(12日行われたオバマ米大統領と胡錦濤国家主席の米中会談
“flickr”より By edjane obama
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【もうひとつの国際会議】
アメリカは今月6日に発表した核戦略指針「核態勢見直し(NPR)」の中で、「核拡散防止条約(NPT)を順守する非核保有国に対し、米国は核攻撃しない」としていますが、NPT加盟国のイランは、条約を順守しているとは見なされず、新たな政策からは除外対象とされています。
また、今月12、13日にアメリカ主導で開かれた47カ国の首脳が参加した「核安全保障サミット」期間中、イランへの制裁決議採択の鍵を握る国々の首脳との会談を積極的にこなし、協力を迫ったと言われています。
特に、中国の胡錦濤国家主席とは約90分の会談時間の大半をイラン問題に費やしたそうです。また、非常任理事国で制裁に消極的なトルコのエルドアン首相とも会談しています。
こうしたアメリカの対イラン追加制裁へ向けた動きに、イラン側は反発を強めており、NPRについては「核による脅しだ」としています。
また、アメリカ主導の「核安全保障サミット」に対抗する形で、イラン政府主催の「核軍縮・不拡散国際会議」を開催、独自の姿勢を国際社会にアピールしています。
****イラン:「核軍縮を主導」国際会議始まる 米に対抗、追加制裁回避狙い*****
イラン政府主催の「核軍縮・不拡散国際会議」が17日、首都テヘランで2日間の日程で始まった。核開発問題でイランへの追加制裁が国連安保理で検討され、5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも米欧諸国から非難が予想される中、イランは会議を通じ国際社会との関係を強化し、何とか追加制裁を回避したい考えだ。
アフマディネジャド大統領は会議冒頭の演説で、米国を繰り返し批判し「拡大主義を取る高慢な国の政策によって核軍縮が進まず、世界の安定が損なわれている」と指摘。また、「残念ながら国連安保理も国際社会の持続的な安定を実現できていない」とし、安保理をけん制した。
イラン政府は会議参加者を約60カ国約200人と発表しているが、AFP通信によると、外相はレバノンやシリア、イラク、トルクメニスタン、オマーンなど周辺国や友好国8カ国にとどまり、残り多くは軍縮担当者やNGO(非政府組織)関係者とみられる。ロシアやアラブ首長国連邦(UAE)、カタールからは外相代理が参加した。(中略)
しかし、こうした国際会議の一方で、イランは国連安保理決議を無視しウラン濃縮活動を継続している。安保理には、このままイランの同決議違反を放置することは安保理の権威を損ないかねないとの認識も出ている。
こうした中、今回の会議に、レバノンは外相を派遣し、イランへの気遣いをみせた。レバノンは5月の国連安保理議長国に当たっており、追加制裁を巡る協議に影響する可能性もある。【4月18日 毎日】
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安保理議長国は4月が日本、5月がレバノンです。
レバノンは、イランの影響力が強いイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが昨年6月の国民議会選挙で敗退こそしたものの、野党連合の主軸として閣内にも2ポストを持つ国で、挙国一致内閣を組閣したサード・ハリリ首相としてもヒズボラの意向を無視できません。
そのため、アメリカは「日本が議長国を務める4月中の採択を目指している」と言われています。
従来からイラン追加制裁に消極的な中国が追加制裁協議に加わる形になって、とりあえずの道筋は見えてはきましたが、まだ紆余曲折が予想されています。
【「不可能とはいわないまでも非常に難しい」】
****対イラン制裁 月内採択なお微妙 中国参加も米欧と距離*****
核開発を続けるイランに対する追加制裁をめぐる国連安保理常任理事国5カ国とドイツによる初の大使級会合が8日、ニューヨーク市内で開かれた。かねて制裁に慎重な姿勢を示してきた中国が参加し、議論は具体化に向け前進した形だが、一方で中国はなお話し合いによる解決に力点を置く姿勢を崩しておらず、オバマ米大統領がめざす「数週間のうちの制裁実現」にはまだ遠いのが実情だ。(中略)
中国の李保東大使は「協議は今まで通り(交渉の余地を残しつつ制裁についても議論を進める)複線型のやり方を取っている」と述べ、追加制裁の議論に急激な弾みが付くことへの牽制をにじませた。(中略)
中国は先月末、6者間電話協議で追加制裁の協議参加に同意。さらにワシントンで開かれる核安全保障サミットへ胡錦濤国家主席が出席するなど、冷え込んでいる米中関係改善の思惑も絡んで、このところ米国への接近が目立つ。
だが、議論はまだ決議案草案に向けたたたき台の段階。中国の姿勢転換で追加制裁の必要性について一応の合意が得られたとしても、個別の制裁内容についてはなお、米欧と中国の間には距離がある。
国連外交筋は「月末までの採択は、不可能とはいわないまでも非常に難しいことはまちがいない」と話している。【4月10日 産経】
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バーンズ米国務次官(政治担当)は14日の上院軍事委員会の公聴会で、国連安保理の対イラン追加制裁について、「米中はイランに強いメッセージを送らなければならないとの点で一致している。安保理決議の採択は可能だ」と述べ、中国が決議を支持するとの見通しを示して、数週間内の決議採択を目指しているとしました。
ただ、石油取引を対象にした制裁は中国とロシアの支持が得られず、「非常に困難」とも述べています。【4月15日 時事より】
同日14日、6カ国の国連大使はニューヨークで2回目の会合を開いていますが、中国の李保東・国連大使は「非常に建設的な協議をした。互いの立場がより理解できた」とし、制裁をめぐる協議が前進していることを認めたも報じられています。
【中国“最善の戦略はのろのろと時間を稼ぐこと”】
イラン追加制裁決議が可能かどうかは、中国がカギを握っていますが、アメリカへの協力姿勢を示したとも言われる中国の本音は、アメリカがイラン問題の泥沼に足をとられる状態がこのまま継続することにあるとの指摘もあります。
****イラン制裁で中国に翻弄されるアメリカ******
米政府は忘れているようだが、現実主義の立場から見れば中国が本当に「イエス」と言うはずはない
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)
ニューヨーク・タイムズ紙などが報じたところによると、核開発を進めるイランへの経済制裁強化を求めるアメリカに対し、中国が同調する用意があるという。ニューヨーク・タイムズの記事には「イラン制裁について中国が対米協力を約束」という見出しがついているが、中身はちょっと違う。
同紙によれば4月12日、中国の胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が新たなイラン制裁のための「交渉に参加する」ことに同意した。一方で記事は、追加制裁を遅らせたり骨抜きにするために交渉を利用する、という中国にお決まりのパターンも指摘。(中略)
中国の態度は当然のものだろう。イランに深刻な影響を与える経済制裁に乗り気でない理由が山ほどあるからだ。まず、中国はイランの石油・ガスに対する権益を確保し、イランに投資する道を残しておきたい。中国にとってイランは今や第2位の石油・ガス輸入相手国で(中国の消費量の15%を供給)、イランにとって中国は第2位の輸出相手国だ。中国はイランに多額の投資もしている。将来的に中国の石油需要が高まるのは必至だから、中国政府が対イラン関係を悪化させるとは考えられない。
第二に、イランの核問題に対して中国が楽観的であることが挙げられる。核開発について、中国はより現実的な考えを持っているからだ。
中国の指導者たちは、64年に中国自身が核実験を行ったとき、地政学的に大した影響力が得られなかったことをよくわかっている。核保有国になっても台湾やベトナム、朝鮮半島やその他の場所で支配権を得たり、脅威的存在になることはなかったと自覚している。
中国の台頭はわずかな核兵器を持つことではなく、経済発展をすることでもたらされた。イランの核にも同じことが当てはまるというのが中国政府の考えだ。だから中国は、イランが核兵器開発を断念することを望みながらも、最悪の場合に備えて多大な代償を払うつもりなど毛頭ない。
しかもアメリカとイランの関係が(爆発しないまでも)くすぶり続ければ、長い目で見て中国の利益になる。中東や中央アジアとの関係でアメリカが苦戦すれば、中国は戦略的に大きな恩恵を受ける。アメリカがイラクやアフガニスタンに何兆ドルも費やしながら、同時にイランと対立し続けるのを見て、中国がほくそ笑んでいるのは間違いない。
結局、アメリカがイランに時間とカネと精力と政治力を費やせば費やすほど、中国の長期的な野望に対処できなくなってしまう。アジアにおける影響力を確立し、アメリカに取って代わろうとする野望だ。
アメリカとイランの関係悪化は、外交や投資面で中国に大きなチャンスを与える。中国が最も望まないことが、イラン核問題の迅速な解決だ。それでアメリカとイランの緊張緩和の道が開かれれば、中国の影響力は縮小し、アメリカがこれまで見ていなかった地域に目を向けるようになるからだ。
とはいえ中国も、ペルシャ湾岸で戦争が勃発する事態は避けたい。石油価格が(少なくとも一時的に)上昇し、世界経済が再び不況に陥り、そのほか予想外の結果がもたらされる恐れがあるからだ。
だから中国は、アメリカと同盟国が対イラン経済制裁をめぐってゆっくり議論を続けることを願っている。イランとの対立は続いてほしいが、武力行使は実現してほしくないからだ。
中国にとって最善の戦略はのろのろと時間を稼ぐこと。つまり、制裁強化に反対しないまでも、決して「イエス」と言わないことだ。中国はいずれ何らかの追加制裁に合意するだろう(イランの輸出が途絶えた場合、中国への石油供給を何らかの形で保証すると、アメリカがなりふり構わず約束してからかもしれないが)。
だがイランのウラン濃縮活動を断念させるほどの厳しい内容にはならないだろう。議論は続き、アメリカの指導者はそれに多くの時間と労力を費やし、中国は長期的な利益を伸ばし続ける。
残念ながらそれが現実主義の初歩というもの。アメリカ政府がそれを忘れているようなのが残念だ。【4月14日 Newsweek】
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別にアメリカ政府も“忘れている”訳ではなく、ただ、どういう事情であれ、中国が表向き協力姿勢を示すようになったことの意味合いは小さくない・・・ということでしょう。
“中国の台頭はわずかな核兵器を持つことではなく、経済発展をすることでもたらされた”との認識はそのとおりでしょう。
議長国日本の岡田外相は、16日、ライス米国連大使と約40分にわたって会談。核開発を続けるイランへの国連安保理の制裁決議をめぐるアメリカ側の姿勢の説明を受けたとのことです。