(6月3日 レバノン 選挙支援集会の様子 与党側か野党側かは定かでありませんが、ヒズボラの旗も見えませんので、与党側でしょうか?
“flickr”より By Sana Tawileh
http://www.flickr.com/photos/sanatawileh/3603796848/in/set-72157619382078904/)
【親米与党勝利】
中東の“小国”レバノンで国民議会の選挙が7日行われ、米欧やサウジアラビアの支持を受ける反シリア派の与党「3月14日連合」が、イランが支援するイスラム教シーア派組織「ヒズボラ(神の党)」を軸とする反米親シリア連合の議席を上回り過半数を維持しました。
****レバノン総選挙 親米与党勝利へ*****
7日投票されたレバノン国民議会(定数128)選挙は即日開票され、地元テレビ局が伝えた非公式集計によると、親米欧・反シリアの与党連合「3月14日連合」が過半数を獲得し、イスラム教シーア派組織「ヒズボラ(神の党)」を軸とする親シリアの野党連合に勝利する見通しとなった。
レバノンでは、反シリア、親シリア両勢力の対立で昨年5月まで約1年半にわたり政府が機能まひに陥るなど不安定な政情が続いており、与野党双方とも「対話」の必要性を強調している。ただ、基本的な対立の構図は総選挙前と大きく変わっておらず、今後の焦点は、挙国一致内閣など、安定政権樹立に向けた交渉の成否に移ってきた。
「3月14日連合」の中心人物の一人で、2005年に暗殺されたハリリ元首相の二男、サアド・ハリリ氏(「未来潮流」運動の指導者)は7日深夜(日本時間8日早朝)、「レバノンの民主主義と自由を祝福する」と早くも勝利宣言。
ヒズボラと連合するキリスト教マロン派の自由愛国運動の幹部は敗北を認めた。【6月8日 産経】
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【選挙前は野党優勢の予測も】
このブログでレバノンを取り上げるのはほぼ1年ぶりです。
前回取り上げたのは08年5月30日ブログ「決まったレバノン、難航するネパール連立工作」でした。
複雑な宗派が入り組む“宗教モザイク国家”であるレバノンは、大統領はキリスト教マロン派、首相はイスラム教スンニ派、国会議長はシーア派からの選出が決まっているなど、宗派に応じてポストや議席数を配分する独特の「宗派主義体制」をとっています。
そのレバノンでは一昨年11月以来、議会で欧米や多くのアラブ諸国が支持する多数派とシリア・イランが支持する野党勢力(シーア派ヒズボラなど)が対立して、大統領を選出できない状態が続いていましたが、昨年5月ようやく新大統領選出・組閣に至り、昨年5月のブログでその経緯を取り上げました。
この大統領選出・組閣が難航したのは、国会議員数や国会議長ポストの関係でどうしても与党単独では押し切れない事情があり、しかし一方で、解散総選挙すると野党・ヒズボラのほうが国民の支持を得るのではないかと見られており、与党としては解散もできない・・・といった背景がありました。
解散・総選挙に関する見込みはその後も基本的には変わらず、今回の選挙前の段階では、野党・ヒズボラが勝利して、与野党逆転するのでは・・・との予測が多く見られました。
その場合、武力衝突や政治混迷の再燃も懸念されていました。
野党勢力優位の背景としては、国内の宗派的な対立なども絡んで政府が機能まひに陥ったり、政権の“過度の対米追随姿勢”に一部の国民の間で支持の熱が冷めたりしたこともありますが、06年7月にヒズボラが“無敵”のイスラエルを相手に戦闘を行い、実質的に勝利とも言える結果を勝ち取ったことで国民の支持が高まったこともあります。
(反ヒズボラ勢力の立場からすれば、ヒズボラな無謀な行動で、国土を戦火に巻き込み荒廃させた・・・ということにもなりますが。)
【中東におけるアメリカ・イランの影響力】
このレバノンの選挙結果の影響はレバノン国内だけにとどまらず、アメリカの中東全般への影響力、シリア・イランのヒズボラを介した影響力の今後を占う試金石となるとも見られて注目されていました。
アメリカはヒズボラをテロ組織に指定しており、オバマ米大統領は選挙期間中にクリントン国務長官らをベイルートに派遣し、与党勢力支持を打ち出していました。
先日のオバマ大統領の「カイロ演説」の効果も少しあったのでしょうか。
“レバノン親米勢力の勝利は、中東での米国の求心力を回復するきっかけとなる可能性がある。一方、シーア派大国イランは、民兵組織を擁するヒズボラを支援し、中東での発言力を強めてきたが、これでシーア派の政治力拡大に歯止めをかけられた形だ。”【6月8日 読売】
もっとも、ヒズボラを中心とした親シリア勢力も現有議席を確保したとみられ、中東情勢混乱の火種は相変わらず残った・・・とも言えます。
しかし、少なくとも与野党が逆転してレバノン国内が混乱する、あるいは、ヒズボラが勝利してアメリカの中東戦略が大きく頓挫するといった事態は避けられたようです。
別にアメリカに肩入れするつもりもありませんが、パレスチナなど中東の和平・安定を実現していくためには、やはりアメリカのリーダーシップが現実問題としては必要になります。
次は昨日も取り上げたイラン大統領選挙です。