孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン核開発問題  追加制裁に向けて中国も協議に参加 ただし、実効性は疑問

2010-04-09 22:31:13 | 国際情勢

(3月10日 アフガニスタンを訪問してカルザイ大統領(右)とともに記者会見にのぞむイラン・アフマディネジャド大統領(左) 欧米主導のアフガニスタン復興に異議を唱え、隣国として独自に強く支援する意向を表明しました。“”より By United Nations Assistance Mission in Afghanistan
http://www.flickr.com/photos/unama/4421745949/)

【今秋にも核兵器能力を得る可能性】
イランの核開発疑惑については、07年12月に一部公表されたアメリカの「国家情報評価」(NIE)において「03年秋から停止している」とされたことで、イラン核施設空爆といった強硬手段は留保されました。
しかし、イランが核開発を再開しているとのその後の情報で、英仏独は、イランが今秋にも核兵器能力を得る可能性があるという見方になっているようです。
アメリカもNIEを見直すのではないかと観測されています。

****イラン評価見直しか 米NIE、核開発再開の情報*****
「イランの核兵器計画は2003年秋から停止している」と指摘した米機密文書「国家情報評価」(NIE)が見直されるとの見方が欧州で強まっている。
NIEは米国の安全保障について中央情報局(CIA)などが集めた情報をまとめた文書。ブッシュ前米政権下の07年12月、一部公表され、「は核兵器計画を07年半ばの時点で再開させていない。核兵器用高濃縮ウランの製造技術を身につけるのは10~15年の間になろう」と指摘した。
当時、イランの核兵器開発を止めるため武力行使の可能性が取りざたされたが、NIEの公表でこの選択肢は排除された。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、イスラエルの情報機関は「イランは最高指導者ハメネイ師の指示でミサイルに搭載できる核弾頭開発を05年に再開した」と分析。英情報機関も「ハメネイ師の指示で核兵器計画は03年に停止されたが、04年後半か05年前半に再開した」との情報を入手した。英仏独は、イランが今秋にも核兵器能力を得る可能性があるとみている。
国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長が2月18日、イランの核兵器開発に懸念を示す報告書を理事国に配布したのはこうした情報が根拠になっている。
米情報機関は今年、NIEを更新する準備に入ったと伝えられている。元米国務次官補代理で英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック上級研究員は「前回から2年以上も経過しており、ミサイル搭載の核弾頭の設計を再開したと付け加えるとみている」と述べている。【4月4日 産経】
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こうした事情を背景に、3月30日、カナダの首都オタワ郊外ガティノーで開催していた主要8か国(G8)外相会合は、イランへの国連安全保障理事会の追加制裁決議採択に向け、「適切で強固な手段を取る」などとした議長声明を採択しました。
議長声明は、イランのウラン濃縮を「重大な懸念」とした上で、「核計画の平和性に強い疑念を抱かせる」と明記しています。

【ロシア あいまい作戦で利益引き出しを狙う】
国連安全保障理事会の追加制裁決議については、イランと従来より関係が深いロシア、最近経済的な関係を強めている中国という、拒否権を有する2カ国の賛同が得られるかが以前から焦点になっています。

ロシア・プーチン首相は3月、アメリカ・クリントン国務長官のロシア訪問の際、「決議採択の可能性はある」と言明する半面、「制裁が常に問題解決に役立つばかりでなく逆効果となる場合もある」と述べて含みを残した立場をとっています。
****イラン制裁、同調迫る米 露、あいまい作戦****
・・・決議採択に中国の説得が不可欠な現状をにらみ、態度を鮮明にしないことで自らの存在感を誇示するロシアの思惑がうかがえる。(中略)ただ、イランに対するロシアの影響力は中国のそれの比ではなく、核開発を思いとどまらせる政治力はロシアにはないとの見方もある。モスクワの評論家、ピカエフ氏はBBCロシア語放送に対し、「ロシアとイランの貿易高は約20億ドルだが、中国は石油・天然ガス関連を中心にほぼ1000億ドルをイランに投資している。(制裁の可否は)ロシアではなく中国の判断しだいだ」と述べた。
イランに先立って北朝鮮の核問題が国際社会の議論となった2000年代前半には、ロシアの北朝鮮に対する政治・経済面での影響力が中国に比べて乏しいことが明らかになった。対イラン関係でも類似した状況が現れつつあるようにみえる。中国との共同歩調を維持しつつ、欧米から利益を引き出すのがロシアの狙いといえそうだ。【3月21日 産経】
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ただ、ここにきて、従来より追加制裁決議への協力姿勢を見せ始めています。
8日、プラハで核兵器の削減に向けた新たな軍縮条約に、オバマ米大統領とともに調印したメドベージェフ大統領は、「制裁はめったによい結果をもたらさない」ともコメントして、米欧主導の対イラン追加制裁の動きに引き続き慎重に対応する構えを見せつつも、イランが核開発に関する建設的な提案に応えなかったことは遺憾だとし、安全保障理事会による追加制裁が必要かもしれないと指摘、追加制裁に向けた協議で協力していく姿勢を示しています。

【板挟みの中国】
追加制裁決議のカギを握るのは中国です。
****ジレンマの中国 イラン制裁 原油確保に黄信号****
米欧からイランに対する制裁支持を求められる中、中国政府が内政と外交のはざまでジレンマに陥っている。
中国外務省の秦剛報道官は3月30日の記者会見で、「中国は核兵器の拡散とイランの核兵器保有に反対する」と発言。返す刀で「イランは主権国家として核を平和利用する権利がある」と述べ、対話を通じて平和的に解決すべきだという従来の主張を繰り返した。

米国主導で進む制裁案協議には、中国と歩調を合わせてきたロシアまでもが前向きな姿勢を示している。国際的に孤立することは中国政府も望んではいない。だが、北朝鮮制裁決議には同意しても、イラン制裁案には簡単に首を縦に振れない理由が中国にはある。
温家宝首相は3月22日の経済討論会で「失業者が2億人」と明かした。今後、産業の高度化に伴い雇用創出はさらに困難となる。社会の安定のためには経済成長の持続が不可欠で、現在の8%成長がギリギリの線といわれている。
成長を支える資源の確保は、体制維持を至上命題とする共産党政権にとっては重要案件の1つ。重要な原油供給国であるイランとの関係悪化は内政問題に直結しかねず、それがあいまいな態度の背景にありそうだ。【4月1日 産経】
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中国外務省の秦剛副報道局長は4月1日の定例記者会見で、イランの核開発問題に関連し「原子力の平和利用計画であっても国際原子力機関(IAEA)の監督を受ける必要がある」などと述べ、イラン側に譲歩を促しています。資源をめぐり関係が深いイランと、制裁を求める米国の間で板挟みになっている中国としては、イランに譲歩を促すことで事態の打開を模索した動きとみられています。

【協議には参加、されど・・・】
2日、オバマ大統領は中国の胡錦涛国家主席と電話で会談し、イランの核開発を阻む国際的な取り組みに中国も加わるよう要請。
これまで中国は追加制裁には消極的な立場でしたが、アメリカ側と非公式に協議を重ねた結果、胡錦濤国家主席が12日からワシントンで開かれる核保安サミットに出席することとあわせて、対イラン追加制裁を協議する会合への参加を同意しました。

****6カ国、イラン追加制裁に前進へ 初の大使級会合*****
国連安全保障理事会の5常任理事国にドイツを加えた6カ国の国連大使らは8日、ニューヨークで、ウラン濃縮を拡大・継続するイランへの追加制裁に関する初の大使級会合を開き、安保理決議草案の内容などを協議した。草案の内容で合意には至らなかったが、来週にも次回会合を開くことで一致した。ロシアのチュルキン大使らが会合後、記者団に明らかにした。
ライス米国連大使は会合前、記者団に「数週間以内に(採択)できるよう動いている」と発言。慎重姿勢を続けていた中国が先月末に6カ国による電話協議に復帰したことと合わせ、制裁決議採択に向け、前進する可能性が出てきた。
安保理外交筋は「米国は、5月の安保理議長国はイラン追加制裁に反対姿勢のレバノンであるため、日本が議長国を務める4月中の採択を目指している」と指摘した。
6カ国の国連大使らはこの日、約3時間、決議草案の細かい文言などについて協議。米国は、イランの核開発に深く関与する革命防衛隊や関連企業を対象にした金融制裁を提案しており、厳しい内容を求める米国と、内容を弱めたい中国、ロシアとの間で突っ込んだやりとりがあったとみられる。【4月9日 共同通信】
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中国が協議に参加したことで、追加制裁への一応の道筋は見えてきましたが、中国としては実効ある厳しい制裁ではなく、形式的な「政治的ジェスチャー」にとどめる意向とも言われています。
****イラン制裁議論に加わる中国の皮算用*****
核開発を続けるイランへの追加経済制裁に向けた国連安全保障理事会の話し合いに中国が「参加する」意向を示したことを、欧米外交筋は喜んでいる。だが結果については多くを期待していない。
安保理での議論の結果は非常に限定されたものになるだろう、イランの主要な貿易相手国で追加制裁に長い間反対してきた中国が許容するのは、イランの神権政治に実際に痛手を与える制裁措置ではなく「政治的ジェスチャー」だ----と、ヨーロッパのある外交官は言う。
しかし安保理の常任理事国で制裁決議への拒否権を持つ中国が、名ばかりとはいえ追加制裁に合意すれば、国際社会に歩み寄らず野蛮な振る舞いを続けるイランに対して、古くからの盟友も辟易しているという「メッセージ」を送ることができる。
(中略)しかしイランへの武器輸出の制限など、ヨーロッパ諸国が求めるような厳しい制裁に中国など安保理理事国の支持は得られそうにない。
欧米外交筋によると、石油の探査・生産に関する技術の移転に対する締め付けも追加制裁として議論されそうだ(中国が必ずしも認めるとは限らないが)。
しかし国連安保理、特に中国がイランへの精製石油の供給を止めさせるようなより強硬な追加制裁に同意する、と期待する欧米の外交官は現状ではほとんどいない。【4月2日 Newsweek】
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まあ、中身よりは、まずは中ロを含めた国際社会のなんらかの合意が得られれば、一定の成果というところでしょう。

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