を誰よりも強く願っているからこそ、団結して問題に取り組まなければならない」と述べ、国民の多くがロヒンギャの人たちに対し根強い差別感情を持つ中、問題の解決に向け理解を求めました。

そのうえで、政府や民間企業、NGO、国連などが連携して人道支援や復興に取り組むための新たな枠組みを作り、みずからがトップを務める方針を明らかにしました。

国際社会からは、政府がロヒンギャの人権を侵害しているなどと批判が高まっていて、スー・チー氏がみずから問題の解決に向け、取り組む姿勢を示したことで、今後、事態の打開につながるのか注目されます。【10月13日 NHK】
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ロヒンギャだけでなく、掃討作戦で家を追われた仏教徒やヒンドゥー教徒も援助の対象になるということですが、受け入れを拒んでいる国連人権理事会の調査団についての言及はありませんでした。【10月13日 朝日より】

国籍も付与されておらず、着の身着のままで非難したロヒンギャも多いなかで、帰還がどれだけ進むかはやや疑問もありますが、根強い差別感情を持つ国民に対し、彼女自身の言葉で訴えかけた点は評価できるでしょう。

なお、国軍も過激派掃討作戦が適切に行われたかどうかを調査するとのことですが、こちらは全く期待できません。形式的なものでしょう。

****ロヒンギャ問題「作戦適切か」 ミャンマー国軍が調査へ****
ミャンマーから50万人を超える少数派イスラム教徒ロヒンギャが隣国バングラデシュに難民として逃れている問題で、ミャンマー国軍は掃討作戦が適切に行われていたかどうかの調査をすると表明した。治安部隊がロヒンギャを迫害しているとの国際社会からの批判を受けた措置とみられる。(中略)

ミンアウンフライン国軍最高司令官は12日、日本の樋口建史ミャンマー大使と会談し「民族浄化は行われていない。写真を見れば、(ロヒンギャが)恐怖から逃げているわけではないとわかる」などと発言した。(後略)【10月15日 朝日】
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【“民族浄化”が進行する現状
国際人権団体等によって伝えられる情報は、ミンアウンフライン国軍最高司令官の認識とは大きく異なっています。

****掃討終了」後も焼き打ち=ロヒンギャの村破壊と人権団体―ミャンマー***
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの迫害問題で、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチは17日声明を出し、アウン・サン・スー・チー国家顧問が武装集団に対する掃討作戦の終了を宣言した後も、ロヒンギャの村に対する焼き打ちが続いていたと明らかにした。最新の衛星写真の分析で判明したという。
 
9月21日に撮影したとされる衛星写真では、ロヒンギャの村が灰燼(かいじん)に帰しているのに対し、隣接する仏教徒の村は無傷のままとなっている。
 
声明によると、ロヒンギャの武装集団と治安部隊の衝突が8月25日に始まって以降、焼き打ちで少なくとも288の村が完全あるいは部分的に破壊された。

スー・チー氏はロヒンギャ問題に関する9月19日の演説で、掃討作戦は同月5日以降は行われていないと語ったが、その後も少なくとも66の村が焼かれていた。
 
国連などによれば、戦闘を逃れるため、隣国バングラデシュに脱出したロヒンギャ住民は衝突開始後、53万7000人に達した。

ヒューマン・ライツ・ウオッチは「ミャンマー国軍は殺害や性的暴行、その他の人道に対する罪を働きながらロヒンギャの村を破壊し、住民を脱出に追い込んでいる」と非難。「関係各国は迫害を終わらせるよう強く求めるべきだ」と訴えた。【10月17日 時事】 
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****治安部隊が数百人のロヒンギャ殺害か アムネスティ報告****
ミャンマー西部ラカイン州から逃れた50万人を超すイスラム教徒ロヒンギャが難民になっている問題で、国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」は18日、難民への聞き取り調査から、ミャンマー政府の治安部隊が数百人ものロヒンギャを殺したとする報告を発表した。国際社会に同国への武器禁輸などを求めている。
 
アムネスティは、バングラデシュに逃れた120人以上のロヒンギャの証言や衛星写真などを元に被害を検証。住人のほとんどが殺されたとされる村の12歳の少女は、「軍服を着た男たちが逃げる私たちを後ろから撃ち、父と10歳の妹が殺された」と証言。治安部隊によるレイプや焼き打ちの証言も数多くあったという。
 
アムネスティは報告の中で、「国際社会は制裁など行動を取り、軍による犯罪に明確なメッセージを送るべきだ」と主張した。
 
一方、国連児童基金(ユニセフ)は17日、8月以降に難民となったロヒンギャ計58万2千人の約6割が子どもだと発表した。必要額の7%程度の資金しか集まらず、極度に物資が不足しているという。【10月18日 朝日】
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アメリカ 「民族浄化」との認定を検討
こうした状況で、人権問題に関心がなく、ロヒンギャ問題への“腰が重かった”アメリカ・トランプ政権内部にも、ようやく動きが見えます。

****ミャンマー軍に責任=ロヒンギャ問題で米国務長官****
ティラーソン米国務長官は18日、ワシントンで講演し、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害問題について、「非常に懸念している」と述べ、ミャンマー軍指導部が責任を負っていると強調した。迫害が起きている地域への人道支援団体や国連機関の立ち入りを完全に認めるよう軍当局に求めた。【10月19日 時事】
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“米国は23日、ロヒンギャの住民に対する暴力行為に関わったミャンマー軍の部隊や幹部らに対する軍事支援を停止すると発表した。”【10月24日 AFP】

****民族浄化」と認定検討か=ロヒンギャ迫害で米国務省****
ロイター通信は24日、米政府当局者の話として、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害問題で、国務省がミャンマー当局による迫害を「民族浄化」と見なすことを検討していると報じた。実現すれば、米国がミャンマーに対して制裁を科す可能性もあるという。
 
「民族浄化」認定を含むミャンマー政策の見直し案が週内にもティラーソン国務長官に提出される見通し。長官が採用するかどうか判断する。【10月25日 時事】
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ただし、“マーフィー国務副次官補(東アジア・太平洋問題担当)は、追加制裁を検討中としながらも、制裁を発動すれば米政府のミャンマーに対する影響力低下につながる可能性があると慎重な姿勢を示した。”【10月25日 ロイター】とも。

悪化する避難先バングラデシュの状況
バングラデシュに避難したロヒンギャは今も増え続けており、60万人を超えたとされ、国連の部門間調整グループ(ISCG)の報告書によると“この1週間だけで1万4000人以上が越境したことが確認された”。【10月23日 AFP】とのことです。

避難先のバングラデシュの状況も悪化しています。

****ロヒンギャへの性暴力増加=国際機関が懸念表明****
国際移住機関(IOM)は27日、声明を出し、ミャンマーから隣国バングラデシュに逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャに対する性暴力が増加しているとして、深刻な懸念を表明した。(中略)性暴力の現状は、コックスバザールでロヒンギャ難民の支援に当たる職員らの報告で明らかになった。女性や少女だけでなく、男性や少年も被害に遭っている。(後略)【9月28日 時事】 
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****<バングラデシュ>ロヒンギャ流入、宗教対立の飛び火懸念****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民流入が続くバングラデシュ・コックスバザールで、ヒンズー教徒の難民や地元の仏教徒ラカイン族の間にロヒンギャへの警戒感が強まっている。

これまでミャンマー国内で両グループとロヒンギャとの対立が表面化してきたためだが、9月に入り、バングラ側でロヒンギャによるヒンズー教徒殺害事件が発生。宗教対立がバングラ側に飛び火する懸念が現実化しつつある。(中略)

コックスバザールに暮らす少数民族の仏教徒ラカイン族にも不安が広がっている。ミャンマーではラカイン族がロヒンギャと衝突を続けており、「報復」を恐れているためだ。(後略)【10月3日 毎日】
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****<ロヒンギャ>伝染病の懸念高まる・・・・バングラ・難民キャンプ****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の難民が集中するバングラデシュ南東部コックスバザール周辺で、伝染病への懸念が高まっている。国連などによると8月末以降だけで50万人以上が流入し、難民キャンプの衛生状態が悪化しているためだ。現地の医師らは「発生すればすぐに広まる」と危惧している。(後略)【10月4日 毎日】
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こうした状況を受けて、バングラデシュ政府は大規模な難民キャンプ拡張計画を明らかにしています。

****バングラ、ロヒンギャ難民80万人超収容の巨大キャンプ建設へ****
バングラデシュは5日、隣国ミャンマーでの暴力行為から逃れてきたイスラム系少数民族ロヒンギャ80万人以上全員を収容できる世界最大級の難民キャンプを建設する計画を発表した。現在、国境付近の複数のキャンプに収容しているロヒンギャ難民全てを移す方針。(後略)【10月6日 AFP】
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財政的に余裕がないバングラデシュ政府が実行できるためには国際援助が必要となるでしょう。
国際社会は資金援助とともに、一定水準の質を確保するようにバングラデシュ政府に要請することも必要でしょう。

難民のミャンマー帰還に向けた、ミャンマー、バングラデシュ両国の協議も始まってはいます。

****国境に連絡事務所設置へ=ミャンマーとバングラデシュ****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャがバングラデシュに大量に脱出している問題で、両国政府は24日、国境に連絡事務所を設置することで合意した。
 
ミャンマーのチョー・スエ内相とバングラデシュのカーン内相がネピドーで会談。ミャンマー内務省によれば、ロヒンギャ難民の帰還に向けた身元確認作業について協議したほか、国境警備の強化やテロ対策をめぐり意見を交わした。【10月25日 時事】
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ロヒンギャから更にイスラム全体への嫌悪を拡散させる過激仏教僧
しかし、ミャンマー側のロヒンギャに対する否定的な意識が根強く、国軍が“民族浄化”を先導している状況では、あまり多くを期待できないようにも思えます。

ロヒンギャ差別の国民世論を煽っているのが、民族主義的な仏教僧勢力で、なかでも仏教指導者のウィラトゥ師が中心となっていることはこれまでも取り上げたことがあります。

軍政時代は、その過激言動で収監されていましたが、“民主化”によって釈放され、野に放たれたことが今日の状況をつくっている側面もあります。

ウィラトゥ師と軍情報部との密接な関係もあるようです。刑務所に入っていたときも、軍の情報部からの差し入れがあり、特別待遇だったようです。【10月13日 WSJ“ロヒンギャ排斥を主導するミャンマー仏教僧”より】

“ロヒンギャを除いてもミャンマーの人口の4%程度にとどまるイスラム教徒に対し、ウィラトゥ師はあらためて攻撃対象を広げる兆しを見せている。

「ミャンマーが抱えるのはベンガル人(ロヒンギャを指す表現)の問題だけではない」と同師はパアンの町の聴衆に告げた。「ムスリムという問題がある」”【同上】

ミャンマー国内には、ロヒンギャだけでなくイスラム教徒全体に対する不穏な空気もあります。
ウィラトゥ師等による扇動は、国民を分断する深刻な問題を惹起します。

****イスラム教徒お断り」拡散 民主化進むミャンマー****
仏教徒が9割近くを占めるミャンマーには「イスラム教徒お断り」を掲げる村や地区がある。「イスラム教徒がいるとトラブルが起こる」と住民たちは異教徒の居住を拒否する。英領植民地時代から続く反感は、民主化が進む中で強まる気配すら見せている。

中部のターヤーエー村で7月下旬の夜、ショベルカーが窓の少ない白壁の建物を崩すのを数千人が取り囲んだ。
「壊せ、とみなが口々に叫んでいた」と村に住むミンサンさん(36)は振り返った。

騒動のきっかけは、この村でモスク(イスラム教礼拝所)が建てられている、といううわさが、フェイスブックで拡散されたことだった。(中略)
  
しかし、後日、建物は映像編集用のスタジオだったとわかった。うわさが独り歩きした結果だった。
 
「人々のイスラム教への反感は今に始まったことではない」とユザナ師は言う。地区政府によると、2014年の国勢調査で約26万人が住むチャウパダウン地区に、イスラム教徒は1人もいない。「イスラム教徒は域内で一晩以上過ごせない」との不文律があるという。
 
住民らによると、1998年、地区政府の許可なしにモスクの建設が進められていることが判明。反対運動が起き、住んでいたイスラム教徒は地区を去った。その後、この地域の軍幹部から、「今後はイスラム教徒を住まわせないように」との指示が出たという。
 
この地区で生まれ育ったチョウトンさん(66)は「キリスト教徒やヒンドゥー教徒はいい。でも、イスラム教徒はダメ。彼らの目的は世界のイスラム化だと聞いた。仏教徒と結婚してイスラム教に改宗させている」と話す。
 
少数派のイスラム教徒らでつくる「ビルマ人権ネットワーク」(BHRN)によると、国内の少なくとも21の村が「イスラム教徒お断り」の看板を掲げる。

国内ではイスラム教徒ロヒンギャへの迫害が問題となっているが、BHRNのチョーウィン代表は「ロヒンギャ迫害の問題は歴史や国籍の問題が複雑に絡むが、根底には国民の反イスラム感情がある」とみている。

 ■表現過激、深まる溝
「インドネシアは仏教国だったが、イスラム教徒の国になった。同じことが起きないようにしたいだけだ」。最大都市ヤンゴンで取材した仏教僧のパーマウカ師(54)は口調を強めた。今年5月に解散した急進派仏教徒団体「マバタ」に所属し、週刊紙でイスラム批判を続けてきた。
 
イスラム教徒の多くは19世紀に始まる英領植民地時代以降に英領インドから流入したとされる。上智大の根本敬教授(ビルマ近現代史)は、「独立運動の過程で多数の市民が仏教国であることを強く意識し、『後から来た』イスラム教徒への反感を強めた」とみる。
 
ただ、反イスラム感情はここ数年で強まっている。英字紙ミャンマー・タイムズの元記者ジェオフレイ・ゴダードさんは、「民主化で言論の自由が広がり、過激な表現が宗教間の溝を深めた」とため息をつく。
 
マバタの中心メンバーで反イスラム仏教僧として有名なウィラトゥ師は、軍事政権下で人々を扇動したとして投獄されたが、民政移管後に改革を進めたテインセイン前大統領の恩赦で12年に釈放された。師の運動は広がり、15年には仏教徒女性と異教徒との結婚を規制する法律ができた。
 
マバタは高僧でつくる会議に「正式な団体でない」と宣告され解散したが、ほぼ同じメンバーが「慈善団体」を立ち上げ、週刊紙などの発行を続ける。
 
拍車をかけるのがインターネットだ。ミャンマーでは携帯電話がここ数年で急速に普及、9割の人々が使う。ネット上ではイスラム教徒への中傷が飛び交う。

 ■有効な対策、政府打てず
敏感な問題のため、政府も有効な対策を打てていない。文化宗教省の担当局長は、「イスラム教徒が入れない地区があるとは初めて聞いた。不文律だと政府が指導するのは難しい」と答えた。具体的な質問には、アウンサンスーチー国家顧問の役所である国家顧問省が「適切に処理するはずだ」と繰り返した。(後略)【10月24日 朝日】
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特定宗教を住まわせない不文律が存在するというのも憂慮すべき事態ですが、ウィラトゥ師のような扇動者とインターネットによる情報拡散で分断が深まっているのが現状のようです。
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再び増加するロヒンギャ難民 スー・チー国家顧問自身のロヒンギャに対するネガティブな意識

2017-10-10 21:54:18 | ミャンマー

(バングラデシュ・テクナフで、ボートの転覆事故で死亡したロヒンギャ難民の子どもの遺体を運ぶボランティアの男性(2017年10月9日撮影)【10月10日 AFP】)

【「彼らは私たちには危害を加えないと言ったが、結局は私たちを追い出して家々を燃やした」】
10月1日ブログ“ロヒンギャ問題  脅威を煽り対立構造をつくるミャンマー政府 政府を擁護する中国・日本”など、再三取り上げているミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャに対する“民族浄化”と思われる弾圧について。

10月に入って、ミャンマーから隣国バングラデシュへのロヒンギャ難民が再び増加しているとの懸念されるニュースが。また、ミャンマー国軍によるロヒンギャ追放が再び強化されているとも。

****バングラとの国境付近に1万人のロヒンギャ、脱出が再び増加傾向****
ミャンマーの西部ラカイン州で、隣国バングラデシュとの国境地帯にイスラム系少数民族ロヒンギャ1万人以上が集まっていることが分かった。地元メディアが報じた。襲撃の恐怖や食料不足ゆえにバングラデシュへ脱出しようとしているとみられる。
 
3日付の英字紙「ミャンマーの新しい灯」は、「隣国へと越境するため」に、国境地帯に1万人を超える「イスラム教徒」が集まっていると報じた。
 
ロヒンギャのバングラデシュへの脱出は一時収束したものの、バングラデシュ国境警備隊によると現在は1日4000~5000人が国境を越えているという。
 
ここ5週間でバングラデシュに流入したロヒンギャは50万人超に上り、再びその数が増加する傾向にある。ミャンマー側はロヒンギャの帰還を始めると提案したが、実現性には疑問の声が上がっている。【10月4日 AFP】
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****ミャンマー軍に新たなロヒンギャ追放の動きか、「追い出され家焼かれた****
ミャンマーから隣国バングラデシュへ脱出するイスラム系少数民族ロヒンギャの難民数が再び増加に転じる中、新たに逃げてきた人々が、ミャンマーの治安部隊によって村を追われたと話している。

証言によると、ミャンマー軍は村に残ったロヒンギャの人々を家から追い出す取り組みに力を入れており、村々は人っ子一人いない状態で、数千人の難民が徒歩で国境を目指しているという。(中略)
 
ロヒンギャの人々によれば、ここにきて難民が急増しているのは、ミャンマー西部ラカイン州で、残留していたロヒンギャを追放する新たな動きがあるだめだという。ミャンマーは今週、迫害されたロヒンギャを帰還させる取り組みを開始すると発表したが、提案の実行性に疑問が生じている。
 
この数週間でラカイン州からはロヒンギャ人口の半数が脱出した。さらに、これまで暴力による最悪の事態を免れてきた人々にも、不安に駆られて村を離れようとする動きが広がっている。
 
娘を連れて2日夜にバングラデシュに到着したロヒンギャの女性(30)は、ミャンマーの地元当局者からは村を出なければ安全だと保証されていたが、9月29日に「軍がやって来て、家々を1軒ずつ回って退去を命じた」とAFPの取材に語った。

この女性によると、軍はラカイン州マウンドー周辺を一掃。「彼らは私たちには危害を加えないと言ったが、結局は私たちを追い出して家々を燃やした」という。
 
ミャンマー国営メディアは、ロヒンギャ難民は安全を保証されたにもかかわらず「自発的に」脱出していると報じている。
 
だが、今月1日にバングラデシュに到着したロヒンギャ男性も、ミャンマー軍から村を退去するよう命じられたとAFPに語った。「私たちが村を出ると、周辺の村々からも人々が集まってきた。彼ら(ミャンマー軍)は誰一人殺さず、ただ家々を焼き払った」。

バングラデシュとミャンマーの国境を隔てるナフ川に近づくにつれ、歩いて避難するロヒンギャ市民の人数は増え、長蛇の列をなしていたという。【10月5日 AFP】
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国軍による“新たな弾圧”が行われているのかどうか・・・現地の実態はわかりませんが、百歩譲って直接関与がなかったとしても、暴力の恐怖におびえたり、共同体崩壊で生活できなくなった人々が故郷を去ることが“「自発的に」脱出している”と言えるのか?という問題もあります。なにやら慰安婦問題の話のようでもありますが。

難民の帰還については、ミャンマー・バングラデシュ両政府による一応の合意がなされてはいます。

****ロヒンギャ帰還へ作業部会=ミャンマーとバングラが合意****
ミャンマー政府は3日、チョー・ティン・スエ国家顧問府相がバングラデシュのアリ外相とダッカで2日に会談し、同国に避難したイスラム系少数民族ロヒンギャの帰還問題を話し合ったと発表した。

AFP通信によると、アリ外相は会談後、難民の帰還に向けた作業部会の設置で両国が合意したことを明らかにした。
 
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問は9月、難民の帰還を進めるため、「身元確認手続きを開始する用意がある」と表明。ミャンマー側は会談でこの方針を改めて示した。アリ外相は、身元確認は作業部会が行うと述べた。
 
ロヒンギャの武装集団とミャンマー治安部隊の衝突が8月25日に始まってから、バングラデシュに逃れた難民は50万人以上に達している。【10月3日 時事】
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しかしながら、もともと国籍も付与されておらず、着の身着のままで逃げた人々も多い状況で、“身元確認手続き”がどうやって行われるのか?、また、“身元確認手続き”の結果、正式に“外国人”として登録されるようなことにならないのか?等々、今後の扱いには疑問もあります。

前出記事では難民は“1日4000~5000人”レベルに増加している・・・とのことですが、ミャンマー国軍の追放作戦の成果か、状況は更に悪化しているようです。

****ロヒンギャ難民が再び急増、1日で数万人バングラ入りか****
ミャンマーでの暴力を逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャが難民化している問題で、最大で数万人のロヒンギャが9日、バングラデシュに到着した。地元当局が明らかにした。新たに到着した難民の中には、飢えや疲労、発熱が原因で死亡する子供がいたとの情報もある。
 
国際移住機関(IOM)によると、ミャンマー西部ラカイン州から国境を越えてバングラデシュに入国するロヒンギャ難民の数は、最近になって1日あたり2000人程度まで減少していた。国連(UN)は、過去6週間に発生したロヒンギャ難民数を51万9000人と推計している。
 
だが複数の目撃者によると9日、ミャンマーとバングラデシュを隔てるナフ川の沿岸にある国境の村アンジュマンパラに、川幅が狭くなっている部分をボートで渡ってきた難民の新たな波が押し寄せた。
 
アンジュマンパラの地元議員は、9日に入国したロヒンギャ難民は数万人に上ると主張。現場のAFP特派員は、日中から夜間にかけて少なくとも1万人の難民が新たに到着するのを目撃した。
 
バングラデシュ国境警備隊(BGB)のマンスルル・ハサン・カーン少佐はAFPの取材に対し、日中に到着したロヒンギャ難民の推定数は6000人程度で「少なくとも過去2週間で最多だ」と語った。
 
同少佐によると、難民の中にいた2歳半と3歳の男の子2人が、バングラデシュに入国する際に飢えと疲労により死亡。また現場のAFP写真記者によると、4歳の男の子が発熱で死亡した。【10月10日 AFP】
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難民の増加に伴って、痛ましい事故も。

****ロヒンギャ難民のボート転覆、新たに子どもら9人の遺体 死者23人に****
ミャンマーでの暴力行為を逃れて隣国バングラデシュに渡ろうとしていたイスラム系少数民族ロヒンギャを乗せたボートが転覆した事件で、バングラデシュ警察は10日、同国側に流れついた9人の遺体が新たに見つかったと発表した。これにより、転覆事故による犠牲者は23人となった。(中略)
 
行方不明者の数は不明だが、生存者や当局者などの話から転覆した船には60~100人が乗っていたとみられる。これまでに15人がバングラデシュの沿岸警備隊や国境警備隊に救出され、当局者によれば泳いでミャンマー側にたどり着いた人もいると考えられるという。
 
バングラデシュを目指すロヒンギャの多くは、ナフ川の川幅が最も狭い場所を横断するが、古く粗末なトロール漁船でベンガル湾(Bay of Bengal)を渡ろうとする人たちも少なくない。【10月10日 AFP】
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ロヒンギャを嫌悪する国内世論 国軍への影響力もないスー・チー氏
このような事態を止められないスー・チー国家顧問については、国軍を統制する力がなく、仏教徒が多数を占める国民世論もロヒンギャに対する強い嫌悪感を示していることから、政治的に身動きがとれない状況にあるとの指摘は再三なされています。

ロヒンギャを嫌悪する世論の一端として話題になったのが、ロヒンギャを批判したミス・ユニバースのミャンマー代表の代表剥奪の件です。

****ミス・ミャンマー代表 ロヒンギャ批判後に代表剥奪****
・・・・ことしのミス・ユニバース、ミャンマー代表のシュイ・エアイン・シーさんは先月29日、自身のフェイスブックにロヒンギャを批判する動画を投稿しました。

この中で、シーさんは「ロヒンギャの武装集団がメディアを使ったキャンペーンを主導してロヒンギャが迫害されていると思い込ませ、世界をだましている」と非難しました。

その後、今月1日になってシーさんは「規則違反があった」として突然ミス・ユニバース、ミャンマー代表の座を剥奪されました。

これについてミス・ユニバースの主催者は「動画投稿との関連はない」としていますが、SNS上ではシーさんの行動を擁護したり、ミス・ユニバースの主催者を非難したりする投稿が多くを占め、ミャンマー国内のロヒンギャに対する見解の複雑さが浮き彫りとなりました。

ミャンマー西部ではロヒンギャの武装勢力と政府の治安部隊の間で戦闘が続き、50万人を超えると見られるロヒンギャの住民が隣国バングラデシュに避難していて、国際社会からの「迫害だ」という非難に対し、現地当局は合法的な取締りだと反論しています。【10月5日 NHK】
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“ミャンマー国内のロヒンギャに対する見解の複雑さ”と婉曲な表現になっていますが、要するにロヒンギャに対する強烈な嫌悪・拒否感です。

スー・チー氏自身は? 「彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」 強調するイスラム教徒の脅威
こうした国民世論にあって、国軍に対する影響力をもたないスー・チー国家顧問は積極的な対応ができない・・・という話はわかりますが、スー・チー氏自身はロヒンギャについてどのように認識しているのでしょうか?

下記記事から窺えるところでは、スー・チー氏自身もロヒンギャにはあまり共感・同情を持っておらず、この件で国際社会から責められるミャンマー政府・自身に関して被害者意識を示しているように見えます。

なお、長い記事なので、スー・チー氏の“ロヒンギャに対する意識”に関係する部分のみをピックアップしました。

****スー・チー氏はなぜ沈黙を守っているのか****
軍のロヒンギャ攻撃を批判すれば完全民主化の目標が危うくなる

ノーベル平和賞受賞者の民主化活動家であり、ミャンマーの文民指導者でもあるアウン・サン・スー・チー氏は昨年、ある上級外交官と会談した。このときスー・チー氏は、何世紀も少数派だったイスラム教徒が多数派となったインドネシアの例を戒めとして語った。
 
この会談に詳しい人物によると、スー・チー氏はミャンマーに同様の状況は望まないと述べた。イスラム教徒はミャンマー人口の4%を占めるに過ぎないが、一部の地域では既に多数を占めているとも語った。(中略)

スー・チー氏の側近によると、同氏が沈黙を守っているのは戦術として決めたことだという。もっと強い調子で話せば、かつてミャンマーを統治し、今も大きな権力を握る軍を敵に回して、完全な民主化の達成という目標が危うくなるかもしれない。スー・チー氏はそう心配しているのだ。

民族と宗教のバランス
しかしスー・チー氏は、仏教徒が大半を占めるこの国に昔から残る不満や懸念に共感するが故に、沈黙している面もあるようだ。

少数派であるイスラム教徒が増加すれば、何とか成立している民族と宗教のバランスが崩れるかもしれないという明確な不安がミャンマーには存在する。多くの国民にしてみれば、ロヒンギャは、イスラム教圏を東に広げようとしているバングラデシュからの侵入者だ。
 
2013年、ミャンマーを訪問したある外交官がスー・チー氏と会談した。会談について知るある人物によると、外交官がロヒンギャ問題を取り上げると、スー・チー氏は「ロヒンギャと呼ばないで欲しい。彼らはベンガル人であり、外国人なのだ」と注意した。

ミャンマーでは「ベンガル人」という言葉は、バングラデシュ出身の不法移民を説明するときに使われることが多い。スー・チー氏は、ラカイン州の仏教徒にとってイスラム教徒がどれほどの脅威か、国際社会は過小評価していると不満げに語ったという。(中略)

スー・チー氏は先月、国連総会への出席を断念した。出席すれば、ロヒンギャ難民についてあれこれ聞かれるはずだった。事情に詳しいある人物によると、スー・チー氏が国連の場で行き過ぎた発言をすれば、軍は同氏の帰国を認めないかもしれないという懸念があった。スー・チー氏は兵士がロヒンギャの集落を焼き討ちにしたことへの批判を避け続けている。(中略)

新たな国家主義的な国家観
国内の多くの少数民族と和平協定を結ぶというスー・チー氏の計画は今のところ頓挫している。国内の紛争で住む場所を失った人の数は、スー・チー氏が政権入りしたときより今のほうが多い。

同氏は反政府勢力との信頼構築に向けて懸命に努力しているが、反政府勢力の多くは実権を握っているのは国軍だとみている。
 
今年、ミャンマー北部の戦闘で家を失った数千人のカチン族が暮らすキャンプを訪れたスー・チー氏は、状況を改善するためにどんな経済的チャンスでもつかめるチャンスは逃さないでとアドバイスして多くの人を失望させた。自分が滞在しているホテルで労働者を探しているとも言った。
 
聴衆の一人が政府を親に、武装民族集団を子どもに例えると、スー・チー氏はこれに飛びついた。このやり取りを知る人物によると、同氏は避難民に対し、武装集団に「親の言うことを聞きなさい」と言うように求めたという。

スー・チー氏の報道官は政府の和平計画は前進していると述べた。報道官によると、軍の支援を受けた前政権は武装集団の多くと停戦合意を結んだが、スー・チー氏は紛争の政治的解決について議論を開始し、さらに一歩前進した。
 
ミャンマー経済については、多くの人がベトナムのように急成長すると考えていたが、変化は遅く、一部の投資家は関心を失った。新規投資はスー・チー氏の政権入り前に急増したが、国連のデータによると、2016年の新規投資額は前年比22%減の22億ドル(約2500億円)だった。
 
スー・チー氏率いる政府が悪戦苦闘する中、新たな国家主義的な国家観が広がっている。その背後にいるのは主に軍と、有力な僧侶を含む軍の支持者だ。
 
スー・チー氏は2015年の総選挙で自党からイスラム系の候補者を立てなかったことについて、権利団体からの非難を受け止めていたが、ロヒンギャの反政府集団による攻撃については、国際社会の反応は生ぬるいと腹を立てた。

関係者によると、国連がミャンマー軍に自制を求める声明を発表すると、スー・チー氏はネピドーである国連関係者に詰め寄った。
 
この関係者によると、「彼女は『なぜ攻撃をもっと強く非難しないのか。これは国家に対する反逆だ』と言った」。

ある外交官によると、スー・チー氏はロヒンギャに市民権を与えることにも消極的な姿勢を示した。市民権を与えればバングラデシュからさらに多くのイスラム教徒を招くだけだと話したという。
 
かつての仲間の一部――その多くは1980年代の民主化運動時代からの仲間だ――は、スー・チー氏は軍と権力を分け合うことに合意したことで、軟禁当時と同じくらい身動きが取れなくなっているのではないかと考えている。
 
元政治犯で現在はヤンゴンにあるシンクタンクの所長を務めるキン・ゾウ・ウィン氏はスー・チー氏の軍に対する態度を見ていると、ミャンマーが近い将来、完全な民主主義国家になるとは思えないと話す。
 
「彼女は自分を軍に縛りつけている。両者とも、手を握らなければならないことが分かっているからだ」 とキン・ゾウ・ウィン氏は言う。「昔のものも含めてスー・チー氏の発言を聞くかぎり、彼女には軍に対する影響力はない」【10月9日 WSJ】
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スー・チー国家顧問が国軍によるロヒンギャへの暴力行為を積極的に支持している・・・とは言いませんが、彼女自身、多くの国民同様に、ロヒンギャに対してはかなりネガティブな感情を持っているように見えます。

国民の支持を失い、軍部の力によって政権を失うリスクを敢えて冒してでもロヒンギャ保護に出るインセンティブは、彼女自身の中にはないようです。

外から強い力をかけない限り(反発を招かないように、うまく行う必要がありますが)、ミャンマーだけの自発的な取り組みに任せるだけでは、事態の改善、問題の根本的解決は難しいように思えます。
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ロヒンギャ問題  脅威を煽り対立構造をつくるミャンマー政府 政府を擁護する中国・日本

2017-10-01 23:26:49 | ミャンマー

バングラデシュ・バルカリにある難民キャンプで、雨をよけるロヒンギャの人々(2017年9月17日撮影)【9月18日 AFP】

進行する“民族浄化”】
グテレス国連事務総長が「人道と人権における悪夢」と表現するミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの現状について。

スー・チー国家顧問は21日の演説で“9月5日以降、武力衝突は起きておらず、掃討作戦は行われていません。それでも多数のイスラム教徒が国境を超えてバングラデシュに逃れていることを聞き、懸念しています。私たちは、なぜ大勢の人が出国しているのか、突き止めたいと考えています。・・・・”と語っており、チョーティン国連代表は「残虐行為や民族浄化、ジェノサイド(大量虐殺)は起きていない」とも主張していますが、現実には今も大量の難民が発生しています。

****国連安保理、ロヒンギャ問題で公開会合 さらに25万人が避難の恐れ****
国連安全保障理事会は(9月)28日、ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャが大量に隣国バングラデシュに避難している問題について公開会合を開いた。

難民が50万人以上に上っている他、ロヒンギャを乗せたボートが転覆し、少なくとも19人が死亡する事故も発生している。
 
国連(UN)のアントニオ・グテレス事務総長はロヒンギャ難民の状況を「人道と人権における悪夢」と訴えるとともに、ミャンマー指導部に事態の収拾を強く求めた。国連安保理がミャンマーに関する会合を行うのは極めてまれ。
 
ミャンマー西部ラカイン州では先月以降、ロヒンギャの武装集団と政府の治安部隊との衝突の影響により、ロヒンギャ50万人以上がバングラデシュへと避難。グテレス氏はミャンマー政府に軍事行動を停止し、衝突により荒廃した地域への人道支援を受け入れるよう求めた。
 
また、軍事行動について「組織的な暴力」と批判。ラカイン州の中部をも不安定な状況に置き、さらに25万人のロヒンギャが家を追われる恐れがあると指摘した。(後略)【9月29日 AFP】
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ラカイン州のロヒンギャは約100万人とも言われていましたので、50万人がすでに難民となり、更に今後も25万人が・・・ということになれば、ミャンマー政府が意図したかどうかはともかく(国軍及び協力する仏教ナショナリストは意図しているのでしょうが)ロヒンギャを国外に追放する“民族浄化”がほぼ完成します。

実際、多くが難民となって去るとコミュニティーが崩壊しますので、残された人々もこれまでのようには暮らせず、やはり国外に去る選択を強いられるという事情もあり、直接の戦闘行為はなくても難民発生が続きます。

****ミャンマー沿岸部、今週だけで新たに2000人超のロヒンギャ****
ミャンマー西部ラカイン州の沿岸部で、隣国バングラデシュに逃れようと同州内陸部の村々から避難し集まったイスラム系少数民族ロヒンギャの数が今週だけで2000人を上回った。国営メディアが30日、報じた。(中略)
 
英字紙「ミャンマーの新しい灯」は、今週、沿岸部に集まったロヒンギャたちについて、「9月26日以降、多くが避難し人がほとんどいなくなった地域にとどまるのは不安だとして居住地を離れてきた人々で、彼らの親族の多くはすでにバングラデシュに向かっている」と報じている。
 
沿岸部に集まった人々がそこからバングラデシュに向かうのか、また向かうとすればどのような手段を使うのかは明らかではない。(後略)【9月30日 AFP】
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バングラデシュへボートで渡るには大きな危険が伴い、上記記事で“ロヒンギャを乗せたボートが転覆し、少なくとも19人が死亡する事故も発生”としている事故は、28日にベンガル湾で起きたもので、国際移住機関(IOM)は死者数が60人を超えるとの見方を示しています。

ひとつの事故で60人ですから、ベンガル湾や国境のナフ川でどれだけの犠牲者が出ているのか・・・。

バングラデシュに入っても飢え、豪雨・・・と、苦難は続きます。

****<ロヒンギャ難民>船転覆、生き別れ…、キャンプ食糧なく****
水死した20代ぐらいの女性の遺体がトラックに積み込まれていた。黒い布にくるまれ、顔にハエがたかっている。「昨日からこれで19人目だよ。いやな仕事だ」。29日朝、遺体を運んだ警官の男性(21)がつぶやいた。(中略)

ミャンマーとの国境を流れるナフ川沿いでは、女性や子供が列をなして歩いていた。前夜に到着した難民たちだ。1歳の娘を抱いたノズマ・ベガムさん(25)は数日前、「村に軍人が来て追い出され、家を燃やされた」という。夫(30)と娘2人は逃げる途中ではぐれ、連絡がつかなくなった。

28日夜にナフ川までたどり着き、船頭に金の耳飾りを渡して乗せてもらったという。「昨夜、ビスケットをもらったが、体調が悪くて吐いてしまった。友人を頼ってキャンプに行くしかない」
 
多数の難民が暮らすバルカリでは28日、約1000人の難民がぬかるんだ地べたに座って食料の配布を待っていた。雨の中にときおり汚臭が混じる。「3日前にコメとイモをもらったが、今はもう尽きてしまった。支援だけが頼りだ」。8歳と5歳の子供と座っていたビビさん(27)が嘆いた。
 
ビビさんは9月上旬、軍とみられる集団が家に来て夫を連れ出し、火を付けたという。家の中に3カ月の次男を置いたまま飛び出し、4日間山に隠れた後、国境の川を渡った。「子供は焼け死んだ。夫も殺されたはずだ。もう何も残っていない」
 
今回の難民流出は、8月25日にミャンマーで武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍」(ARSA)が治安部隊を攻撃し、戦闘が激化したのがきっかけだった。

ARSAとは何者なのか? この問いかけに、難民のアユブ・アリさん(70)が「若者たちが戦っている」と言いかけると、周囲から「その話はするな」と声が上がった。別の男性(50)は「彼らは外から来た」と言葉を濁した。(後略)【9月30日 毎日】
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ロヒンギャ武装組織指導者アタ・ウラー氏
“ARSAとは何者なのか?”ということに関しては、その指導者アタ・ウラー氏はパキスタン出身で、サウジアラビアに移住した人物とのことで、土着のロヒンギャではないようです。

****自由の戦士か災いをもたらす者か?ロヒンギャ武装組織指導者 異色の人生****
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャの武装組織「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」の指導者アタ・ウラー氏は、敵から見れば、ミャンマー治安部隊を相手に戦いを挑み数十万人のロヒンギャに計り知れない苦しみを与えている向こう見ずな素人だ。
 
一方、ARSAの支持者にとってウラー氏は、サウジアラビアでのぜいたくな生活を捨て、国を持たないロヒンギャを守るため圧倒的に不利な戦いに挑んでいる大胆不敵な戦士だ。
 
ミャンマーを拠点に活動している独立系アナリストのリチャード・ホーシー氏は「彼には非常にカリスマ性がある」とAFPに語った。「(ロヒンギャの)コミュニティーが感じている不満に共鳴するような発言をしている」(中略)
 
ウラー氏に近い複数の関係者がAFPに語ったところによると、ウラー氏の年齢は30代前半で、末端組織を寄せ集めたネットワークを監督しているもようだ。こうした末端組織は簡単な軍事訓練を受けたメンバーで構成され、棒やなた、わずかな銃で武装しているという。

■サウジでの厚遇
ウラー氏はパキスタンの港湾都市カラチの中流家庭に育った。AFPが親族を取材したところによると、父親はカラチの名門イスラム神学校に学んだ後、一家を連れてサウジに移住。リヤドで教職に就き、続いてターイフでも教えた。
 
サウジ在住時のウラー氏は、モスク(イスラム教礼拝所)で聖典コーランを朗誦して現地の富裕層の目に留まり、子どもたちの家庭教師を依頼された。間もなく富裕層の内輪の集団に招かれるようになり、深夜のパーティーや豪華な狩猟旅行を楽しんでいた。
 
しかし、2012年にラカイン州で仏教徒とイスラム教徒の衝突が発生し、ロヒンギャを中心に14万人が避難を余儀なくされたのを契機に、ウラー氏はミャンマーでの戦うため、サウジでの快適な生活を捨てた。

■過激派への不信感
まずウラー氏はパキスタンに戻った。2012年に移動中のウラー氏とカラチで会ったというイスラム武装グループの関係者3人によると、同氏は豊富な資金を持っており、パキスタンで銃と戦闘員を調達して有力なイスラム過激派グループによる軍事訓練を行う考えだった。資金の出所は、サウジの富裕層やサウジ在住のロヒンギャのようだったという。
 
ウラー氏は、アフガニスタンやパキスタンのタリバン、カシミールの分離独立を求めるラシュカレトイバといった過激派組織とつながりを持つ人物らに接触し、大金を提示して支援を要請したものの、無駄に終わった。

パキスタンのイスラム過激派の大半は、ウラー氏の依頼を鼻であしらったり、あからさまに無視したりといった反応を示し、同氏から武器調達資金として渡された金を着服した者もいた。(中略)
 
2012年にパキスタンでウラー氏を見かけた複数のイスラム武装グループの関係者によると、同氏はロヒンギャの苦境に口先では同情しながら具体的な協力になると難色を示したイスラム過激派に根強い不信感を持つ、熱心な民族主義者になってパキスタンを出国した。
 
専門家らは、ウラー氏が公然と掲げているミャンマーのロヒンギャを守るという目標が裏目に出ていると警鐘を鳴らしている。ホーシー氏は「人々の人権を守ろうとしているというARSAの主張を信用するのは非常に難しい」と述べ、ARSAは「おそらく(ロヒンギャの)人たちにとって史上最悪の危機を引き起こした」と指摘した。【10月1日 AFP】
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ロヒンギャの脅威を煽るミャンマー政府
ミャンマー政府は、ARSA・ロヒンギャ側の暴力を強調しています。

****ミャンマーで新たにヒンズー教徒17人の遺体発見、政府はロヒンギャ非難****
ミャンマー政府は25日、西部ラカイン州で新たにヒンズー教徒17人の遺体が見つかったと発表した。

付近では前日にもヒンズー教徒28人の遺体が埋められた集団墓地が発見されており、政府はイスラム系少数民族ロヒンギャの武装集団が殺害に及んだと非難している。(中略)

(国連等がロヒンギャ難民を問題視していることに対し)同地域に暮らしていた数万人の仏教徒や少数のヒンズー教徒らも避難を余儀なくされており、彼らはロヒンギャの武装集団に襲われたと主張している。【9月26日 AFP】
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ロヒンギャを敵視するラカイン州の仏教徒ラカイン族も、ミャンマー中央からすれば少数民族で、蔑視されることもある人々です。

ミャンマー政府がロヒンギャの脅威を煽ることでラカイン族とロヒンギャの対立の構図を作り出しているとの指摘も。
そこには経済利権も絡みます。

****ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(後編****
「無国籍難民」がハードルに
少数民族の反乱の怖さを知るミャンマー政府は、ラカイン州全土が反政府になることを恐れている。ロヒンギャがラカイン族にとって脅威だとあおり対立構造をつくり出し、彼らにロヒンギャを襲わせている。

アブールカラム(日本在住のロヒンギャ難民)によれば、ラカイン州でロヒンギャを虐殺する者の多くは恐怖心を植え付けられたラカイン族で、大半が仏教徒だ。

「ロヒンギャを悪玉に仕立て上げるというのは言い得て妙だ」と、ミャンマーに詳しいジャーナリストの田辺寿夫は言う。「中央政府は、ラカイン族やラカイン州に住む仏教徒に対して決まってこう言って脅威をあおる。『ロヒンギャはムスリムだ。一夫多妻だ。放っておけば、どんどん増えてラカイン州はロヒンギャに占有されるぞ』と」

ラカイン族の目をそらせたい目的がもう1つあると、アブールカラムは言う。経済利権だ。
ミャンマー内陸部には巨大な天然ガス田があり、国内経済にとって重要な資源だ。輸出のために港まで運ぶパイプラインは、ラカイン州を横切る必要がある。

ラカイン族は当然、その恩恵にあずかろうとするが、分け前を与えたくないミャンマー政府はロヒンギャとの衝突に集中させることで、その話題に触れさせない。軍の息がかかったラカイン州の政治家が全てを取り仕切っているという。

ラカイン族の反ロヒンギャ感情をあおることで彼らの反政府活動を抑え込み、かつ地域の経済利権を手中に収め、自らの手を血で染めることなくロヒンギャを始末できる――。ミャンマー政府にとって一石三鳥とも言える浄化戦略だ。

政府や軍の迫害に耐え切れなくなったロヒンギャは、不本意ながら祖国を脱出するしかない。そうなれば、救いは国際社会や各国の難民対策だ。ただ、ロヒンギャは(無国籍という)その存在の特異性ゆえ対策が容易でない。結果として、国際社会の反応も鈍い。(後略)【9月21日 前川祐補氏 Newsweek】
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再びミャンマーを引き寄せる中国
ラカイン州の経済利権に着目して、ミャンマー政府を後押しているとも指摘されるのが中国です。

****ロヒンギャ問題】大量脱出から1カ月 中国、ミャンマー擁護で存在感****
・・・・国際社会がミャンマーの対応を非難する中、同国を擁護する中国の影響力が東南アジア一帯で強まる可能性がある。(中略)

中国の洪亮駐ミャンマー大使は13日、ロヒンギャ武装集団への掃討作戦を「テロリストへの反撃」として理解する中国政府の立場を早々に伝達するなど、対応の違いを見せつけている。中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の要にミャンマー西部ラカイン州が位置する地政学的事情を指摘する声もあがる。
 
インド洋に面した同州チャウピューでは、中国内陸部の雲南省・昆明とを結ぶ全長約1420キロの原油パイプラインが5月に稼働。輸送能力は昨年の中国の原油輸入量の約6%に過ぎないが、中東・アフリカ産原油をマラッカ海峡を通さずに運べるため、エネルギー安全保障上の意味合いが大きい。

チャウピューでは、中国が深海港の開発権を得て整備中で「軍港化」されるとの見方もあるほか、パイプライン沿いに道路や鉄道の建設計画もある。
 
ミャンマー国軍は近年、軍事政権時代に過度に依存した中国から距離を置こうと欧米に接近し、民政復帰や総選挙も容認してきた。だが、中国は国境沿いの少数民族武装勢力とミャンマー政府の和平協議などで存在感を維持している。(後略)【9月25日 産経】
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こうした中国の影響力拡大を懸念することもあってか、あるいは人権問題そのものに関心がないのか、アメリカ・トランプ政権は、アメリカの歴代政権がミャンマーの人権問題・民主化を重視してきた姿勢と異なり、ミャンマー政府批判を控えていました。

ただ、“米国のニッキー・ヘイリー国連大使は「ビルマ(ミャンマー)当局による行動は残忍で、少数民族を浄化するためのキャンペーンを続けているようだと言うことを恐れてはならない」と述べ、「少数民族の浄化」という言葉を使いながら批判。また「ビルマの幹部指導者らは恥を知るべきだ」と述べ、ミャンマーの事実上の指導者アウン・サン・スー・チー国家顧問を暗に非難した。”【9月29日 AFP】とのこと。

ただ、ヘイリー国連大使とトランプ大統領が共通の認識かどうかは知りません。9月19日、アメリカのティラーソン国務長官はアウン・サン・スー・チー国家顧問と初めて電話で会談し、事態の収拾に向けた行動を直接促したとのことです。

日本政府の事なかれ主義
一方、日本もミャンマー政府との間でことを荒立てないようにしています。

****ロヒンギャ弾圧に不感症な日本外交*****
「加害者」を擁護する?
外務省の姿勢を表すものの1つは、既にロヒンギャ弾圧への世界の注目が高まっていた8月29日に外務省が発表した外務報道官談話だ。そこにはこう書かれている。「ミャンマー・ラカイン州北部各地において発生している治安部隊等に対する襲撃行為は絶対に許されるものではなく、強く非難するとともに、犠牲者のご遺族に対し、心からの哀悼の意を表します」

この談話を読む限り、外務省にとって主たる犠牲者はロヒンギャではなく、ミャンマーの治安部隊ということになる。これは、かねてミャンマー政府が繰り返してきた主張と一致する。(中略)

不思議なことに、談話にはロヒンギャという言葉がひとことも出てこない。(中略)

日本がロヒンギャ問題で国際社会に反するような動きをしたのは今回が初めてではない。今年3月、国連人権理事会は弾圧の実態を調べるために「事実調査団」設置の決議を採択した。(中略)問題なのは、日本政府がこの調査団の設置に不支持を表明していたことだ。(中略)

戦後メンタリティーの影響
なぜ、日本はそこまでミャンマー政府の肩を持つのか? 土井は「(日本にとってミャンマーは)ODA(政府開発援助)との関係もあるし、地政学的に中国の隣ということもあり重要な国。ひとことで言えば、軍を主とするミャンマー政府を怒らせたくないということだろう」と指摘する。そのため「通常は欧州(の動き)に呼応する日本だが、ミャンマーの人権関連ではダブルスタンダードも多い」。

(中略)一方で、人権問題を表立って批判しないのは日本人の戦後メンタリティーに由来するとの声もある。
元外交官で岡本アソシエイツの岡本行夫代表は、戦後の十字架を背負っていることと無関係ではないと指摘する。「人権問題について何か言うと、『そんなこと言えた義理か』という反発を気にして、しゃべらないほうがいいというメンタリティーになっている」。(後略)【9月26日号 Newsweek日本語版】
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“戦後メンタリティー”のほか、ロヒンギャ難民受け入れを国際社会から求められても困る・・・という思いもあるのかも。

なお、風当たりが厳しくなるスー・チー氏ですが、“スー・チー国家顧問の母校、英オックスフォード大学は9月30日、これまでホールに展示していたスー・チー氏の肖像画を撤去したことを明らかにした。”【10月1日 AFP】とのことです。
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ロヒンギャ問題  スー・チー氏に軍・国内世論を動かす意思と力はあるのか?

2017-09-20 22:51:25 | ミャンマー

(軍に焼き打ちされる以前のロヒンギャ居住区(上)とその後 【9月20日 Newsweek】)

殺戮・放火・レイプ・・・残虐過ぎる民族浄化 スー・チー氏は「多くが偽情報」】
再三取り上げているミャンマー西部ラカイン州におけるイスラム系少数民族ロヒンギャが、ミャンマー政府軍等の焼き討ち等によって隣国バングラデシュへの避難を余儀なくされている件。

難民は国際移住機関によると、42万1千人に上っており、難民キャンプは人々であふれ、食料や住む場所が足りない事態に陥っています。

焼き打ちから逃れた村人が国連の調査団に語った当時の様子については、以下のようにも

****ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(前編*****
新たに始まった残虐過ぎる民族浄化
・・・・襲撃はこんなふうに行われた。まずロヒンギャの住む村の上空に軍のヘリコプターが飛来し、上空から住居を目掛けて次々と手榴弾を投げ込む。爆発に驚いて家から飛び出てきた住民たちを、待ち構えていた地上部隊がライフルで狙い撃ちにする。

動けない老人たちは家から引きずり出され、殴打された後に木に縛られる。そして、体の周りに灌木や枯れ草をまかれ、火を付けて焼き殺される。

虐殺の例に漏れず、女性や子供は格好の標的になった。
11歳のある少女は、家に押し入った4人の兵士が父親を殺害した後、代わる代わる母親を強姦するのを目の当たりにした。その後、母親だけを残した家に火が放たれたという。

別の家では、泣きじゃくっていた乳児に兵士がナイフを突き刺し殺した。5歳の少女は兵士に強姦されていた母親を助けようとして、ナイフで喉元を切られて殺されたらしい。

ロヒンギャの住む家で次々に殺戮が繰り返され、最後は村ごと焼き打ちにする――。ボスニア紛争中の95年に起きたスレブレニツァの虐殺を思い起こさせる手口だ。スレブレニツァの犠牲者数は8000人以上とされるが、ロヒンギャのこれまでの死者数はそれをはるかに上回る。

迫害に加担しているのは、政府や軍隊だけではない。ミャンマー政府は社会に影響力を持つ僧侶を巧みに取り込み、ロヒンギャ弾圧の先鋒に据えている。

その中心が、仏教過激派の指導者である僧侶のウィラトゥ。ロヒンギャがジハード(聖戦)を仕掛けていて、ミャンマー人の女性をレイプしているなどと話し、イスラム教徒への憎悪をあおっている。(後略)【9月20日 Newsweek】
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無国籍状態におかれ、ミャンマー国内世論からも嫌悪されるロヒンギャに対する迫害・弾圧は今に始まったものではありませんが、現在の混乱は昨年10月にロヒンギャ武装組織が国境警官を襲撃した事件をきっかけに、それを口実とするかのように行われている治安部隊によるロヒンギャ追放を狙った“民族浄化”的作戦によるものです。

迫害されれば、当然に抵抗・反発も起きます。8月25日はロヒンギャの「アラカン・ロヒンギャ救世軍(ARSA)」による治安部隊施設への襲撃も。これにより、政府軍の掃討作戦は加速されています。

スー・チー氏が主導する現政権下で起きている混乱です。

上記のような混乱・惨状が世界に報じられる中で、事態収拾のための積極的行動をとらず沈黙を守ってきたスー・チー国家顧問は、報じられれるミャンマー政府軍による人権侵害の情報の多くが「偽情報」と断言してもいます。

国軍への権限が及ばないこと、ロヒンギャを嫌悪する国内世論といった、政治的に困難な立ち位置にスー・チー氏が置かれていることは、9月17日ブログ「ロヒンギャ問題  注目される“沈黙”スー・チー氏の19日演説 バングラデシュ・アメリカ・日本は?」でも取り上げました。

英語による“国際社会向け弁明”】
そうは言っても・・・ということで、かつての“民主化運動の象徴”スー・チー氏の消極的対応・沈黙に国連・人権団体等の国際世論から厳しい批判が集中するなかで、19日にスー・チー氏が行うとされていた国民向け演説が注目されていました。

****ロヒンギャ難民の帰還受け入れ スー・チー氏演説 ****
・・・・治安部隊の掃討作戦についてスー・チー氏は「9月5日以降は行っていない」と述べた。ロヒンギャの村が焼き打ちにあっている問題については誰の犯行か分からないとして「全ての人から話を聞き、証拠に基づいて対処する」と約束した。
 
演説は約30分。会場には国内外の報道陣や外交官ら約500人が集まったほか、国営放送やフェイスブックの公式ページを通じて生中継された。英語で行われ、ロヒンギャ問題を巡りミャンマー政府への批判を強める国際社会を強く意識したものとなった。
 
ロヒンギャの国籍を認めない国籍法の見直しや人々の移動の自由を求めたアナン元国連事務総長率いる特別諮問委員会の勧告については、短期的に実行できるものを優先するとしつつ「全ての勧告が信頼回復に資する」と述べ、実行に取り組む姿勢を強調した。
 
勧告は今回の衝突の発端となった8月25日の治安部隊に対する襲撃事件の直前に発表された。ただミャンマー国民の多くは「不法移民」であるロヒンギャに対する否定的な感情が強く、どこまで実行できるかが今後の焦点となる。
 
19日にはニューヨークで開かれている国連総会で各国首脳の一般討論演説が始まる。昨年は首脳級として迎えられ、民主化について華々しく演説したスー・チー氏は今回欠席。わずか1年でミャンマーを取り巻く状況は一変した。
 
安全保障理事会でロヒンギャ問題を取り上げた英国のメイ首相や、イスラム協力機構の議長国トルコのエルドアン大統領は、ミャンマー政府の対応を強く批判するとみられる。
 
ただミャンマーの現在の憲法は、治安部隊への指揮権を国軍最高司令官に認めている。スー・チー氏ら政府が取り得る選択肢は少ないのも事実だ。警察を統括する内務相や国境管理にあたる国境相はいずれも国軍が指名権を持っている。【9月19日 日経】
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演説の内容を云々する前に、一番気になったのは演説が英語で行われたということです。

以前から“国民向けに演説する”と言われていましたが、“英語で”ということは(内容的にも)、“国民向け演説”というより、“国際社会向け弁明”のようにも思えます。

もちろん、国際的に非常に注目されていること、多くの批判が浴びせられていることを意識しての英語演説でしょうが、スー・チー氏が今一番やるべきことは、ロヒンギャに対する嫌悪感にとらわれているミャンマー国民への呼びかけです。

国民の気持ちが動かない限り、国軍への権限も有しないスー・チー氏が事態を動かすことも難しいでしょう。

もちろん、世論に反してロヒンギャ保護を訴えることは、政治的には極めて大きいリスクを伴いますが、それが必要ですし、できるのは彼女しかいません。そこを避けるなら、長年の自宅軟禁を耐えて何のために指導者になったのか・・・彼女の掲げる“人権・民主化”とは何なのか?・・・という感も。

おそらく今後、本当の“国民向け演説”も行われるのでしょう。必要に応じて何回、何十回も。そうであることを期待します。

国際的調査受け入れ、難民帰還容認・・・とは言うものの
内容的には、事態改善に向けた“前向き”の意向も示されていますが、政府側の責任は認めず、今後本当に実現できるのかについても疑問があります。

****スー・チー氏、調査受け入れ示唆=ロヒンギャ帰還に前向き-ミャンマー****
ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャ迫害をめぐる問題で、アウン・サン・スー・チー国家顧問は19日、首都ネピドーで国民向けに演説し、国際的な調査を受け入れる用意があることを示唆した。また、難民の帰還に向け、身元確認手続きをすぐにでも開始する考えがあると述べた。
 
演説はテレビ中継され、スー・チー氏は30分間にわたり、英語で語り掛けた。ロヒンギャ迫害への批判を強める国際社会に対し、状況の改善に尽くしている姿勢を強調する狙いがあるとみられる。(中略)

ミャンマー政府はロヒンギャを国民と認めておらず、実際に帰還が始まれば、国民の反発を招く恐れもある。
 
スー・チー氏は「すべての人権侵害を非難する」と述べ、平和と安定の回復に向け、全力を挙げていると力説。「ミャンマーが宗教や民族で分断された国となることを望んでいない。憎しみや恐怖は災難の元だ」と語り、和解を呼び掛けた。【9月19日 時事】
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ミャッマー国内ではロヒンギャは国内少数民族とは認められず、隣国バングラデシュからの不法入国者の扱いで、“ロヒンギャ”という呼称も使用されていません。

多くの報道が“ロヒンギャ問題についての演説・・・・”としていますが、スー・チー氏の今回演説でも“ロヒンギャ”という言葉は一度も使用していないとのことです。

この1点をもってしても、今後の道が困難なことがうかがえます。

****<ロヒンギャ問題>スーチー氏、解決への力不足認める****
ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問兼外相は19日、首都ネピドーでの演説で「すべての人権侵害と違法な暴力を非難する」と強調し、西部ラカイン州の少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」の問題を平和的に解決すべきだと訴えた。スーチー氏は「ラカイン州の状況には世界中が懸念してきた」と、不法行為には厳しく対処する方針も示した。
 
スーチー氏は、政府諮問委員会(委員長、アナン元国連事務総長)を設立するなどして問題の解決に取り組んできたことを紹介。その上で「そうした努力にもかかわらず、われわれは衝突を防げなかった」と、力不足を認めた。
 
ロヒンギャの武装勢力側は、長年にわたる政府のロヒンギャに対する圧迫を戦う理由とするが、スーチー氏は大量の避難民が発生した昨年10月と今年8月の戦闘は武装勢力側の攻撃で始まったとの認識を示した。
 
また、現在は戦闘や掃討作戦は実施されていないと指摘したうえで「今も多数がバングラデシュに避難していることを懸念している。大脱出がなぜ続いているのか知りたい」と語り、帰還を希望するロヒンギャには、身元確認の手続きを始めると明らかにした。
 
一方でスーチー氏は「ミャンマーは複雑な状況にある」と主張。昨年3月に政権が発足してから「すべての課題の克服を期待するには、あまりにも時間が短い」と理解を求めた。(後略)【9月19日 毎日】
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国際的調査が無制限に許可されれば、冒頭に紹介したような“残虐行為”が事実だったのかどうかもはっきりします。

そのとき政府軍の責任は問えるのでしょうか?

“身元確認を条件に難民の帰還を受け入れる用意”というのが、どういう意味なのか・・・・

これまでロヒンギャに対しては、「NVC(National Verification Card)」と呼ばれる外国人仮滞在証明書を持てば、市民権を申請できるとされています。

ただ、この「NVC」は、自分が“外国人”であることを認めるものでもあります。

****外国人仮滞在証明書****
「無国籍」のロヒンギャに対して、当局は必死にあるカードを受け取らせようとしている。「NVC(National Verification Card)」と呼ばれる外国人仮滞在証明書で、建前上は市民権を申請できることになっている。

だが「このカードは罠だ」と、ヤンゴンでロヒンギャの人権改善を訴える活動を行うチョースオンは言う。このカードを受け取った時点で、自らを外国人だと認めることになるからだ。

しかも軽微な罪を犯しただけで簡単に取り上げられ、取り上げられれば再発行の可能性はほぼない。

国籍法が施行される約30年前の55年、軍政になる前のミャンマー政府は「国民登録カード」と呼ばれる証明書を配布しており、ロヒンギャたちもこれを手にしていた。つまり、法的にもミャンマー人だった時期があるのだ。

政府はその後このカードを回収し、今はその代わりにNVCを持たせることに躍起になっている。ロヒンギャが「自発的に」外国人になれば、ミャンマー政府は合法的に国外追放に追い込める。

NVCがなければ銀行口座を作ることもできず、社会生活が送れない。カードはロヒンギャの国内移動の自由も保障するが、それ以外にも政府は学校での進級や進学の際に提出を求めている。

つらいのは進学を希望する子供にせがまれることだと、ゾーミントゥットは語る。事情が分からない子供から「お願いだからカードをもらって」とせがまれた親が泣く泣くカードを受け取ってしまう。だが手にしたら最後、外国人になってしまう。

ミャンマー政府は国際社会の目を気にして武力弾圧を躊躇しがちにはなったが、その代わりにNVCという新たな手を使っている。(後略)【【9月20日 Newsweek「ロヒンギャを襲う21世紀最悪の虐殺(前編)」】
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“身元確認”の事務処理が具体的にどのように行われるのか・・・注意が必要です。

また、政府軍は難民帰還を阻害すべく、地雷まで設置しているとも言われています。こうした軍をどのように動かすのか?

****バングラ首相、ミャンマーにロヒンギャ難民の受け入れ要求 地雷埋設を非難****
・・・・国連総会出席のため米ニューヨークを訪問中のハシナ首相は、自国の活動家らと面会し、ロヒンギャ問題に関してミャンマーにさらなる国際的な圧力をかける必要があると明言したという。
 
ハシナ氏は、ミャンマー側に「ロヒンギャはあなたの国(ミャンマー)の国民だ。ロヒンギャを受け入れ、保護し、避難所を用意すべきだ。抑圧や拷問は決してあってはならない」と伝えたという。
 
またハシナ氏は、ロヒンギャ難民のミャンマーへの帰還に向け同国への外交的な働きかけは行っていると明らかにした上で、「ミャンマーはそれに応じておらず、それどころかロヒンギャが帰還できないように国境沿いに地雷を埋設している」と非難した。(後略)【9月20日 AFP】
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なお、ハシナ首相に対し、トランプ大統領は“無言”だったとか。

****ロヒンギャ問題、トランプ氏は無言 支援期待せず=バングラ首相****
・・・・ハシナ氏によると、トランプ氏が主催した国連改革に関する会合の後、同氏を呼び止め数分間話をした。

トランプ氏がバングラディシュの状況はどうかと尋ねたため、「とても良いが、ミャンマーからの難民が唯一の問題だと答えたが、大統領は難民について何もコメントしなかった」という。

ハシナ氏は「米国は難民を受け入れないと既に明言している」として、ロヒンギャ難民問題で米国に援助を求めても無駄との考えを示した。【9月19日 ロイター】
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日本政府は、バングラデシュで行われているロヒンギャ支援活動、ミャンマーでこれから行われるであろう支援活動に対し、一定額の資金援助をするとの発表が外相からなされています。

ロヒンギャと国内世論の深い溝
スー・チーの演説を受けて、ロヒンギャ側からは厳しい声が。これまでの経緯、演説の“煮え切らなさ”を考えれば当然の反応でしょう。

****スー・チー氏は「うそつき」=ロヒンギャ協会会長―タイ****
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー国家顧問がイスラム系少数民族ロヒンギャに関する演説で、イスラム教徒の大半が国内にとどまっていると語ったことについて、タイ・ロヒンギャ協会のサイード・アラム会長は19日、「イスラム教徒の半数以上がミャンマーを去った。彼女はうそをついている」と批判した。
 
会長は取材に対し、スー・チー氏が難民の帰還に前向きな姿勢を示したことに関しても、「信じられない」と否定的。既に掃討作戦は終了したという説明には、「終わっていないのは明らか」と反発した。【9月19日 時事】
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一番のカギとなる国内世論も、厳しいものがあります。

****<ミャンマー>ロヒンギャ問題、市民の反応は冷ややか****
ミャンマーの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」が迫害されているとして国際的な批判が高まる中、アウンサンスーチー国家顧問兼外相が19日、首都ネピドーで演説し、国民に和解と平和を訴えた。

ただミャンマーは国民の約9割が仏教徒であるうえ、ロヒンギャは長く不法滞在者扱いされてきた。最大都市ヤンゴンではロヒンギャの悲惨な状況に「同情しない」と話す人もおり、問題解決は簡単ではない。
 
ロヒンギャは西部ラカイン州に約100万人いるとされるが、政府はミャンマー固有の民族集団でなく、バングラデシュ側からの不法移民と捉え、国籍が付与されていない。

ヤンゴンのビジネスマン、コーアウンさん(34)は毎日新聞助手に「ロヒンギャに対し特別な感情はない。これは不法移民、不法侵入の問題だ」と突き放す。
 
広告関係の仕事をするナンスネントゥエイさん(23)は「同情はするが避難者が40万人もいるとは思わない。政府は最初からメディアの立ち入りを認めるべきだった。人々は十分な情報が得られず問題が大きくなってしまった」と語った。

また非政府組織の女性スタッフ、ヌサンムンさん(22)は被害者に理解を示しながら「外国がスーチー氏を批判するのは嫌だ。ミャンマーを彼らの政治的利益に利用しているのではないか」と話した。
 
昨年3月にスーチー氏が事実上トップの政権が発足したが、国の安定に国軍の協力は欠かせない。英BBCによると、ミンアウンフライン軍最高司令官は16日、フェイスブックでロヒンギャについて「そのような民族はミャンマーにはいない」などと表明した。
 
国際社会からの批判はスーチー氏の立場を国内で難しくする可能性もある。政治評論家のマウンマウンソー氏は「(政府側とロヒンギャ側の)双方から不十分だと批判される可能性があるが、彼女だけに責任を負わせるのは間違っている」と言う。【9月19日 毎日】
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スー・チー氏の前には“岩盤”が。掘り崩す意思と力が彼女にあるのか?
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