
(核保安サミットでのオバマ大統領と胡錦濤国家主席 “flickr”より By smilekorean
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【胡錦濤主席 イラン・為替で柔軟姿勢】
2月から3月にかけては、台湾への武器売却問題、ダライ・ラマ14世とオバマ大統領の会談、グーグル撤退に絡むインターネットの自由の問題などで米中間の軋轢が強まるなか、人民元の切り上げを求めるアメリカ側が為替操作国認定を取り上げれば、中国側は米国債売却をほのめかすというという緊張状態にありましたが、胡錦濤国家主席の核保安サミット出席に向けての動き、および訪米中のオバマ大統領との会談で、再び米中の協調路線をアピールする形に変化しています。
****米中、イラン制裁視野に協力へ 中国は人民元改革に意欲*****
オバマ米大統領は12日、核保安サミット出席のため訪米した中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席と会談した。両首脳はイランの核開発疑惑をめぐり、国連安全保障理事会の追加制裁決議も視野に入れ、協力を進めることで一致した。オバマ大統領は対ドル相場での人民元の切り上げを求め、胡主席は具体的な言及は避けつつも、人民元改革を実施する意欲を表明した。
両首脳の会談は昨年11月のオバマ大統領の訪中以来。今年1月以降、米国の台湾への武器売却問題やチベット問題などで揺れた米中関係だが、会談は両国が再び協調路線に進むことを示した形だ。
ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のベーダー・アジア上級部長が会談後の電話会見で明らかにしたところでは、両首脳は「イランは国際的な核不拡散の義務を果たさなければならない」との認識で一致。安保理常任理事国にドイツを加えた6カ国による対イラン追加制裁の協議で、両首脳が「制裁決議について作業を進めるように双方が(自国の)代表団に指示することで合意した」という。
中国は追加制裁に消極的な姿勢を示してきたが、ベーダー氏は中国側が「米国とともに取り組む用意があるとはっきり示した」と述べた。中国外務省の馬朝旭報道局長によると、胡主席も「(イラン核問題の)対話と協議を通じた問題解決を前向きに求める」と強調。そのうえで「中国と米国の総体的な目標は一致したものだ。中国は、米国とほかの国々や国連との意思疎通と協調を保ちたい」と語ったという。
人民元問題については、オバマ大統領が「中国が、より市場指向の為替相場に移行することが、持続可能でバランスのとれた世界経済の回復に重要だ」として切り上げを求めた。中国外務省によると、胡主席は「外部の圧力で人民元改革を行うことはありえない」とする一方、内容には触れなかったが、「中国が進める人民元為替制度改革の方向性を堅持する」とした。
胡主席は台湾問題やチベット問題について「中国の核心的な利益にかかわる問題で、中米関係の妨げにならないよう慎重に対応してほしい」と要請。オバマ大統領は「米国は『一つの中国』政策を堅持し、中国の主権と領土保全を尊重する」と表明した。【4月13日 朝日】
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【メンツを失わないで対米協調態勢を再び組みたい】
こうした流れについては、イラン追加制裁問題で中国の賛同を得たいアメリカ、アメリカとの全面対決を避けたい中国の思惑・利害が一致した結果と見られています。
****米中首脳会談 中国譲歩、対米協調へ転換 全面対決避け「実利」*****
12日の米中首脳会談はこのところ対立をあらわにしていた両国の歩み寄りを強く印象づけた。この米中再協調の背景には両国のそれぞれの実利を踏まえての柔軟な動きがあるが、中国側の譲歩がより大きいといえるようだ。
・・・・中国との全面的な対立は、イランや北朝鮮の核問題など目前の課題の解決を難しくするという判断から、オバマ政権は3月はじめスタインバーグ国務副長官らを中国に送り、同政権が「一つの中国」や「台湾、チベットの独立への反対」という基本政策を不変とする立場を再言明するなど、オリーブの枝を差し出した。
中国はこれに応じる形で、イランへの追加制裁の許容や胡主席の核安保サミット参加という方針を米側に伝えるようになった。オバマ政権はさらにそうした譲歩を助長するように、4月15日に予定していた「為替操作国の発表」を延期することを決めた。
こうした微妙なやりとりについて、戦略国際研究センター(CSIS)の中国研究学者、ボニー・グレーザー氏は「米国政府側は中国がメンツを失わないで対米協調態勢を再び組みたいと望んでいることを察知して、巧みに動き、中国側もそれに応じ、より大きな譲歩をする結果となった」と論評した。
米中関係の動向に詳しいワシントン・ポストのジョン・ポンフレット記者も、最近の両国間の再接近を追った長文の記事で「中国がより多くの譲歩をした」と報じた。だがこの米中再協調の構図も両国の当面の利害関係の産物であり、米側では中国の一党独裁や大軍拡への反発は水面下でゆるがせにしていない。そんな米国に対し中国がより多くの譲歩をしたという今回の展開は、中国側がまだまだ米国との全面的対決を避けたいとする基本姿勢をまた露呈させたのだといえよう。【4月14日 産経】
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今回、胡主席はイラン追加制裁問題に関して、「中国と米国の総体的な目標は一致したものだ。中国は、米国とほかの国々や国連との意思疎通と協調を保ちたい」と語り、イラン問題への協力を表明しています。
もっとも、ストレートに制裁に賛同・・・という訳ではありません。
“ただ中国は制裁発動には慎重な姿勢を崩していないとみられ、今回の会談でも直ちに制裁に賛同する言質は与えなかった模様だ。中国は既に、安保理常任理事国5カ国とドイツによる制裁協議に応じている。”【4月13日 毎日】
仮に賛同するにしても、相当に骨抜きした形式的な制裁案になるのではないでしょうか。
【中国の経済運営状況を総合的に考えると・・・】
アメリカの中国に対する為替操作国認定延期は、このイラン追加制裁協力との“取引”だったとの見方もあります。
****中国に対する為替操作国認定延期=イラン制裁との取引だった?米高官は否定―米メディア******
2010年4月5日、米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカによると、ローレンス・サマーズ米国家経済会議(NEC)委員長は中国に対する為替操作国認定の延期はイラン制裁問題との外交取引ではないと否定した。環球時報が伝えた。
先日、米財務省は中国に対する為替操作国認定の延期を発表した。当初は胡錦濤(フー・ジンタオ)国家主席が参加する核サミット終了後の15日に発表される予定だった。延期の引き替えに、米政府が求めるイラン制裁決議案への協力を取り付けたのではないかと一部では噂されている。
サマーズ委員長はABCの取材に答え、噂を否定した。報告に必要な情報を集めるにはさらに多くの時間が必要なためだと説明している。また国際社会における米国の経済的利益は守られているとも強調した。【4月6日 Record China】
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“取引した”とは誰も公言しないでしょうが、同時並行する問題について総合的勘案がなされたことは想像に難くないところです。
人民元切り上げ問題については、オバマ米大統領は13日、核安全保障サミット後の記者会見で、「中国人民元が過小評価されている」とした上で、より市場実勢に基づく為替制度が中国経済の移行を後押しするとの見解を示し、「予定表はないものの、中国が(人民元改革で)いずれ決定を下すことを望む」と、改めて切り上げに向けた改革を促しています。
胡錦濤国家主席はオバマ米大統領との会談で「具体的な(為替)改革の措置は、世界経済情勢の変化と中国の経済運営状況を総合的に考える必要がある」と述べています。
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は8日、中国人民元の対ドル相場の小幅な上昇と日々の相場の柔軟化を容認する方針について、「中国政府が数日中の発表を準備している」と報じていました。
“中国の経済運営状況を総合的に考える”と、インフレ対策のため、中国としても切り上げを容認する余地があります。
****中国の不動産価格、過去最高の上昇 人民元問題に影響も*****
中国国家統計局が14日発表した3月の70都市の不動産価格指数は、平均が前年同月より11.7%上昇した。2008年1月の11.3%を上回り、05年7月に月ごとの統計を取り始めて以降、最も高い上昇率になった。不動産価格急騰が中国当局に人民元引き上げを促す材料になる可能性もある。(中略)
不動産価格の上昇は、中国内でだぶつく資金が不動産市場に流れこんでいるのが要因だ。米ドルに対する人民元の相場上昇を抑えようと中国当局が「元売りドル買い介入」をしているため、中国内に人民元資金がたまるという為替介入の「副作用」と言える。
中国の胡錦濤国家主席は12日のオバマ米大統領との会談で「具体的な(為替)改革の措置は、世界経済情勢の変化と中国の経済運営状況を総合的に考える必要がある」と述べており、不動産価格の動向なども見極めるとみられる。【4月14日 朝日】
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人民元切り上げで輸出産業が打撃を受けると、国全体の経済成長にブレーキがかかり、国内社会問題に火がつく危険もあります。一時的な現象ではありますが、中国の3月の貿易収支が6年ぶりに赤字となる可能性が高いことも報じられています。
ただ、国内社会問題云々はインフレになっても話は同じです。
経済格差の拡大を背景にした国内社会問題をにらみながら、また、外国の圧力に屈したという形にならないように“メンツ”を保ちながら、慎重に検討中というところでしょう。
いずれにしても、緊張していると言っては注目をあつめ、協調に転じたと言ってはまた注目を集める米中関係です。