孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ソマリア  増加する海賊、出口の見えない内戦、国際支援も困難

2010-04-15 22:29:30 | 国際情勢

(2月18日 ソマリアの首都モガディシオ 道路わきの爆弾で死亡した死亡した男性の遺体 AFP PHOTO/MUSTAFA ABDI
“flickr”より By Giacomo Polinari  http://www.flickr.com/photos/46788688@N02/4389079141/

【音楽に代えて馬のひづめや波の音を放送】
事実上の無政府状態が続くソマリアからの奇妙なニュース。
****ソマリアのラジオ局、音楽を禁止され動物の鳴き声を放送*****
アフリカ東部ソマリアの首都モガディシオで13日、ラジオから流れていた音楽が止まり、代わりに動物の鳴き声や足音が放送された。市内の大半を実効支配するイスラム武装勢力の1つが、ラジオ局による音楽放送を禁止したためだ。
同国のジャーナリスト団体によると、武装勢力ヒズブル・イスラムは、音楽が「イスラム教に反する」として、放送禁止を通告。一部のラジオ局に対し、10日間以内に従わなければ処罰すると警告した。
これを受けて、市内14社の民間ラジオ局はすべて音楽の放送を停止した。このうち3社は音楽に代えて馬のひづめや波の音を放送し、抗議の意を示した。
あるラジオディレクターは、禁止令に不満はあるとしたうえで、「われわれの命にかかわる恐れがあるので従うしかない」と話した。ソマリア人ジャーナリストの1人は、「独立系メディアを沈黙させようとする武装勢力側の作戦が始まったのではないか」「次は女性ジャーナリストらが標的となるかもしれない」と懸念を示した。両者とも安全上の理由から、匿名を条件に語った。
同国では1991年から事実上の無政府状態が続き、ヒズブル・イスラムは国際テロ組織アルカイダ系の反政府武装勢力アルシャバブとともに、モガディシオを含む南部一帯を実効支配している。【4月14日 CNN】
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アフガニスタンのタリバン同様の教条主義的頑迷さが感じられます。
人々は、娯楽も、女性の権利も認められない息苦しさのなかでの生活を強いられます。

【ケニア 「我々には国際的責任の重荷を背負いきれない」】
最近、各国が海軍などを派遣して一時注目を集めたソマリア近海での海賊はあまり話題になりませんが、単にニュース的新鮮さがなくなったためとりあげられなくなっただけで、別に改善した訳ではないようです。
****ソマリア沖海賊襲撃、09年は198隻 2年前の10倍****
米国務省は18日、海賊が横行するアフリカ東部ソマリア沖・アデン湾で、2009年に貨物船など198隻が襲撃されたと発表した。
海賊対策にあたる国は米国や日本を含む47カ国に増えたが、海賊が活動範囲を広げ、2年前に比べて襲撃件数は10倍に急増した。これについて同省のカントリーマン次官補代理(政治・軍事問題担当)は、海賊行為を防いだ割合も高くなっていると国際社会の取り組みの成果を強調した。
09年に襲撃された198隻のうち、乗っ取りなどが「成功」した事例は50隻。現在も7隻が海賊に乗っ取られ、中国、台湾、ドイツ、ロシアなどの船員計160人が人質になっている。一方、海賊ら襲撃行為に加わった706人が拘束され、300人がケニアなどで訴追されたという。
襲撃件数は07年が19隻(うち「成功」例12隻)、08年は122隻(同42隻)だった。
カントリーマン氏は広範囲を警戒するための偵察機などを導入できないか検討していることを明らかにした。
大型の貨物船が年間3万3千隻航行するこの海域は、広さが516万平方キロに及ぶ。小型漁船も無数にあり、海賊船を見分けるのが極めて困難な状況だという。【2月20日 朝日】
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ソマリアが内戦で事実上の無政府状態のため、海賊を拘束しても、どこで訴追するかが問題となりますが、現在は隣国ケニアがこの役割を引き受けています。しかし、そのケニアも限界状態となっており、今後の海賊対策への支障が懸念されています。

****海賊収容もう限界!訴追引き受けケニア「連れてくるな」*****
ソマリア海賊対策として、海上を警備している欧州連合(EU)諸国や米国が逮捕した海賊の訴追を引き受けてきたケニアが、裁判所や刑務所の負担が大きすぎるとして、これ以上の海賊受け入れを拒む方針を決めた。ケニアは周辺地域で最大の海賊訴追引き受け国。今後の海賊対策に支障が出るおそれがある。
ウェタングラ外相は1日、「我々は最近、幾つかの国が訴追を求めてきた海賊を拒否している。別の場所を探してくれと伝えている。我々には国際的責任の重荷を背負いきれない」と語った。
ケニアはEU、米国、カナダ、デンマーク、中国、英国の艦船が捕まえた海賊を裁判にかけ、有罪になった海賊をケニア内の刑務所で刑に服させることで合意している。その見返りとしてケニア政府は、司法・矯正施設の改善支援のために国連機関から計100万ドルの支援を得てきた。これまでに訴追した海賊は100人以上に上るという。
だが、普段から手続きの遅れが問題になっている裁判制度や、過密状態が批判されている刑務所を抱えるなか、支援だけでは乗り切れない状態に陥っている。AFP通信によると、すでにデンマーク、英国との合意は撤回され、近くEUにも撤回が通知される見通しだという。これらの国は、別の引き受け国を探さなければならない。
逮捕された海賊に関しては、アフリカ東部の島国セーシェルも受け入れているが、小国のため対応できる人数には限界がある。【4月5日 朝日】
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【止まない内戦】
海賊が横行するのは、ソマリア国内が内戦状態にあるためで、そこをなんとかしない限り、海賊問題も改善しないのは皆が指摘しているところですが、そのソマリア国内の状態は相変わらずです。
****ソマリア:首都モガディシオで戦闘 市民20人が死亡*****
ソマリアの首都モガディシオで2日、暫定政府軍とイスラム武装勢力アルシャバブとの間で激しい戦闘があり、病院関係者によると、市民少なくとも20人が死亡した。AP通信が伝えた。
軍当局者によると、アルシャバブがモガディシオ南部で攻撃を仕掛けてきたという。ソマリアに展開するアフリカ連合(AU)平和維持活動(PKO)部隊が、軍を後方支援した。
軍は、勢力を拡大するアルシャバブに対して大規模掃討作戦を行うタイミングをうかがっているとされ、緊張が高まっている。【4月3日 毎日】
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暫定政府と言っても、首都モガディシオの、そのまた一部を支配しているだけと言われています。
反政府武装勢力の主要組織は、上記毎日記事にあるイスラム原理主義勢力の「アルシャバブ」と、冒頭朝日記事にあるイスラム勢力の「ヒズブル・イスラム」です。
アルカイダとの連携を深める「アルシャバブ」のほうが、“思想信条で妥協を許さない”【ウィキペディア】ということのようですが、冒頭記事を見ると、どっちもどっちのようにも思えます。

ただ、「アルシャバブ」や「ヒズブル・イスラム」にしても、あるいは暫定政府軍にしても、厳格な区分けがされている訳でもなく、こっちからあっちへ寝返ったり、内輪で戦ったり、反政府組織同士で戦ったり・・・と、自分たち以外は皆敵といった混乱状態のようです。

【滞る国際援助活動】
内戦の混乱で、国際援助活動も一時停止に追い込まれています。
****飢餓拡大の恐れ=食料援助停止、100万人に影響-ソマリア南部*****
暫定政府側とイスラム系反政府武装勢力アル・シャバブの戦闘が続くソマリアで援助活動を行ってきた世界食糧計画(WFP)が先週、治安悪化が著しい同国南部での活動を一時停止する方針を発表した。武装勢力からの攻撃が激化し、職員の安全確保が不可能となったため。食料援助を必要とする約100万人に影響が出る見通しで、紛争で困難な生活を余儀なくされている住民の飢餓が一層拡大する恐れがある。
ナイロビ駐在のWFPスポークスマンは5日、「(活動停止の)決断をなるべく遅らせてきたが、現状ではリスクが高過ぎる」として、ソマリア南部にある6カ所の地方事務所を閉鎖すると発表した。【1月11日 時事】 
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住民の命綱でもある国際援助の多くが不正流用されているとの話もあります。
****ソマリア食糧援助、半分が不正流用と国連報告書*****
国連ソマリア監視団はこのほど、ソマリアに届けられた援助食糧の半分が日常的に他の目的に流用されているとして、世界食糧計画(WFP)の管理手法を問う報告書を作成した。
報告書は、国連安全保障理事会制裁委員会に提出される。AFPが入手した報告書は、本来は入札で決定されるべきWFPの援助食糧の輸送業者について、事実上のカルテルが存在し、過去12年以上にわたって3個人とその親族・友人が援助物資輸送ビジネスにおける収入の80%を独占していると非難している。
報告によると、WFPとの輸送契約はソマリアにおける最大の収入源となっており、この3人の請負業者の収益は2009年1年で2億ドル(約180億円)に上った。3人は今や国内で1、2を争う富豪になり、強大な影響力を行使しているほか、武器の販売への関与や武装勢力との結び付きも指摘されているという。
報告書は、ソマリアに対する人道支援はその大部分が食糧援助で構成され、その大半はWFPの管理下にあるとしている。
WFPはこれらの指摘について、「根拠のないうわさ」だと否定している。【3月11日 AFP】
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こうした地域では、国際支援物資を運ぶトラックを襲おうとする者が群がるため、前方を遮る人間がいても決してブレーキをかけてはならない、引き殺しても止まってはいけない・・・そんな話をどこかで読んだような記憶もあります。平和時の常識とはかけ離れた世界です。
半分が不正流用されても、残り半分が住民の手に渡るなら、それでよしとすべきものかもしれません。
問題は、半分が住民の手にわたるのかどうか・・・というところでしょう。
国連のPKO活動は失敗して1995年に撤退、現在ソマリアに展開するアフリカ連合(AU)平和維持活動(PKO)部隊は暫定政府を支えるのが精一杯の状況です。

なお、“外務省アフリカ第2課によると、日本は06~09年度に、人道支援や海賊対策などの名目で総額約1億2040万ドルを支援すると決めている。うち、2月現在での実績は8520万ドル。国内にある暫定政府や自治政府(ソマリランド)はいずれも国家として承認していないため、2国間援助ではなく、国連機関を通じて行っている。”【3月18日 毎日】とのことです。

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