孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“危機の出口がほのかに見えてきた”欧州経済  ドイツ総選挙で注目されるギリシャ追加支援

2013-09-16 23:02:13 | 欧州情勢

(ドイツ・ハノーバー 9月7日 「反ユーロ」を掲げる新党AfD「ドイツのための選択肢」の集会 今のところAfDの支持率は2~3%程度にとどまっているようです。“flickr”より By Gideon Ben Joshua http://www.flickr.com/photos/88336440@N04/9697482687/in/photolist-fLW8Kn-fMdQGy-fMdB25-fMdC8q-fLWg1K-fMdEjU-fLW6sF-fMdGb7-fMdFeu-fMdCfq-fLWeGa-fMdLv7-fMdMEL-fLWfjF-fMdPn7-fMdLyQ-fMdJfb-fMdMZW-fMdP35-fMdLow-fMdNtb-fLWcjz-fMdPqS-fMdLaq-fLW1ke-fMdLrd-fLW1et-fLWed8-fLWgSZ-fLWcA8-fMdPYS-fLWc7T-fLWcgB-fMdQem-fLWc3v-fMdMoQ-fLWcQr-fMdMRj-fMaxo7-fLWgtM-fMdBEf-fMdQWj-fLWknp-fLW81T-fLW2Pr-fMdJbC-fMdDkq-fMdDz3-fLW9pP-fLWeiV-fMdBTj)

【「低水準だが、経済が活力を徐々に取り戻してきた」】
低迷が続いていた欧州経済も、ようやく“危機の出口がほのかに見えてきた”ようです。
欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、「低水準」「弱い」「下振れリスクがある」との慎重な言い回しながらも、「ゆるやかに景気が回復してきた」との判断を示しています。

****欧州中銀、利下げ見送り 「景気ゆるやかに回復****
欧州中央銀行(ECB)は5日の理事会で政策金利を過去最低の年0.5%で据え置くことを決めた。
ドラギ総裁は理事会後の記者会見で「ゆるやかに景気が回復してきた」と語り、ユーロ圏の景気が底入れしつつあるとの認識を示した。
ただ回復はまだら模様で南欧は高い失業率に苦しむ。下振れリスクが残るため、低金利政策は当面のあいだ続ける。

「低水準だが、経済が活力を徐々に取り戻してきた」。記者会見でドラギ総裁は言葉を選びながら景気が最悪期を脱したと説明した。ECBは同日、2013年の成長率見通しを従来のマイナス0.6%から同0.4%に上方修正した。

13年4~6月期の実質成長率はプラスに転じ、欧州を代表するIfo経済研究所の8月の景況感指数も市場予想を上回る改善幅だった。「徐々に景気が回復するというシナリオを裏付けている」(ドラギ総裁)。

景気回復の原動力となったのは輸出で稼ぐ欧州北部。堅調な企業業績が雇用を支え、それが個人消費に結びつく。「金融緩和も内需を押し上げた」とドラギ総裁は低金利政策の効果を強調する。(中略)

一方、南欧では市場の混乱が実体経済を下押しし、さらに信用不安が深まるという悪循環に歯止めがかかった。ドラギ総裁は「市場安定が実体経済に(いい影響を)及ぼしてきた」との見方を示した。

09年秋に始まった債務危機は金融市場での信用不安、銀行の資産劣化、実体経済の低迷、それに雇用不振という「四重苦」を欧州にもたらした。景気に底入れ感が出てきたことで、4つの課題のうち、いまだに好転せずに残るのは雇用問題だけとなる。4年たってようやく危機の出口がほのかに見えてきた。

ただ、その出口にたどり着くまでには、なお時間がかかる。景気の回復力についてドラギ総裁は「低水準」「弱い」など繰り返した。「下振れリスクがある」とも明言しており、一本調子で経済成長を取り戻す展開になるとは考えていない。

リスクは各地に点在する。「次の支援候補国」に挙げられるスロベニアは銀行の不良債権処理が道半ばで「年2.5%のマイナス成長」(オーストリア系ライフアイゼンバンク)と厳しい。

債務危機の震源地となったギリシャでは15年以降の資金繰りを賄うための資金支援が不可避とされる。中堅企業の4割が資金繰りに窮しているとの調査もある。小国がユーロ圏全体を揺らす危険はくすぶる。

好調な欧州北部が、南部の苦境を支えるという基本構図は変わらず、危機の元凶となった南北の経済格差も残っている。

「金融緩和は必要な限り続ける」。ドラギ総裁は当面のあいだ政策金利を低水準に抑えると改めて宣言した。【9月5日 日経】
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生活に直結する雇用問題がいまだ好転しないのは、国民にはつらいところです。

欧州委員会のバローゾ委員長も、12日、「警戒が必要なのは当然だ。(中略)1四半期がすばらしかったからと言って、荒れ模様の経済から脱したわけではない。だが、正しい軌道に乗っていることは証明できた」と語り、経済・債務危機の終わりが「視野に入った」との見解を示しています。【9月12日 WSJより】

欧州経済だけでなく、アメリカ経済も“全般的に「控えめ」か「緩やか」なペースで拡大”【9月5日 時事】しており、不安視されていた中国経済も“底打ち”“下げ止まり”の指標が出されています。
日本経済の回復も、単にアベノミクス云々だけでなく、こうした世界経済の流れの一環でもあるでしょう。

ショイブレ財務相が第3次ギリシャ支援の必要性に言及
“危機の出口がほのかに見えてきた”欧州経済にあって、問題児のギリシャも2014年にはプラス成長に復帰できそうな状況です。

****7年ぶりプラス成長に自信=ギリシャ首相****
ギリシャからの報道によると、サマラス首相は7日、中部テッサロニキで演説し、深刻な景気悪化が続いていた同国経済が2014年に7年ぶりのプラス成長に転換することに自信を示した。

首相は「12年はギリシャのユーロ圏離脱報道一色だったが、現在は景気回復報道に様変わりした」と指摘。ユーロ圏や国際通貨基金(IMF)による支援を受けた財政再建が奏功すると語った。【9月8日 時事】 
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もちろん、今後とも財政再建の自助努力と、EU・IMFなどの国際支援が欠かせないことは言うまでもありません。
国際支援の中核にあるのがドイツですが、ドイツ国内には、世論調査で「ドイツはギリシャを支援するべきか」と
聞かれれば、7 割から8 割が「財政支援に反対」と回答するといった、“自業自得の”ギリシャを支援するためにドイツの税金を使用することへの反発が根強くあります。

そのドイツは今月22日に総選挙が行われますが、上記のような国民感情を考慮して、メルケル政権は今後のギリシャ支援については明言を避けてきました。
しかし、ショイブレ財務相が8月20日、第3次支援の必要性に言及したことで、このギリシャ追加支援問題が注目を集めています。

****ドイツ総選挙:ギリシャ追加支援が争点****
22日の連邦議会選(総選挙)を控えるドイツで、財政危機のギリシャに対する追加支援の可否が選挙戦の争点に急浮上している。

欧州連合(EU)の中で最大の支援金を拠出するドイツでは、国民の血税が頻繁に他国救済に使われることへの反発が強く、与党は選挙戦でこの問題を「先送り」する作戦だった。

ところが、閣僚の一人が8月に支援必要論に言及。野党は「選挙期間中に与党は態度を明確にすべきだ」と、攻勢を強めている。

ギリシャは現在、EUなどの支援を受けて財政再建中。2010年以降の第1次、第2次分を合わせた総額2400億ユーロ(約31兆2000億円)の支援は、14年末で終了する。

ショイブレ財務相は8月20日、「もう一度ギリシャへの支援計画が必要だ。(選挙後の)新政権は14年半ばにこの問題に取り組むことになる」と、閣僚として初めて第3次支援の必要性に言及。

だが、選挙戦へのダメージを避けたいメルケル首相は、1日のテレビ討論で「今後のギリシャの状況は誰も分からない」と述べるなど、火消しに躍起だ。

ギリシャの財政難は、14年末以降も解消しないとの観測は根強く、ショイブレ財務相発言は「規定路線」との見方もある。独紙フランクフルター・アルゲマイネは「(支援に関する)爆弾発言を今しても、投票日までに火種はほぼ消えていると踏んだのだろう」と分析している。【9月3日 毎日】
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選挙戦を通じて、南欧支援をめぐる議論は深まっていない
ただ、“選挙戦の争点”というほどの問題には深刻化していないようにも見えます。
前出のように国民にはギリシャ支援に対する強い反発はありますが、現在のEU・ユーロの枠組みを壊すことを望んでいる者は多くないと思われます。

「ドイツはユーロ圏から脱退し、ドイツマルクを取り戻すべき」と主張して注目された新政党AfD(「ドイツのもう一つの選択肢」「ドイツのための選択肢」)の支持率は2~3%程度にとどまっており、連邦議会の議席獲得要件である「5%以上の得票率」に届いていません。

現在の基本的枠組みを維持するのであれば、ギリシャに対する何らかの支援は必要となります。
“野党の社民党と緑の党は、メルケル政権よりは寛容な支援策を公約に掲げる”という状況で、財務相発言はギリシャ追加支援を国民に隠してしたという点では批判されても、それ以上の支援内容についての議論にはあまりならないように思えます。

****南欧支援、深まらぬ議論 与野党、具体策を避ける****
欧州経済のカギを握るドイツの総選挙が22日に迫った。注目を集めるのは、南欧支援の行方だ。

「現政権の危機対策は失敗した。ギリシャなどの国は経済と失業率が悪化する負の循環が続くばかりだ」
最大野党・社会民主党のシュタインブリュック首相候補は1日のテレビ討論で、メルケル政権のユーロ政策を厳しく批判した。

これに対し、メルケル首相は「我々は(ギリシャなどを)助けるが、誤った連帯を示すのではなく、原則に従わなければならない」と主張。財政再建と構造改革を進めない限り、競争力不足と借金に依存する体質という危機の根本原因は解決できないという考え方を示した。

ユーロ圏などはギリシャに対し、2度にわたる計約2400億ユーロ(約32兆円)の支援策を実行中だ。しかし、景気悪化と失業率上昇には歯止めがかからないままだ。

こうした現状を踏まえ、野党の社民党と緑の党は、メルケル政権よりは寛容な支援策を公約に掲げる。
ユーロ加盟各国の国内総生産(GDP)比60%を超える債務を一括して管理し、各国が連帯で返済する「欧州債務償還基金」を設立する構想などだ。特に緑の党は、メルケル政権が断固拒絶するユーロ圏共同債の発行すら目標としている。

ただ、選挙戦を通じて、南欧支援をめぐる議論は深まっていない。
メルケル政権は、国民の不満が根強いギリシャ支援策が争点になることを嫌い、先送りを図っていた。

ユーロ圏の経済が今春、久々にプラス成長になったことも政権には追い風だった。1日の討論でメルケル氏は「新たなギリシャ支援策はありうると言っている」と述べ、3次支援の可能性は否定しなかったが、それ以上の踏み込んだ議論は避けている。

一方の社民党も、南欧支援の具体策を正面から訴えることはせず、政権批判ばかりに集中している。8月下旬にショイブレ財務相が新たな支援の必要性に触れると、政府が議論を先送りしてきたのをとらえて「国民に事実を隠蔽(いんぺい)し、うそをついている」との批判に終始したのが象徴的だった。これまで政権のユーロ政策に議会で賛成し続けてきた弱みもあり、負担増の必要性を訴えられないでいる。

ドイツ国内では、欧州連合(EU)が主導する形で南欧への財政支援が増えていくことについて、議会の予算決定権を規定している基本法(憲法)に違反するのではないか、との議論が出ている。違憲訴訟が相次ぐ中、連邦憲法裁判所の視線も厳しくなっており、いつ違憲判断が出ないとも限らない状況だ。

ただ、メルケル首相は「欧州統合への熱意が低い」との内外からの批判もあり、選挙が終われば、成長支援策や若年失業対策などにこれまでより力を入れる可能性はある。社民党が加わる大連立政権になればなおさらだ。【9月16日 朝日】
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既存方針の確認
なお、ショイブレ財務相の発言は、ギリシャ追加支援の必要性に言及した点では、ドイツが今後もギリシャの力になる、ギリシャを見捨てることはないというドイツ政府のメッセージととれますが、新たな債務減免は拒否するという内容でもあります。

ショイブレ財務相は、新たな債務減免は協議されていないとした上で、「ギリシャの債務減免は行われないが、それは来年何もする必要がないことを意味するわけではないと明確にしておく必要があった。政府は選挙を控えて分かっていることを話さないと言われるのを避けたかった」と説明しています。【8月25日 ブルームバーグより】

“財務相発言は、ギリシャの再建計画に不満を募らせているIMFへの反論でもある。IMFは最近、今後数年間で新たに発生するギリシャ政府の資金不足を埋める必要があり、持続可能性を実現するため債務の一部減免を行わなければならないとの予測を発表した。”【8月25日 ブルームバーグ】

要は、これまでの方針どおり、今後ともギリシャに改革を求める圧力をかけながらのぞんでいくという内容です。

ドイツの総選挙については、メルケル与党が第1党になるのは確実なものの、過半数を制するための連立のあり方で、いろんな選択肢が言及されているところです。

社民党との大連立、緑の党との連立という話になれば、ギリシャ支援についても多少のアレンジはあるでしょうが、基本的な枠組みは変わらないと思われます。
コメント (10)
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