孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  総選挙で与党圧勝 「スリランカのミャンマー化」懸念の声も

2010-04-10 16:20:33 | 国際情勢

(09年5月 「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」制圧を祝って握手するラジャパクサ大統領(左)とフォンセカ政府軍参謀長(当時) その後ふたりは大統領選挙を争い、与野党に分かれて総選挙を戦い、フォンセカ氏は軍の拘束下にあります。 “flickr”より By South Asian Foreign Relations
http://www.flickr.com/photos/menik/3543057508/)

【3分の2の議席確保に近づく勢い】
スリランカでは、1月に行われた大統領選挙で、反政府勢力「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」に対する掃討作成功を業績に掲げて、現職のラジャパクサ大統領が勝利しました。
更に、ラジャパクサ大統領は、同じく掃討作戦の功労者でもある、敗れた野党統一候補のフォンセカ前政府軍参謀長を大統領暗殺計画が発覚したとして拘束するほか、政権に批判的だったメディア幹部の逮捕や、フォンセカ氏に近い軍幹部12人の解任などの反対派の粛清を行うなかで、2月9日議会を解散して総選挙を強行しました。

議会の任期は4月下旬までありましたが、1月の大統領選の勝利の勢いに乗り、総選挙を前倒しして与党の勝利を確実にする狙いがあると報じられていました。
実際、4月8日に投票が行われた総選挙の結果は、ラジャパクサ大統領の目論見どおり与党圧勝の結果となっています。

****スリランカ総選挙、与党が勝利宣言 改憲目指す構え*****
スリランカ総選挙(一院制、定数225)は9日、開票作業が進み、今年1月に再選を果たしたラジャパクサ大統領の与党が過半数を獲得した。大統領の実弟バシル・ラジャパクサ大統領特別顧問は朝日新聞の取材に対し「我々は勝利した」と宣言。憲法改正に必要な3分の2の議席確保にどれだけ近づくかが焦点となっている。

投票は8日に行われた。国営テレビの集計によると、全体の8割の議席が確定した段階で、与党・統一人民自由連合(UPFA)は117議席を獲得。多数派シンハラ人が住む南部、中部、西部の農村地帯で圧倒的な強さを見せているほか、北部ジャフナ地区で2議席上積みするなど、少数派タミル人の地域でも議席を伸ばしている。
野党側は、大統領選の野党統一候補で軍の拘束下から立候補したフォンセカ前政府軍参謀長の率いる人民解放戦線(JVP)が、地盤の南部各地でほとんどの議席を失ったほか、民族政党のタミル国民連合(TNA)が苦戦した。
与党候補陣営による投票妨害や、投票箱の強奪事件があり、一部の選挙区で再選挙が実施されるため、比例代表制の29議席を合わせた全議席が確定するまでに1週間程度はかかる見通しだ。

昨年5月に内戦を軍事解決したラジャパクサ大統領は今回の勝利を受け、権力基盤の一層の強化を図るとみられている。バシル・ラジャパクサ特別顧問は「UPFAは約140議席を得るだろう」と述べ、125程度ある現有議席を大きく上回るとの見方を示した。
与党は改憲に必要な150議席に届かない場合でも、野党の当選者を引き抜いて、改憲を目指すとみられている。その場合、小政党に不利な小選挙区制の導入や、現行憲法では認められていない大統領3選に道を開く可能性が指摘されている。【4月9日 朝日】
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【憲法改正の動き】
政府は前回04年選挙と同様、支持者間の暴力的な対立が起きる恐れが高いとして、全国に治安部隊約5万9000人を配置、暴力的な衝突を抑え込みました。
野党側は「野党地盤の選挙区で、多くの野党支持者が投票できなかった」と主張。反政府機運のある東部州では、避難民支援団体が「多くのタミル人に有権者カードが配布されなかった」と訴えるなどの動きもありますが、選挙結果は動かないでしょう。

強権的政治姿勢・汚職体質・兄弟3人を政権の中枢に据えるなどの縁故主義・少数派タミル人の人権侵害・内戦における民間人犠牲などで欧米国際社会では評判の悪いラジャパクサ大統領ですが、内戦終結を歓迎する多数派シンハラ人の支持が根強いことを、大統領選挙に引き続き、今回総選挙結果は示しています。

再起を図るべく、拘束のもとで立候補、選挙戦に臨んだフォンセカ前政府軍参謀長でしたが、「野党の顔」として野党勢力を束ねていた同氏の逮捕で野党側は求心力を失い、非常事態宣言下で強い治安権限を持つ政権側による関係者や支持者の相次ぐ逮捕で勢いを失いました。

ラジャパクサ大統領・与党は憲法改正に必要な、3分の2、150議席を目指していますが、もし実現すれば、小政党に不利な小選挙区制の導入や、大統領3選を可能にする改憲を行う方向と言われています。
選挙制度の変更が行われると、少数派タミル人の声は、今以上に政治に届きにくくなります。
シンハラ・タミルの国民和解という課題への悪影響が懸念されます。

【「スリランカのミャンマー化」】
地理的、歴史的にスリランカはインドと深いつながりがあります。
国際資金援助という点では、日本も最大の援助国です。
しかし、近年、スリランカとの関係を強化しているのは中国です。
反対派を粛清して権力基盤を固めるジャパクサ大統領の強権政治姿勢は、中国との関係強化もあって、中国とのつながりが深い軍事政権国家ミャンマーになぞらえて、「スリランカのミャンマー化」との指摘もあります。

****【巨竜むさぼる 中国式「資源」獲得術】第3部 真珠の首飾り(4)*****
・・・・スリランカへの最大の援助国は日本である。援助額は累計で9千億円を超す。これに対し、昨年、年間ベースで最も多くの援助を行ったのが中国だった。
道路、発電所、ハンバントタ港といった開発案件に計12億ドル(約1128億円)を借款として拠出。一国だけで、外国からの援助総額22億ドル(約2068億円)の半分以上を占めた。
スリランカ政府が昨年、25年以上に及ぶ反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)との内戦を終わらせることができたのも、中国からの軍事支援抜きには考えられない。中国は戦闘機6機を無償で提供したほか、大量の武器を供与した。
内戦激化とともに、ラジャパクサ政権による少数派タミル人への人権侵害などを米欧諸国が問題視。そのすきに、中国のマネーが流入し中国企業が大型案件の受注を重ねていった。アフリカの問題国家で見られたのと同じ構図である。
中国の進出に警戒を強めているのがインドだ。中国に対抗して、スリランカ北部で鉄道や火力発電所の建設支援に乗り出した。ただ、インド国内には、ラジャパクサ政権に反感を抱くタミル人が6千万人以上住んでいるだけに、世論にも配慮しなければならない。

スリランカの経済学者、ハーシャ・デ・シルバ氏は「中国は援助に何の条件も付けない。汚職や腐敗対策のため、本来ならばその透明性を高めていかなければならないのに」と危機感をあらわにする。
スリランカ政府に批判的な有識者からは、「スリランカのミャンマー化」を懸念する声も上がっている。軍政下のミャンマーでは自由と民主主義が大きく制限され、対米欧関係が悪化する代わりに、中国との関係は緊密さを増している。

もっとも、スリランカでは、複数政党参加の選挙が地方から国政レベルまで実施されており、1990年以来、複数政党による選挙が行われていないミャンマーとは異なる。
ただ、今年1月の大統領選でラジャパクサ大統領のライバルとして戦ったフォンセカ前軍参謀長も、逮捕容疑が明らかにされないまま軍法会議にかけられている。政府に批判的なジャーナリストの殺害や失踪(しっそう)も後を絶たない。
また、中国の軍情報部門から専門家を招いてインターネットの規制にも着手、反政府系サイトへのアクセスが難しくなっている。
ある政治評論家は「経済的に依存する中国に見返りを求められたら、スリランカ政府は言いなりになるしかない」と断じる。
8日の総選挙では、ラジャパクサ大統領を支える政権与党の勝利が確実視されている。「ミャンマー化」に歯止めがかからない。【4月5日 産経】
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“民主化”“人権”という価値観に配慮を払わない中国の姿勢は、その国内にとどまらず、ミャンマー、北朝鮮、スリランカ、スーダンなど世界各地に問題を拡散させているように思われます。
中国やイランなどの、従来の政治価値観とは異質な国家の台頭、その影響の国際的拡大、旧ソ連諸国におけるカラー革命の破綻などの背景には、いわゆる“民主化”が混乱と無秩序、内紛をもたらすものでしかないという苦い現実認識があります。
現代は、“民主化”“人権”“自由”という価値観を重視する欧米的な“民主主義”の真価が問われる時代のようにも思われます。

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