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(今年5月 スウェーデン移民居住地区で起きた暴動は、スウェーデンの「寛容政策」のひずみを示したものと指摘されています。 “flickr”より By Mehedi Hassan http://www.flickr.com/photos/96713681@N03/8981270191/in/photolist-eFDmJ4-f7Nnyy-eEamzb-eFBRuz-eFKsQq-eFBRDx-eFHXVw-eEamL9-es9b2A-es993o-es96tJ-equahE)
【「今世紀の大悲劇」】
アサド政権による化学兵器使用疑惑、それに対するアメリカなどの懲罰的攻撃に揺れるシリア情勢ですが、当然ながらシリア国内の市民の不安は高まっています。
****国境に押し寄せる市民****
シリアの首都ダマスカスからの情報では、市民生活は表面上、平穏を保っている。市民は食料などの買い込みを終えているという。
米国は攻撃について「限定的で標的を絞る」と強調するが、反体制派の間でも巻き添えを心配する声は広がっているようだ。ダマスカスに拠点を置く反体制派は31日、フェイスブック上で、負傷時の応急処置法など「攻撃から身を守るための20項目」を掲示。空爆に備え「夜は家の電気は消し、階段の下などで過ごすように」などの注意が並んだ。
一方、隣国レバノンとの国境では、シリアから逃れる人の波が続く。レバノン南東部のマスナア国境検問所ではこの日、家財道具を車の上に載せた家族連れが殺到していた。
人々は口々に「米国の攻撃を恐れてはいない」と語った。家族8人でぎゅうぎゅう詰めの乗用車でダマスカスから来たジューナイヤさん(60)は「知人を訪ねてレバノンに来ただけだ。すぐに戻る」と語った。
なぜ、そう口をそろえるのか。シリア北部の激戦地イドリブから1年以上前に妻子とともにレバノンに移った運転手ジャミル・アリバシャさん(36)は言う。「今日出ているのは、ほとんどが政権を支持してダマスカスに残っていた人たちだ。空爆が落ち着けばまた戻るから、政権に都合の悪いことは言えない」
ジャミルさんの自宅は政権軍の爆撃で破壊され、弟が死亡した。「アサドは犯罪者だ」と話す一方、米国の攻撃の効果も疑う。「政権軍は既に部隊や軍事物資を移しているはずだ。兵士がいない基地の『跡地』を攻撃しても意味がない。市民の犠牲の方が多くなるのが心配だ」と語った。
ロイター通信などによると、ダマスカスでは政権軍が軍事施設から学校や住居ビルに移動し始めているという。反体制派は「アサド政権は米国の攻撃が無差別爆撃であり、市民を標的にしていると批判するつもりだ」と訴えている。(後略)【9月1日 朝日】
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今回の化学兵器絡みだけでなく、長引く内戦でシリアからの難民はこの1年間で23万人から200万人に急増しており、今後更に増加することが予想されています。
****シリア:特使アンジーも警鐘 国外脱出の難民200万人*****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は3日、シリア内戦で国外に脱出した難民が200万人に達したと発表した。国内で避難生活を送る人々も約425万人。約2100万人の人口の約3分の1が人道上、危機的な状況に陥っている。
UNHCRなどはシリアの近隣諸国に難民の殺到を恐れて国境を閉鎖しないよう呼びかけている。難民が国境で足止めを食う事態を回避するためだ。
グテレス国連難民高等弁務官は3日、スイス・ジュネーブでの記者会見で、シリア内戦が今年末まで続けば国外に脱出する難民は350万人に達するとの見通しを示した。
弁務官は「現在、シリアでは世界最多の人々が避難を強いられている」と指摘し、シリア内戦が「今世紀の大悲劇」だと懸念を表明した。
UNHCRによると、シリア難民は▽レバノン約72万人▽ヨルダン約52万人▽トルコ約46万人▽イラク約17万人▽エジプト約11万人−−と近隣諸国に離散している。
イラクへの難民流入は、同国北部のクルド自治政府が対シリア国境の橋を新たに開放した8月15日から急増。2週間で4万6000人が越境した。
弁務官は「戦争が吹き荒れる時、最も重要なのは(近隣諸国が)国境を開放しておくことだ」と指摘。約110万人の国内避難民を抱えながら、シリア難民を受け入れるイラクの対応を評価した。
シリア難民を受け入れている周辺国のイラク、ヨルダン、レバノン、トルコの4カ国外相は4日、弁務官と会談し、国際支援の強化を求める。
UNHCR特使を務める米国人女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは「状況の悪化が続けば、難民が増え続け、(難民を受け入れている)近隣諸国は崩壊の瀬戸際に追い込まれてしまう」と警鐘を鳴らした。【9月3日 毎日】
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【亡命を希望するシリア難民全員を受け入れる】
近隣諸国に大勢の難民が押し寄せ、対応に苦慮しているなか、遠く北欧のスウェーデンが難民受け入れを表明しています。
****スウェーデン、亡命希望のシリア難民全員受け入れへ*****
スウェーデン政府は3日、欧州連合(EU)加盟国として初めて、亡命を希望するシリア難民全員を受け入れる方針を示した。
スウェーデンでは2012年以降、約1万4700人のシリア人難民を受け入れている。
AFPの取材に応じたスウェーデン移民難民政策担当省の報道官によると、シリアでの内戦が近く終結する見込みがないことから当面の間、亡命申請を行ったシリア難民には永住権を付与するという。また永住権が付与された難民は、家族をスウェーデンに呼び寄せることもできる。
これまでスウェーデンの難民認定手続きでは、亡命申請者に対し3年間の仮滞在許可を与え、その後に政府による審査が個別に行われてきた。(後略)【9月4日 AFP】
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【開放的な移民政策に疑問の声も】
スウェーデンはこれまでも紛争国の難民を受け入れていますが、欧州全体に広がる反移民・移民排斥的な流れのなかで、スウェーデンにおいても移民・難民に厳しい目を向ける人々が増加し、2010年9月の選挙では極右政党が支持を大きく伸ばしています。
****増える移民、世界各国の対応は****
◆スウェーデン
スウェーデンは、ブリティッシュ・カウンシルなどによる移民統合政策指数(MIPEX)で調査対象となった33カ国のトップにランキングされており、イラク、シリア、ソマリアなどの紛争国からイスラム教徒の難民を受け入れてきたことで知られている。
しかし失業率の高まり(特に外国人居住者の間では16%にも達している)や、最近になって頻発している暴動により、政治家や市民からは開放的な移民政策に疑問の声があがっている。
現在の政策への批判派は、多大な費用がかかるリベラルな政策が雇用を増加させ、近隣ヨーロッパ諸国からの移民労働者の流入を招いていると指摘する。
政策による雇用創出のペースが落ちると、職を持つ移民の流入が止まり、今度は政府の援助に頼る無職の庇護希望者の数が急増した。
2012年、スウェーデンにたどり着いた庇護希望者の数は前年比で50%近く増加し、過去第2位の4万3900人に達した。
移民受け入れに反対する意見は今でも少数派だが、より現実的に持続可能な移民政策を求める声は、移民排斥を掲げる極右政党、スウェーデン民主党の支持率を第3位にまで押し上げている。
2014年の総選挙では、同党がこうした支持を受けてさらに勢力を拡大する可能性もある。【7月3日 ナショナル ジオグラフィー】
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【「寛容政策」のひずみ】
移民を巡る社会的緊張が高まる中、今年5月には移民居住地区で大規模な暴動も発生しています。
暴動のきっかけとなったのは、ストックホルム郊外のいわゆる「移民地区」であるヒュースビー地区に住む69歳のポーランド系移民の男性を、彼の自宅で、彼の妻の目前で警察官が射殺した事件でした。
****焦点:移民大国スウェーデン、暴動で露呈した「寛容政策」のひずみ****
過去数年間で最悪となる暴動が連夜発生した、スウェーデンの首都ストックホルム郊外のヒュースビー地区。
一見したところ、カラフルな遊具が並ぶ遊び場や草が刈り込まれた公園、低層の集合住宅などが集まる一般的な整備された地区に見える。
しかし、移民の多い同地区では、住民らは実を結ばない就職活動や警察による嫌がらせ、人種差別的な中傷などについて口にし、スウェーデンの移民政策の「寛容性」とは相反する現実が浮かび上がってくる。
ヒュースビーで起こった暴動は他の地区にも拡大。貧困や人種差別などを背景に2011年に英ロンドンで、2005年に仏パリで発生した暴動を思い起こさせる。今回の暴動は、スウェーデンの福祉制度に別の一面があることを示している。
同国人口の約15%は外国生まれで、北欧では最も高い割合。「反移民」を唱えるスウェーデン民主党の躍進は、同国民の意見を二極化させてきた。
深夜にストックホルム中心部を出発する列車は、単純労働を終えて帰宅するアラビア語やスペイン語を話す移民であふれている。移民の第2世代でさえも、ホワイトカラーの職に就くことは困難とされる。
あるアジア出身の外交官は「スウェーデンには多くの移民が存在する。しかし、彼らはどこにいるのだろうか」と述べた。
<格差が急速に拡大>
ラインフェルト首相率いる中道右派政権は過去7年間、税率引き下げや公的手当の減額を行い、この取り組みは欧州の大半を上回るスウェーデンの経済成長に寄与してきた。
しかし一方で、同国は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、格差が最も急速に拡大している国でもある。
ストックホルム大学の犯罪学教授、イェージー・サルネッキ氏は、主要都市には、他の地区に比べて失業率が著しく高く、貧しい移民が集まる地区があると指摘する。
世論調査によると、スウェーデン国民の大半は現在でも移民受け入れを支持している。同国は移民に住居やスウェーデン語の授業を提供し、難民申請者に親族との同居を許可するなど、手厚い保護で評価されている。
しかし、このコンセンサスは崩れつつある。
ヨーテボリ大学のUlf Bjereld・政治学教授は「どんな理由であれ、非就労者は国の発展に貢献しない」と指摘。
スウェーデンが2012年に受け入れた難民申請者は4万3900人。前年から50%近く増え、過去2番目に最も多い人数となった。ほぼ半数はシリア、アフガニスタン、ソマリアの出身者だった。
難民申請者は、短期的には社会保障制度の財政負担となる。OECDのデータによると、外国出身者の失業率が16%であるのに対し、スウェーデンで生まれた国民の失業率は6%。同国が充実した福祉制度を維持するには高水準の就業率が不可欠となる。
<怒れる若者たち>
今回の暴動では、若者は車両を放火し、現場に到着した警官や救急隊員らに投石するなどした。目撃者は警察の手荒い対応が状況を悪化させたと述べ、ヒュースビーの住民は警察が「サル」などの言葉を浴びせたとしている。
ヒュースビーで暴動に加わったという20代前半の若者は「最初はただ面白がって参加した」とコメント。しかし、警棒を持った警官が女性や子供を押しのけるのを見たときに強い怒りを感じたと語った。
取材に応じたヒュースビーの若者の大半は失業中かインターンだった。多くはインターン制度の活用を続けているとし、フルタイム雇用の確保はほとんどないと不満を述べた。
今回の暴動の発端は今月、ヒュースビーで刃物を持った男性(69)が警官に射殺されたことだとみられている。移民が住民の約8割を占める同地区では、100人超が参加する平和的デモが行われた。
しかし男性死亡の調査の要求への対応はなく、若者らはツイッターで人種差別行為に対する不満を表明し、怒りが拡大。20代の美容師の女性は「若者が互いを刺激して、小さな火を起こした」と話した。
移民の間では不満が収まる様子はないとみられ、エチオピアで生まれたという看護師の女性(39)は自身がエチオピア人であると同時にスウェーデン人だと語る一方で、「地元のスウェーデン人が、私をスウェーデン人として受け入れることはないだろう。彼らにとっては、私はただの移民としか映らない」と述べた。【6月4日 JB PRESS】
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【それでも移民受け入れ】
こうした現実的問題を抱えながらも、移民増加への対応に苦慮しながらも、そのなかにあっての今回のシリア難民受け入れ表明です。
移民・難民対策の是非、スウェーデンの現状については、いろいろな立場から様々な意見があろうかとは思いますが、開かれた社会、寛容な社会を目指す姿勢、人道を重視する基本姿勢は崩さないというスウェーデンの強い信念を感じます。