(5月の空爆事件が起きた直前の4月23日 アフガニスタン西部ファラー州Bakwaを定期パトロールするアメリカ海兵隊 その任務は地元民との交流を深めて地域の治安維持をはかり、地元治安部隊育成によって対テロ戦闘を遂行すること・・・とのことですが、なかなか思惑のようには展開していません。
“flickr”より By larryzou@
http://www.flickr.com/photos/httpblogsinacomcnhomeofbeijingpeople/3547738502/)
【オバマ政権で急増した空爆】
アフガニスタンでの空爆は、民間人犠牲者を多く出すことでアフガニスタン地元の批判を強めることも指摘されていますが、オバマ政権になって以来この空爆が急増していました。
****アフガン空爆:過去最多…1~4月投下数、07年比3割増****
オバマ米大統領が対テロ戦争の主戦場に掲げるアフガニスタンで、米軍と国際治安支援部隊(ISAF)による空爆が急増。オバマ政権が誕生した今年1月から4月末までに投下された爆弾の数は1000個を超え、年間を通して過去最多だった07年の同時期より3割増えていることが分かった。オバマ大統領は昨年の大統領選で米軍の空爆による民間人被害を問題視したが、ブッシュ前政権時代より事態が深刻化する可能性が指摘されている。(中略)
アフガンでは07年から、武装勢力による手製爆弾(IED=即席爆発装置)攻撃が激化。厳しい天候や起伏の激しい地形により米軍やISAFの地上での活動が制限され、これを補う形で空爆の頻度が高まっている。
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、昨年の戦闘で死亡した民間人は過去最悪の2118人。55%がタリバンなど反政府勢力による攻撃が原因だが、39%は米軍などによるものとしている。【5月31日 毎日】
*****************************
米軍が空爆に依存する背景には、戦闘の長期化に伴う駐留軍の兵員不足もあると言われています。
ゲーツ米国防長官も今年4月、アフガニスタンのテレビに「もっと駐留軍が増えれば、空爆の必要性は少なくなる」と語っています。今後の米軍の増派により、今夏は戦闘のさらなる激化が予想されています。【5月31日 毎日】
【「双方とも市民の命に関心を払っていない」】
私がボルネオ島でGWの観光旅行を楽しんでいた頃にも、アフガニスタン西部のファラー州で米軍主体の部隊による空爆があり、民間人を含む多数の死者が出ました。
****アフガニスタン:NATO軍空爆でタリバンら約30人死亡*****
アフガニスタン西部ファラ州当局は5日、4日夜の北大西洋条約機構(NATO)軍による空爆で、市民や武装勢力タリバンのメンバーら計約30人が死亡した模様だと発表した。空爆はタリバンと交戦したアフガン軍を支援するためで、民家も爆撃されたという。戦闘は続いており、ロイター通信によると住民の1人は「双方とも市民の命に関心を払っていない。カルザイ大統領は我々を助けてほしい」と訴えた。【5月5日 毎日】
***********************
直後の米軍発表によると、「この地区での戦闘は、アフガニスタン人以外の戦闘員を含む多数のタリバン戦闘員が引き起こしたもので、タリバンは2つの村に集結し、村人に金を払うよう要求した。またタリバンは警察の検問所も攻撃し、数人の負傷者が出た。州政府はANSFと外国部隊に支援を求めた。激しい戦闘が数時間続いたため、外国部隊が航空機による戦闘支援を要請した。」とのことです。
上記第1報では30人とされた犠牲者の数ははっきりせず、直後のAFP報道では、死者は100人とも報じられていました。
非戦闘員の死者数については、167人とする報告もありましたが、米国防総省は最大で50人とするなど、発表者によって大きく異なる数字が出されていました。
米軍とアフガン国家治安部隊の共同調査チームは、全ての死亡者は集団墓地などに埋葬されたため死亡者の正確な人数や、死亡者のうちタリバン戦闘員と民間人の内訳を出すことは不可能だと報告しています。
カルザイ大統領は訪米中の8日、米CNNテレビに女性と子どもを含む125人から130人が死亡したと語り、空爆は容認できないとアメリカを非難しました。【5月10日 AFP】
この事件を受けて、アフガニスタン下院は11日、政府に対し、外国軍の空爆を規制する法案の作成を求める決議を全会一致で採択しました。
また、10日には首都カブールで空爆に抗議する大規模な反米デモが行われ、デモ参加者の学生らが「米軍の虐殺は許容できない」と訴えたとのこと。【5月11日 読売】
【アメリカの方針転換 空爆制限】
一方、ジョーンズ米大統領補佐官(国家安全保障担当)は10日の米ABCテレビのインタビューで、民間人犠牲者の増加で問題になっているアフガンでの空爆について、「民間人が犠牲にならないように一層の努力をする」としながらも、「空爆を行わないと言うのは、軽率なことだ。司令官らが手を縛られて作戦を行うようなものだ」と述べ、継続する方針を示しました。【5月11日 毎日】
こうした事態に関係するのかはわかりませんが、ゲーツ米国防長官は11日、アフガニスタン駐留米軍のデビッド・マキャナン司令官を解任し、後任に統合参謀本部筆頭部長のスタンリー・マクリスタル中将を充てる人事を発表しました。
戦争中に司令官が事実上、解任されたのは、朝鮮戦争の際の1951年に、当時のトルーマン大統領と対立したマッカーサー連合国軍最高司令官以来という異例の措置とも報じられています。
解任理由については、“アフガンでの対テロ戦の勝利には、米軍内部に巣くう、過去の軍事常識にとらわれた発想を一掃し、軍事作戦と民生支援を両輪とするテロ対策を展開すべきだとする、長官やマレン統合参謀本部議長の強い意向が働いたとの見方もある” とも報じられています。
解任されたマキャナン司令官のもとでは地元治安部隊の育成が進まず、また、駐留米軍の規模拡大にこだわる一方で、地元治安部隊や民間人と連携を強めてイスラム武装勢力の締め出しを図る方針に消極的だったとも。【5月12日 読売】
6月20日、米軍は、5月4日におきたファラー州での空爆による民間人犠牲について、「駐留米軍と地上部隊は戦闘規定に従って行動していた。だが米軍のB-1爆撃機による3回の空爆が戦闘規定の一部を順守していなかったために少なくとも26人の民間人の犠牲者が出た。」とする調査結果を発表しました。
調査報告は、アフガニスタン駐留米軍が民間人の犠牲者を出さないことを最優先する戦術の採用が不可欠だとしています。
また民間人に犠牲者が出る可能性のある状況で空爆を実施する場合はもちろん、そのほかのすべてのケースでの戦闘規定の見直しと、アフガニスタンの関係省庁と協調した広報活動の強化、各地域のNGOとの綿密な協力関係の確立、民間人の犠牲者が出た恐れがある場合に速やかに対応する調査チームが必要だとしています。【6月20日 AFP】
これを受ける形で、新任のアフガニスタン駐留米軍トップ・マクリスタル陸軍大将はアフガニスタンでの空爆を制限する方針だと報じられています。
****アフガンでの空爆制限=米軍****
22日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、アフガニスタン駐留米軍トップで国際治安支援部隊(ISAF)の司令官に着任したマクリスタル陸軍大将が、一般市民への被害を抑えるため、同国での空爆作戦の実施を限定する方針を固めたと伝えた。
それによれば、マクリスタル大将は米軍などが敗走の危機にひんした場合に限り、空爆を容認するとの意向を表明。反政府勢力タリバンとの交戦でも、戦闘が人口集中地域で起きている場合、限定的な空爆にとどめるという。【6月22日 時事】
*******************
【地元住民の支持を求めて】
米軍を主体とする、そして日本を含めた世界の多くの国々が参加・支援する、アフガニスタンでのタリバンとの戦闘が思うように進まず、逆にタリバン支配が拡大する背景には、空爆等による民間人犠牲者が増大する現実に対するアフガニスタン地元民の反発があるとも言われています。
(一般市民の犠牲を顧みないという点では、タリバンは米軍以上ですが。)
また、アフガニスタン国民の間での反米感情が激化は、戦闘遂行を危うくします。
そこで、アフガニスタン地元住民の支持を獲得するものとして行われているのが、軍と文民が一体となった地方復興チーム(PRT)の取組みです。
賛否両論あるPRTですが、日本からも文民4人が派遣され、リトアニア軍との共同作業が始まっています。
長くなってきたので、PRTの取組み等については、明日以降に。