(北朝鮮 昨年9月9日の軍事パレード
一糸乱れぬ統制というのは、ときに滑稽でもあります。
“flickr”より By A23H
http://www.flickr.com/photos/a23h/2852427650/)
【ICBM 発射基地へ】
韓国政府筋によると、北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の機材を日本海側のミサイル発射基地“舞水端里(ムスダンリ)”ではなく、中朝国境に近い西部の黄海側の“東倉里(トンチャンリ)”に運んでいるようです。
“東倉里(トンチャンリ)”は北朝鮮が数年前から建設している施設ですが、韓国政府は“まだ完成しておらず、打ち上げの際に重要な発射台の最上部もでき上がっていない状態”とみていますが、「北が強硬姿勢をとり続けているだけに動きを注視している」とも。【6月1日 朝日より】
韓国が大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)全面参加を正式決定したことに、北朝鮮は「宣戦布告とみなす」と反発。「わが軍隊はこれ以上、休戦協定の拘束を受けない。朝鮮半島は戦争状態に戻り、わが革命武力は軍事行動に移ることになる」と、敵対行為があれば軍事攻撃も辞さないとする声明を発表し、局地的衝突も懸念される緊張状態になっています。
こうしたなかで、北朝鮮は黄海の部隊に平時の2倍以上の弾薬・砲弾を準備するように指示したとも伝えられています。
****北、2倍の弾薬準備指示=黄海の部隊に-聯合ニュース****
韓国の聯合ニュースは1日、北朝鮮軍が黄海の艦隊司令部所属の警備艇や海岸砲部隊に平時よりも2倍以上の弾薬や砲弾を準備するよう指示したとの情報が入手されたと伝えた。韓国政府筋の話として伝えた。黄海の海軍基地と海岸砲部隊の車両の動きが平時よりも増加しているという。
また、北朝鮮は黄海で今月末まで1カ所、7月末まで2カ所を航行禁止区域に指定。航行禁止は通常の軍事訓練に備えた措置とみられるが、短距離ミサイル発射や軍事的な挑発の可能性もあるとみて、韓国政府は警戒している。【6月1日 時事】
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【アメリカ 日韓防衛責務を強調】
北朝鮮が次に何をやろうとしているのかはわかりませんが、先日の核実験、そしてICBMの機材搬入、韓国近海での緊張・・・日本や韓国など周辺国のストレスも高まります。
そんな日本・韓国が現在のところ最終的に拠り所としているのはアメリカです。
ただ、ゲーツ米国防長官は、前回の長距離ミサイル発射が迫っていた3月29日、「ハワイに向かって来るようなら迎撃を検討するが、現時点でそのような計画があるとは思わない」と発言し、日本などが攻撃されても迎撃はしないのか?という声も出ていました。
フロノイ米国防次官は28日、日本からの与党訪米団のそうした疑問に対し、「そんなことは毛頭ない」と語り、日本防衛の責務を果たすと強調したそうです。
****日本標的のミサイルも迎撃=ゲーツ長官発言を修正-米国防次官****
フロノイ米国防次官は28日、山崎拓自民党前副総裁ら与党訪米団との会談で、北朝鮮の弾道ミサイルに関し、「日米同盟に関する誓約を厳守する」と述べ、日本を標的としたミサイルも米軍の迎撃対象となるとの見解を示した。米領土を標的にしたミサイル以外は迎撃しないという趣旨のゲーツ国防長官の3月時点の発言を軌道修正した形だ。【5月29日 時事】
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また、クリントン米国務長官も27日、韓国のPSI全面参加を北朝鮮が「宣戦布告」と非難したことについて「米国が韓国と日本の防衛に関する責務を負い、常にそれを果たす意思があることを強調したい。われわれは真剣に受け止めている」と語っています。
【核武装への懸念】
米国の専門家の中には、北朝鮮が核兵器を保有すれば、日本や韓国が核武装する可能性があるとする見方が少なくないようで、フロノイ米国防次官やクリントン米国務長官の日本・韓国に対して「核の傘」を含めた防衛義務の強調は、そうした懸念も背景にあってのことのようです。
“キッシンジャー元米国務長官は5月31日放映のCNNテレビで、北朝鮮の核開発停止に向けた取り組みについて「中国が何もしなければ、韓国と日本は核兵器を保有する」と警告。東アジアに核軍拡競争が起きる可能性に言及し、中国が米国と協調して北朝鮮への圧力を強める必要性を訴えた。”【6月1日 毎日】
こうした発言も、同様の流れにあるものと考えられます。
なお、キッシンジャー氏は中国については、“北朝鮮への圧力が効かなければ無力と見なされる、逆に圧力が効けば北朝鮮が政治的に混乱し難民が国境に押し掛けるだろう”と、その難しい立場を説明しています。
北朝鮮については、“実際に核兵器放棄に追い込まれれば、金正日政権そのものが崩壊する可能性がある”としたうえで、核武装を正当化させないため、アメリカは軍事攻撃しないとの確証を与えるべきだとの考えも示しています。
【“敵基地先制攻撃論”】
韓国はともかく、日本の核武装については、国内に表立ってのそうした主張は今のところはさほど強くは出ていません。
しかし、北朝鮮の暴走に苛立つ自民党のなかには、アメリカへの“本当に守ってくれるのか”という疑念もあって、“敵基地先制攻撃論”が強まっているようです。
****敵基地攻撃論 ムードに流れず冷静に*****
政府が今年末に改定する「防衛計画の大綱」に向けて自民党国防部会の小委員会が基本了承した提言に、巡航ミサイルなど「敵基地攻撃能力」の保有が盛り込まれた。北朝鮮の弾道ミサイル発射により党内で盛り上がった議論を反映したものだ。
攻撃兵器の保有は、憲法9条を根拠にした国防戦略である専守防衛のあり方にかかわるほか、近隣諸国との外交や東アジアの安全保障情勢への影響、さらにこれが危機への現実的対応であるかどうかなど検討課題は多い。冷静な対応が必要である。
政府は、相手国が日本を攻撃する意図を明示し、燃料注入などの準備を開始するなどの条件の下では、敵基地を攻撃するのは法的に可能との立場を取っている。しかし、日米安保体制を基軸に自衛隊が「盾」、米軍が「矛」を担うという役割分担によって、日本は攻撃能力を持つ兵器を保有してこなかったのが現実だ。
今回の敵基地攻撃論の背景には、米国に「矛」の役割を果たす意図がないのではないか、という日米安保体制に対する懐疑的な見方が横たわっているようだ。これに北朝鮮のミサイル発射・核実験という事態が加わって、「座して死を待たない防衛政策」(提言)という主張は、一見わかりやすいように映る。しかし、ここは慎重な検討が求められる。
一定の条件下であっても、相手国の攻撃前に敵の基地をたたくことは「防衛目的の先制攻撃」である。事実上、専守防衛原則の見直しに他ならない、との指摘がある。専守防衛は、日本が戦前の反省に基づいて平和国家の道を歩むことを対外的に明確にする役割を果たしてきた。この見直しにあたっては、特に近隣諸国との外交に及ぼす影響について精査しなければならない。
また、攻撃兵器の保有は、安全保障上の抑止力を高める目的であっても、結果的に相手国が軍備増強で対抗することで軍拡競争を生むという「安全保障のジレンマ」を引き起こす懸念がある。東アジア情勢を不安定化させる可能性を否定できない。
さらに、防衛上の有効性という現実的な問題もある。相手国の攻撃の意図と準備の見極めは簡単でない。その情報をどうやって得るのか。ほぼ日本全域を射程内に置く北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ノドン」は、山岳地域の多数の地下施設に配備され、移動して発射される。燃料注入などを察知して先制攻撃で破壊するやり方は移動式弾道ミサイルには有効でないというのが専門家の見方である。
具体的な危機には、日米同盟の文脈の中で対処するのが筋であろう。「防衛計画の大綱」は近く行われる総選挙後の新政権が閣議決定する。地に足をつけた議論を求める。【6月1日 毎日】
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【「安全保障のジレンマ」と不測の事態のリスク】
常識が通用しない北朝鮮ですが、日本や韓国にミサイルを撃ち込んで報復を受けずに無事にすむとは思っていないでしょう。
もちろん、そうしたリスクがゼロとは言い切れません。
ただ、日本が「敵基地攻撃能力」の保有で、先制攻撃もありうる・・・という事態になれば、当然、北朝鮮側もそれを前提に、日本側を出し抜くような対応も考えるでしょう。
記事にもあるような、疑心暗鬼の軍拡競争という「安全保障のジレンマ」をもたらします。
お互いが発射ボタンに指を置きながらの緊張状態からは、不測の事態も起こり得ます。
そちらのリスクの方が、先のリスクよりははるかに大きいように思えます。
先日の長距離ミサイル発射のときの“誤報”騒ぎはまだ記憶に新しいところですが、単に“お粗末”という話ではなく、一刻を争う緊張状態ではあのような人為ミスはいつでも起こりえます。
お互いが発射ボタンに指をかけた状態での“誤報”は、誤報ではすまない事態を招きます。