(村の長老達と話し合うPRTチーム 文具や衣類の提供と併せて、村の状況について話し合われます。民生支援は軍事的作戦行動・情報収集と表裏一体となっています。 “flickr”より By Army.mil
http://www.flickr.com/photos/soldiersmediacenter/3150680106/)
【手製爆弾に振り回されるハイテク米軍】
昨日のブログで、今年にはいり急増していたアフガニスタンにおける米軍の空爆について、民間人犠牲者の発生によって地元住民の支持を失い、国民の反米感情を刺激して、この地域での戦闘を更に困難にすることから、空爆制限の方向が出されたことを取り上げました。
米軍が空爆に頼るようになっていたのは、兵員不足のほか、武装勢力タリバンによる手製爆弾(IED=即席爆発装置)攻撃の激化や厳しい天候や起伏の激しい地形により米軍やISAFの地上での活動が制限されていることがあります。
手製爆弾(IED)については、【6月28日 毎日】の報告がその状況の一端を伝えています。
***アフガン:装甲車の真下で爆音…記者は宙に浮いた****
「ドン」。記者が乗り込んだ大型装甲車の真下で、武装勢力の仕掛けた手製爆弾(IED=即席爆破装置)が爆発した。アフガニスタン駐留米軍の同行(エンベッド)取材で、パキスタンとの国境沿いの南東部パクティカ州を移動中だった。記者を含め乗員5人は無事だったが、装甲車の後部車輪(直径1メートル)は30メートル以上吹き飛ばされ、車体後部は破壊された。仕掛け爆弾の脅威を体感することになった。
今月15日、クシュマン米軍前線基地から車列を組み、北東へ約10キロの村に入る直前のことだった。爆音とともに、車両の下から巨大な金づちで一撃されたような衝撃を受けた。重さ15キロの防弾チョッキを身に着け、シートベルトで固定した記者の体が軽々と宙に浮き、次の瞬間、座席にたたきつけられた。白い砂煙が車内に充満する。「大丈夫か」。兵士の叫ぶ声が聞こえた。
「このへんは昨日5回も通ったのに」。運転手のスミス上等兵(21)が悔しそうにつぶやいた。爆弾は夜間に仕掛けられたらしい。
アーサー軍曹(24)が後方の車両から近づく衛生兵に気づき、「戻らせろ」と無線で叫んだ。ウルフ特務曹長(44)が声を張り上げた。「来るな。第2の爆弾にやられるぞ」。緊急避難のため車両から降りる足が震えた。
ハイテクを駆使した米軍が、武装勢力の単純な手製爆弾に手を焼いている。今年で9年目を迎えた対テロ戦争で、世界最大の米軍に、アフガニスタンの武装勢力タリバンなどはゲリラ戦術で挑んでいる。同乗していた大型装甲車がIED攻撃に遭い、対テロ戦争が生んだ「非対称の戦闘」の一端を、見ることになった。
「車両の重みに反応する爆弾だ」。爆発跡を見た米兵が断言した。イラク戦争では、武装勢力は米軍車両を確認して携帯電話などの電波で起爆させる爆弾を多用。米軍は電波を妨害する装置を開発した。だがアフガンでは、「イラクより技術レベルは低い」(米軍)ものの、無差別型が多く、対策は確立されていない。現場の脇には子供たちが通うマドラサ(イスラム神学校)や民家があった。武装勢力は、住民の犠牲をもいとわない無差別攻撃を繰り返している。【6月28日 毎日】
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基地から10kmですが、爆弾を警戒しながら迂回して来た爆発物処理班が到着したのは2時間半後。
リモコン操作の小型ロボットを現場に走らせ、別の爆弾がないことを確認。壊れた装甲車をレッカー車につないで基地に戻ったのは、爆発から7時間後。
“1個の手製爆弾にハイテク米軍が振り回された。前線基地で司令に当たっていたコナー大尉は「武装勢力との戦いは、どこが前線で誰が敵なのかさえはっきりしない。この戦争は、難しい」と語った。”【6月28日 毎日】
【PRTで民生支援】
一方、地元住民の支持を取り付けるべく行っている米軍病院での地元住民治療のルポ。
場所はアフガニスタンにある米軍最大の医療施設、バグラム病院。入院患者の8割が地元住民。
****アフガニスタン:終わり見えない生への戦い…米軍病院ルポ****
集中治療室のベッドに、ひときわ小さな体が横たわっていた。無数のチューブがつながれている。武装勢力の爆弾で腹部に多数の金属片を受けたが、命を取り留めた。「名前は確認できていません」と看護師が言った。
車椅子を押しながら、リハビリに励む少年がいた。アジズ・ラハ君(10)。バグラム米空軍基地東方の自宅前で、武装勢力タリバンとアフガン軍の戦闘に巻き込まれ手足に銃弾を受けた。「アメリカ人は優しいよ」と笑顔で話す。だが、兄(22)は「治療はしてもらったが、米国を好きになったわけではない。タリバンも子供たちの遊び場に地雷を埋めるから嫌いだ」と語った。(中略)
病院関係者の一人は「地元の人々の治療は親米感情を促し、武装勢力に関する情報収集にもつながる」と語る。
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「武装勢力との戦いは、どこが前線で誰が敵なのかさえはっきりしない。この戦争は難しい」という状況にあって、より積極的に住民の支持を得て、経済・社会の復興によってタリバン支配拡大に対抗していこうという取組みが軍と文民の共同チームによるPRT。
地域ごとに拠点を設け、軍が治安維持や警察支援などを担い、文民が教育や保健分野の復興支援に当たります。
日本は自衛隊派遣の見通しが立たない中、アフガニスタン政策について、オバマ米政権が軍事だけでなく民生支援も重視する方向に転換したのを受け、文民派遣で米国を後押しするかたちで、政府職員四人を派遣することを決めています。
リトアニア軍と協力して日本が行う初のPRT事業は女子小中学校の建設です。
村には「青空教室」しかなく、「女の子だけでも屋根の下で授業を受けさせたい」と村が8年前から州政府に陳情していたものです。
****アフガニスタン、日本文民チームが復興支援開始****
迷彩服の兵士が銃を携える姿に、(PRTに派遣された)官沢さんは「兵士と行動することが、住民への圧迫になっていないかという心配はある」と話すが、村の期待は大きい。村民の多くは日本を「裕福な国」として知っていたが、日本人を見るのは初めてという。村民のザイ・フセインさん(45)は「学校建設は村の悲願。日本人が来てやっとかなえてもらえる」と言う。(中略)
石崎さんらは、高さ約10メートルの土のうに囲まれる基地で、リトアニア軍の指揮下に入り、兵士約200人と寝食をともにする。食事などは軍が提供し、日本は文民1人当たり1日約50ドルをリトアニアに支払う。
兵士は2人部屋だが、文民には1人1部屋が与えられる。トイレ、シャワーなどは共用だ。石崎さんらは、ここで約2年間にわたって、このような活動を繰り返す。
日米など7か国の国旗や国際治安支援部隊(ISAF)の旗が基地にはためいていた。ISAF兵らの死亡を意味する「半旗」だった。比較的安定しているゴール州だが、住民の襲撃事件や路上爆弾で軍車両が破壊される事件も起きている。日の丸を見上げ、官沢さんは「旗が普通に揚がったのは1日しかありません」とつぶやいた。【6月26日 読売】
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PRTについては、これまでアフガニスタンで独自の活動を行ってきたNGOなどからは、軍と共同で行うPRTによって、NGOの活動も軍の宣伝活動の一環と見なされ、これまでのような活動ができなくなるという懸念・批判があります。
一方で、軍の協力なしには入れないような地域での活動も大規模・広範囲に可能になるメリットもあります。(批判する側からすれば、軍と無関係であることをはっきりさせれば、軍の協力などなくても活動できるということになるのでしょうが)
広い国土の復興を早急に進めるためには、PRTのような方法が現実的であるようには思えます。
【汚職度176位】
そのアフガニスタンでは、大統領選挙が8月20日に行われます。
選挙管理委員会は13日、候補者要件などを審査した結果、現職のカルザイ大統領ら41人の立候補を承認したと発表しています。
汚職・不正が横行する政府(各国政府の汚職度を示す指数でアフガニスタンは180カ国中176位)、成果のあがらない復興、更に空爆などでのアメリカ批判などで、アメリカは現在のカルザイ大統領に見切りをつけたいところのようですが、代わりがいないのが現実で、選挙戦も知名度に勝るカルザイ大統領が圧倒的に有利な展開とも言われています。
選挙戦に立候補している前財務相のガーニ氏は痛烈にカルザイ大統領を批判しています。
「カルザイ政権の陣容を見ると、タリバンの台頭を許した時代に戻ってしまったようだ。高潔さのかけらもなければ、行政能力もない連中を起用している。」
「(閣僚・知事等のポストをばら撒いており)選挙に勝つために政府を競売にかけたようなもの。」
「この国にとっての最大の脅威は弱者をむさぼる現政権だ。タリバンが巻き返したのはなぜか。正義と経済発展を期待した国民が、裏切られたと感じているからだ。」【7月1日号 Newsweek日本語版】
いくら米軍や日本が民生支援で住民の支持を得ようとしても、現地政府が国民を裏切るような状況では戦闘も復興もありません。
ガーニ氏が大統領になればこうした状況が大きく変わるのかどうかはわかりませんが、タリバンとの戦闘も、経済復興も、政治状況も、それぞれの要素が悪循環的に絡み合ってなかなか明るい兆しが見えない現状です。