(シウダフアレス09年8月31日 ナイトクラブ外のフェンスに手錠で固定され、射殺された若者
REUTERS/Alejandro Bringas (MEXICO CONFLICT CRIME LAW POLITICS SOCIETY IMAGES OF THE DAY) “flickr”より By rebeca_falcó
http://www.flickr.com/photos/rebeca_falc/4174683952/)
【3年間で1万5千人死亡】
メキシコでの「麻薬戦争」がいっこうに収まる気配がありません。
メキシコのカルデロン大統領は06年12月の就任後、麻薬組織の拠点に数万人の軍と連邦警察を派遣、「麻薬戦争」を開始しました。軍の投入は麻薬組織と関係が深い地元警察を排し、相手の重武装化に対抗するためと言われています。政府と組織の戦いに加え、政府側の攻撃で組織側の緊張が高まり、組織間の縄張り争いも激化しています。
政府統計によれば、メキシコ全土では、麻薬抗争の激化を受けて過去3年間で麻薬に関連して1万5000人が死亡しています。死者の9割は組織関係者とされ、残りの多くは兵士や警察官。
長期化する「戦争」に国民も疲弊し、メキシコ国民の半数が麻薬戦争で治安が悪化したと考えており、より安全になったと考える人は21%しかいなかったとも。【4月7日 Newsweek日本版より】
****メキシコ北部で子どもら10人殺害、麻薬組織の抗争か****
メキシコ北部ドゥランゴ州で28日、麻薬組織のメンバーとみられる武装集団が高速道路を走行中の車を襲撃し、乗っていた子どもら10人を殺害した。
ドゥランゴ州の検察当局によると、殺害されたのは8歳から21歳の若者で、武装集団は銃や爆発物を使って襲撃。同州では地元の麻薬組織間の縄張り争いが激化していたという。
麻薬組織の抗争が収まりを見せないメキシコでは、1月末に北部のシウダフアレスで、高校生らがパーティーを開いていた民家に武装集団が押し入り、15人が死亡する事件が発生。また、今月にも同市で米国領事館に勤務する米国人女性と夫など3人が殺害されている。【3月30日 ロイター】
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上記は被害者に子供が含まれていたため、たまたま記事になったものと思われますが、同様の事件は国際ニュースにもならないぐらいに頻発しているようです。
****メキシコ麻薬抗争、前週末だけで100人以上死亡*****
メキシコで前週末、麻薬密輸組織に関連した抗争が多発し、シウダフアレスで米領事館関係者とその夫が殺害されるなど、前週末だけで100人以上が死亡した。
最悪の被害となったのは、観光地として有名なアカプルコのあるゲレロ州。同州では麻薬組織「ラファミリア」が活発に活動をしており、警察によると、前週末だけで45人が殺害された。
また、チワワ州でも36人が殺害された。そのうち20人の殺害はシウダフアレスで発生している。
シウダフアレスでは麻薬組織が米国への密輸ルートの支配をめぐる抗争を続けており、2009年の1年間で麻薬に関連して2600人以上が殺害された。【3月16日 AFP】
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3年間で1万5千人、週末だけで100人以上が殺害される・・・・アフガニスタンや、イスラエル侵攻時のガザ地区(08年末から09年1月に行われた22日間のイスラエル侵攻による犠牲者は1434人、うち民間人が960人)といった戦闘地域並の数字です。麻薬抗争というより、やはり「麻薬戦争」です。
【移住そして密輸の最前線 シウダフアレス】
2009年の1年間で麻薬に関連して2600人以上(1日平均7人超!)が殺害されたシウダフアレスは、アメリカ・テキサス州エル・パソとリオ・グランデ川をはさんで向かい合う国境の町で、サンディエゴの隣町ティファナのようにアメリカ側から買い物・観光でも気軽い入れる町です。
人口は120万人、エルパソ市街から約10分。メキシコ第4位の人口を誇るシウダフアレスは、輸出工業が盛んな工業都市、そしてアメリカ・メキシコ国境貿易の中枢都市でもあり、アメリカ移住(合法・違法を問わず)の基地でもあります。
シウダフアレスのマキラドーラと呼ばれる工業地帯で働く人々の一時間の自給はだいたい1.5ドル(約200円)。アメリカでの最低賃金は5.5ドル。最低賃金で働いたとしてもメキシコの5倍とのことで、この格差が人を吸い寄せます。
(「On the Border」http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Library/1912/ciudadjuarez.html#「ビエンベニ―ドス・ア・メヒコ」 より)
それは同時に麻薬密輸の最前線ということでもあり、お気軽な買い物ツアーからは想像できない“戦闘地域”でもあるようです。「シウダフアレスはバグダッドやカブールより危険だ。国軍は麻薬組織を取り締まっているが、警察はおじけづいて手が出せないか、買収されることが多い」(元米麻薬取締政策局長)
【「1台で米市場1年分のヘロインを運べる」】
メキシコ側からアメリカへ麻薬が流れ、アメリカからメキシコへは銃器が持ち込まれます。
メキシコに関する記事の見出しを並べるだけでも、麻薬戦争の激しさが窺えます。
***メキシコの刑務所で麻薬組織メンバーが衝突、23人死亡【1月21日 ロイター】
***メキシコ麻薬組織、警官ら6人の頭部を教会に遺棄【09年12月17日 ロイター】
***メキシコ麻薬カルテルの300人逮捕【09年10月23日 時事】
***メキシコの麻薬組織、敵対する10人の首切り死体を遺棄【09年10月18日 ロイター】
***メキシコの薬物更生施設で10人射殺、麻薬組織の抗争か【09年9月17日 ロイター】
***麻薬戦争で刑務所がパンク寸前【09年9月10日 Newsweek】
***麻薬治療患者を並ばせ17人銃殺…メキシコ【09年9月3日 読売】
“80年代初めにカリブ海とメキシコ湾で取り締まりを強化したため、密輸は米メキシコ間の陸上ルートに移った。だが、陸上の国境警備の強化は時間の無駄だ。月50万台近いコンテナが国境を往来しているが、1台で米市場1年分のヘロインを運べる。米国からメキシコへの銃の密輸もそれほど難しくない。”【09年8月24日 毎日】という状況で、国境で麻薬の流れを断つのは困難な状況です。
昨年末には、軍が組織の“ボス”を殺害したことが報じられています。
***メキシコ海軍、麻薬撲滅作戦で「ボス中のボス」を殺害****
メキシコ海軍の部隊は16日、最重要指名手配犯の1人とされていた麻薬密輸組織のリーダー、アルトゥロ・ベルトラン・レイバ容疑者を、同国中南部クエルナバカで殺害した。海軍関係者が明らかにした。
同容疑者は「ボスの中のボス」と異名を持つ大物で、カルデロン大統領が2006年から軍隊を投入して乗り出した麻薬撲滅作戦にとって大きな弾みになるとみられる。
匿名の海軍大尉によると、海軍部隊はクエルナバカにある同容疑者の高級住宅を襲撃し、6人のボディガードとともに殺害したという。
メキシコでは過去3年間で、麻薬組織間の抗争や治安部隊による作戦で、1万6000人以上が死亡。治安問題の専門家は、同容疑者の死亡が短期的には大統領による撲滅作戦の勝利となるものの、別の組織がすぐに台頭するだろうと分析している。【09年12月17日 ロイター】
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これも、記事にあるように“別の組織がすぐに台頭するだろう”ということでは・・・。
ただ、これだけ激しい抗争が続けば、やがて組織は自滅していくのでは・・・とも思われますが、大きな経済格差のなかでの一攫千金の麻薬ビジネスはそれでも続くのでしょうか。
【コロンビアでできたのだからメキシコでも・・・】
前出【09年8月24日 毎日】で、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のマーク・クライマン教授(公共政策)は、麻薬の最大の消費国であるアメリカが果たすべき役割について、“暴力的な麻薬組織を特定し、幹部を刑務所に入れることだ。米捜査当局は市民の麻薬乱用を防ぐため、末端での売買を取り締まろうとして失敗した。メキシコの麻薬組織から直接仕入れている元締に集中する必要がある。だが、仕入れ先に応じた柔軟な捜査は行われていない。”と語っています。
【4月7日 Newsweek日本版】では、メキシコ側の問題点として、司法制度の腐敗がひどく、非効率で、適切に犯罪者を罰することができないこと、そして、拠点地域への社会投資が不足しており、仕事も教育もない多くの若者が麻薬組織に取り込まれていることを挙げています。
3月23日、アメリカのクリントン国務長官がメキシコを訪問し、犯罪が蔓延する地域の法執行と社会開発に3億3100万ドルの支援を行うことを発表しています。
コロンビアのウリベ政権は、強力な施策で国内麻薬組織抑え込みに成果をあげています。
メキシコの「麻薬戦争」の出口は?