(6月3日 サンフランシスコで行われた米国籍女性記者2人の解放を願う取組み “flickr”より By Whole Wheat Toast
http://www.flickr.com/photos/executionsinfo/3593811357/)
【政治的取引を狙う北朝鮮】
北朝鮮は核実験や長距離ミサイル発射準備で国際社会を敵にまわしていますが、それだけでは足りないようで、拘束中の米国籍女性記者2人の問題でアメリカと、更に、韓国の大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)全面参加問題で韓国と、まるで手負いの獣のように、あれこれの問題で周辺国との緊張を高めています。
韓国系米国人記者のユナ・リーさんと中国系米国人のローラ・リンさんの2人は3月17日、中朝国境の豆満江付近で脱北者について取材中、身柄を拘束されました。
この拘束については、“北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部」が事前に国境付近に待機していた。”“案内役の中国朝鮮族ガイドは中国当局に対し、北朝鮮側の協力者であることを認めている。”といったことから、「北朝鮮側の計画的拘束」との見方が報じられていました。【5月11日 毎日】
事件発生当時から、アメリカとの直接交渉を望む北朝鮮には、米国人記者の拘束を何らかの政治的取引の「カード」として使う狙いがあると見られていましたが、その後の核実験、それに対する制裁決議という流れのなかで、ますます事態を複雑化させる問題となってきています。
同時期イランに拘束された日本人の母親を持つイラン系米国人、ロクサナ・サベリさんについては、4月の1審で禁固8年の判決が出されました。
しかし、オバマ米大統領はイラン側に「即時釈放」を要請、イランのアフマディネジャド大統領も司法当局に「公正、迅速な再審議」を求めるという流れの中で、5月11日の控訴審では1審判決を破棄して執行猶予付きの刑に減刑され、即日釈放されました。
最初の拘束がどのような意図だったのかはわかりませんが、結末は最近のアメリカとイランの対話路線を象徴するような印象を与えました。
【労働教化刑12年 対応に苦慮するアメリカ】
北朝鮮の方は、8日、北朝鮮の最高裁である中央裁判所が2人に対し、朝鮮民族敵対罪、非法国境出入罪に対する有罪を確定し、それぞれ12年の労働教化刑を言い渡したことが報じられています。
アメリカは、核実験への制裁論議と平行して難しい舵取りを迫られています。
****焦点:米記者拘束、安保理決議控えた北朝鮮の切り札か****
北朝鮮は、拘束中の米国人記者2人に対し、不法入国罪で労働教化刑12年を言い渡した。核問題で孤立を深める同国は、米国との交渉材料に2人を利用する可能性が高く、核問題と切り離したい米政権は難しい対応を迫られている。
オバマ政権は、北朝鮮で拘束されているユナ・リー記者とローラ・リン記者の釈放に向け、水面下での作業を続けており、北朝鮮との交渉役として、アル・ゴア元副大統領かニューメキシコ州のビル・リチャードソン知事の派遣を検討している。
「おそらく北朝鮮が考えているのは、国連安保理の制裁を軽減する手段として、2人の記者とその釈放を利用することだろう」と話すのは、アジア財団の朝鮮問題専門家、スコット・スナイダー氏。同氏は、2人の拘束を北朝鮮が大きな切り札と考えているはずだとしている。
今回の判決は、北朝鮮制裁を強化する安保理決議をめぐり、米国が各国に働きかけを行う中で言い渡された。決議案は、北朝鮮に出入国する不審な物資について、空路・海路問わず査察することも求めている。また、米国は北朝鮮をテロ支援国家に再指定することも検討中だ。
スナイダー氏は、北朝鮮が切り札を握っていると思わせないようにしつつ、記者の釈放実現という目的を達成するという、ぎりぎりの舵取りをオバマ政権が強いられると指摘する。
クリントン国務長官は7日に放送されたABCとのインタビューで、この問題について米政権が「北朝鮮との政治的な課題や安保理での議論に入り込んできた」とはみていないと発言。「これは別の話で、人道的な問題」と強調した。また、ホワイトハウスのギブス報道官も翌日、クリントン長官の発言に触れ、「記者の拘束は、ほかの問題とリンクさせるものではない。北朝鮮側もそうしないことを望む」と話した。(後略)【5月9日 ロイター】
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クリントン長官は北朝鮮に恩赦を求めています。
“クリントン米国務長官は8日、報道陣に「北朝鮮が(2人に)恩赦を与え、国外退去にすることを期待する」と述べ、それに向けた「可能な限りの方法」を追求すると強調した。
長官によると、米国の利益代表を兼ねる平壌のスウェーデン大使館を通じて、2人の判決を確認。労働教化刑12年の長期であることや、裁判が秘密裏に行われたことに深い懸念を表した。”【6月9日 毎日】
【中国ネット世界の反発 政府黙認】
特使派遣等の対応はこれからですが、北朝鮮の対応はイランのようにスムースにいくようには思えません。
この問題で非常に興味深いのは、拘束されているアメリカ人記者の1人が中国系ということで、中国のネット上で北朝鮮に対する批判が噴出しているという記事です。
****中国波紋「判決は理不尽」北朝鮮、米女性記者2人に12年の労働教化刑*****
北朝鮮の裁判所が米国の女性記者2人に12年の労働教化刑を言い渡したというニュースが、中国国内で波紋を広げている。中国系米国人が含まれているためで、「判決は中国への嫌がらせ」「力ずくでも救出すべきだ」といった書き込みがインターネットのサイトに寄せられている。
大手ポータルサイト、新浪では、このニュースがアップされたあと、半日で約5000件の書き込みが殺到。「判決は重すぎ、理不尽」と、北朝鮮の措置に反発するものが多かった。
中国系のローラ・リン記者への関心は特に高く、「米国籍とはいえ私たちの同胞。何もしなければ中国が世界中に笑われる」と中国政府に北朝鮮との交渉を促す意見も。北朝鮮を「狂気の国家」と批判し、「次に朝鮮戦争が起こったとき、中国は義勇軍を送って米軍と一緒に戦う」といった過激な意見も寄せられた。
建前上、北朝鮮は中国にとって友好国であり、ネット上に書き込まれた北朝鮮への批判は、中国当局によってすぐに削除されるのが常だが、今回はそのまま放置されているようだ。中国政府がこれにより、核実験強行など北朝鮮の最近の“暴走”に、不快感を表している可能性もある。【6月9日 産経】
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事件当初、韓国系と中国系アメリカ人ということで、アメリカ社会がどのように反応するのかということも気になったのですが、中国社会の反応までは予想しませんでした。
【中国に苛立ち】
国際社会から“北朝鮮をなんとかしろ!”と詰め寄られている中国政府が北朝鮮に苛立っているのは事実でしょう。
中国の梁光烈国防相は8日、北京を訪れている日本財団の笹川陽平会長らと会談し、国際社会が中国に対し、北朝鮮への影響力行使を求めていることについて、「中国だけが全責任を負うのは不公平だ。(北朝鮮は中国と)親密とはいえ、他国の命令にそのまま服従するような国ではない」と述べ、いら立ちを示した・・・とか。【6月8日 時事】
中国としては、問題ばかりおこす北朝鮮をなんとかしたい思いもあるでしょうが、やりすぎて北朝鮮国内が混乱するような事態(中国国内への難民が押し寄せる、あるいは、アメリカ・韓国管理下の政権と国境を接することになるような事態)も避けたいところで苦慮しているようです。
中国政府が対北朝鮮政策の見直しを始めた・・・との記事もありましたが、どうでしょうか。
****中国、対北政策見直しか=核実験受け、胡主席が指示-韓国紙
4日付の韓国紙・中央日報は、中国が北朝鮮の2回目の核実験を受け、抜本的な対北朝鮮政策の見直しに着手したと報じた。胡錦濤国家主席ら首脳部の指示により、これまでの政策が妥当だったかどうかを含め検討するという。中国政府筋の話として伝えた。
同筋によると、対北朝鮮政策の見直しには、共産党対外連絡部、軍、外務省などに加え、北朝鮮の核実験場に近い吉林、遼寧両省政府も参加。検討結果は、胡主席に報告され、党中央政治局常務委員会で最終的に決定される見通し。同筋は「中国の中長期的な政策に大きな影響を及ぼす可能性がある」との見方を示した。【6月4日 時事】
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話が長くなったので、北朝鮮と韓国の間で高まる黄海での緊張についてはまた別の機会に。