孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  海賊退治で拡大する海外での軍事展開  攻勢を強めるイスラム過激派との首都攻防戦

2009-06-02 22:15:43 | 国際情勢

(待遇改善を訴えるケニアの難民キャンプに暮らすソマリア難民
“flickr”より By Grace Blue
http://www.flickr.com/photos/graceblue/3354472668/)
最近の首都モガディシオでの戦闘激化により、新たに6万人とも言われる難民が発生しています。)

【「海賊対処法」が衆院で可決】
ソマリアの海賊問題は由々しい問題ではありますが、一方で、海外への艦船の派遣等を望んでいた国々にとっては、またとない好機ともなっているように見えます。
紛争地への派遣となると、国際的にも国内的にもいろんな問題がありますし、危険も伴います。
その点、海賊退治ということであれば、大義名分がたって、国際的・国内的摩擦は少なく、しかも比較的安全です。

すでに昨年の段階で、08年12月23日ブログ「ソマリア海賊退治 EU・日・中・米各国の思惑」でも取り上げたように、EUは始めての海上作戦として艦船・航空機を派遣しています。
また、中国も、中国海軍として初の遠洋での警備活動を実施し、そのインド洋における存在感を高めようとしています。同時に、台湾の商船を警護して外交的アピールも行っています。

日本も中国や他国に遅れてはならじと、3月には、自衛隊法に基づく海上警備行動による自衛隊の海外派遣としては初めてとなる、2隻の護衛艦を派遣しています。
更に、5月31日には、自衛隊法の海上警備行動に基づき船舶の警護に当たる海上自衛隊のP3C哨戒機2機が、航空部隊の隊員36人を乗せジブチに到着しました。
P3Cが実際の任務で海外に派遣されるのは初めてとなります。

4月23日には「海賊対処法」が衆院で可決されました。
安倍晋三元首相は5月25日、福岡市で講演し、衆院解散・総選挙の時期に関し「海賊対処法案は画期的だ。3分の2(の多数)を持っている状況で成立させなければならない」と述べ、同法案を成立させた後に行うべきだとの考えを示したそうで、おそらく今国会で成立するのでしょう。

これまでの海上警備行動の護衛の対象は、日本船籍の船、日本企業の運航する外国船、日本人が乗船している船に限られ、外国船を護衛することはできませんでした。また、武器の使用は、警告射撃、正当防衛、緊急避難、武器防護のために限られています。
海賊対処案は、護衛の対象を拡大し、日本関係の船舶だけでなく他国船舶も保護対象とし、また、武器の使用を拡大し、海賊船が民間船舶に著しく接近し、停船命令に従わない場合に、他に手段がなければ、船舶停止のための船体射撃もできるとされています。

【ドイツの改憲論議】
ドイツでも憲法改正が問題となっています。
ドイツは、海賊に拘束されたドイツ船員らを救うために警察特殊部隊をひそかに派遣しましたが、危険を避け現場突入を断念。
これをきっかけにメルケル独首相らは、より精鋭で大規模な軍特殊部隊を議会決議なしで派遣できる基本法(憲法)改正を呼びかけ、連立政権内部に反論が出ています。

****ソマリア海賊:独が警察特殊部隊突入断念 「軍が救出を」改憲論浮上****
ドイツは、海賊事件が頻発するアデン湾やソマリア沖の航路海運に最も依存する輸出大国だ。海賊対策では米国が求める軍派遣に慎重だったが、メルケル首相の決断で連邦議会承認を経て昨年12月から欧州連合(EU)初の海賊対策海上軍事作戦「アタランタ」に海軍艦船3隻を派遣した。(中略)

基本法改正論議は(警察特殊部隊による)救出作戦断念を契機に浮上した。作戦責任者だったショイブレ内相は5月10日付の大衆紙ビルトで「軍がより強力に展開できる基本法改正が必要だ」と主張。メルケル首相もテレビインタビューで「軍の突入部隊と警察のGSG9は非常によく似ている。それぞれの任務を基本法改正により明確にしたい」と語り、軍特殊部隊活用の意向を示した。
政府首脳の問題提起には、救出作戦で独海軍艦船を出動できなかった反省がにじむ。軍の活動は連邦議会決議で限定され、EUのアタランタ作戦とは別個の単独作戦実施は難しい。

一方、海運業界は奇襲作戦による人質解放に渋い顔だ。ドイツ海運協会のネル事務局長は「船の内部は非常に入り組み、突入は難しく、関係者が殺される恐れが飛躍的に高まる。特殊部隊なら解放できるという考えは神話だ」と批判した。海運業界は、身代金交渉を何カ月も続ける「平和的解決」に苦心してきた。身代金目的の海賊犯人を、人命を顧みないテロリストと同一視していない。
むしろ海運業界は「海賊乗っ取り予防策」として海軍の現地増派を政府に要求している。米・EU各国の軍艦船派遣は成果を上げ、多国籍軍が集中的に監視する「船団航路」ではアタランタ作戦が始まって以来、一件も乗っ取り被害は起きていない。ドイツ海軍高官も「実際に襲撃され、拉致事件が起きるのは船団を離れた船だ」と指摘した。【6月1日 毎日】
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改憲については、連立与党の社会民主党にも反対論が根強く、9月の連邦議会選挙を見越して、メルケル首相は改憲論議をひとまず棚上げにする構えとも報じられています。

ソマリア海賊は、軍の海外でのより本格的・自由な活動を希望している向きには、格好の機会を提供しているようで、そうした方面から感謝状のひとつも貰ってよさそうです。

【激化する首都攻防戦】
ところで、常に言われているように、海賊問題を解決するには、実質的無政府状態が続くソマリア国内の安定が不可欠ですが、そちらの方はイスラム過激派の攻勢で混迷を深めています。

****「アルカイダ支配」確立の恐れ=原理主義強硬派が攻勢-ソマリア
アフリカ東部ソマリアの首都モガディシオで、イスラム原理主義武装勢力がアハメド大統領の暫定政府打倒を目指して攻勢を強めている。暫定政府が倒れれば、国際テロ組織アルカイダの影響下にある支配体制がモガディシオに確立される恐れがあり、同大統領は「イラクやアフガニスタンに続くテロの聖地になってしまう」と国際社会に訴えている。
戦闘は5月に入って激化した。市民を巻き込む市街戦が展開され、1カ月間で200人が死亡、6万人が市外に避難し耐乏生活を送っているとされるが、正確な数字は不明だ。
武装勢力は「シャバブ」と「ヒズブル・イスラム」の2組織が中心で、双方とも源流は2006年に半年だけソマリア統一を果たした「イスラム法廷連合」に行き着く。
06年12月に米国を後ろ盾としたエチオピア軍が法廷連合政権を倒すと、法廷連合の青年団だったシャバブは反エチオピアで結束。アルカイダから顧問を受け入れ組織を強化したとされ、今年に入って500人近いイスラム戦闘員が海外から流入、イラク式の路肩爆弾や自爆攻撃を駆使してモガディシオ陥落を目指している。【6月1日 時事】
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暫定政府は首都モガディシオの一部にしかその支配が及んでいない状況でしたが、その首都からも追われることになるかも。
アハメド大統領はかつての法廷連合穏健派のメンバーで、そうした人的な繋がりから過激派にも太いパイプがあること、また、有力氏族出身であることなどから期待されていました。
実際、1月の大統領就任以来、複数のイスラム系武装勢力が暫定政権に参加し、政府軍の一翼を担っていると言われており、4月には反政府勢力が主張するイスラム法「シャリア」の再導入を受け入れましたが、国内を掌握しきれていない状態です。

戦況については、暫定政府側の反撃を伝える情報などもあって、どうなっているのかよくわかりません。
もし、イスラム過激派が首都モガディシオを押さえて国内支配を強めれば、海賊問題は一段落するかもしれません。
かつての法廷連合政権は海賊を厳しく取り締まったそうですから。
ただ、現在の戦闘にもアルカイダとの繋がりがあると思われる欧米諸国国籍の外国人戦闘員が多数加わっているとされており、イスラム過激派のソマリア支配は、アルカイダが影響力を持つテロ支援国家という意味で、アフガニスタンのタリバン支配と同様の影響を国際政治にもたらすことになります。

しかし、アメリカの“ブラックホーク”事件、国連PKOの失敗といった経緯もあって、海賊退治とは異なり、国際社会の関与は難しい状況です。
国連安保理が承認するかたちでAUの平和維持活動も行われていますが、実際には治安悪化や各国の財政難等により、あまり機能していません。

コメント
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